一旦実家に戻ることにして数日。
びっくりするくらい自分の精神状態が良くなっているのを実感した。
実家は木造一戸建てで、大型車も走る道路からほんの少し入った場所に建っている。近くには大きな工場もある。決して静かな場所ではない。
それでも、天井から低周波が響き渡らないというのはこれほど素晴らしいことだったんだ。
ウォーターハンマーの音でびくっとしなくていいというのはこんなにも落ち着くことだったんだ。
と、気づいた。
以前は家で音楽を聴くことなど殆どなかった。あんまり興味がないという理由もあるが、静寂というものが好きなのだ。
完全な無音ではなく、風や鳥の鳴き声などの自然の音だったり、隣近所の生活音、道路からの車の音。そういうものがありつつも、家の中は基本静か。進学と同時に始めた一人暮らしの間ずっとそうしてきたし、一時期実家に戻っていた時にも相変わらずそうだった。
ところがマンションに入居した初日から、さまざまな音をごまかす為仕方なく音楽をかけるようになっていた。
当初はブブブブーンという低周波が気になって気になって、例の「ズゴゴゴゴ」よりはるかにしんどかった。
今でも低周波には全く慣れないし、音が聞こえると鼓膜が震えて耳に痛みが走る。
だがこれが集合住宅の当たり前なのかこのマンション特有の騒音問題なのかも判らなかった。
なにせ最新の高気密住宅に住むのは初めてだ。
文句を言っていい事象なのかどうかも判らない。この音を他人が不快に思うかどうかも判らない。だが自分にとってはひたすら不快で、他の音で打ち消す以外の解決法が見つからなかった。
実家は相変わらず周囲の音がある程度賑やかだ。だが21時過ぎると車の数は減るし、近所の生活音など殆ど気にもならない。朝には通勤車両の音が聞こえ始めるが、所詮は少し離れた道路からだ。
天井から響き渡る低周波やウォーターハンマーとは次元が違う。
そしてその音をごまかすためにかけていた音楽自体も、自分にとってはストレスだったんだなあ、とやっと気づいた。
当然自分で動画を見たり、ゲームをしたりと音を出す時もある。だがあくまでそれは自らが意識して発する音である。そもそも音を聞くことを目的としている行為だ。それらと違って音楽は「仕方なく流している騒音」だったのだ。
久しぶりに生活しているな、と感じた。
本当に久しぶりに、時間がゆっくり過ぎているのを感じた。
※「ザ・ファブル」南勝久
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます