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昭和の大『勧進帳』

2005-12-02 10:07:44 | 映画・DVDレビュー
歌舞伎名作撰 勧進帳

NHKエンタープライズ

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本日は歌舞伎話。この前の大河ドラマのせいで、十数年ぶりに『勧進帳』萌え(そんな属性ってあるんでしょうか?)の波が来てしまったものですから。
確か戦前の歌舞伎の名優たちの舞台を収録したカセットテープがあったはず、とラック内を探したら、あるにはあったのですが、それはいろいろな演目の名場面だけを集めたもので、『勧進帳』はいわゆる「山伏問答」の件りしかはいっていませんでした。
思い起こすと全長版はLPで持っていましたが、現在我が家ではLPを聴ける環境にありません。
それでアマゾンで探してみると、ありました!それらのオリジナルにあたる舞台の、それも映像版が!

武蔵坊弁慶/七世松本幸四郎
富樫左衛門/十五世市村羽左衛門
源義経/六世尾上菊五郎

という、昭和の三幅対とも伝説の名舞台とも決定版とも言われる配役で、昭和18年11月に歌舞伎座で収録されたもの。
映画として公開されたのは戦後になってからで、巻頭、松竹の創始者にして会長(当時)大谷竹次郎の挨拶と、早稲田大学教授にして演劇博物館館長、河竹繁敏氏の簡単な解説がはいっています。
余談ですが、「松竹」という社名は、創始者である白井松次郎、大谷竹次郎という双子の兄弟の名前に由来するものです。

配役はその他、四天王に後の十一世市川団十郎、二世松本白鸚(八世幸四郎)という、七世幸四郎の長男二男(三男は初代尾上松緑)がはいっています。

七世幸四郎は、この役を生涯に千八百回も演じて、不世出の弁慶役者と言われた人。風格もありますし、踊りの方でも藤間流家元でもあり、後半の延年の舞など堂々たるものです。

「花の巴里の橘屋」こと十五世羽左衛門は、明治から昭和にかけての役者の中で最高の二枚目、絶世の美男と謳われた人。「花の巴里の…」とは訪欧旅行記のタイトルですが、実父がフランス人外交官だったという、現在ではほぼ定説化している「伝説」もあります。
この舞台は亡くなる2年くらい前のものなので、かなり高齢のはずですが、モノクロ映像ではその点気にならず、横顔の美しさ、立ち姿の美しさはさすがです。
この人はまた口跡(こうせき)がいいことでも有名で、それこそカセットなどでいろいろな役の台詞を聴いてみると、実はけっして美声ではないのですが、非常によく通る声で、発音も明瞭。
この舞台ではカセットにもはいっている山伏問答や「いかに、それなる強力(ごうりき)、止まれとこそ!止まれとこそォ!」の呼び止めも素晴らしいです。

六代目菊五郎は、天才と呼ばれた大正~昭和を代表する名優。今は生前の舞台を知る人も少なくなりましたが、少し前までは、この人以外は認めない!というオールドファンや劇評家(いわゆる「菊吉じじい」。吉は同時代の初代吉右衛門)が存在したものです。
踊りの名手でもあった人なので、動きの少ない義経は、しどころ少ない役だったかも知れませんが、才気を抑えたソフトな雰囲気や気品は感じられます。
最初の花道の出における「見返り」の形が素晴らしい、という評も目にしたことがありますが、素人目ではなかなかそこまでは判りません。

全体の印象としては、とにかく歌舞伎役者としての身体能力が非常に高い人たちによる『勧進帳』だと感じました。
弁慶の引っ込みの、有名な「飛び六法」も全くあぶなげなく、あの年齢であれが出来るのは、よほど脚力と腹筋が強いんだろうな、と思います。
歌舞伎=スローテンポと思われがちですが、スローになったのは、どうやら戦後のことらしく、それはとにかく演技が細かく細かく、やたらと感情を入れ込んだりするようになったのもその一因のようです。かつては、そんな感情過多な演技は「臭い芝居」「田舎芝居」と疎んじられたものだとか。
この記録映像でも、弁慶が義経を「さんざんに打擲」した時の、富樫の「判官(ほうがん)殿にもなき人を」にも、その後の弁慶の悔悟と謝罪にしても、無駄な思い入れはなく、「歌舞伎十八番」に相応しい風格を感じさせます。
「古い」ことや「歴史的記録」であることに価値があるのではなく、形の美しさと演技、そして登場人物の感情や思惑が乖離せず、余分な物のはいって来ない美しい舞台でした。
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