第3話 あおいのかおり #1
<華緒洲家 2階>
葵:あっ!お姉ちゃん、おはよう。
茜:どうしたん? 葵。
葵:この前買ったアロマオイル、
お母さんに芳香剤にされちゃった
でしょ。
お母さんって時々何にも考えない
で行動したりするじゃない?
そう言うところお姉ちゃんとそっくりで、
やっぱり親子って感じよね。
つまりお姉ちゃんがポンコツなのは、
お母さん譲りってことでしょ?
茜:もし、そうやったら葵も先天的に、
お姉ちゃんとおんなじポテンシャル
秘めてるけどな。
うちら、一卵性やからなっ。
葵:双子だからってお姉ちゃんと
一緒にしないでよ。
それで話を戻すけど、そのこと、
お母さんに文句言ったら、
「これで新しいの買ってきなさい」
って、お小遣いっくれたの。
だから今度買いに行こうと思うんだけど、
どんな香りがいいのかなって。
この前のはラベンダーだったんだけど、
また同じの買うのも面白くないでしょ。
茜:お姉ちゃんもあんまり
詳しくないからなぁ。
シナモンとかレモンとか、
バニラはよく使うけどな。
確かにお店に行くと、
ああいうのって、
小さいビンがいっぱい並べてあって、
どれにしたらいいか迷うな。
葵:そうでしょ!
だから私も迷っちゃって。
この前はアロマの資格を持っている
店員さんがいて、
「無難なラベンダーがいいと思いますよ」
って勧めてくれたけど。
茜:だったら金木犀とかはどうや?
結構メジャーな感じやないか?
葵:もう、お姉ちゃん!
トイレの芳香剤から離れてよ!
金木犀の香りも別に
嫌いじゃないけど、
なんか、やっぱり、
芳香剤のイメージが強くて・・・。
でも何にしようかな。
種類が多くて迷っちゃうな!
灯:おはよう。お姉ちゃんたち。
葵:おはよう、灯。
茜:灯ちゃんか。おはよう。
灯:アオネエ、そういうのは
「ジャムの法則」って言って、
心理学で有名な研究が
あるんだけど。
特にマーケティングなどの分野で
活用されてる法則だよ。
茜:そんなんあるんか?
灯:簡単に言うと、選択肢が多すぎると、
どれを選んでいいかわからなくなって
しまう心理現象のことで
「決定回避の法則」とも呼ばれているよ。
葵:確かに心理学の講義の時、
そんな話聞いたかも。
でもジャムと何の関係があるのよ?
灯:もともとこの法則はコロンビア大の
「シーナ・アイエンガー教授」が
スーパーマーケットで「ジャム」を
使った実験から発見した法則のことで、
名前も実験に「ジャム」を使ったから
そこから取ったみたいだよ。
茜:けっこう安易な名前つけてるな。
灯:実験の内容は、スーパーマーケットに
買い物に来たお客さんに、
ジャムの試食販売をするもので、
被験者を6種類のジャムの試食と、
24種類のジャムの試食の
2グループに分け、それぞれどれだけ
売れたかを観察したの。
結果は、試食をした人の割合は、
24種類のほうが多かっだんだけど、
試食をした人の中で
実際にジャムを買った割合は、
6種類のほうが多かったんだって。
つまり、種類の少ないほうが
良く売れたってこと。
まあ細かいことを言うと、
種類を少なくすれば良く売れるって、
単純な話じゃないんだけどね。
あっ、ごめん。学校に遅れちゃう。
それじゃ。
葵:灯ったら、また難しいこと言って。
ますます決められなくなるじゃない。
茜:まさに灯ちゃんやな!
まあ、みんな買う気はないけど、
珍しいジャムがあるから、
試食だけしたっておちやないか?
ところで24種類のジャムって、
どんなんがあったんやろ。
やっぱり気になるなぁ。
日本だと種類少ないしな。
パンケーキとかに24種類のっけたら
絶対においしいねん。
葵:お姉ちゃん。
そんなに食べられないし、
味が混ざって喧嘩しちゃうよ。
あぁ、でもお姉ちゃんの作った
パンケーキ食べたいな。
ホイップクリームものっけて。
ジャムは、そう、
定番のブルーベリーがいいかな。
でも他のも試してみたいな。
イチジクとかプラムはどうかな?
茜:「プラム」はお母さんやで。
あだ名やからな。
母親食べてどうすんねん。
それより、カボチャのジャムも
あるらしいから
そっちも食べてみたいな。
葵:ああ、本当だ。
お母さん食べちゃうことになるね。
でも「プラム」って結構かわいい
ニックネームよね。
茜:「プラム」になるまでにいろいろ
あったらしいけどな。
葵:そうなんだぁ。
でも何のジャムがいいかな。
種類が多くて迷っちゃう。
お姉ちゃん、今日、
帰ったら作ってよ。
茜:時間あったらな。
そんなことより葵、
うちらも早く支度しないと遅れるで。
* * * 続く * * *
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