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映画・舞台の感想や俳優さん情報等。基本各種メディア込みのレ・ミゼラブル廃。近頃は「ただの日記」多し。

帝国劇場『ラ・マンチャの男』

2019-10-21 22:20:22 | 演劇・ミュージカル
のち
今日は日比谷の帝国劇場へ出かけ、念願の松本白鸚さん主演『ラ・マンチャの男』を観て来ました。久しぶりのひとり観劇です。

帝国劇場 ミュージカル『ラ・マンチャの男』公式サイト

日本初演50周年記念公演ということで、ロビーには1969年初演時のポスターやスチール写真、セット模型、日本及びブロードウェイでの舞台写真などが飾られていました。早くに劇場に着いたので、客席の扉が開く前に写真もいろいろ撮りました。例によって下手くそですみません。


こちらが初演時のポスター。


スチール写真のパネル。撮影は篠山紀信さんです。わたくしの撮影は光の反射など避けて変な構図になってしまいました。

実はこの『ラ・マンチャの男』、自分にとっては数多あるミュージカルの一作品ではなく、思い出も思い入れも非常に深い作品なのです。当代松本白鸚丈への思いもまた。
したがって、以下の文章は作品の感想やレビューではなく、ごく私的なわたくしの思いをつづったものでしかありません。

わたくしが初めて観た『ラ・マンチャの男』は舞台ではなく、1972年のアーサー・ヒラー監督、ピーター・オトゥール&ソフィア・ローレン主演による映画化作品でした。

多感な少女(笑)はいたく感動し、クライマックスでは滂沱の涙を流して、同行の父を呆れさせたものです。長らく、わたくしの中のドン・キホーテは、エル・グレコ描く宗教画のごとき眼差しをした、ピーター・オトゥールの「憂い顔の騎士」でした。サウンドトラック盤も自ら購入。英語歌詞を暗記するまで聴き込み、当時の貧しい英語力で「見果てぬ夢」の訳なども試みました。

市川染五郎(当時)主演舞台が大変な評判を呼んでいることも、染五郎丈がブロードウェイにまで進出し、現地でも高い評価を受けたことも知りましたが、当時は舞台ミュージカルを観に行く習慣もお金もなく、また、映画の印象に上書きすることを恐れて、足を運ぶ機会を得ませんでした。その後も情報だけは追っていましたが、サンチョ役者が小鹿番さんから変わり、アルドンザも何度も代替わりし、染五郎さんが幸四郎さんとなっても、舞台を観ることはなかったのです。

一方、歌舞伎好きでもあったため、歌舞伎役者としての高麗屋さんは染五郎時代からずっと見て来ました。それこそ幸四郎を継がれた高麗屋三代襲名披露公演も観ていますし、それ以降も歌舞伎座に国立劇場にと足繁く通ったものです。
そして、実はラ・マンチャ以外の高麗屋さん主演ミュージカルは『王様と私』も『スウィーニー・トッド』日本初演も観ていたのです。思い返せば後者は幸四郎襲名と同じ年だったのですね。当時の丈の活躍ぶりは目覚しいものでした。
まさに六世市川染五郎こそが日本を代表するミュージカルスターだった時代が確かにあったのです。
余談ながら、ミュージカルや歌舞伎以外の代表作『アマデウス』にも初演から暫く通っていました。

というわけで、高麗屋さんの舞台を観続け、近年また舞台ミュージカルを観に行くようになったにも関わらず、なぜか『ラ・マンチャ』とは縁遠いままでした。
実は結婚してから、亡夫も映画『ラ・マンチャの男』が好きで、リチャード・カイリー主演のブロードウェイ初演CDなども所持していたことが判明。何かもうそれで満ち足りてしまった感もありました。

しかし——日本初演50周年に当たる今年、この機会を逃したら自分はこの先も帝劇の『ラ・マンチャの男』を観ることは一生ないだろうとの思いから、ついに数十年来の念願を果たすこととなりました。
高麗屋さんにとって「松本白鸚一世一代」とも言うべき令和元年の『ラ・マンチャの男』。自分にとっても今やっとその時が来た、機が熟した、まさに一世一代という思いで、帝国劇場に向かいました。

作品や演技の感想をこまごま書きつらねることは、今のわたくしにとって意味のある行いではありません。
舞台は初見であるにも関わらず、「やっと観られた」「やっと会えた」と言うより「帰って来た」「やっとここに辿り着いた」という思いに満たされました。初めて観る作品という感覚は全くなかったです。
ドン・キホーテとサンチョが旅立つ「ラ・マンチャの男」のシーンから胸に熱いものが込み上げ、 キハーナの最期からアルドンザの「ドン・キホーテは生きている」ではやはり滂沱の涙を流しました。
休憩なしの上演時間2時間5分。実に贅沢で幸福な時間でした。

そして劇場に着くまで知らなかったのですが、本日なんと日本初演1300回記念公演ということで、特別カーテンコールがありました。
サンチョ役・駒田一さんのご挨拶、アルドンザ役・瀬奈じゅんさんから白鸚さんへの花束贈呈、ブロードウェイ初演アントニアで、白鸚さんのBW公演で演出補だった故ミック・タークの夫人ミミ・タークさんへの客席でのインタビュー、もちろん白鸚さんご自身のご挨拶、そして再び全員による『見果てぬ夢』合唱——と、感動的なカーテンコールでした。





更に嬉しいサプライズもありました。
一人引っ込みかけた白鸚さんがステージ上の塩田マエストロ(オーケストラはピットではなく舞台上手奥)にちょっと合図を送るので、何かな?と思ったところ、ミミさんご来場も記念して、なんと「見果てぬ夢」(The Impossible Dream)を英語でも独唱してくださったのです!
思いがけないことに、そして素晴らしい歌唱に、感動で胸が震えました。
その後のマエストロとオーケストラによる「送り出し」まで、繰り返しになりますが、まことに贅沢な時間を過ごすことができました。万雷の拍手の一員となれたことを誇りに思います。これ以上のものはもう必要ないと言っても過言ではありません。
そして、歌舞伎であれそれ以外であれ、このさき自分が松本白鸚丈の舞台を観ることは二度とないかもしれないという予感も——
『ラ・マンチャの男』を愛してきた者として、また高麗屋さんの数々の舞台を拝見してきた一観客としての我が人生は、これにてコンプリートしました。

最後に更なる余談と思い出話を一つ——
初めの方に書いた映画『ラ・マンチャの男』のサウンドトラック盤。当時はLPレコードでしたが、お小遣いを貯めて今はなき渋谷・東急プラザの【コタニ】に買いに行きました。
その時レジにいた男性店員さんが「舞台はご覧になりましたか?」と訊ねてきたのです。実はまだ…と答えたところ「舞台はまた独自の演出があって面白いので、機会があったら是非観てみてください」と奨めてくれました。まだ子供だったわたしに。
それから数十年——あの頃は「お兄さん」だった店員さん、今は「おじいさん」になっているかと思いますが、お元気でしょうか?
わたしはあの時からの宿願を果たすことができました。そして、舞台映画問わずミュージカルは今でも大好きです。

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