チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「音楽を奏でる嗅ぎ煙草入れ(op.32)と親指の付け根/リャードフ没後100年」

2014年08月28日 17時20分37秒 | 説くクラ音ばサラサーデまで(クラ音全般

リャードフ 没後100年


本日は、ロシアの作曲家、
Анатолий Константинович Лядов
(アナトーリィ・カンスタンチーナヴィチ・リャーダフ、いわゆる
アナトーリー・コンスタンチノヴィッチ・リャードフ、1855-1914)
が死んで100年の日にあたる。同人は、音楽一家に生まれた。
1870年にペテルブルク音楽院に入ったが、ほとんど出席せず、
一度除籍処分となったが、成人してから入り直して卒業した。
リャードフが入学当時はまだ楽理など無知なのに
同音楽院の教授にちゃっかりおさまってた
リームスキー=コールサコフの授業などバカらしくてサボってたのかもしれない。

いずれにしても、
リャードフという人物は堪え性がない男だったようである。だから、
交響曲やオペラのような大作や長い曲は苦手だった。
ヂャーギレフから依頼された「火の鳥」も遅々として進まず、結局、
やっぱイワンこっちゃないわ、このグズ!
としびれを切らした依頼主はストラヴィンスキーを代打に立たせてしまった。
とはいえ、
ピアノの小品作りばかりに勤しんでた(これがけっこう銭にはなる)が、
50過ぎの晩年になってからは、
いっちょおいらの実力を見せてやるか、
と単一楽章の交響詩のような管弦楽曲はそこそこ作るようになり、
師リームスキーより垢抜けたその巧みなオーケストレイションの才も示した。

リームスキーからの妬みに閉口してたモスクワ音楽院のチャイコフスキーに近づき
(同じくペテルブルク音楽院に学んだアレンスキーも同様だが)、
親交を得た。そのチャイコフスキーが死んだ1893年にリャードフが作曲したピアノ曲に、
"Музыкальная табакерка – Вальс-шутка
(ムズィカーリナヤ・タバーキェルカ ヴァーリス・シュートカ)
「音楽の煙草入れ 冗談ワルツ」
(op.32)
というものがある。
A-B-A-C-A-B-Aというロンド形式の、2分ほどの小品である。
automaticamente(アウトマティカメンテ=機会ふうに)
という標語がつけれてるこの曲のAのルフランは、
♪ファ>ミ>レ<ミ<ソ>ド<レ<ファ>シ<ド<レ<ミ♪
という、ヘミオラで紡いだかわいらしいものだが、サン=サーンスの
「ヴァイオリン協奏曲第3番終楽章」のサブ・テーマ、
♪ドー・ーー・・>シー・ー>ラ│<シー・ーー・・<レー・ー>ソ│
<ラー・ーー・・<ドー・>ファ│<ソー・ーー♪
のドをファと置き換えたものとほぼ同じである。

ちなみに、
この曲のタイトルの英語表記は、
"A musical snuffbox"
とされてるが、
snuffとは「嗅ぎ煙草」のことであり、
snuffboxはその嗅ぎ煙草の粉を入れておく、
装飾を施した豪華な煙草入れのことである。
それがオルゴールのような形なので、
洒落で音楽の煙草入れと命名したのだろう。あるいは、
実際にオルゴールにもなっている嗅ぎ煙草入れがあったのかもしれない。

この曲を実際にピアノで弾いてみると、
とくに右手は人差し指と小指で6度の重音を弾いて次は親指、そして、
人差し指と薬指で5度の重音を弾いて次は親指、というような
単純動作の繰り返しを強いる。ので、
親指の健が酷使されるのである。
親指を伸ばして反らすと、その親指と手首との間に窪みができる。これを、
英語で"snuff box"、日本語でも「解剖学的嗅ぎ煙草入れ(解剖学的嗅ぎ煙草窩)」
などと言うのである。ことによると、
リャードフはその意味もかけてたのかもしれない。

ところで、
sn-という接頭辞は「鼻」に関連した事柄を指す。
ムーミンのSnufkinスナフキンも嗅ぎ煙草愛用者
ということからそう名づけられたという。が、同じく嗅ぐのでも
sniffだと麻薬っぽい。ともあれ、
sn-関連語を少し挙げてみると……
嗅覚を使ってうろうろ探し回るさま→snoop→スヌーピー
snoozeうたたねは鼻提灯
這うさま→鼻をこすりつけるさま→sneak、snake
雪が降ると地面を覆う→白いものが地面を這いつくばっているさま→snow
snob=俗物、エセ野郎←sine nobilis(スィーネ・ノービリス=高貴なし=下賎)にひっかけて、
ケンブリッジ大の学生らが「革の臭いばかり嗅いでるくせに
大学に出入りしてる鼻持ちならない靴屋」と見下した差別語
sneeze=くしゃみ(鼻粘膜を刺激されて出る)
sniffle=snivel=鼻をすする
snook=忍者青影の「ダイジョーブ!」、あっかんべー
→snooker(ビリヤードの一種=相手が穴に入れにくいようにするゲイム=あっかんべー
→そうされた相手は入れられる箇所を犬のようにクンクンと探さなければならない)
snore=いびき
snot=洟
……といった具合である。

語源とか地名のいわれとはかくも意味深いもので、
豪雨で悲惨な被害が出た広島市安佐南区の「八木」はもともと、
「八木 蛇落地 悪谷」(やぎ・じゃらくじ・あしだに)
今回のように豪雨で山肌を蛇が這い降りてくるような災害があったから、
そのように呼ばれていたものを、
「八木 上楽地 芦谷」(やぎ・しょうらくじ・あしや)
といいように改名し、さらには
住居表示で「八木」だけにする、という、
「土砂崩れしやすい土地」の現実を覆い隠したのである。

ちなみに、ロシア語の
"Ляд"(リャート)には「汚れた」(形容詞)、「地獄」(名詞)という意味がある
("Ляда"(リャーダ、女性名詞)は「湿地」「窪地」)。だから、
文字どおり"渾名"がサーネイムのほとんどを占めるロシア人名の中で、
"Лядов"(リャーダフ、いわゆるリャードフ)という名は、
そうしたじめじめした汚泥の草地に住んでた者が先祖だということである。

(のちに作曲者自身が
「ピッコロ、フルート2、クラリネット2、グロッケンシュピール、ハープ」
に編曲したのだが、このピアノ曲を
「チェレスタ、グロッケンシュピール、チューブラーベル」
の編成でスタッカートを取り去って"オルゴールふう"にアレンジしてみました。
全体的に音が小さいのでキキモラさないようにお願いいたします。
https://soundcloud.com/kamomenoiwao01/lyadov-music-snuff-box-arr-for-celesta-glockenspiel-kamomeno-iwao )
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