体外受精ステップアップセミナーで、よくあるご質問についてお答えいたします。
今回の記事は、体外受精ステップアップセミナーでのご質問について:2018/1/13開催分②から抜粋したものになります。
Q. 体外受精(顕微授精)は、自閉症になるリスクが高いと聞いたのですが、実際どうなんですか?
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難と限定された反復的な行動や興味、活動が表れる障害で、さらに知的障害や言語障害を伴う場合と伴わない場合があります。また、これらの症状は発達段階、年齢や環境などによって大きく変化するといわれています。
ASDと一言で言っても、生活に支障をきたすほど症状が強い方から、症状が軽度で日常生活にほとんど支障なく暮らせる方まで様々です。ASDが起こるのは人口の100人あたり約1人(約1%)、言語発達に遅れがある(古典的)自閉症は、1000人あたり約1-2人(約0.1-0.2%)とされています。
自閉症スペクトラム障害の原因はいまだ特定されていません。しかし、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられており、しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないとわかっています。
脳機能障害を引き起こすメカニズムとして、遺伝的な要因が原因の一部であると推測されています。何らかの先天的な遺伝要因に様々な環境的な要因(未熟児出産など)が重なり、相互に影響しあって脳機能の障害が発現するのではないかという説が現在有力とされています。
2000年代に入り、ASDとARTの関連を調査した研究論文が発表されるようになりました。これまでの論文では、ARTがASDや知的障害と関連しているという明らかな医学的結論は導くことはできませんでした。
最近、この話題が再び注目されたのは、2015年に米国カリフォルニア州における10年間の比較的大規模なデータを用いた研究が発表されたからでした。
その論文では、1)0.8%のART児でASDが発症したこと、2)通常媒精胚よりも顕微授精(ICSI)胚での妊娠でASDがより多かったこと(約1.7倍)、3)ARTで単胎出産では0.8%, 多胎出産では1.2%だったこと、4)ASDは早産や合併症が起こりやすい多胎妊娠や低体重出生児でより多く見つかったこと、を報告しました。
同論文は、今後さらに一部のART児とASDの関連を研究する必要を述べる一論文でしかなく、ARTとASDの因果関係を決定づけたわけではありません。
現時点では、大部分の論文が一致してARTとASDの関連を認めてはおらず、革命的な不妊症の治療手段である顕微授精のみならず、遺伝的背景や妊娠・出産経過も関連する可能性を示唆するに留まっています。
元々、ARTはその安全性が確認されてから普及した治療ではないことをご理解いただき、これらの情報がよりご夫婦の価値観と安心を得られる判断をいただく一助になれば、幸いです。
参考資料
・発達ナビ:自閉症スペクトラム障害ASLとは?
・Are children born after assisted reproductive technology at increased risk of autism spectrum disorders? A systematic review.
・The safety of intracytoplasmic sperm injection and long-term outcomes.
・The association between assisted reproductive technology and autism spectrum disorder
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