内分泌代謝内科 備忘録

1型糖尿病患者の基礎インスリン必要量は年齢と BMI に依存する

1型糖尿病患者の基礎インスリン必要量は年齢と BMI に依存する
J Diabetes Investig 2022; 13: 292-298

目的: インスリン頻回注射 (multiple daily injection: MDI) を行っている 1 型糖尿病患者における基礎インスリン必要量を調査し、1 日総インスリン量に対する 1 日総基礎インスリン量の割合 (%TBD/TDD) に影響を与える患者特性を評価すること。

方法:本研究の対象は、標準体重あたり 25-30 kcal の糖尿病食を数週間の入院中に提供された 67 名の 1 型糖尿病入院患者である。基礎インスリン必要量は、就寝時から朝食前までの血糖値の差を 30 mg/dL 以内に保つように調整した。食前のボーラスインスリン量は、各食前と食後 2 時間の血糖値をそれぞれ 140 mg/dL 未満、200 mg/dL 未満に保つように調整した。1 日総インスリン量 (TDD)、1 日総基礎インスリン量の 1 日総インスリン量に対する割合 (%TBD/TDD)、および臨床特性を収集した。

結果:TDD の中央値 (Q1, Q3) は33.0 (26.0, 49.0) 単位 (図 1) で、%TBD/TDD は 24.1±9.8%だった (図 2)。

図 2. TDD, TBD, total bolus insulin
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847154/figure/jdi13547-fig-0002/

図 3. %TBD/TDD
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847154/figure/jdi13547-fig-0003/

単変量解析では、%TBD/TDD は体格指数 (BMI) と正の相関を示し、発症年齢および検査時年齢と負の相関を示した (表 2)。

表 2. %TBD/TDD と臨床パラメータとの相関
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847154/table/jdi13547-tbl-0002/

しかし、多重回帰分析では、%TBD/TDD は BMI (β=0.340, P=0.004) と検査時年齢 (β=-0.288, P=0.012) に依存していた (表 3)。

表 3. %TBD/TDD の説明変数
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847154/table/jdi13547-tbl-0003/

結論:MDI を行っている 1 型糖尿病患者の入院条件下での平均 %TBD/TDD は約 24%であった。基礎インスリン必要量は BMI と検査時年齢に依存していた。

これまでに分かっていること:
- 1 型糖尿病患者の多くは MDI で治療を受けている。
- 基礎インスリン量は血糖コントロールに重要な役割を果たす。
- 従来、1 型糖尿病患者の基礎インスリン量は 1 日総インスリン量の約 50%と考えられていたが、最近の研究では 30-40%程度とされている。

この論文が付け加えたこと:
- 入院条件下で MDI を行っている日本人 1 型糖尿病患者の%TBD/TDD は平均 24.1±9.8%であることを明らかにした。
- %TBD/TDD は BMI と正の相関、年齢と負の相関があることを示した。
- 多変量解析により、BMI と検査時年齢が %TBD/TDD の独立した決定因子であることを明らかにした。

将来への示唆:
- 1 型糖尿病患者の基礎インスリン量設定には、個々の患者の BMI と年齢を考慮する必要がある。
- 年齢や BMI の変化に応じて、基礎インスリン量の調整が必要になる可能性がある。
- 個別化された基礎インスリン量設定アルゴリズムの開発につながる可能性がある。

この論文の対象や方法に関する強み:
- 入院条件下で厳密に管理された食事と血糖コントロールを行っている。
- 実際の臨床データに基づいた結果を提供している。
- 多変量解析により、交絡因子の影響を考慮している。

この論文の対象や方法に関する限界:
- 単一施設の日本人患者のみを対象としているため、結果の一般化には注意が必要。
- 後ろ向き観察研究であり、因果関係の確立には更なる研究が必要。
- サンプルサイズが比較的小さい(n = 67)。

所感
1 型糖尿病患者の基礎インスリンの総インスリンに対する割合が 24%というのは、感覚的にも正しい気がする。他の報告では 10 歳台の 1 型糖尿病患者においては、基礎インスリンの総インスリンに対する割合は 33%であり、高齢の 1 型糖尿病患者よりも高い。これは若年者では成長ホルモンの分泌が高いからだろうと議論されている。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8847154/
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