ー懐中無一物でみじめな思いを持てあましながら夜更けのロンドンを彷徨っている折しも、
窓からこぼれる音楽に足をとめたことが何度かある。
疲労と空腹とやりばのない焦燥に打ちひしがれてチェルシーへ帰る途中だった。
~そこへピアノが聞こえてきた。一時間あまり道端に佇んで聞き惚れた~
みすぼらしい下宿へ戻ったときは、羨望も狂おしいほどの欲求もない晴れ晴れとした気分だった。
横になって寝入りしな、あのピアノで心に安らぎを与えてくれた見も知らぬ奏者に感謝した。
引用: ギッシング「ヘンリー・ライクロフトの手記」
窓からこぼれる音楽に足をとめたことが何度かある。
疲労と空腹とやりばのない焦燥に打ちひしがれてチェルシーへ帰る途中だった。
~そこへピアノが聞こえてきた。一時間あまり道端に佇んで聞き惚れた~
みすぼらしい下宿へ戻ったときは、羨望も狂おしいほどの欲求もない晴れ晴れとした気分だった。
横になって寝入りしな、あのピアノで心に安らぎを与えてくれた見も知らぬ奏者に感謝した。
引用: ギッシング「ヘンリー・ライクロフトの手記」