もにょらない日々

毎日ちょっとした幸せを見つける

自縄自縛程タチの悪いものはない

2024-12-07 20:16:02 | 新築分譲マンション

ウォーターハンマーを始めさまざまな騒音に悩まされていることを切々と語ってきた訳だが、では今が一番辛いのかというと、そうでもない。

一番しんどかったのは間違いなく乾太くん事件の最中だったし、一番病んでいたのは10月下旬頃、騒音がどんどんひどくなっていった時期だ。

その頃は会社から家へ帰ることが恐怖となっていた。

車通勤をしているのだが、家へ近づくにつれ鼓動は激しくなり息が出来なくなる。ハンドルを握る手が震える。

帰りたくない、でもしんどい、休みたい、でも家が怖い、音が怖い、帰りたくない。ぐるぐる同じところを思考が回転していく。

音がさらに大きくなって家に住めなくなったらどうしよう、金がない、将来設計が崩れる。マンション売るか? いやでも売れるのか? このうるさいマンションが。

思い余って査定を依頼した。返答はほぼほぼ購入時と同額で売却始められますよ、とのことだった。

だが。

1年未満で部屋を売る理由は必ず聞かれますよ、とも言われた。ウォーターハンマーに悩まされているマンションなんて誰が買うものか。

気持ちはますます追い詰められていく。マンションの中で、たった一人、自分だけがこの音で苦しんでいるんじゃないか。他の人は外の風音くらいにしか感じてないんじゃないか。そして実際に大した音ではなく、自分の脳内で音を極限まで拡大させているだけなんじゃないのか。

もしかして自分がおかしいんじゃないのか。

 

そんな時にマンションの1年点検の事前アンケートが来た。点検個所はオーナーの申告制となっている。

思いの丈をその1枚の紙に全てぶつけた。それを眺めつつまだ書き足りないことはないかと無理やりにでもマンションの粗探しをした。思いついては打ち消し、書き始めようとしては手を止めて深呼吸。記入欄を大幅にはみ出した文字だらけのそれを、3日ほど経ってやっと提出した。

そして提出した直後からすさまじい後悔が襲ってきた。

書いたことに間違いはない。だがもし、日々苦しめられているこの音が、他の人に聞こえていない音だとしたら? すさまじい騒音がすると思い込んだがゆえの幻聴だったら?

これを見た管理会社の人が不快に思ったら? 見せられた施工会社の人が誹謗中傷だと感じたら?

いや違う、自分がおかしいんじゃない、自分が悪いんじゃない、悪いのはこの音を発生させている原因だ。それは何だ。何が原因なんだ。

今までウォーターハンマーだと思っていたゴリゴリという音が心を押しつぶし、階上の住人が原因ではないかと錯誤した。

そして管理会社へ連絡した。「上の部屋の音が辛くて生活できないです」。
 
まともな日本語にもなっていなかったかもしれないその叫びに、管理会社の担当さんは言ってくれた。
「それ、ウォーターハンマーです。他の部屋からも話が上がっています」
 
ウォーターハンマーです。ウォーターハンマーです。ウォーターハンマーです。
 
あんなに怖かったその単語が一片の救いとなった。
 
あの日提出した1枚のアンケート用紙にびっしり書き綴った文章には、たった一言の本心が隠れていた。助けてください、と。
 
 
 
 
※「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」うすた京介
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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