俺、隠岐に立つ

11年間の島暮らしを終え、ワイン農家を目指して岡山へ。
グッドライフを探す旅と美味しいものを綴ります。

仕事の振り返り⑥ 水産加工はじめました

2022-04-15 | 漁業

前回の鯖養殖プロジェクトに全身全霊を注いでいたころ、知人の紹介で

「OCEANチャレンジ」という持続可能な漁業を目指すアクセラレータプログラムに参加させてもらえることになりました。

パンダのマークでおなじみWWF(世界自然保護基金)が主催するプログラムで、

水産に関わるベンチャー的な動きを支援し、伴走しながらより良いものにしていくための研修みたいなものです。

そこで過ごした時間がきっかけとなり、水産加工を始めることにしました。

水産加工はじめてます

 

 

直接的な背景としては、それまで学校給食に地元産の魚貝類を提供してきた活動が休止するタイミングで、

そのことによって大きく島の幸せが損なわれると感じたことです。

また、「あすあま」の活動を通じて意外と島の魚が食べられていないという事実に気がついたことも大きなきっかけでした。

 

自分自身は毎日のように魚を食べているし、同僚に漁師、釣り仲間ともよく魚の話をする。

近所には漁師さんがいておすそ分けをくれる環境なので、みんな海士の魚を食べてるもんだと錯覚をしていました。

子育て世帯の女性を中心にヒアリングを進めてみると、日常の生活圏に島の魚が売っていないことが理由だとわかりました。

商店に売っている魚は島外から来た冷凍の干物、鮭などの切身、刺身用はカツオのたたきかサーモンフィレが定番です。

また、海士町の社会の特徴として慢性的な人不足があり、自分の印象では95%以上が共働き世帯です。

漁協の直売所や島で唯一の鮮魚店がある菱浦地区に住んでいない限り、よっぽどの魚好きを除いてわざわざ仕事帰りに魚を買いに行くひとはいないということでした。

 

島で獲れた魚が島で食べられていない。

これでは「魚があるけど幸せじゃない島」です。

現状にかけているピースを埋めることことが自分のやるべきことであり、やりたいことだと気がつきました。

 

単純に、自分が味わっている魚食の幸せをみんなが知らないなんてもったいない。

そのために必要なことは「水産加工」と「魚食普及」だと思いました。

 

島で獲れた魚をみんなで食べて支える。

そのためにどうしたらいいかを考えるようになりました。

 

まずは学校給食への食材供給を充実させ、すこしずつ保育園やお山の教室、高校寮へ広げていき、

さらには福祉施設へも直売所を通じて島の魚をできるだけ届けられるようにしていきました。

その過程で島の小学生(当時)と一緒に開発した「ブリナゲット」も生まれました。 

さらには常温で持ち運びができる海のお土産「海士の宝」シリーズも開発し、

福祉施設「さくらの家」の方々に助けてもらいながら製造・販売をしてきました。

海士町の缶詰「海の宝」シリーズ完成!

岩ガキの昆布オイル煮(海士の宝)できました~

 

こうして少しずつ島の中に島の魚との接点を増やしていく中で、

だんだんと自分自身の関心が「魚」だけから「地域の食」というより広い範囲に広がっていきました。

そのこともあり、2019年4月から3か月間フランスにプチ移住して生活しながら体で感じるという

「流学」をしに行きました。

そこで見るもの食べるものすべてが新鮮で、大きな刺激を受けて海士町に戻ってきました。

 

その体験から得たものを海士町での暮らしに活かそうと考え、仲間と始めたのが島のマルシェ、「まるどマーケット」でした。

(次回に続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


仕事のふりかえり⑤ 未利用資源の活用~サバの養殖

2022-04-13 | 漁業

鯖の養殖をしようと思ったきっかけは3つあります。

一つ目は、地域の経済にとって定置網がとても重要だと認識したことです。

あすの海士をつくる会(以下:「あすあま」)の活動を通じて地域の産業がどのように関わり合っているかを実際のデータを基に議論したことで、日常の食卓のみならず観光であったり福祉にも影響が大きいことがわかりました。

