連続テレビ小説『てっぱん』の導入の唐突感は拭えない。とりわけ主人公「あかり」の「出生の秘密」が他律的に明らかになるあたり。養子縁組をした場合,養親はどこかの時点で養子(および事情を知らない家族の構成員)に対して,養子縁組の事実を告知する義務があると思う。思春期後期(17歳)まで告知しなかった養親はどうなんだろう? 何らかの事情で知ってしまった養子側の動揺は計り知れないだろう。だからこそドラマが構成しうるし,血のつながった祖母を追って「あかり」が大阪に出てくる展開も納得できるのだが。
いや,それ以上に謎なのが,尾道・向島の人たちの「お人好しぶり」である。近所の人,知人などに「養子縁組」の事実は意外と広まってしまう。妊娠していなかった女性がある日突然に「母」になるわけだから(『てっぱん』の場合,一歳上の次男が“目くらまし”になった可能性はあるが)。もちろん,半信半疑,噂話レベルの認知にとどまる人が大多数だとしても,「あの子は養子らしいよ」 という話題は意外と伝播する。そして,その噂話が子ども同士の関係の中にも降りてくる。「やーい! もらいっ子」と囃し立てながらいじめるパターンも多い。
このため,親が黙秘・否定したとしても,多くの養子は幼少期において自らの立場を悟るのがほとんどだと思う。まさに「世間に戸は立てられない」のだ。「あかり」の場合,世間に戸を立てられたわけだから,きわめてレアなケースといえるのだろうが,ハッピーなのかどうかはよくわからない。