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動きが遅くなる、手足が震える、といった症状が出現するパーキンソン病は、60歳以上の100人に1人がかかると言われている神経難病だ。かつては寝たきりになるとも言われた病気だが、治療が進化した今では、早く発見すれば進行を抑えることが可能になっている。パーキンソン病診療の第一人者、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科教授の服部信孝氏に、パーキンソン病の特徴と治療の現状について聞いた。
パーキンソン病は、60歳以上の100人に1人がかかると言われている。(写真=123RF)
動作が遅い、手足が震える…こんな症状はパーキンソン病の可能性も
パーキンソン病はどんな病気なのでしょうか。
服部 パーキンソン病は高齢化に伴って増えている神経難病で、60歳以上の100人に1人がかかると言われています(*1)。気づくきっかけとなるのが4つの運動症状です(図1)。まず、動作が鈍くなる「寡動(かどう)・無動」。これが診断に必須の症状です。これに付随して、手足が震える「振戦(しんせん)」、筋肉が硬くなる「筋強剛・筋固縮」、体のバランスが崩れて転倒しやすくなる「姿勢反射障害」なども現れます。
図1 パーキンソン病の主な症状
最も典型的なのは、じっとしていると手足が震えるのに動かそうとすると止まる、「振戦」という症状です。ただし、パーキンソン病で振戦が見られない方も3割ほどいます。「筋強剛・筋固縮」は筋肉が硬くなる症状で、患者さんは「手足が突っ張る」「こわばる」とおっしゃいます。4つのうち、「姿勢反射障害」だけは進行してから出てきます。姿勢の保持が難しくなり、バランスを崩して転びやすくなるのですが、一般的に発症から3年以内に出ることはまずありません。
これらの症状よりも早い段階から、便秘や嗅覚低下、うつなど、運動症状以外の兆候が出ることもあります。そのため、パーキンソン病は脳神経の病気でありながら、全身病だと言われるようになってきました。
これらの症状を引き起こす原因は何なのでしょうか。
服部 中脳の神経細胞が減少し、「ドパミン」という物質が欠乏して起こると言われています(図2)。ドパミンは脳が全身に運動の指令を出すときに必要な神経伝達物質なので、ドパミンが不足すると運動指令がうまく出せなくなり、動きに関連する症状が出るのです。加齢や遺伝、環境などが背景にあるとされますが、そもそもの原因は明らかになっていません。
図2 パーキンソン病が起こる仕組み
(イラスト原図=123RF)
また、パーキンソン病の患者さんの脳には、α-シヌクレインというたんぱく質が蓄積した「レビー小体」という塊ができることも分かっています。年をとると皮膚にシミができるのと同様に、脳内にシミができるようなもので、これによって神経細胞が傷つくことも関与するとされています。
パーキンソン病の症状は高齢者によくあるものばかりですが、この病気を疑うポイントはありますか。
服部 パーキンソン病を疑う症状を挙げるなら、一番は動作が緩慢になる、寡動・無動です。また、睡眠障害もよく見られます。夢を見て大声を出す、暴力をふるうなどの傾向があれば、かなりの確率でパーキンソン病、あるいはパーキンソン病関連疾患(*2)になります。
よく似ているのが、「レビー小体型認知症」というタイプの認知症で、こちらも睡眠障害や運動障害などが見られます。実はレビー小体型認知症とパーキンソン病は同じグループの病気で(レビー小体病)、いずれも脳にα-シヌクレインが凝集することが確認されています。認知症が先に出ればレビー小体型認知症となりますが、パーキンソン病でも高頻度に認知症を合併するため、この2つの扱いは難しいところがあります。
治療の基本は「ドパミン」を補う薬物療法
パーキンソン病が疑われたら、どのような検査を行うのですか。
服部 まず症状ですが、4大症状のうち、「寡動・無動があり、それに加えて、静止時振戦と筋強剛・筋固縮のどちらかがあること」が診断基準の1つです。問診でこれらの症状の有無を調べた上で、必要に応じてDatスキャンやMIBG心筋シンチグラフィ、MRI、CTなどの画像検査を行います(*3)。画像検査は、ほかの病気ではないことを確かめる目的で行うことが多く、例えば、パーキンソン症候群や多系統萎縮症という病気はMRIで異常が見られやすいのに対し、パーキンソン病では異常が見られません。
