お客さんのお宅へ請求書を届けにお邪魔した
コチラのお客さんは、ご主人が狩猟をされていて
小屋の軒先や玄関に鹿の角が飾ってある
とても立派な角なのでご主人に話を伺った
『いやぁコレ本当に大きくて凄いですね!』
と言うと
『コレはまだ大きくないんだぞ。ちょっとこっち来て見ろ。』
小屋のシャッターを上げると壁中に角がぶら下がっているのが見えた
『おおおおお』
確かに玄関に飾られていたものよりも大きいのが沢山ある
『この角でこっちに向かってきて刺したりするんですか?』
素朴な疑問をぶつけてみた
『鹿はこっちに向かって来ないよ。ただ、仕留め損ねたやつに近づいて急に暴れられると危ないな』
『へぇ〜こんなに鋭いと刺さりますよね!』
『こういうのもあるんだぞ』
鹿の頭部の骨格標本みたいなのも見せてくださった
『ここまでやるのは外人ぐらいだべな』
それは何処の国の外人を指すのだろう
そして、質問をぶつけてその答えを聞くたびにリアクションする俺にご満悦だ
『なぁに、興味あるのか?やるか?教えるぞ!』
『いやいや、そんな、鉄砲撃つのおっかないですよ〜』
『なぁに、慣れれば面白ぇぞ?まだ若いんだべ?何歳だ?』
『もう50です…あはは』
『いやぁ若い、大丈夫だ教えるから!』
警察に手続きするのと、免許と、それから…
説明し始めた
待て待て待て待て
…
ご主人が言うには後継者不足なのだそうだ
鉄砲撃ちが少なくなって害獣がどんどん増えて追いつかない
害獣は増えるけど鉄砲撃ちは減る
コレじゃあなぁ
…ぼやいていた
農作物を荒らすだけじゃなく
貴重な高山植物も食べちゃうから困るのだと
そして近年ではイノシシも南の方から上がってきて
この辺りでも増えてるんだと教えて下さった
…
そうか、ここは俺がひとつ(待て
熱く語るご主人から少しずつ離れながら車に乗ろうとすると
『趣味、なんだ?趣味いっぱいあって鉄砲できないのか?』
『いや、趣味は無いんですが…』
『勿体ねぇ、若いのに!』
70代前半と思われるご主人は肌ツヤも良く
姿勢もとても良く
表情も話し方も元気そのもの
そうか…趣味って大事だなぁ
車に乗って帰る俺を見送って下さった
窓を開けてご挨拶をすると
『興味あったら連絡してこいよ!一緒にやるべし!』
俺の何に惚れ込んだのやら
熱烈スカウトだったのである
…
ちなみに俺みたいな人間に銃を持たせたら
憎たらしい奴に銃口を向けてしまいそうである
とてもじゃないが素質ゼロだと思うんです