数日前ここで紹介した、ニコラス・メイヤーの小説『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』の、メイヤー自身の脚本、ハーバート・ロス監督による映画化作品『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』について。
アマゾンには置いていないようなので、こちらで購入しました。
しかしこのジャケット絵、ワトソンがいない……おそらく公開時のポスターと同じデザインだと思いますが、イラストを描いたのは1970~80年代に人気だったデザイナー、リチャード・アムゼル(Amzel)さんでしょうか?
ストーリー:1891年。希代の名探偵シャーロック・ホームズは重度のコカイン中毒となっており、宿敵モリアーティを倒す妄想に苦しめられていた。だが、当のモリアーティは、ホームズからひどい迫害とストーカーまがいの被害を受けているとワトソンに泣きつく有様。ホームズの心の病の原因は、過去に起きた出来事にあるとみたワトソンは、巷で評判の心理学者フロイトの手を借りようと思いつく。ホームズの兄マイクロフトと共に一計を案じ、ホームズをウィーンに連れ出す事に成功。だが、その旅先には思いがけない事件が待っていた!(上記サイトより転載)
というわけで、前半部は上のあらずじの如く原作に忠実ですが、後半の展開は大幅に脚色されています。悪役のラインスドルフ男爵と「謎の美女」という設定だけをそのままに、人間関係等はかなり単純化されてまるっきり別ものになっていました。但し、原作でも描かれていた列車の追っかけバトルは、映画ならではの見せ場となっています。後半部では正直言って「それだけ」を映像化したかったのではないかという気も……
そして、ホームズの過去に於いてモリアーティが果たした役割、彼が教授を憎む真の理由についても、原作とは若干の変更がありました。映像として見るにはその方がわかり易いし、インパクトも強いからでしょうか。
サー・ローレンス・オリヴィエのモリアーティ、情けない演技もいいですが、ホームズの妄想の中にだけ登場する「犯罪界のナポレオン」らしい威厳に満ちた姿を見ると、このかたで正統モリアーティが観たかったと思ってしまいます。
ホームズ役のニコル・ウィリアムソンについてはよく知らないのですが、英国の舞台中心に活躍していて、一時期はアルバート・フィニーのライバルとも目されていたとか。神経症的なところとユーモラスな部分が同居するところは、この作品の「ホームズ」としては合っていたと思います。
ワトソン役にロバート・デュヴァル、フロイト博士にアラン・アーキンと、現在も活躍する演技派のお二人を配したところもいいですね。
ワトソンを「名探偵のマヌケな助手」ではなく、信頼できる親友、パートナーとして確立したのは、グラナダTV版のデイヴィッド・バークだと言われていますが、実はそういうワトソン像は、この映画のデュヴァル氏によって既に造型されていたと思います。
そして、マイクロフト役チャールズ・グレイさんは、実はグラナダ版シリーズのマイクロフトでもあったんですよ!年月を経て、「本家」の方で同じ役を演じることになったとは面白いですね。
シャーロキアン言うところの「聖典」ファンとしては、ホームズ&ワトソンの友情や、メアリーさんの良妻ぶりや、ホームズの奇行についてワトソンに泣きつくハドソン夫人等々、お約束ながら嬉しくなりました。しかし、確信は持てませんが、それらを「お約束」にしたのも実はこの映画だったかも知れないという気もします。
ガイ・リッチー監督版の2作品(特に『シャドウゲーム』)にも、この映画からインスパイアされた部分は少なからずあるのではないかと感じますし、パスティーシュでありながら、「ホームズ物」としてエポックメイキングな作品だったと言えるのではないでしょうか。
そんなわけで、DVDがレンタルに出ているかは判りませんが、どこかで見かけたら一見の価値ある作品だと思います。