前回の訂正
私が乗るのは「検定車」ではなく「受験車」です.大きな間違いです.自分は合否を決めるほうではなく「決められる」立場です.
昭和時代の競走馬の名馬にシンボリルドルフ号がいます.「ウマ娘」ではトップの立場にいます.皇帝です.カイザー/アンペリュールです.ルナとも呼ばれています.「そのネコ空からふってきたのよ.天使かと思っちゃった」 おでこの白い三日月からそう呼ばれています.「月の輪の雷蔵」だっていいじゃないですか.あるいはコマ落としの銀蔵とか.
いわゆる三冠馬です.中央競馬の三冠とは「菊花賞,東京優駿競争(日本ダービー),菊花賞」のことをいいます.この馬に乗っていた騎手は,やはり名ジョッキー岡部幸雄氏です.クールな方で現役時代は感情をほとんど表しませんでした.その岡部ジョッキーが,この三冠の最初「皐月賞」を勝ったときには,「この馬は三冠を獲る」というパフォーマンスをして周囲を驚かせました.
その二冠目が東京優駿競争:日本ダービーです.東京競馬場の長い直線でゴールを目指して走っています.前にはまだ数頭の馬がいます.その時,馬上の岡部騎手はシンボリルドルフ号が次のように言ったと言っています.
「しっかりつかまっていろ」
はっきりと聞こえたそうです.そのあと皇帝は驚くほどの加速力で前の馬をすべて抜き去り,ダービー馬となったといいます.
いま両手を前頭筆頭リード125のハンドルにかけます.再び首を左右に振ります.降りすぎです.スタンドをはずしてサドルにまたがります.右手で左右のミラーに触り,再び左右に首振りです.ここまでやらなくてもいいのでしょうが.キーを回し,エンジンスイッチを入れます.
自分の身体の下からエンジン音と振動が感じられます.ふしぎなもので,この車校で初めて実車に乗った時のことを思い出します.緊張と高揚感.
でもこの前頭筆頭は「しっかりつかまっていろ」とは言ってくれません.わたしには聞こえません.私はスクータにしっかりつかまっていることしかできません.
左手を見て右ウインカーを出します.ふたたび首を振って発進です.約10分間のツーリングです.
外周道路を右周りですすんでいきます.まず30km指定です.右手はマッスルバイクさんの指示の「3本指+軽い親指」です.両肘はバタイダーZさんの「地面と水平」です.視線を速度計と前方を交互に見ながら30kmを維持します.右カーブの手前で両手じわじわブレーキでの減速.長い直線に入ります.
直線の終わりのほうを右折してさらに左折してS字に入るのですが,その間に横断歩道があります.そこは速度を緩めて(速度計を見ている余裕はありません),横断歩道の手前でまた左右に首をふります.じつは横断歩道の手前で右折のサインを出さなくてはなりません.左手のウインカーボタンを見る,首を振る,中央の車線に寄る.二輪車を操縦しているのだか首振り人形だかわからなくなっています.
直線から右折.すぐに左折のウインカー(もちろん左手を見てから)を出してS字に入ります.入ったところでまた左手を見て左ウインカー.そのままS字を抜けていきます.今日はおどろくほどスムースに進んでいきます.速度を落とした出口でまた首をブンブンふってから左折.
外周道路に戻って,左折のあと信号のある交差点に向かいます.赤信号が見えます.エンジンブレーキ,両手じわじわブレーキです.左足が地面につきます.私の右後ろを並走している検定車(検定員)も停まります.
信号が緑に変わります.この交差点の先が「左折に入るクランク」です.このブログで何度も記載している「失敗し続けている」クランクです.
私の大きな運命がここで決まります.
(そんなことはない.たかが二輪の試験じゃないか.)