それまでは個人の漁師さんの数が減らないことを主眼に置いていたので、漁業の見方が少し変わりました。

二つ目は、未利用資源の活用が地域経済活性化のチャンスであるとわかったことです。その土地ならではの事情に向き合うことで独自のサービスや取り組みにつながります。これまでも定置網で獲れる魚で市場には評価されないお金にならなかった魚を原料に地域のイベントで料理にして販売するなどをしてきましたが、いよいよ本格的にこの課題に取り組めるという想いがありました。

 

そして三つ目は、かつてこの定置網が存続の危機にあったときに事業を受け継いだ田仲社長の想いに触れたことでした。

東京で「海士カフェ」という交流イベントに定置網の漁師さんたちと一緒に参加したとき、そもそも定置網の歴史について社長にインタビューをしたことがあります。その時に聞いた葛藤やこれまでの努力などのお話に胸を打たれました。

 

そうした経緯があり、「あすあま」のメンバーで定置網に乗せていただいたときに見た小さな鯖(通称:ローソク鯖)を何とかしなければと思ったのです。

そして、次のような記事を書きました。

とっても長いのですが、離島が抱える課題と背景がわかるのでぜひ読んで欲しいです。

定置網で獲れた小さな鯖をどうにかしたい

 

そしたらこの記事を読んだ鯖料理専門店「SABAR」さんとつながることができ、

プロジェクトが始まりました。

やろうとしていたことは、「今まで廃棄していた小さな鯖を、同じく廃棄されていた未利用魚を使ったエサで大きくなるまで育てる」というものでした。さらに、IT技術を活用して自動給餌や生育環境の管理などを行うクラウド漁業というやり方を目指していました。

 

 

プロジェクトが動き出してから関係者と協議と調整を重ね、2年後にようやく

海に生簀を浮かべてのテストに漕ぎつけました。

これでようやくスタートと安心したのもつかの間、養殖の技術面と管理を担当する

人が住み込みで来ることになっていたのですが、来ない。

更にはプロジェクトを主導していた「SABAR」さんの経営状況の変化により、

暗礁に乗り上げてしまいました。

 

結局、事業は中途半端な形で終了しました。

 

この経験を通じて自分が感じたことは、漁協と定置網とSABARのように異なる立場の事業者が

協働で一つのプロジェクトを動かすことの難しさでした。

全体としてはこうなるといいなーというゴールは共有できても、そこに至るプロセスで発生する困難を

乗り越えていけるだけの体制づくりができていなかったというのが失敗の原因だと思います。

  

そして、このプロジェクトをより良いものにしようと外部の知恵を借りるために参加した

「OCEANチャレンジ」という持続可能な漁業を目指すアクセラレータプログラムがきっかけとなって、

自分で責任をもってやれる事業としての「水産加工」を始めようと決意をすることになったのでした。

 

このあたりについては、また次回。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


仕事のふりかえり④ 魚のある島の幸せとは?

2022-04-12 | 漁業

というわけで、前回にひきつづき仕事の振り返り。

販路の見直しやECサイトでの販売を通じて単価があがり、漁業者の収入増につながるという良いことがあった半面、

島外への販売を優先するようになった結果として島内の消費者が買いにくくなるということが起きました。

京都や大阪などの市場へ今までよりも良い単価でアワビを売れるようになり、

単価が相対的に安くなったことでこれまで島の中で購入してお歳暮に贈っていたアワビが手に入らなくなってしまったのです。 

都会ではなかなか考えにくいことですが、漁師さんとお付き合いがあればアワビをお裾分けにもらうこともあります。

貨幣経済以外のお裾分けや物々交換が当たり前にある島の中では、その関係性も含めて「豊かさ」を感じることが多いのですが、アワビが高く売れるようになったことで果たして島は豊かになったのだろうか?ということがわからなくなってきました。

 (1枚985gの特大アワビ!このサイズは年に1枚くらいしか出会えません)

 

 

ちょうどその頃、政府の「まち・ひと・しごと創生」という政策にもとづいて未来にむけた海士町の総合戦略を考える「あすの海士をつくる会」のメンバーになったこともあり、あらためて島の漁業はどうあるべきかを考え直すことにしました。

