蒸しあつい夜明けのアスファルトに
カツカツと靴音を刻んで 駅へと歩く
西へ向かう列車の窓のむこうを
憧れだった都会のビルが過ぎて行く
短い車両の電車とバスを乗り継いで
ふるさとに帰れば
もう ひぐらしの声
迎えてくれる笑顔に また少し皺が増えた
その笑顔に 弱音は吐けない
夜は更けて 澄んだ山の風が 団欒の輪に入ってくる
外には 生き残った蛍の とぎれとぎれの小さなともしび
空に目をやれば 満天の星
川の流れる音を聞いて眠る
いつもより少し遅い夜明けを迎えると
夜半に降りてきた霧が 上空に吸い込まれて
まぶしい青空が広がっていく
久しぶりの森を訪れてみる
張り詰めた想いが緩んだとき
碧きふるさとの川に
涙が一粒だけこぼれて落ちて 小さなさざ波
ありがとう もう少しがんばってみるよ
都会に負けそうだった あの日のあなたへ つる姫