宮尾登美子さんのエッセイ「生きていく力」を読んで、その時にも載せましたが、
私がもの心ついたころ、父の職業は「芸妓娼妓紹介業」という、
貧しい家の少女たちを妓楼にあっせんする仕事だった。
家の職業のため、私がどれだけ苦しんだか、
父への怨みと憤りのために作家を志したようなもので、
げんに拙著『櫂』、『春燈』などにはその怒りをぶちまけてある。
これは、「櫂」も、それに続く自伝も読まなくては・・・
「櫂」
作者自身の生家をモデルに、太宰治賞を受賞した名作。

高知の下町に生まれ育った喜和は、十五の歳に渡世人・岩伍に嫁いだ。
芸妓紹介業を営み始めた夫は、商売に打ち込み家を顧みない。
胸を病む長男と放縦な次男を抱え必死に生きる喜和。
やがて岩伍が娘義太夫に産ませた綾子に深い愛を注ぐのだが・・・。
大正から昭和戦前の高知を舞台に、
生家の事情を両親の側から克明に描いた作品です。
*

「春燈」
これは「櫂」の後日譚で、作者自身(綾子)の視点で描かれています。
土佐の高知で芸妓娼妓紹介業を営む家に生まれ育ち、
複雑な家庭事情のもと多感な少女期を送る綾子。
育ての母・喜和と実父・岩伍の離縁という破局の中にあって、
幼い綾子が、小学生、女子師範付属高等科生、山間の小学校の代用教員と成長していき、
三好という教員から求婚されるまで、昭和の初めから、昭和十九年までの事が描かれています。
*
その次にくるのが「朱夏」で、
結婚した綾子が満州に渡り、敗戦後、無一文になって散々に苦難の道を歩みながら、
昭和二十一年に引き上げてくるまでの悲惨な描写です。
「朱夏」の終章で、綾子はようやく二十歳。
この後、どんな運命が展開していくのでしょう。
*
「仁淀川」
満州で敗戦を迎え、夫と幼い娘と共に必死に引き揚げてきた二十歳の綾子は、
故郷高知県の仁淀川のほとりにある夫の生家に身を落ち着ける。
農家の嫁として生活に疲れはてて結核を発病した綾子に、さらに降りかかる最愛の母・喜和と父・岩伍の死。
絶望の底で、せめて愛娘に文章を遺そうと思い立った綾子の胸に、
「書くことの熱い喜び」がほとばしる。
作家への遥かな道のりが、いま始まったーー。
*
宮尾登美子さんの自伝4部作が、宮尾文学の核をなしています。
追い立てられるように読み進めて来ましたが、
「仁淀川」は「櫂」から始まる物語の、終わりであり、また始まりでもあるとか。
この後、綾子の人生はますます波乱に満ちたものになっていくようで、宮尾さんは「仁淀川」の続きを、
「これだけは書き上げなければ絶対に死ねない」と意欲を示しましたが、
2014年12月、88歳で帰らぬ人に・・・。
この次は何を読めばいいのか・・・?と、思案しています。