反論不在の「空白の22年」、築かれた“左派系の牙城”崩す時
7月29日 産経新聞
7月の自由権規約委員会の対日審査をめぐり、スイス・ジュネーブ入りした山本優美子たち「慰安婦の真実国民運動」のメンバーが現地でみたのは、「大挙して押しかけてきていた左派・リベラル系非政府組織(NGO)」だった。
◆不可解な入場拒否
自由権規約委員会などの条約機関は、審査対象国による規約違反をまとめたNGOからの報告書の提出を奨励している。今回の委員会会期中(7月7~25日)、審査対象になったのは日本のほかアイルランド、グルジア、スーダン、チリ、マラウイ。なかでも日本に関する報告書は約30のNGOから36も提出され、6カ国の中で断トツだ。
傍聴する日本のNGO関係者の数も最多だったことから、審査会場もほかの5カ国とは違う大会議場で行われたほどだった。
NGO関係者の中には、慰安婦を「性奴隷」とする表現・認識を国連に広めた弁護士、戸塚悦朗だけでなく、社民党前党首、福島瑞穂の事実婚の夫である弁護士、海渡雄一らもいた。
山本たちは15、16両日の審査を会場で傍聴したが、審査で発言できるのは委員と日本政府代表団のみで、NGOが委員たちに日本政府の問題点を直接訴えることができる審査前のブリーフィングには参加できなかった。
その理由は、ブリーフィングに参加するために必要な国連側の手続きの不透明さとあいまいさにあった。
審査前日の14日。旧国際連盟本部内の会議室で開かれた「公式ブリーフィング」に備え、山本たちは早めに会場入りした。自由権規約委員会のホームページに掲載されたNGOに関する部分に、公式ブリーフィングではNGO側が委員会に「アピールできる可能性がある」と記されていたからだ。
ところが、ブリーフィング開始前になって、身分や立場も分からない外国人男性に「発言者でないなら出てください」といわれた。発言者ではない他のNGO関係者が室内に残っていたにもかかわらずだ。山本は「男性はなぜか私のところにまっすぐ来た」と話す。
翌15日には、前日とは異なる「非公式ブリーフィング」の時間が設定された。山本たちは何人かに分かれて会場に入ろうとしたが、日本弁護士連合会などからなる「ジャパン・NGO・ネットワーク」が主催の非公式会合なので「事前登録がないと入れない」と断られた。
山本たちの入場拒否について、16日の審査後に記者会見した同ネットワーク関係者に聞いたところ、「事前に日本国内で参加希望のある団体をとりまとめてCCPRセンターに伝えた」との答えだった。
CCPRセンター(ジュネーブ)とは、自由権規約委員会への報告手続きなどに各国の市民団体が参加できるよう促進・支援をする国連NGOのことだ。国連ホームページには「公式、非公式の両ブリーフィングに参加するにはCCPRセンターに問い合わせを」と書かれていたため、山本たちも事前にCCPRセンターに連絡を取っていた。だが、日本国内で参加団体のとりまとめがされていたという情報は一切知らされなかった。
CCPRセンターのアジア・太平洋地域コーディネーターの白根大輔に、なぜ山本たちがブリーフィングに参加できなかったのか問い合わせると、「参加、発言資格があるのは委員会によって設定された期限以内に報告書を出したNGOのみ。報告書を出していなかったために委員会の実践ルールとして参加が制限された」との回答だった。
◆「見えない壁」
ルールによって参加を制限されたのは仕方がない。ただ、山本たちに日本国内で事前に参加団体のとりまとめがあった点が知らされなかったことは、長年にわたって一部のNGOだけが国連の仕組みを利用してきた実態を示すといえる。
慰安婦問題でいえば、戸塚が「慰安婦は性奴隷」と国連で提起した1992年以降、これに国連の場で反論する動きは日本からは生まれてこなかった。この「空白の22年間」に左派・リベラル系NGOと国連側による“見えない壁”が出来上がっていたのだ。
国連訪問について山本はこう振り返る。
「今回のような方法がよかったのか分からないが、多くの日本人に国連で何が起きているのか周知するという意味ではよかったのではないか。触発されて、今後活動する人が増えれば、それが成果だ」
山本は25日、東京・永田町で開いた帰国報告会に集まった160人に、国連の各種委員会への参加を促すとともに、報告書の提出などを呼びかけた。
「このままでは(左派系に)負けます。できることからやってください」
左派・リベラル系団体の牙城と化した国連に、普通の日本国民の声を届ける試みは始まったばかりだ。(敬称略)