IgA 腎症 (ヘノッホ·シェーンライン紫斑病) についての総説
Am Fam Physician 2020; 102: 229-233
現在は IgA 血管炎 (IgA vasculitis) と呼ばれているヘノッホシェーンライン紫斑病は全身性の免疫複合体が関与する白血球破砕性血管炎 (leukocyteclastic vasculitis) であり、非血小板減少性の隆起性の紫斑 (palpable purpula) と関節炎、腹痛が特徴的である。小児に多いが、成人でも起こり得る。
検査は IgA 血管炎以外の紫斑の原因を除外すること、また腎障害をともなうかどうかを確認するために行う。腎障害をともなう場合はその程度を確認するために生検を行うこともある。臓器障害の評価のために画像検査や内視鏡が必要になることもある。
IgA 血管炎は小児では 94%、成人では 89%で自然に寛解するため、支持的な治療がメインとなる。しかし、腎障害をともなう場合は寛解するまで数年以上かかることもある。
合併症としては、消化管出血、精巣炎 (orchitis)、中枢神経系の障害がある。
システマティックレビューでは、ステロイドは合併症の予防には効果がないことが示されており、合併症予防目的では使用するべきではない。
一方、ランダム化比較試験では高用量ステロイド、シクロスポリン、ミコフェノール酸は糸球体腎炎などの合併症に有効であることが示されている。
長期的予後は腎障害の程度に依っている。寛解に至るか再発するか見極めるために 6ヶ月は経過を見た方が良い。
1. 疫学
IgA 血管炎の罹患率は、小児では 3.0-26.7/10万人·年、成人では 0.8-1.8/10万人·年である。
小児における発症時の年齢の平均は 6歳である。成人例の症例集積研究では、発症時の年齢は 32-50歳だった。小児では 90%以上が 10歳未満で発症する。
わずかに男性に多い。
小児では秋から冬にかけての発症が多いが、成人では季節性はない。
2歳未満で発症した場合は軽症の場合が多く、成人発症の場合はより重症で予後も悪い。
2. 病態生理
IgA 血管炎は消化管、関節、皮膚、腎臓に IgA が沈着することによって起こる小血管の血管炎である。
さまざまな細菌またはウイルスの感染 (連鎖球菌、肺炎桿菌、ヒトパルボウイルス B19) が誘因になると考えられている。サイトカインおよびケモカインが病態生理に関わるが、詳細は不明である。
多くの研究で HLA が疾患の罹りやすさ、重症度、長期的予後と関連すると報告されている。
3. 診断
隆起性の紫斑に関節炎をともなう (75%) あるいは腹痛をともなう (50-65%) 場合は、IgA 血管炎を疑うべきである。
鑑別診断としては、血小板減少性紫斑病、児童虐待 (child abuse)、出血性疾患、薬の副作用、老人性紫斑病 (senile purpula)、髄膜炎菌敗血症、家族性地中海熱、ロッキー山紅斑熱、急性白血病、骨髄不全症候群、IgA 血管炎以外の血管炎がある。
欧州リウマチ学会/欧州小児リウマチ学会の診断基準は、小児については感度 100%、特異度 87%、成人については感度 99%、特異度 86%である。
欧州リウマチ学会/欧州小児リウマチ学会による IgA 血管炎の診断基準
必須項目: 下肢優位に紫斑または点状出血 (petechiae) を認める。
下記4つの項目のうち少なくとも1つを満たす。
- 急性の経過で出現した関節炎または関節痛
- 急性の経過で出現した広範な腹痛
- 病理学的に白血球破壊性の血管炎または IgA が沈着する増殖性糸球体腎炎を認める。
- 腎障害 (蛋白尿または血尿)
4. 徴候および症状
IgA 血管炎の徴候および症状は数日~数週間の経過で出現する。典型的には気道感染症が先行する。
小児では関節痛/関節炎と腹痛が多く、成人では下肢の浮腫と高血圧が多い。
皮疹は典型的には紅斑性丘疹から始まり、点状出血または隆起性紫斑の集簇に進行する。さらに紫斑は増大して赤錆色の斑状出血 (eccymosis) になり、10日ほどで消退する。紫斑は伸側の表面に多く、臀部や下肢など圧力を受ける部位で認める(リンク参照)。
関節痛は小関節よりも膝関節や足関節に多い。関節炎は一過性で関節を破壊することはない。
腹痛は典型的には鋭い痛みで、急性腹症と間違われるほどに重度のことがある。およそ 1/3 の患者で嘔吐または消化管出血を認める。稀に腸重積 (intussusception) を合併することがある。
腎障害は 50%で起こり、長期の障害となることがある。腎障害のリスクは成人と 10歳以上の小児で高い。男性、紫斑、腹痛、消化管出血が続く、再発例も腎障害のリスクが高い。腎障害は典型的には皮疹が出現してから 1-3ヶ月のうちに出現するが、6ヶ月後までは出現しうる。腎障害を示す所見としては、血尿、赤血球円柱、蛋白尿、明らかな腎不全がある。急速進行性糸球体腎炎を来すこともあり、蛋白尿を呈する患者で多い。
