同じ人間なのに…
ただ色素がないだけなのに…
アルビノが襲撃され、体を高値取引される実態をザンビアに探る<JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス>
7/14(火) 20:30
ザテレビジョン
アルビノが襲撃され、体を高値取引される実態をザンビアに探る<JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス>
ザ・フォーカス「同じ人間なのに ~ザンビア・襲撃されるアルビノ」(7月19日深夜放送/TBS)より
TBSでは毎月第1、第3日曜の深夜に放送されている「JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス」。7月19日(日)夜1:45からは、アフリカ・ザンビアの驚きの事実を取材した「同じ人間なのに ~ザンビア・襲撃されるアルビノ」を放送する。
【写真を見る】襲撃され腕を切断された被害者女性
「ザ・フォーカス」は、通常のニュース番組では伝えきれない事象を丹念に追う取材報道ドキュメンタリー。日本、そして世界各地から知られざる出来事を伝える。
「同じ人間なのに ~ザンビア・襲撃されるアルビノ」は、生まれつきメラニン色素が欠乏しているアルビノの人たちが、差別や命に関わる迷信と戦う様子をアフリカ・ザンビアで追う。
ザンビアでは、アルビノの人が、その肌の色のために殺されることがある。アルビノの体には強運をもたらす力があると信じ、アルビノの体から作る品物は権力や金運を呼び寄せると考える人がおり、遺体やその一部が高値でヤミ取引されているからだ。1体につき、日本円で800万円の値がつくという調査もある。
襲撃はどのように行われるのか、差別に直面する上、襲撃の危険に常にさらされながら、アルビノの人たちはどんな思いで生きているのか、現地を訪れ実態を探る。
東京パラリンピックを目指すアルビノのアスリートや、啓発活動を行うアルビノのミュージシャン、腕を切り落とされた被害者、そして伝統医療を行う呪術医にも取材し、それぞれの言葉を伝える。
今回取材に当たったのはTBSテレビ・ロンドン支局の秋場聖治(あきば・きよはる、あきは正しくは「火」に「禾」のあき)ディレクター。秋場氏に取材の意図や、番組の詳細を聞いた。
ーー本件取材のきっかけをお聞かせください
アルビノの人が襲撃されるという事実は、ずっと気になっていたテーマでした。学生時代によく聴いたマリのミュージシャン、サリフ・ケイタがアルビノで、差別について訴える曲を作っていたことも関心を持った一因です。
一方で東京パラリンピックはアフリカ取材をする良い機会だととらえており、取材対象を探していました。その中でモニカ・ムンガ選手の存在を知り、コンタクトをとりました。
取材時期は2月上旬、ロンドンからの移動も入れると10日ほどの取材でした。アルビノ襲撃が起きるのはザンビアとマラウイとの国境地帯で、そこまで行くのに時間を要しました。
アフリカ取材は驚きが多いのですが、今回は、それとはまた違った予想外のことが2つありました。一つは、ザンビアに行ってみたらモニカ選手が妊娠していたこと。もう一つは彼女自身、襲撃された経験があったことです。ともに事前には知りませんでした。
ーーモニカ・ムンガ選手について教えてください。
東京パラリンピックでは、陸上400メートル走に出場する20歳の選手です。視覚障害がありますが、彼女はとても前向きで「さらに上を目指して、私を笑っている人たちに恥をかかせたい」「アルビノだって同じ人間。肌の色が違うだけ。だから何だってできるのだ」という姿勢です。
この姿勢には母親で教師のミリアムさんの影響が強いと感じました。ミリアムさんは「アルビノの子どもは家に隠しておこうとする親たちもいるけれど、そうではなくて、さまざまなことを経験させるべき」ときっぱり言いました。それでも襲撃には大変気を付けているのはもちろんのことです。
モニカさんは東京パラリンピックで活躍して、アルビノの人たちを勇気づけたいと話していました。彼女が練習するスタジアムは400メートルトラックのうち、1つの直線部分を除いて草が生えていて、取材時は雨季ということもあって水浸し。練習環境はお世辞にも良いとは言えませんでした。その状況でも、生まれてくる子のためにも、東京で走って結果を残すと誓っています。
ーー続いて、アルビノのミュージシャンについて教えてください。
名前はジョン・チティ。ラブソングを歌い、ヒットさせています。一方でアルビノ性を前面に出す歌もあります。各地でドキュメンタリーを上映した上で人々と討論するなどのティーチ・インを行って、「アルビノだって普通の人間なのだ」という意識を広める啓発活動を進めています。どこかで事件が起きれば現地に足を運んで調査もします。
彼は「アルビノの遺体一体には最高800万円の値段がつく」「背後にいるのは金持ちだ。実際に襲撃する人も金で雇われているだけ」と主張します。彼自身、父親に見捨てられるという苦い過去を経験しています。後に、和解したそうですが。
ーー襲撃された被害者にも取材されています。
ミリアムさん、21歳。彼女は、2018年に、夜間に来訪した男たちに引きずり出され、腕を切断されました。腕は隣国のマラウイに運ばれ解体されて呪術医=ウイッチドクターに持ち込まれたそうです。後にウィッチドクターを含めて5人が逮捕されました。右腕を失って、家事も農作業も、育児も全てが難しくなってしまいました。その上、また襲われる恐怖とともに生きています。
ーー呪術医=ウイッチドクターとはどんな人物なのでしょうか?
スーツ姿で現れたドクターは、その地域の伝統療法士協会の地区長でした。彼の診療所には頻繁に住民が訪れていました。植物から作られる薬を処方するのですが、服用するのではなく、腕や脚、頭の肌をカミソリで傷つけてそこに薬を刷り込む、というやり方でした。
選挙で当選したい候補者らからも依頼が来る、とのことで、最近も地方議会で一人当選させたと誇らしげに語ります。彼はアルビノ襲撃には否定的。では、それを止めるためにどんなことができますか、と問うと、「身を守る薬を処方する」と言って、目の前で薬を調合しはじめました。エイズについても、「まだ薬草が発見されていないだけで、発見できれば対応が可能になる」と主張していました。
ーーこの番組を通じて、日本の視聴者に伝えたいことを聞かせてください。
極端な話に見えるかもしれませんが、見かけが違う人を差別したり、特別視したりするのはどこの社会でも起きることです。「後進国だ」などと思わず、人間には常に「他者」を「人間扱いしない」危険があることに思いを至らせてもらえればうれしいです。
映像の中で、呪術医が出てきて、植物から薬を調合したり、「特定の人を選挙に当選させられる」と述べたりします。聞くとぎょっとするかもしれませんが、日本にも「漢方薬」はありますし、そもそも近代の薬ができる前は薬草を使っていたはずです。また日本人も交通安全のお守りを買ったり、商売繁盛の熊手を買ったり、絵馬を書いたりします。「千人針」もありました。縁切り神社や子宝観音などもあります。それらとそう変わらないのではと考えます。
人を殺して、その体の一部を使うのはもってのほかですが、呪術医についても、偏見を持たずに、彼の言葉を聞いてもらえればと思います。