朴槿恵大統領の退陣を要求する市民デモ(2013.11.30,ソウル)
今から約2000年もの昔、パレスチナの地で活動していた青年イエスは弟子たちに「この地の塩、この世の光たれ」と教えます。ローマ帝国の植民地支配に加え、それと結託し民衆に君臨していたユダヤ宗教界の抑圧に対し、イエスは、真理を照らし不義に立ち向かう勇気と愛を説きました。
韓国の宗教界にも、その教えは受け継がれているようです。11月22日、全州市のカトリック『正義具現司祭団』がミサを奉献し、「不法選挙の糾弾、朴槿恵大統領の辞任」を掲げました。怒り心頭に発した大統領は25日の首席秘書官会議で、「混乱と分裂を引き起こす行動がやたら目につく。私と政府は、このような言動を決して容認したり黙過しないだろう」と威圧的な発言をしました。
朴槿恵大統領が「容認しない、黙過しない」と声を荒らげたのは、力づくで反対勢力を屈服させようとする権力の威嚇でしかありません。自身と異なる考えの相手に対し、対話によって相互の理解を深めようとする姿勢は皆無です。まさに、彼女が座右の銘とする「法と秩序」を連想させます。それはまた、反政府活動をことごとく厳罰に処した亡き父親、朴正熙元大統領の強権統治につながるものと憂慮します。
カトリック司祭たちの勇気ある行動は、決して孤立していません。11月27日にはプロテスタント教会の『国家情報院の選挙介入共同対策委』が記者会見を開き、「不正選挙で就任した大統領を、国民が選択した大統領と認めることはできない。退陣を要求する」との立場を表明しました。翌日には仏教会にも同様の動きが波及しています。
公正であるべき選挙に国家機関が介入し世論操作を組織的に行なったことは、明白な選挙法違反です。当該選挙は無効と言わざるを得ません。そして、この問題の真相解明に向けた捜査を現政権が稚拙な手段で妨害している現実に対し、市民は怒りに満ちて糾弾しているのです。もはや「私が指示したわけではない、私に責任はない」と回避できる状況ではありません。
そして12月6日、カトリック司教会議の『正義平和委員会』が談話文を発表しました。司教会議は、韓国カトリック教会を実質的に指導する公式機関です。『正義具現全国司祭団』を後見する立場にあるとも言えます。談話文の内容を要訳して紹介します。出展は12月6日付『オーマイニュース』、および7日付『ハンギョレ新聞』です。(JHK)
http://www.ohmynews.com/nws_web/view/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0001934391
http://hani.co.kr/arti/society/society_general/614307.html?_fr=mt3
国家権力の不法な選挙介入は、人間の尊厳を損なうもの
韓国カトリック教会司教会議の『正義平和委員会』(委員長イ・ヨンフン司教)は6日、談話文を発表し国家情報院、国軍サイバー司令部など国家機関の不法な選挙介入を厳しく批判した。
『正義平和委員会』は、“神の住みかは人々の中にある”というヨハネの黙示録21章3節で始まる談話文で、「議論になっている国家権力の不法選挙介入とこれを隠蔽・縮小しようとする企図は、人間の尊厳と社会的、政治的権利を歪曲し損傷する行為だ」と規定した。
『正義平和委員会』の談話は、去る4日、『正義具現全国司祭団』が発表した朴槿恵大統領の退陣要求を後押しするものと解釈される。この日の談話文は、来る8日の「第32回人権の日」と、8日から14日まで続く「第3回社会教理週間」を迎えて発表したものだ。
-権力が法律を越えるならば、人権と自由に対する侵害だ-
談話文は国家権力による不法選挙介入への批判に続き、「密陽(ミリャン)地域での送電塔の建設強行、労働者に対する弾圧、済州島江汀(カンジョン)村の海軍基地建設強行など、公権力の過度で不当な行動もまた、極めて憂慮される事態だ」と主張した。
さらに『正義平和委員会』は、「国際連合の世界人権宣言が規定する社会的・政治的権利が意味する核心は、市民の自由と、これを保障するための国家権力に対する制限」と述べている。そして「特に情報機関と警察、軍隊など国家の権力機構を市民的統制の下に置くことが、民主主義の根幹であり本質だ」と強調した。また「国家権力が法律と社会的合意で定めた限界を越えるならば、権力はそれ自体が不法であり、市民の基本的な人権と自由に対する侵害者に他ならない」と付け加えた。
また、『正義平和委員会』は「わが国は世界経済10位圏に入る経済大国であるが、経済協力開発機構(OECD)会員国のうち、最も甚だしい所得不平等と貧富格差を見せている」と指摘し、「このような現実は、公正な競争の不在と富の独占によるものだ。財貨が不足しているというよりは、公正かつ人道的な分配体系を備えていないためである」と明らかにした。
そして「一緒の作業場で同じ労働をする人間が、正規職と非正規職に分けられ差別される労働者の現状は、社会的な統合を妨げる最大の障害物である。信仰が異なる人々、言語と文化が違う外国人、さまざまな少数者に加えられる韓国社会の偏見と差別も、非常に深刻だ」と自省を訴えた。
最後に『正義平和委員会』は、「神がそうであったように私たちもまた、貧しい隣人たちと同行して連帯(マタイの福音25章)しながら、私たちの社会がより一層、人間の尊厳が保護され増進される社会に進むよう、共に努力しなければならない」と明らかにした。