溜まり場

随筆や写真付きで日記や趣味を書く。タイトルは、居酒屋で気楽にしゃべるような雰囲気のものになれば、考えました。

随筆「文、ぶん、ブン」の(四),”なごむ”(Ⅲ)

2017年01月31日 | 随筆

 膠着語が日本語の特徴であるなら、「語」のくっ付け役「助詞」は大昔から使われてなくてはならない。現代の使われ方の「で」は、上代にはさすがにないが、今と同じように体言(*2)に付く「が」「の」、さらに「を」「に」「へ」「と」など格助詞は実に多く使われている。万葉集の巻一、柿本人麿の29番(近江の荒れたる宮を過ぎし時の)長歌「…畝傍(うねび)之山乃 橿原乃・・・淡海國(あふみのくに)乃 楽浪(ささなみ)乃 大津宮(おおのつみや)尒(に)・・・大殿(おおどの)者(は)・・・」と、頻繁に出てくる。際限なくと言っていい。今は平仮名があるから、それを使うが、当時はまだ仮名が考案されてないから音(おん)でそれに合う漢字を当てている。いわゆる万葉仮名であるが、同じ音なのに当てている漢字が違うことが、ままある。「ノ」の音がいい例で「之」「乃」さらに他では「能」も当てられている。「ハ」音は「者」のほか「波」が多い。「オ」と「ヲ」ははっきり区別され、「オ」音には「於」の漢字がほとんどで、「意」もときどきある。「ヲ」に対しては「乎」が圧倒的に多く、「遠」「呼」がたまに。「ニ」音は「尒」と「仁」が半々の感じ。「ノ」の助詞は、その上にある名詞で使い分けしているのだろうか。例えば天皇が来ると「之」で、それ以外は「乃」、あるいは女性だったら「乃」で受ける。そういうことがあるのかなと調べたが、そういう法則性はなかった。好みで使い分けしていたのだろうか。

 わが国に漢字が入ってきて「書く」という行為を始めた。それまでは話し言葉で意思疎通を行っていた。漢字を知り、その字の発音を知り、意味が分かってきてきた。それで話し言葉を漢字で表現したのが、表音の仮名であり、表意漢字でそれらを使って表現しやのが*(3)「上代文学」だとなる。

 話し言葉では、これらの助詞は我が国に漢字が入ってくる、はるか前から豊富に存在していたとみていいだろう。そういう「大和ことば」の広がりの中にあって、万葉の詩人たちは、巧みに助詞を使って心情を表した・・・。                                                (つづく)

 

*2体言=活用のない自立語。主語となることができる。名刺・代名詞。

*4上代文学=大和・奈良時代の文学。『古事記』『日本書紀』『万葉集』『風土記』など。


随筆「文、ぶん、ブン」の(四)

2017年01月23日 | 随筆

“なごむ”(Ⅱ) 

 日本語の特徴は漢字、平仮名、片仮名を駆使するところにある、と言われる。これを言語学的にいうと、語彙は和語(大和ことば)・漢語・外来語に分けられ、形態的には膠着語*1に属し、朝鮮語・アルタイ諸語と共通の特徴がみられ、音節構造は比較的単純だが、その系統は不明、ということだ。膠着は物事が前になかなか進まない“膠着状態”の意味もあるが、言語学でいう膠着は膠でくっつけるように、よくくっつく付着の色彩が濃い。新聞記事でよく使われる、主体につく「政府は」「特捜本部が」や、動きを伴う「逮捕へ」などに使われる「は」「が」「へ」がそう。捜査当局が令状を裁判所から取っていることが確認できてはじめて「へ」を付けたスクープ見出しになる。整理部記者は見出しにおける助詞の使い方には神経を尖らす。

 そこで「新聞記事」における「で」の使われ方だが、戦前はあまり見られない。多用は戦後で、それも1970年代以降ではないかとみている。高度成長とともに公害の発生、人権重視の風潮なども関係しているのではないかと思う。そこで助詞「で」がここまで新聞記者に好まれるのか、調べてみた。「で」は、「そういう訳で・・・」「それで(どうしたの)」のように、接続的用途もあるが、ここは格助詞としての働きを。

 講談社「日本語大辞典」は、まず手段・材料で、英語で言えばby, withだという。パソコンで書く、鋼材で作る、のようなのがそうだろう。次いで場所・時間を示すin、on 外で遊ぶ、正午で夕刊原稿を締め切る。三番目、原因・理由を示すas 、天候不順で青物野菜が不作。4番目、動作・作用の行われ方を示す、With、in、すごい速さで飛ぶ。5番目は方法・状態を示すwith。二人で行く。6番目、話題になるものを示すabout。TPPで論争する・・・。

 こうして見てくるとニュースの要素五つのW,一つのHに似てなくもない。だからだろうか、ニュース記事に多いのは。     (つづく)

*1膠着語=接頭語、接尾語などの接辞や助詞、助動詞などの付属語によって文法的な関係を示す言語。日本語、朝鮮語、トルコ語、フィンランド語など。付着語とも。Agglutinative language(講談社、日本語大辞典)

 


随筆「文、ぶん、ブン」の(四),“なごむ”

2017年01月16日 | 随筆

 「日本の原発鋼材 強度不足はなし」の見出しがついた次の記事(16年11月1日、毎日新聞の朝刊二面)。

 『フランスの原発で強度不足の可能性がある鋼材が使われていた問題で、日本の電力会社11社は、強度不足の鋼材は使用してないとの調査結果を原子力規制委員会に報告した。仏規制当局は六月、同国の原発一八基にある蒸気発生器の鋼材が、規定より炭素の含有量が多いため強度が足りない可能性があると発表。同国のメーカーのほか、北九州市の「日本鋳鍛(ちゅうたん)鋼」も製造していた。これを受け規制委は日本の電力各社に、メーカーにかかわらず「鍛造」と呼ばれる同じ製法で作った鋼材を重要部品に使用している場合、炭素濃度に問題がないか調査を指示し、10月末までの報告を求めた。日本鋳鍛鋼の鋼材は日本では六社八原発の計一三基で使用されていることが分かった。今回の報告では、それらを含めて全原発で炭素濃度に問題はなかったという。』

 同じ日付の社会面。「中一自殺 いじめ認定」の見出しの記事。

 『青森県東北町の中学1年の男子生徒がいじめを訴えて自殺した問題で、町教育委員会の「いじめ防止対策審議会」はいじめがあったとする中間報告書を委員長に提出した。委員長は「複数の生徒から、からかいや心ない言葉があったことが確認できた」とのべた。教育関係者らで9月に発足した審議会調査部会は、遺族や学校関係者への聞き取り調査などでいじめの有無を調べていた。今後も調査を続け、年内にもまとめる最終報告で、いじめと自殺の因果関係について明らかにする意向。町教委は中間報告を公表せず、遺族には口頭で伝えた。』

 「で」という助詞に注目して、たまたまこの日の新聞記事を硬派面、軟派面で見たところこんなに多く使われていた。原発重要部分に使われて鋼材の強度不足の疑いをフランスから指摘されている問題と、一向に減らない小中学生のいじめ問題、いずれも今日的な問題で記事の表現にはそれなりの工夫がいるケースだ。しかし、この「で」は文の繋がりがよくなり便利ではあるが、多用すると書かれた内容がぼけたりする。「言語明瞭・意味不明瞭」と言うのに陥りやすいのである。

                                                            (つづく)