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2021.3.30WEB【氏家法雄|ujikenorio’s blog(2015-04-12: 日記:レーヴィットの「日本哲学」批判『鷲田清一『哲学の使い方』岩波新書』 ほか1編

2021年03月30日 | 《う》 _読んだ本・人・ブログ
2021.3.30WEB【氏家法雄|ujikenorio’s blog(2015-04-12: 日記:レーヴィットの「日本哲学」批判『鷲田清一『哲学の使い方』岩波新書』 ほか1編
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 鷲田清一『時代のきしみ』を読んでいて、行き当たった。

by龍隆2021.3.30

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氏家法雄|ujikenorio’s blog(2015-04-12: 日記:レーヴィットの「日本哲学」批判
https://ujikenorio.hatenablog.com/entry/20150412/p1
~−−鷲田清一『哲学の使い方』岩波新書、2014年、59ー61頁
レーヴィットの「日本哲学」批判
その歪みを最初に指摘したのは、ナチスの台頭とともにそれまで教鞭をとっていたマールブルク大学を追われ、日本へ亡命して、五年間東北帝国大学で哲学とドイツ文学を講じたあと、日独が枢軸同盟を結ぶことになり、米国へと渡ったドイツ系ユダヤ人、カール・レーヴィットである。その彼に、米国への亡命前に雑誌「思想」(岩波書店)のために草した長大な論文「ヨーロッパのニヒリズム」(一九四〇年)がある。戦後、おなじ題でこれを含めた論文集が筑摩書房によって編まれたときに、それに付した「日本の読者に与える跋」は、戦後六十余年、わたしたちがここで日本における哲学のあり方を再考するにあたって、どうしても味読しておかなければならない文章である。この文章はヨーロッパ文化論としても優れたものであるが、日本の言論界に対してここで厳しく指摘されていることがらは、今日のわたしたちにとってもたいへんに耳に痛いものである。
日本人はロシアにおよそ百年遅れて欧化の道を踏みだした。と同時に、ヨーロッパの郵政を拉ぐことを目標としてその道を歩みつづけた。つまりヨーロッパ的な技術や科学を用いてヨーロッパに逆らおうとするのだから、「日本人の西洋に対する関係はすべて自己分裂的になり、アンビヴァレントになる。西洋の文明を歎賞し同時に嫌悪するのである」。レーヴィットがこのようなメッセージを日本の読者に送るきっかけの一つにこういうことがある。東北帝国大学在任中に頼まれて添削をした論文の多くが、まるで「ヨーロッパからすでに何もかも学んでしまって、今度はそれを改善し、もうそれを凌駕していると思って」おり、そういうヨーロッパ文化の彫刻という掛け声とともに結ばれているのを、苦虫を噛みつぶすような思いで目撃したことである。ここにあるとんでもない思い違い、とんでもない皮相さーー西洋人による西欧の自己批判をそのまま鵜呑みにし、それに乗ってみずからの立場の伝統的西欧への優越を感じるという愚ーーに、レーヴィットはヨーロッパの<哲学>の何たるかをあらためて確認する必要を感じたようだ。

前世紀の後半において日本がヨーロッパと接触しはじめ、ヨーロッパの「進歩」を歎賞すべき努力と熱っぽい速さをもって受け取った時は、ヨーロッパの文化は、外的には進歩し全世界を征服していたとはいえ、内実はすでに衰頽していたのである。しかし、十九世紀のロシヤ人とは違って当時の日本人は、ヨーロッパ人と批判的に対決しなかった。そして、ボドレールからニーチェに至るヨーロッパの最上の人物をさすがに自己およびヨーロッパを看破して戦慄を感じたものを、日本人ははじめ無邪気に、無批判に、残らず受け取ってしまった。日本人がいよいよヨーロッパ人を知った時はすでに遅かった。その時はもうヨーロッパ人はその文明を自分でも信じなくなっていた。しかもヨーロッパ人の最上のものたる自己批判には、日本は少しも注意を払わなかった。[……]日本の西洋化が始まった時期は、ヨーロッパがヨーロッパ自身を解決しようのない一箇の問題と感じたのと、不幸にも同じ時期であった。外国人にそれがどうして解決できようか。(『ヨーロッパのニヒリズム』柴田治三郎訳)
    −−鷲田清一『哲学の使い方』岩波新書、2014年、59ー61頁。

