「病院まで歩きませんか?」とスズキさんが聞いた。そう言われるまでそんなアイディアが思いつかなかった僕は「いいよ」と答えた。
なだらかな坂道を登りながら、僕はスズキさんに遅れないように気をつけた。長距離が得意だったスズキさんの足取りは軽い。次に会う場所を考えながらスズキさんに歩速を合わせるのは難しかった。
「変わってないって言ったけど、先輩は変わったかも」スズキさんは息も切らせずに言った。
「私が悩んでいても、自分のことばかり平気で話す人だったもん」とスズキさんが言ったとき、病院の入口に着いた。スズキさんは職員用のガラスの扉に向かって歩きだした。
僕は名前の子音と生年月日で作ったメールアドレスをスズキさんに伝えた。「いい店も探す。夜と木曜日しかないけど、ゆっくり会いたい」
「やっぱり先輩、変わった。おいしい魚が食べたいな」とスズキさんは言ってガラスの扉を押した。扉がゆっくり閉まってスズキさんが遠ざかっていくのを、僕はしばらくながめていた。
扉がガラスでできているせいだと思うけど、スズキさんが遠くに行ってしまっても遠くなった気がしなかった。七年前は僕たちの間には空気しかなかったのに、もう二度と会えない気がしていた。
なだらかな坂道を登りながら、僕はスズキさんに遅れないように気をつけた。長距離が得意だったスズキさんの足取りは軽い。次に会う場所を考えながらスズキさんに歩速を合わせるのは難しかった。
「変わってないって言ったけど、先輩は変わったかも」スズキさんは息も切らせずに言った。
「私が悩んでいても、自分のことばかり平気で話す人だったもん」とスズキさんが言ったとき、病院の入口に着いた。スズキさんは職員用のガラスの扉に向かって歩きだした。
僕は名前の子音と生年月日で作ったメールアドレスをスズキさんに伝えた。「いい店も探す。夜と木曜日しかないけど、ゆっくり会いたい」
「やっぱり先輩、変わった。おいしい魚が食べたいな」とスズキさんは言ってガラスの扉を押した。扉がゆっくり閉まってスズキさんが遠ざかっていくのを、僕はしばらくながめていた。
扉がガラスでできているせいだと思うけど、スズキさんが遠くに行ってしまっても遠くなった気がしなかった。七年前は僕たちの間には空気しかなかったのに、もう二度と会えない気がしていた。