電車に乗って終点のポートクラン(駅名は違う)に到着するかしないかと言うところでやっと海が近かったのだと気付く。電車を下りたのはほとんどホームしかない小さな駅だった。向かいにはインドネシア行きのボートが出る小さなチケット売り場兼待合い室の建物があった。クランはマレーシアの輸出入を担う大きな港湾地区であると聞いていたがどうもそれらしき様子は無い。どう見てもさびれた運河沿いの街にしか思えない。なぜなら海の向かいのほど近いところにはもう大きな島が見えているからだ。
ホコリだらけの舗装路を数十メートルほど歩くと塀に囲まれた駐車場とその奥にPULAU KETAM(蟹の島)行きのジェッティ(ボート)が出る桟橋があった。桟橋ではもう20人ほどの人が船を待っていた。釣り客と島の住人らしき人達と少しの観光客だ。
少し待つとコンクリート製の立派な桟橋には全く似合わない背の低い、そしてひょろ長い、まるで使い古しの旅客機の翼をもぎ取ったような妙な形のボートがその尖った先端を桟橋に当てて停まった。事前にチケットを買うでも無いのでそのままそれに乗り込むと船が走り始めてから料金徴収があった。1人7リンギットだ。
船は運河のような海をずっと進む。窓は船体の錆と塗りなおしたときに付いたペイントで汚れていて行き過ぎて行くマングローブの林を古いセピア色の写真のように見せている。たまに海の上で船が止まる。近寄ってきた小船に乗客を降ろすためだ。目的地に着くと泥に何本もの棒を立てた上に建てた家の並ぶ街だった。船からは島らしき姿が見ていていたのに島には陸地のようなものは見当たらない。島のどこを歩いてもそれは泥、そこは潮が満ちてくると海になってしまうだろう土地に棒を突き刺したその上の人工地盤の上を歩くことになる。よくここに住もうと考えた人がいたものだと感心するしかない。
住人は全てが中国系住民らしい。家は人工地盤の通路に向かってリビングらしき部屋があり、ほとんどの家の扉が開いたままになっているので家の中身のほとんどの部分が見えてしまう。誰も気にしないようだ。いくつもの廟がある。大きいもの、そして辻に建てられた犬小屋ほどの小さいものとさまざまだがそこは中国人の街であるとそれらが主張しているようだ。線香の匂いも漂う。
観光に適したものは結局何も無い。数件のレストランとホテルが営業している以外は何も特別なものはない。それにゴミも多い。ただ、マレーシアにあってマレーシアらしくないこの特別な場所は素敵だ。この世界の表面からすっぽり抜け落ちた別の空間のような不思議な場所なのだ。そのうちまた行ってみようと思う。
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