横書きにはそれなりのメリットがある。英語をはじめとした横文字言語、アラビア数字が使いやすい。逆に言えばこれらは縦書きには絶対にむかない。情報のやり取りにはスピードが要求されるので横書きが圧倒的に便利である。世界は、横書き言語が絶対多数だから仕方ないといえば仕方ない。
しかしである、横書き文化には疲れる。
例えば、メール。文章といってもいいが、手書きの味は出しにくい。極端に言えば筆跡がないから、誰が書いたのかもわからない。何とかうまい方法はないものか。メールに自分にしかわからないサインを入れるようにしてみた。署名のようなものだ。野球のブロックサインのように複雑にしたら、誰にも見破られないだろうが、こちらが“キー”を忘れてしまったら、なんにもならない。
近年は少なくなったが、時々縦書き書簡をもらう。たとえ便箋一枚でもうれしくなるのである。心を感じる。日比野さんのように芸術にまで昇華可能なのが縦書きの良さである。
行書と切っても切れないのが漢字の書き順である。漢字を崩して書くには書き順に従って書かないとうまくいかない。朝ドラ『マッサン』で、エリーの命を救うために、政孝氏が離婚届に署名しかけるシーン。姓の亀井を書き始め、亀の旧字「龜」にとりかかる。万年筆でクを書いて次のタテ棒に進んでいる。どんな書き順でいくのか、興味深々・・・。だめだ、そこへ特高の野郎が土足で乗り込んできたため肝心なところはとんでしまった。
そういえば、このところ日本ないし日本人の礼賛番組が多い。谷啓さんの時からよくみている「美の壺」。進行役が草刈さんに代わってもなかなか味があり、ついつい見てしまう。アンティークな陶磁器など美を感じさせるものの鑑賞マニュアルはありがたい。必ずしも日本的なものに限定はしていないが、庭園、和菓子、畳・・、「和」が多い。同じくNHK・BSが作る「cool japan」。日本人の知恵がいっぱい出てくる。欧米だけでなくアジア、アフリカ、南米と各国からきている若者がそれぞれ個性的なコメントを寄せる。これも家族でよく見る。衣食住に関するものから習慣、町の風景まで、具体的に取り上げ、鴻上さんが「coolですか」と問い、日本人の手先の器用さに感心しつつ、こちらまで「クール」と親指を突き出したくなる。木曜のランチ時間に見惚れる「サラメシ」も肩の力を抜いた面白いつくりだ。中井貴一さんのナレーションが実にいい。高層建築の鉄骨を組み立てる現場。クレーンの中で頬張る大きな握り飯。地方によっていろんな「おにぎり」が出てくる。特有のランチ風景を見ていると、やはり立派な日本人論に思えてくる。(つづく)