日経グッディ様のホームページより下記の記事をお借りして紹介します。(コピー)です。 記事はテキストに変換していますから画像は出ません
インフルエンザの流行期になると急性心筋梗塞(以下、心筋梗塞)の発症率が上がること、そして、高齢者がインフルエンザの予防接種を受けていると急性心筋梗塞のリスクが下がる可能性があることが、スペインで行われた研究で明らかになりました。
冬に増える心筋梗塞。高齢者がインフルエンザの予防接種を受けていると、そのリスクが低くなる可能性が。(写真=123RF)
冬に増える心筋梗塞。高齢者がインフルエンザの予防接種を受けていると、そのリスクが低くなる可能性が。(写真=123RF)
インフルエンザによって血管のプラークが破れやすくなる?
以前から、インフルエンザにかかると心筋梗塞を発症するリスクが高まるという報告はありました。ただ、これまでの研究は、種類の異なる心筋梗塞をひとまとめにして分析していました。
心筋梗塞には、主にタイプ1とタイプ2があります。タイプ1は、いわゆる「アテローム性動脈硬化」(*1)と呼ばれる状態から起きてくるもので、血管の中のプラーク(粥腫;じゅくしゅ)が破綻して血管の中に血栓が形成され、心臓に酸素や栄養を送る血管である冠動脈が閉塞します。一方、タイプ2は、心臓の筋肉への酸素の供給が減る、あるいは酸素の需要が増えることによって生じたミスマッチにより、血液不足(虚血)が生じるものです。
インフルエンザとの関係においては、インフルエンザウイルスの感染によりプラークが破れやすくなって、タイプ1の心筋梗塞が生じるのではないか、と考えられていますが、一方で、あらゆる呼吸器感染症が、頻脈、低酸素症、全身性の炎症反応を引き起こす可能性があり、それがプラーク破綻なしに心筋壊死を引き起こす、という仮説も提示されていました。
また、冬にインフルエンザが流行する地域では、インフルエンザのみならず、低温自体も心筋梗塞の発症率を上昇させる可能性があります。
そこでスペインの研究者たちは、冬期におけるインフルエンザと、タイプ1であることが画像診断により確認された心筋梗塞(以下、心筋梗塞はタイプ1を意味する)の関係を、最低気温を考慮して分析することにしました。さらに、地域社会レベルで、インフルエンザワクチンの接種が心筋梗塞リスクに及ぼす影響も検討しました。
*1 心臓に血液を送る冠動脈の内膜に、コレステロールなどからなる粥状の物質が蓄積されてアテローム(粥状硬化巣)を形成し、厚みを増してプラーク(粥腫)となったもの。これが破綻すると、血管内腔に血栓が形成されて冠動脈が閉塞する。
インフル流行期は心筋梗塞リスクが23%上昇
著者らは、スペインのマドリードで、2013年6月から2018年6月までの5回のインフルエンザ流行期(9月の終わりとなる第40週から翌年5月半ばとなる20週まで)の心筋梗塞の発症率と、インフルエンザ発症率の一過性の関係を、気温を考慮した上で検討しました。今回は、検査によって確認されたインフルエンザ症例に限定せず、臨床的にインフルエンザと診断できる症状を示していた、インフルエンザ様疾患の患者を対象とし、流行期の1週間あたりの発症率に関するデータを収集しました。心筋梗塞発症者のデータは、患者登録から入手しました。また、週ごとの最低気温の平均値を分析に用いました。
2013年から2018年までに、心筋梗塞発症者は8240人報告されていました。うち5553人(67.6%)はインフルエンザ流行期に心筋梗塞を発症しており、それらの76.2%は男性で、45.7%は65歳以上でした。
インフルエンザ流行期の、各週の10万人あたりの心筋梗塞発症率は、男性が1.02、女性は0.29で、15~59歳が0.36、60~64歳は1.24、65歳以上は1.47でした。全体では0.73で、インフルエンザ流行期外の0.57に比べ有意に高くなっていました。年度と月、最低気温を考慮して推定すると、インフルエンザ流行期の心筋梗塞発症リスクは流行期外の1.23倍でした。
流行期外と比較した流行期の心筋梗塞リスク上昇は、女性では有意(リスク比1.35倍)でしたが、男性では上昇傾向(1.19倍)を示すにとどまりました。また、年齢で層別化すると、15~64歳では流行期外の1.22倍、65歳以上では1.25倍になりました。
次に、気温の低下と心筋梗塞の関係を検討しました。インフルエンザ発症の影響を考慮して分析したところ、その週の最低気温が1度低下すると、心筋梗塞発症者が2.5%増加することが示されました。
ワクチン接種済みの高齢者は心筋梗塞リスクが低下
続いて、インフルエンザ予防接種の心筋梗塞リスクへの影響について分析しました。インフルエンザ流行期に心筋梗塞を発症した5553人のうち、発症より15日以上前に予防接種を受けていた、すなわち、接種の効果が現れていたと見なされたのは1299人(23.4%)でした。93人(1.7%)は、接種のタイミングが心筋梗塞発症前の14日以内だったため、分析から除外しました。ワクチン非接種者は4161人(74.9%)でした。
対象となった集団の、流行期ごとのワクチン接種率は、65歳以上が56~60%で、60~64歳は25~30%、15~59歳は4~6%でした(*2)。
インフルエンザワクチンの接種を受けた60~64歳の人々と65歳以上の高齢者の流行期の心筋梗塞リスクは、非接種群の0.58倍、0.53倍で、有意に低くなっていました(表1参照)。流行期外でも、これらの人々のリスク低下は有意でした。
表1 ワクチン接種の有無と急性心筋梗塞の発症率
表1 ワクチン接種の有無と急性心筋梗塞の発症率
(J Am Heart Assoc. 2021 Apr 20;10(8):e019608.)
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流行期外でもワクチン接種群に心筋梗塞が少ない理由として、著者らは、「ワクチンが全身の炎症状態に好ましい影響を及ぼして、心筋梗塞につながるアテローム血栓性のイベントを予防するのではないか」という考えを示しています。また、「ワクチンを接種する人は、医療従事者の勧めに従う傾向が高く、心筋梗塞リスクを低減するための指示にも従う可能性がある」という仮説も示しています。例えば処方薬を適切に服用し、禁煙や、食習慣の改善、運動の実施といったライフスタイルの改善を心がけていたなら、季節にかかわらず心筋梗塞リスクの低下が見られても不思議ではありません。
一方で、15~59歳の集団では、非接種者に比べ接種者の方が、流行期の心筋梗塞リスクは有意に高くなっていました。その理由を著者らは、「この年代でワクチンを接種していたのは、もともと心臓病と診断されている患者や、心血管疾患リスクが高いことを指摘されていた人が多かったのではないか」と考えています。
また、表1を見ると、接種群の60歳以上の人々の心筋梗塞発症率は、インフルエンザ流行期間とそれ以外の間でほぼ同様ですが、非接種群では、インフルエンザ流行期のほうが発症率は高くなっています。非接種群における、流行期外と流行期の心筋梗塞発症率の差は、ワクチンを接種していなかったために生じたインフルエンザの重症化に起因する可能性が考えられました。
今回の研究結果は、インフルエンザと低温はいずれも心筋梗塞の危険因子であること、インフルエンザの予防接種は、高齢者の心筋梗塞リスクの低下と関係することを示しました。また、ワクチンに心筋梗塞を予防する効果があることが示唆され、心筋梗塞リスクの高い人々に接種を促す必要があることが明らかになりました。
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにしじゅんこ)筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。
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