明日の海士をつくる会(オモテ)

 

 

みなさんは「未来年表」というサイトをご存知でしょうか。

未来予測関連の記事やレポートから「○○年に、○○になる」といった情報のみを 厳選し、

西暦年や分野ごとに整理した未来予測のデータベースです。 

ここには、「激減する日本の沿岸漁業の生産量が、2050年ごろにゼロになる(現状が続いた場合)」という衝撃的な予測が掲載されています。

そうならないために、「魚がいつまでも食べられる島」であるためには何をするべきかなのかを考え始めました。

 

あすの海士をつくる会のメンバーには、役場の職員もいれば民間の人もいます。

建設会社の人や大工さん、社会福祉協議会の人、教育関係の人、漁協の人である私・・・

この活動の中で自分自身の仕事と最も関わりがあるテーマが「未利用資源の活用」でした。

地域にある資源を活用して経済効率性をたかめ、さらに地域内経済循環を高めて地域の持続性を高める。

そんなことを考えて着目したのが、価値がつかない小さな鯖でした。

 

次回はサバの養殖について書きます。 

 


仕事のふりかえり③ 鮮魚流通の販路拡大

2022-04-08 | 漁業

今回はECサイトの立ち上げに続いて取り組んだ鮮魚流通の販路拡大についてのお話。

 

前回の記事でWEB通販が価格決定権を持った販路という書き方をしたのですが、これは全体の1%しかなく(当時)

逆を言えばそれ以外の99%は価格決定権がない販路ということ。

(一般的には)魚を市場に出荷するとセリにかけられて価格が決定されることをご存知の方も多いと思います。

つまり、出してみるまで値段がわからないわけです。

昨日の倍の魚が獲れて水揚げ金額が上がると期待したのに、他の漁師もいっぱい獲れたから単価が半分になったら

何も変わらないというわけです。

変わらないどころか、作業量や物流コストも倍になっているので売上は同じでも利益は減っていますね、この場合。

この状況では漁師の頑張りは結果が約束されず、やる気があまり出ません。

 

海士町での漁業を儲かる仕事にして新規参入が増えるというゴールに対して、

漁師をサポートする漁協の立場としては鮮魚流通全体の収益改善を目指す必要がありました。

 

具体的には、一番近い産地市場である境港以外に、京都・大阪・岡山・築地(現豊洲)・福岡・名古屋といった

大消費地へ直接送る体制を作りました。

海の時化などによって魚の需給に過不足が発生するため、市場によって魚の値段は変わってきます。

また、もともと地方によって好まれる魚が異なるため、特定の市場では相場が高い魚なんかも出てきます。

こういった状況を見極め、魚種によって送る市場を変えることでできるだけ高く買ってもらうことが重要です。

 

それが可能になった背景としては、「産地直送」や「大手小売スーパーとの直接取引」など全体的に鮮魚流通の在り方が変わってきたことと、海士町漁協は県下で唯一の単独漁協であったため、身動きがとりやすかったことが挙げられます。

 

年に一か所、やる気のある漁師さんを集めて未開拓の市場に行き、

周辺の先進的な取り組みをされている漁師や加工業者へ視察に行って情報収集。

その過程で漁師さん達とは一緒に過ごす時間が長く、

いろんなことを教えてもらえる関係性を築くことができたという副産物もありました。

まあ、要はよく一緒にお酒を飲んでいましたw

(島のレジェンド漁師さんたちと市場に行った時の様子)

新しい市場では月別の、魚種別の漁獲量データをもとに情報交換をして

いくつかめぼしい魚を選んで取引を開始するようにしていました。

送ってみては評価と改善点を聞き、また送る。フィードバックを繰り返しながら

高く売れる魚を漁師さんと作っていきました。

この過程で鮮魚の鮮度保持技術やその理論などいろいろ勉強させてもらいました。

鴨川市漁協にて神経〆&タグ付け出荷の視察

ウエカツさんが来た!