画像検査で診断がつかなければ、L-ドパ(レボドパ)という薬を使ってみることも有用です。MRIの画像が正常で、L-ドパが効けば、パーキンソン病だと診断されます。
L-ドパとはどんな薬ですか。
服部 L-ドパは、ドパミンの前駆物質と呼ばれるものです。ドパミンはそのまま投与しても脳の中に入らないのですが、ドパミンの前駆物質であるL-ドパを投与すると、脳内でドパミンに変換され、不足するドパミンを補うことができます。これによって、病気の進行を抑える効果があります。大まかに言うと、中等度以上で高齢の人にはL-ドパ、軽度で若めの人には脳の中でドパミンに似た作用を起こすドパミンアゴニストという薬が向きます(表1)。
表1 パーキンソン病に対する治療(1)
薬物療法(ドパミン補充療法)L-ドパ(レボドパ)
- L-ドパという、体内でドパミンに変化する「ドパミン前駆物質」を飲むことでドパミンを補う
- 中等度以上の高齢者に用いることが多い
- 長期使用により、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ現象、ジスキネジア、ジストニアが起こることがある
ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体作動薬)
- 脳の中でドパミンに似た作用を起こす
- 軽度で、比較的若い人に用いることが多い
- 眠気やむくみなどのほか、衝動的な行動を起こす副作用が出ることがある(ギャンブルや性的な依存症など)
※ MAO-B阻害薬(ドパミンを長持ちさせる)、COMT阻害薬(L-ドパの分解を抑える)、抗コリン作動薬(震えなどを改善する)、アマンタジン(ドパミンの放出を助ける)などの非ドパミン系の薬を補うこともある
*2 パーキンソン病関連疾患には、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症などがある。いずれもパーキンソン病と同じような症状が現れる。
*3 Datスキャンは、ドパミンの回収・再利用を促すたんぱく質(Dat)の形状から、ドパミン神経細胞の脱落の有無を調べる。MIBG心筋シンチグラフィは、心筋の交感神経が変性していないかを見る画像検査。
L-ドパを長く使うと副作用が出て困ることはありませんか。
服部 L-ドパは長期に使用し続けると薬の持続時間がだんだん短くなっていくため、効果が切れたときに症状が出る、「ウェアリング・オフ現象」が見られることがあります。薬の成分の血中濃度が高いときは症状が良い「オン」の状態なのに、血中濃度が下がると「オフ」になって症状が出る現象です。また、血中濃度と関係なくオン・オフが切り替わる「オン・オフ現象」や、薬が効きすぎて「ジスキネジア」「ジストニア」が現れることもあります。
ジスキネジアは本人の意思と関係なく手足が動く不随意運動、ジストニアは筋肉が突っ張って痛む症状です。この2つは複雑で、薬が効いたときに出るジスキネジアや、薬の血中濃度が上がるときに出るジスキネジア・ジストニア、血中濃度が下がるときに出るジストニアもあります。これらの現象が出たら、L-ドパを1日3回飲む人は回数を増やしたり、他の薬を補ったりします。
軽度で若めの人に使うという、ドパミンアゴニストはどんな薬なのですか。
服部 ドパミンアゴニストは脳内でドパミンに似た働きをする薬です。65歳以下の人がL-ドパを使うとジスキネジアが出やすいので、年齢や仕事の状況なども鑑みてドパミンアゴニストの使用を検討します。
ただし、この薬にも副作用の可能性はあります。眠気やむくみのほか、衝動が抑えられずギャンブルや浮気に走ったり、周りの人が敵に見えて暴力的になったりする人も1割ほど見られます。薬を使う前は必ず副作用について説明しますが、これらの症状が出たら早く医師に相談することが大切です。
「5-2-1基準」に該当すれば、次のステージの治療を検討する
重度の場合、薬以外にも治療法はあるのでしょうか。
服部 重症であるかどうかの判定には、「1日のL-ドパ服用が5回以上、オフが2時間以上、トラブルになり得るジスキネジアが1時間以上あること」が目安になります。この「5-2-1基準」に該当すれば、L-ドパ維持経腸療法や脳深部刺激療法といった治療法を検討します(表2)。これらの治療によりオフ時間が短くなり、脳深部刺激療法では薬の量を約半分に減らせる効果もあります。
