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a green hand

突然の電話

数日前、電話が来た。
夫の叔母さんからだ。義父の妹さんである。

数年前までは夫の実家でお正月やお盆には顔を合わせることの多かった叔母さん。

叔母の上品な佇まいは、夫の実家がその時代、相当豊かな暮らしぶりだったことが推し量られた。

着物姿の叔母は、いつも凛としていた。

その叔母も90歳だという。
しかし、電話の声は、どこにもそれほどの年を感じさせない。

久しぶりに叔母の家を訪ねた。
叔父は98歳になり、現在近くの病院に緊急入院し、ICUにいるという。

電話の用件はそういうことではなかった。
が、そんなこともあり、訪ねてみた。

久しぶりに会う叔母は見慣れた正装の面影はどこにもなく、大分老いた姿になっていた。

それでも80歳から始めたという踊りのせいか、足腰はしっかりとしていて、とても90歳には見えない。
その踊りも、覚えられなくなったからここ数年でやめたという。

時々笑う表情に今まで見たことのない柔和さが顔中に現れていた。

女学校を出、大事に育てられたと世間から聞く叔母の趣味も相当なもので、所狭しと紙人形が飾られていた。
つい最近まで仙台の娘の所に住んでいたという。
最近、帰ってきて早々の叔父の入院となったらしく部屋のあちこちに荷物が解かれずにある。

診断書を見ると驚くほどの数の病名が記されていて、叔母も苦笑していた。

「98歳にもなるとこんなふうに体がダメになってくるんだわね」という。

もともと叔父は体の大きい方だったが、今は相当に太っているという。
そんなことも、きっとたくさんの病名を増やしてしまったのではないかと思う。

ICUに入院というから切羽詰っているかというとそれほどではない。

ただ、90歳の身で家政婦さんの来るまでの数時間とはいえ、付き添いは疲れるとこぼしていた。
老老介護にしても高齢すぎる年齢である。

状態を問うと「大丈夫、お父さんは元気なの、私を怒りつけているんだから・・
そのくせ家政婦さんには丁寧にありがとうございます・・なんて言ってるから・・」

と相変わらず穏やかな口調で落ち着いている。

その叔父には「篆刻」の趣味があり、素晴らしい作品がたくさん掛けられていた。

叔母が「私らはいつホームに行くかわからないのだから、お父さんの篆刻、どれでもいいものを
貰っていって、若い時は、作ったものを誰にもあげたくなくて、今となっては誰ももらってくれない」
と静かに語る。


そのような趣味があったことも私はしらなかった。が夫は知っていた。

私には「篆刻」という文字は意味がわからなくても魅力的だ。

夫と相談し、ひとつの作品をいただいた。

叔母の紙人形もとおっしゃるので、私が一番気に入った作品を選ばせてもらった。

篆刻文字はアートだ。
漢詩を篆刻文字に変換したものだ。

詩は、唐時代の王維という詩人の「竹里館」
詩吟になっていて、その道の人には分かっても一般人の我々には初耳である。


近いうちに写真をUPしようと考えている。

誰にもあげたくないほどの思い入れのある作品をいただけたのはうれしいことだが、ICUから
戻って、叔母が叱られたりしないだろうかと夫は気遣っていた。

数日すぎて、叔母のことが思い出された。

M叔母さんって、あんなに小さな方だったかしら?
腰が曲がっているわけでもない。

なんて可愛らしく、優しく素敵になってしまったのか・・・と。
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