チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「初歩(アルケー)の和音(コード)と和声(ハーモニー)」

2011年04月25日 00時02分59秒 | いろハーモニーほへと(赤穂度47文字
チャイコフスキーの音楽の魅力は、一般には、
[美しいメロディ(旋律)と色彩豊かで巧みな管弦楽処理(オーケストレイション)]
と言われ、また思われてる。が、
(古典的)和声の扱いの妙こそが、
チャイコフスキーの音楽の真髄なのである。
たとえば旋律には本来、それだけに定まる和声というものはない。
無数とはいわないが、それなりの曲に仕立てるとしても、
いくつかの和声づけができる。が、
チャイコフスキーが生み出し、あるいは、採った旋律には、その
当初からそれぞれに附随した固有の、
相応しい和声がすでに結びついてるのである。

チャイコフスキーは
モスクワ音楽院で教鞭を執ってたときに
「和声実習入門」という初歩和声学の教則本を著した。それは、
現在、英訳された
"Guide to the Practical Study of Harmony"
というものがdoverという廉価本屋から出てて、
amazonでも1000円弱で購入できる。
その和声に目を向ける前に、少し、
私でも解る和声の予備知識に触れておく。ちなみに、
ごく砕いていえば、和声とは和音の繋がりかたのことである。

古代ギリシャの時代に、ピタゴラス学派はこんなふうな
音の振動数による比の数論を発想した
……かどうかは知らない……が……
たとえば、ある長さの弦を弾いたり擦ったりして音を出すとしよう。
仮にその音をドとする。つぎに、この弦の
1/2の長さの音を出すと、
ドより1オクターヴ高い音が出る。この2音を同時に響かせると、
よく"調和"することに気づく。
1/2の長さの音は仮に高いドとしよう。
この音程を現在では、
「完全8度(オクターヴ)」という。そして、
いろんな長さにして同時に響かせてみたところ、元の長さの
2/3の長さにして音を出したとき、かなりな感じで
"調和"することにも気づく。この音程を現在では、
「完全5度」という。この2/3の長さの音を仮にソとしよう。同様に、
3/4の長さにして音を出したときも、かなりな感じで
"調和"することが判る。この音程を現在では、
「完全4度」という。この3/4の長さの音を仮にファとしよう。

ちなみに、
1/2の長さの「高いド」は分母を通分して2/4とすれば、
ファの長さ3/4との比は2:3、つまり、このファと高いドとの音程も
「完全5度」と推定できる。同様に、
1/2の長さの高いドと2/3の長さのソも通分すればそれぞれ
3/6と4/6で、比は3:4。この二つも、
「完全4度」の音程と推し量れる。つまり、当初の(低いド)を基点にした
[ド<完全4度<ファ][ド<完全5度<ソ][ド<完全8度<高いド]
という関係は、
[ド<完全8度<高いド][ファ<完全5度<高いド][ソ<完全4度<高いド]
という、高いドから見た音程関係と同値である。したがって、
「完全5度」と「完全4度」は、観念的な表現をすれば、
鏡像対称性な関係にあるといえる。これを、
さらに視覚的に判りやすくすれば、
「五度圏」の円のように、円の一周を12等分して、
[ド→♯ド(♭レ)→レ→♯レ(♭ミ)→ミ→ファ→♯ファ(♭ソ)→ソ→♯ソ(♭ラ)→ラ→♯ラ(♭シ)→シ→]
と配置する。すると、
「ド」の対極に「♯ファ(♭ソ)」が位置する。
低いドと高いドが同一視されるその円では、
「ド」からそれぞれ反対回りに同距離の
「ソ」と「ファ」が「♯ファ(♭ソ)」の両隣に並ぶのである。

さて、
かなりな部分を省くが、
その「ド」「ファ」「ソ」をそれぞれ根音にした三和音、
[ド(<)ミ(<)ソ][ファ(<)ラ(<)ド][ソ(<)シ(<)レ]
は、どれも[長三度-短三度]という音程である。が、
最初の[ド(<)ミ(<)ソ]をとにかく「主和音(トニック)」とすれば、
その主音ドに対する属音ソと導音シを含む
[ソ(<)シ(<)レ]は「属和音(ドミナント)」で、
主和音に解決したく(進みたく)なる機能が備えられたことになり、
属和音の鏡像にあたる
[ファ(<)ラ(<)ド]は「下属和音(サブドミナント)」、
属和音や主和音に進みたくなる機能が備えられたことになる、
ということになる。ちなみに、
「三和音」は他に、
レを根音とする三和音[レ(<)ファ(<)ラ]、
ミを根音とする三和音[ミ(<)ソ(<)シ]、
ラを根音とする三和音[ラ(<)ド(<)ミ]、
シを根音とする三和音[シ(<)レ(<)ファ]、
がある。そして、
「主和音(トニック)」「属和音(ドミナント)」「下属和音(サブドミナント)」は、
七つの「三和音」のうちで重要な役割を持つので、
「主要三和音」と呼ぶことになってる。

ともあれ、原始的な決まりでは、
それぞれの「三和音」には将棋の駒のように、
進めるところが決まってる。とくに、
「主要三和音」に関しては以下のごとくである。
・「主和音(トニック)」は、
どの和音にも進むことができる。
・「属和音(ドミナント)」は、
「主和音(トニック)」にしか進めない。ただし、
「主和音」の"代理和音(ごく簡単にいえば「似てる和音」)"である
[ラ(<)ド(<)ミ]には進める。そして、
原則では禁忌であるものの、実際には、
「下属和音(サブドミナント)」にも頻繁に進む。
・「下属和音(サブドミナント)」は、
「主和音(トニック)」と「属和音(ドミナント)」にしか進めない。ただし、
"代理和音"である[レ(<)ファ(<)ラ]に進むことはできる。

そして、
これらの主要三和音で形成されるごく基本的な、
[主和音→属和音→主和音]
[主和音→下属和音→属和音→主和音]
[主和音→下属和音→主和音]
の3通りの進行による「ひとくくり」を
「カデンツ」という。たとえば、
唱歌・童謡のほとんどは、
[主和音→属和音→主和音]
という形で曲を終える。ちなみに、
「ヨナ抜き音階」が多いと言われる唱歌・童謡であるが、
ほとんどが属和音を経由して終止する。したがって、
たとえ、旋律がヨナ抜きではあっても、
和音・和声的には属和音の中の「シ」、
属和音と同様の機能を果たす属7の中の「シ」「ファ」、
が使われてるのである。

大作曲家として名を残してる"クラシック"音楽の作曲家は、
それぞれに絶妙な和声を施してるが、その中でも、
チャイコフスキーは"古典的"な和音を使った和声の妙を数々残した。
チャイコフスキーの音楽に心を動かされ、陶酔させられるのは、
その和声によるものである。
チャイコフスキーは「和声の作曲家」といっても過言ではない。
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