クエ縄試験操業 海士町×対馬

 

そうした結果、一例をあげれば400円~800円/㎏くらいが相場だった真鯛が

2,500円/㎏で売れるものが出てくるまでになりました。

しかし、一方で高く売れることがわかっていても今までのやり方を変えることに抵抗を感じる人もおり、

一部の人しか出荷を続けることができなくなってしまいました。

 

この頃までは儲かる漁業にできれば後継者が現れると単純に考えていたのですが、

どうもそれだけじゃないのかもしれないと考え出したきっかけとなる出来事でした。

  

そして考えたのが「魚のある島の幸せ」ってどういうことだろうということ。

そのあたりはまた、次回へ。 

 

 

 

 

 


仕事の振り返り② ネットショップの立ち上げ

2022-04-04 | 漁業

仕事のふりかえりに戻ります。

前の記事はコチラ↓

仕事の振り返り① そもそもなんで漁協で働いてたの?

 

ちょいちょい新生活のこともお伝えしていきたいと思いつつ、

岡山での暮らしは新しいブログにした方がいいのかなーという気もして悩み中です。

 

 

さてさて、漁協で勤めることになったものの魚のことはずぶの素人の私。

どんな仕事をするのか不安もありました。

最初に任されたのはECサイトの立ち上げ。

それまで通販の窓口だった直売所「大漁」のWEB版なので、「大漁WEB」としました。

 

メインの商品は「サザエ」。

島に行って驚いたのは、直売所でのサザエの販売価格が1㎏650円(!)という驚異的な安さだったこと。

つまり、1個100円しない価格でサザエが食べれます。

都会の居酒屋で食べる刺身や江の島のつぼ焼きは1個500円~800円くらいしてたので、

いくら素材そのものだとしてもこりゃあ安すぎるなと思いました。

 

販売価格が安いということは、漁師さんから仕入れる価格も安いということ。

漁協として直売をするからには、できるだけ高く買って組合員である漁師さんの収入増に貢献しつつ、

消費者にはお手頃な価格でしかも鮮度がいい状態で届ける必要があると考えていました。

 

WEBショップを始めて見ると、自分の知り合いだったり町の広報入れた折り込みチラシを見た出郷者の方から

少しずつ注文をいただけるようになりました。

それと同時に、ネットで検索した飲食店や加工業者の方々からも問い合わせをいただくようになりました。

業務用でサザエを使う方々はサイズを揃えて欲しいというニーズがあることがわかり、規格を定めて

ネットショップでもサイズ指定ができるようにして価格改定もしました。

 

ところが、販売開始から順調に取扱量が増えていき、漁師さんからも少しずつ信頼してもらえるようになった3年目、

突然サザエが全然獲れなくなってしまいました。

WEBでも販売ができなくなり、定期的に納入していた業者さんにも断らなきゃいけない事態。

漁師さんが言うには今までこんなことはなかったという。

このことがきっかけで、サザエをはじめとした漁獲量のデータ整備と資源管理が必要なんじゃないかと

考えるようになりました。

 

「MSC認証」という海のエコラベルの導入を検討したり、そのつながりで京都にある総合地球環境学研究所のシンポジウム

参加させてもらったことがきっかけとなり「持続可能な漁業」という考え方を大切に思うようになってきました。

 

その翌年からは何事もなかったかのようにサザエは獲れるようになり、販売も再開しましたが漁業種類ごとの漁獲量をチェックするようになりました。

 

その後も順調に販売が拡大し、売上はスタート時の3.5倍に。

2020年にはコロナ禍で売り上げが急増したこともあり、ECサイトの「カラーミーショップ大賞」に

ノミネートされたりと少しずつですが成長してきました。

漁協の通販サイト「大漁WEB」がカラーミーショップ大賞2020にノミネートされたっ!

 

ECサイトでの販売をして良かったことは、直接消費者に販売するようになったことで

品質管理の向上と価格決定権を持つ販路ができたことだと思います。

自分たちの島で獲れたものに自ら価値を決め、高める努力をする。

市場から距離がある離島だからこそ「送って終わり」になりがちなこの部分に対して

気が付けたことは良かったことだと思っています。

 

次は全国の市場へ販路拡大した話について書こうかと思っています。