微熱と倦怠感はよくある症状である。頻度の低い症状としては、精巣炎、肺出血、頭痛をともなう中枢神経障害、行動異常、痙攣、出血がある。
5. 検査
IgA 血管炎の診断に検査は必要ない。検査は他疾患の除外と臓器障害の有無を確認するために行う。
失血の有無と血小板数を確認するために血算は有用である。凝固異常がないことを確認するために凝固も有用である。腎障害を除外するために腎機能と電解質を、蛋白質の喪失がないかを評価するためにアルブミンを確認する。
尿検査では、尿潜血、尿蛋白、円柱を確認できる。皮膚生検は診断に迷うときのみ必要である。血管への IgA の沈着が特徴的である。腎生検は進行性の腎障害がある場合のみ必要となる。
便中カルプロテクチン (リンク参照) は消化管障害のマーカーとして有用かもしれない。
消化管出血あるいは肺出血をともなう場合は内視鏡が必要になる。陰嚢腫大 (scrotal enlargement) の原因検索や脳の障害の確認のために画像検査が必要になるかもしれない。
6. 治療
IgA 血管炎は小児の 94%、成人の 89%で自然に寛解する。そのため、支持的治療が第一選択となる。
皮疹に対しては特異的な治療はない。関節痛に対しては経口のアセトアミノフェンまたは NSAIDs で加療する。腎障害をともなう場合は NSAIDs は避ける。
腎障害をともなう場合は速やかに腎臓内科にコンサルトする。古い研究結果に基づいて、しばしば糖質コルチコイドの投与が行われるが、2013年の検出力が十分なランダム化比較試験では糖質コルチコイド投与は12か月後の評価で偽薬と比較して尿蛋白を減らさなかった。
ランダム化比較試験では小児の関節痛および腹痛に対して 1-2 mg/kg体重のプレドニゾンを投与すると、1.2日 (95%信頼区間: 1.17-1.91) 早く疼痛が寛解することが示されている。腹痛は自然に寛解するので、ステロイドは支持療法と NSAIDs 使用でも疼痛が強い患者に限って使用するべきである。
重度の腎障害をともなう糸球体腎炎に対してはしばしば免疫抑制 (高用量ステロイド静脈注射など) が行われる。
小規模なランダム化比較試験では、ステロイド抵抗性の腎障害に対してシクロスポリンとミコフェノール酸は有効だった。ダプソンとリツキシマブも皮膚病変および腎障害をともなう場合には早期の軽快に有効だった。
入院の予測因子としては、精巣炎、中等度~重度の腹痛、2つ以上の関節炎、尿蛋白、消化管出血、歩行不能がある。
7. 予後
再発は皮膚病変で多いが、関節、腎臓、消化管にも現れることがある。小児の場合で、再発率は 2-30% で、最長で 10年後まで再発はあり得る。
成人においては診断時に消化器症状を認めることが再発の最も強い予測因子である。
小児においては診断時に異常な尿所見を認めることが重度の腎障害の予測因子である。
最初の 6ヶ月で腎障害を認めないことは慢性化の可能性を低くする。腎障害は 91%が 6週間以内に出現し、97%が 6ヶ月以内に出現する。小児では 2ヶ月以上経ってから腎障害が出現するのは 2%に過ぎない。
診断時に腎障害を認める場合は、最大 8年後まで高血圧と尿所見の異常のリスクを上昇させる。小児の場合は最大 5年後まで尿蛋白のリスクを上昇させる。小児で診断時にネフローゼ症候群を認め、3ヶ月以上続く場合は、長期の腎障害のリスクとなる。
IgA 血管炎罹患前から腎臓病がある場合は終末期腎不全のリスクを上昇させる。しかし、成人において何が腎予後の予測因子となるのかはよく分かっていない。成人では 11%が終末期腎不全となり、13%は重度の腎不全となる。
8. フォローアップ
診断時に腎障害を認めた場合は少なくとも毎月、尿所見とクレアチニン、血圧は確認するべきである。適切なフォローアップの頻度と期間は不明だが、6ヶ月はフォローするのが無難である。
60歳以上の IgA 血管炎の患者では、肺、腎臓、前立腺のがんの検索を検討するべきである。
便中カルプロテクチン
https://test-guide.srl.info/hachioji/test/detail/04268A126#:~:text=%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3%E3%81%AF%E3%80%81%E4%B8%BB,%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
IgA 血管炎の皮膚病変
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0815/p229/jcr:content/root/aafp-article-primary-content-container/aafp_article_main_par/aafp_figure.enlarge.html
元論文
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2020/0815/p229.html