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短編小説〜ルクゥの遺書〜

2024-03-24 17:50:00 | 短編小説




 「卒業おめでとう」


 俺は教え子達にそう声をかけた。


 幼さの残るその瞳には、この日を迎えた事の誇りと、自分たちの未来への希望が光り輝いている。

 もちろん緊張で身の引き締まる思いをしているだろうが、少しばかりの携帯食料とお菓子、そしてよく冷えたジュースの小瓶が自分たちの前に置かれると、みんなぞれぞれに年相応の笑みを浮かべる。


 俺の生まれた国では、ごく当たり前のように、誰でも飲み食いできるものだったが、貧しいこの国で育った彼らには、こんな機会でも無ければ目にする事も出来ないような代物ばかりだ。

 俺は甘くて安いだけの炭酸飲料の入った小瓶を高く掲げて言う。


 「サシャ民族解放戦線に栄光あれ!!乾杯!!」


 教え子達もジャングルの中に臨時で作られた訓練兵卒業式会場の中で同じように叫ぶ。

 俺は彼らに戦闘訓練を叩き込み、政府軍との激戦地である最前線へ送り込む指導教官をしている傭兵だ。

 生徒達は9歳から12歳。

 中には女の子もいる教え子達に、たった二週間の訓練でどれだけのことが出来るようになるかと言えば、ほとんど何もできないと言っても良い。

 だが、それがサシャ民族解放戦線の現実であり、戦況だった。

 四方を政府軍に囲まれ、補給もほとんど断たれている。

 四面楚歌と言ってもいい。だが彼らサシャ族は誇り高い民族であり、過去三十年もの間、自分たちの民族と土地、そして独自の文化と宗教を守るために政府軍と戦い続けているのである。

 大人の兵士もいるが、今となっては絶対数が足りず、子供だろうと女だろうと、お構いなしに兵士として戦場に出ていた。

 そんな彼らに少しでも生き残るチャンスを与えるのが俺の仕事だと思っている。

 もちろん教え子達の未来を思えば、今日の卒業という日を素直に喜べない俺がいる。

 できる限りの事はしたが、このうち何人が始めての戦闘から生きて帰ってこれるのかと考えれば、憂鬱にもなるだろう。

 しかし、上官としてそんな姿を見せるわけにはいかない。

 なぜならあと1時間もすれば、俺の教え子達は最前線へと向かう事になっている。

 俺は逆に一度帰国して、アルバイトで肉体労働しながら今後の傭兵としての活動資金を三ヶ月ほど稼がなければならない。

 傭兵というと雇われて、給料をもらっていると思われるが、サシャ民族解放戦線にそんな余裕はない。

 銃に弾丸、食料などは全て自分で用意しているので、ボランティアみたいなものだった。

 俺は戦場を提供してもらっているにすぎない。


 「はい、シャチョー」


 そう言って、俺の前に立って一枚の紙切れを差し出したのは、ルクゥという名の12歳の女の子だった。

 今回の教え子の中で最年長であり、俺は彼女に迫撃砲の撃ち方を叩き込んだ。

 射撃の腕は幼い頃から撃っているのでたいしたものであり、狙撃手としての腕前とは裏腹に、今は支給されたケーキを片手に持っている姿が彼女を年相応の女の子にしていた。


 「なんだ、ルクゥ?ラブレターか?」

 「ちがうよ、家族に遺書を書いておきなさいと、訓練が始まる前に言われたんだけど、私は家族がみんな死んじゃったから、シャチョーに持っていてもらおうと思って」

 俺はそうかと言って受け取ると、中を見ようと開こうとしたが、ルクゥに止められる。


 「遺書は私が死んでから読んでよ」


 そう言って笑ったルクゥ達が最前線へと向かうのを見送ると、俺はジャングルを後にしたのだ。

 政府軍の監視網を縫うように突破し、国境を越えて隣国の空港にようやくの思いで辿り着いたのは三日後の事で、搭乗手続きをしている時にメールが届いた。

 相手は俺がいたサシャ民族解放戦線基地の司令官からだった。

 犠牲を払いながらも夜間急襲は成功し、民族の聖地を取り戻したそうで、包囲網も解かれ、これからは物資も入りやすくなるだろう。

 俺は一通りメールに目を通すと、ルクゥから預かった遺書をポケットから取り出し、読み始めた。



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