表2 パーキンソン病に対する治療(2)
5-2-1基準(※)に該当する場合に検討される治療L-ドパ維持経腸療法
腹部に開けた穴から、小腸にL-ドパを含む薬剤(デュオドーパ配合経腸用液)を入れる。ポンプで一定量を送り続けることで血中濃度を安定させる
脳深部刺激療法
脳に電極を植え込み、胸に入れた刺激電源から脳に電流を送る。ウェアリング・オフ現象やジスキネジアなどを抑え、薬の量を約2分の1に減らせるメリットがある
※ 5-2-1基準…1日のL-ドパ服用が5回以上、オフが2時間以上、トラブルになり得るジスキネジアが1時間以上認められること
L-ドパ維持経腸療法は、腸から持続的に薬を入れる治療です。胃ろうを作ってそこから小腸にチューブを入れ、ポンプにより一定の速度でL-ドパを送り込みます。L-ドパを飲み薬として服用すると、血中濃度が一気に上がってまた下がりますが、持続的に腸に入れるこの治療法なら、血中濃度の波が上下しにくくなります。まずは鼻から管を入れて試し、反応を見てから胃ろうを造設します。
脳深部刺激療法は、脳に電極を植え込み、胸に入れた刺激電源から脳へ電流を流す方法です。高齢者に多い高次脳機能障害(*4)があると行えないので、70歳以上ならL-ドパ維持経腸療法、70歳未満なら脳深部刺激療法とするのが一般的です。
ちなみに、L-ドパ維持経腸療法は消化器外科医や消化器内科医、脳深部刺激療法は脳神経外科医がいる医療機関でなければ行えないので、ある程度大きな医療機関にかかる必要があります。
リハビリに努め、前向きな気持ちで過ごすのが一番
運動や食事など、日常生活で気をつけることはありますか。
服部 パーキンソン病にはリハビリテーションが有効で、1日20分の歩行で進行を抑える可能性があると言われています。軽度のうちから自宅でも運動することをお勧めします。パーキンソン病の患者さんは小刻みにつま先から歩くことが多いので、かかとから着地する歩き方を意識することも効果的です。
食事はバランス良く、何でも食べるといいでしょう。L-ドパを含むことで知られるムクナ豆(八升豆)などの豆類を積極的に食べる人もいますが、薬以外のL-ドパは含有量が不明なのでお勧めしません。
ちなみに、正確なデータはありませんが、パーキンソン病の患者さんは離婚率が高い傾向があります。治療薬の影響で、人が変わったように衝動的な行動をとることがあり、副作用であることが分からずに離婚となってしまうケースも少なくないようです。同居する人がいらしたほうがパーキンソン病の予後は良いので、どうか患者さんご本人とご家族が協力して、病気に対する理解を深めていただきたいと思います。
最後に、患者さんに一言アドバイスをお願いします。
服部 当大学では、α-シヌクレインの蓄積を抑える薬や、血液で診断するバイオマーカーなど、実用化に向けてさまざまな研究を進めています。パーキンソン病の検査・治療は大きく進歩し、今や天寿を全うできる病気となっているので、決して悲観することはありません。
パーキンソン病は、喫煙や飲酒をしない人、仕事が趣味というくらい真面目な人、尿酸値が低い人などに多いと言われてきました。あくまでも傾向なので、もちろんわざわざ喫煙したりする必要はありませんが、できるだけ楽観的に過ごされたほうがいいと思います。登山やスポーツなどの趣味もあきらめることなく、前向きに生活しましょう。
(図版制作:増田真一)
服部信孝(はっとり のぶたか)さん
順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科 教授
985年順天堂大学大学院医学研究科卒業。医学博士。2006年より現職。2019年より同大学大学院医学研究科長・医学部長を併任。パーキンソン病研究の第一人者として知られ、日本パーキンソン病・運動障害疾患学会理事、日本神経学会理事、「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会委員長などを務める。著書に『ウルトラ図解 パーキンソン病』(法研)、『最新版 順天堂大学が教えるパーキンソン病の自宅療法』(主婦の友社)など。
編集協力:ソーシャライズ
病気の解説やその分野のトップレベルのドクターを紹介するWebサイト「ドクターズガイド」を運営。
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