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人間ノ・ムヒョンに向かう慟哭の力, それは世の中を変える咆哮
キム・ジョンナン(詩人)
邪悪な龍の舌が彼のからだをぐるぐる巻いた。 べたつく汚辱の唾液を、彼の全身に撒きちらした。
その汚辱の唾液は、私たちの顔の上にも落ちた。正しく生きるために、歴史の道を歩く者らの顔の上にも…。
毎日が悪夢であった。 龍の舌は四方に毒を吹き散らした。 四方が、その吹き出された毒の煙に覆われた。
前が見られない。 人々の心に毒がしみ込んだ。 邪悪な龍らの舌は、人々が考えられないように,自分たちに利益になる原理を人々が真理と崇めるように,自ら思考の主体になろうとする者らの顔の上に、毒の唾液を塗りたくった。
彼らの顔がゆがみ、体が腐って行き始めた。
邪悪な龍らが傲慢に叫んだ。
見よ,我々に抵抗すればどんな目に遭うかを!
邪悪な龍らの舌に、ぐるぐる巻かれた彼のからだが、広場に引かれてきた。 人々は通り過ぎながら,一回ずつ彼のからだの上に唾を吐いて,呪いの言葉を吐き捨てた。
人々は真実には何の関心もなかった。 彼らはすでに、邪悪な龍らの舌が吹き出し続けた、毒に犯されていた。 彼らは自身が思考の主人でないという事実を,彼らが彼に向かって吐きだす呪いの言葉が、実は邪悪な龍らのコトバという事実を知ることができなかった。
彼は広場に引き出され、あらゆる侮辱に耐えなければならなかった。
邪悪な龍らはすでに、彼からすべての防御手段を奪ってしまった後であった。 彼には自身を守ることができる最小限の手段もなかった。
彼が信じた, 邪悪な龍より少し小さめの龍らの舌も、邪悪な龍らがかけておいた魔法の呪文どおりに動いた。 時には邪悪な龍らより、さらに残酷に、彼のからだに刃をつきたてた。
彼らはそのようにしてこそ、世の中の呪いにまみれた彼を一時支持した自分たちが、そのことにより「絶対的に純粋で無欠」だということを、人々が信じると思ったのだ。 彼と関係がないということを、証明しなければならなかったのだ。 彼をより一層残忍に拷問することによって, もう彼を捨てたとのことを世の中に知らせなければならなかったのだ。
彼は元の自分に帰った。 魂は澄みきっていた。 恐れも悔恨もない。
彼は魔法にかかった世の中に向かって、背を向け泣いた。 しかしその嗚咽は長くは持続しなかった。 彼は自身ができることを、皆終わらせたことを分かっていたからだ。
彼は運命を完遂させるために、彼に残った最後の存在媒体である体を、高く持ち上げた。 そして彼は自身が長く愛した世の中に向かって, 自身の肉体を飛ばした。
彼をぐるぐる巻いていた邪悪な舌の綱が、一気にぷつんと切れ飛び散った。彼のからだについていた侮辱の粘液も、明け方の空気の中に煙のように消えた。 彼は宇宙の純粋空間に帰って行った。
突然、舌の魔法が消えた。 人々の胸に真実に対する熱望が蘇った。 そして目に涙がみなぎった。 邪悪な龍らの魔法を拭い去る涙、 真の理性の復活である涙、 世界の真実に感応する涙、 やがて世の中は慟哭でぎっしり埋まった。
人々は悔恨で、もがき苦しんだ。 人々は彼の裂けてつぶれたからだを抱いて、号泣した。 彼らは、死んではじめて汚辱から自由になった彼のかわいそうな小さいからだを撫でて、泣いた。 彼らの思考は、はじめて彼ら自身のものになった。 人々はその時始めて、彼らが邪悪な龍らの舌が吹き出す毒の魔法にかかっていたことを悟った。
しかし、見よ!邪悪な龍らが、自らの舌を消した兆しは、まだどこにもない。 人々の号泣が、世の中を変えるかは、まだ分からない。 邪悪な龍らを動かした,否,もしかしたら彼らに動かされた人々は、この叫びにまだ耳を防いでいる。 邪悪な龍らは、また舌なめずりし始めている。
だが,見よ!
人々は各々が、静かにからだを起こし始めた。 号泣が、徐々に悟りに変わりはじめた。 彼らの頭上に覆う闇を裂き、黄金みみずくが舞い上がっている。
彼が身を投じたみみずく岩のそばには、ライオン岩がある。 人々の号泣は、やがて獅子の咆哮になるだろう。ライオンは、邪悪な舌をペロペロさせる龍らと戦うため、ゆっくりからだをほぐし始めている。
略歴
1953年ソウル出生. 詩人であり文学評論家,仏文学者,翻訳家として活動中.