前回のブログで宮本常一の「忘れられた日本人」にある、ものごとを決める日本人の知恵について紹介しました。今回は糸川秀夫のベストセラーになった「逆転の発想」にあったアメリカのものごとの決め方(マネージメント)を紹介します。
宮本と同じような観察力、洞察力を糸川に感じました。
糸川は日本の人工衛星の追跡をアメリカ政府に依頼するためにNASAのトラッキング担当者と対策を話し合った。ものすごく頭が切れ、優れたセンスの持ち主の部長は弱冠28歳、3時間の会議で178分黙って聞いていた。なぜ黙っていたか、ちょっと長くなりますが引用します。
「部長が一言発言すれば4、50歳のスタッフは意見を述べなくなってしまう、そうすれば部長より年上のスタッフが持っている過去の経験が生かされないかもしれない。とにかく、彼は178分黙っていたのである。この間に、4、50歳のスタッフが、イタリアとかフランスからも同様の申請があった、あの時にはこういう書類を作った、こうしたケースでは政府から却下されたなどと議論を展開し、だから日本の場合はこうした方法と手順で進めるのか一番適当と思われるなどと、数十名の部員全員、それぞれの意見を発言した。すると、最後にあと2分ぐらいという時になって、部長が「それでは会議をまとめます」と言って、今、発言した人の意見を全部取り上げて、だれだれの発言の中で、これとこれは非常にいい、だれとだれの発言は全くその通りであるといったふうに、ほとんど全員の発言をつなぎ合わせて、実に見事なレポートをまとめ上げてしまったのである。
私は本当は、この部長は最初から自分が出すべきだと考える書類の案を頭の中でまとめていたのだと思う。それに合うようなスタッフの意見を、発言の中から拾い上げただけだと思う。ただ、だれの発言に対してもだめだということは一言も言わない。すべて、この点はいいところだから採用したいというように話す。だから、このレポートに沿った申請書類を国会に提出するに当たって、それこそスタッフ全員が一致団結して協力してくれた。
つまり、部員たちにしてみれば、自分たちがこの申請書類を作成したのだという自負があったわけである。その後、日本はどうやらこうやら5個の人工衛星を打ち上げたが、彼らは実に見事な追跡をやってくれた。」
(略)
つまり、自分がリーダーシップを発揮して一番最初に、自分はこう思うと発言したり、俺の案はこうだから、全員で検討しろという方式でやったら、問題はこうもうまく進展しなかったと思う。自分が発言するよりも、178分の沈黙を守る方がはるかにたいへんだったはずだ。
糸川秀夫「逆転の発想」角川文庫
大勢のスタッフがかかりあって大きな仕事を成し遂げるには、一人一人の意見が尊重され、存在を認められ評価される仕組みが不可欠であることを糸川は見抜いたのです。著書ではその後、アイデア型経営の危険性を戒めています。
図らずも宮本が体験した誰もが納得し協力する農村共同体のものごとを決めるやり方と同じでした。
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