氏家法雄|ujikenorio’s blog(2017-04-27: 日記:東西の思索の一角を宣揚するでもない、負荷を自覚するポイント
https://ujikenorio.hatenablog.com/entry/20170427/p1

~ーー八木雄ニ『哲学の始原 ソクラテスはほんとうは何を伝えたかったのか』春秋社、2016年、67ー69頁
 たしかにヨーロッパで王道となる哲学はプラトン哲学である。プラトン哲学の系譜に連なる哲学者は、「知を愛し求める」場において、真理を他者とのあいだの「討議」を通じて調べるという、知性に緊張を強いる「ソクラテスの問答」を盛んに用いた。それに対してエピクロスの哲学は、いずれの問題に対してもひたすら思慮を求める。しかしその愛求は、批判的吟味によるものではなく、まことに穏やかなものであった。それゆえ人目を惹くものではなく、ただ穏やかに良識的であることを理想としている。
 神の意向を受けた「知の闘い」を、人々のあいだで繰りひろげた「ソクラテスの問答」が、その後の歴史を通じてもてはやされ、ひろめられて、「ヨーロッパの知恵」になったのは事実である。しかし誤解すべきではない。思いだしてほしいのだが、ソクラテス本人は好んで問答をしたのではなかった。むしろソクラテスの問答によって社会の権威者たちが打ちのめされるのを見て喜んだ若者の文化が、ソクラテスの問答を英雄に仕立て、ヨーロッパの知的文化伝統を作りだしたと、と見るべきだろう。
 ヨーロッパの歴史のなかでは、第三極の哲学は、華やかに英雄視されるソクラテスの問答をとりこむことで知的緊張を喜ぶ哲学者からは、二流の哲学の扱いを受ける。しかしエピクロスの哲学を代表とする第三極の哲学は、人が生きることの困難な時代に、人々に生きるための道標を与え、慰みをもたらす反省をうながしてきた。アウグスティヌスが内的生(道徳)の問題に特化して哲学する青春をすごしたのも、外的事象は内的生とは無関係な事象として区別してよいと考えるストアやエピクロスの思想が、すでにインテリの世界で常識となっていたからだと考えられる。
 エピクロスが代表するこの第三極の哲学は、ストア哲学を含めて、ヨーロッパが近代を迎えるさいの混乱のなかでも一定の役割をはたしたし、ニーチェにみられるように、世紀末のヨーロッパにもあらわれた。日本語となった「哲学」という翻訳語も、この第三極の哲学を表していて、残りの二極の哲学をうまく表していてない。そのため昨今の日本では、ヨーロッパの哲学本来の意をあらわすために、「知の愛求」とか「愛知学」とか表現することも多くなっている。
 すでに述べたことであるが、日本を含めて東洋の哲学は、インド由来の仏教哲学をのぞくと、この第三極の哲学の伝統しかもたない。
 「奥深い思慮を求める」という点では、この第三極の哲学も「知を愛し求める」ものである。思慮は知恵なのであるから、「知を愛求する」第二極と「思慮を求める」第三極の哲学の相性が悪いわけはない。しかし知を愛求する第二極の哲学が、ヨーロッパにおいて第一極の「討議による真理の吟味」と相性がいいほどには、思慮を深める第三極の哲学は、第一極の知の吟味を含まない。わたしたち日本人が一般に馴れ親しんでいる哲学は、もっぱらこの第三極の哲学、すなわち、思慮深さを求める哲学である。そのため、残り二極の哲学を端的にあらわすことばを、日本語でもつことがたいへん困難なのである。
 話が混乱するかもしれないが、日本の思慮深さは、さらに第三極の哲学に属するエピクロスがもった「自然と道徳の区分」をもたない。したがって日本的思慮は、ヨーロッパの哲学の流派のなかでは、第三極の哲学であっても、その内容はエピクロスの哲学とはやはり異なる。しかしこの第三極の哲学はそれの学習においてことさら「知の吟味」を必要としない点において、日本人には近づきやすいのである。
 くりかえすが、その哲学においてエピクロスは、人間の内的生と外にひろがる自然をわける。この伝統はヨーロッパの知的伝統としていまも生きている。それゆえヨーロッパの哲学全体を見わたすためには、この流派の哲学を知らずにすごすことはできない。それを無視することはあとのふたつの流派の理解にも混乱をもたらす。
    ーー八木雄ニ『哲学の始原 ソクラテスはほんとうは何を伝えたかったのか』春秋社、2016年、67ー69頁。


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