内分泌代謝内科 備忘録

低ナトリウム血症および SIADH 患者に対するアプローチ

低ナトリウム血症および SIADH 患者に対するアプローチ
JCEM 2022; 107: 2362-2376

低ナトリウム血症は、臨床現場で最もよくみられる電解質異常であり、急性期入院患者の最大 30%に影響を及ぼし、重大な臨床的有害転帰と関連している。

急性または重度の症候性低ナトリウム血症は、神経学的合併症および死亡率の高いリスクを伴う。対照的に、慢性低ナトリウム血症は、転倒、骨粗鬆症、骨折、歩行不安定、認知機能低下などのリスクの増加、入院の長期化、病因に特異的な死亡率の増加など、重大な合併症と関連している。

この「患者へのアプローチ」では、急性および慢性低ナトリウム血症の診断と治療法について、現在の推奨事項、ガイドライン、文献を比較検証し、2 つのケーススタディで解説する。特に、不適合抗利尿ホルモン分泌症候群 (syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone: SIADH) 診断と管理に焦点を当てる。

低ナトリウム血症の病態生理を理解するとともに、低ナトリウム血症の持続期間、生化学的重症度、症状、血液量の状態を総合的に判断することが、低ナトリウム血症の適切かつ適時な治療を行うためのフレームワークを形づくる。低ナトリウム血症の典型的な 2 つの症例を示し、これらの症例およびその他の低ナトリウム血症の原因に対する管理について考察する。


症例1
55 歳の女性が家族に付き添われて救急外来を受診した。前日の夕方に頭痛と嘔気を訴え、今朝は嘔吐し、混乱している様子であった。

患者は最近、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin retptake inhibitor: SSRI)を服用し始めた。診察の結果、患者は眠気があり、外傷や感染症の所見はなく、臨床的には体液量は正常であった。体重は49kg(BMI 19kg/m2)であり、アルコール多飲の既往があった。

尿素 2.1 mmol/L、クレアチニン 63 μmol/L、ナトリウム 113 mmol/L、カリウム 4.4 mmol/L だった。追加で尿浸透圧、尿中ナトリウム、甲状腺機能、血清コルチゾール濃度を測定するために検体を送った。


症例2
72 歳の男性が、しつこい咳、時折血の混じった痰、意図しない体重減少を訴えて紹介された。

初診時の生化学検査は、尿素 3 mmol/L、クレアチニン 87 μmol/L、ナトリウム 124 mmol/L、カリウム 4.8 mmol/L であった。身体診察では、体液量は減少していた。尿中ナトリウム濃度は 46 mmol/L、浸透圧は 340 mOsm/kg であった。朝の血清コルチゾール濃度は 487 nmol/L(17.7 μg/dL)であり、生化学的には甲状腺機能低下症であった。画像検査で疑わしい肺病変が検出され、CT ガイド下生検の組織学的検査で肺小細胞肺癌と診断された。


1. 低ナトリウム血症の有病率
低ナトリウム血症は、臨床現場で最もよく遭遇する電解質異常である。入院患者では、低ナトリウム血症の頻度は 15-30%と報告されている。しかし、重症の低ナトリウム血症(<125 mmol/L)はそれほど多くなく、入院患者の 0.5-3%であると報告されている。


2. 塩分と水分のバランスの生理学
血漿ナトリウム濃度は血漿浸透圧の主要な決定因子であり、血漿ナトリウムと浸透圧の両方は、浸透圧調節によるバソプレシン (arginine vasopressin: AVP) 分泌と口渇感によって、狭い生理的範囲内に維持されている (図 1)。

図 1: 水分のホメオスタシス
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/figure/F1/

血漿浸透圧の変化は、視床下部前部の脳室周囲器官(circumventricular organ) にある特殊な神経細胞によって検出される。

AVP は視床下部の室傍核 (paraventricular nucleus) および視索上核 (supraoptic nuclei) で合成され、プロホルモンとしてコペプチン (copeptin) およびニューロフィシン (neurophysin) とともに下垂体後葉に運ばれ、そこで分泌顆粒の神経終末に貯蔵される。血漿浸透圧の上昇は、プロホルモンの切断と AVP およびコペプチンの全身循環中への放出を引き起こす主要な生理学的刺激である。

AVP が腎集合管の細胞表面にあるバソプレシン 2 受容体に結合すると、細胞内でアクアポリン2(aquaporin 2: AQ-2)が生成され、あらかじめ合成された AQ-2 が集合管の内腔膜に移動し、AQ-2 が膜に挿入されて水チャネルが形成される。これにより、膜は自由水に対して透過性となり、腎尿細管からの水の再吸収が促進され、腎自由水が減少する (図 2)。

図 2: バソプレシンに対する腎の反応
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/figure/F2/

一方、血漿浸透圧の上昇は、AVP の放出と同様の浸透圧閾値で始まる口渇感を刺激し、水分摂取を促す。自由水摂取と AVP 活性の抗利尿作用が組み合わさることで、血漿中の自由水が増加し、血漿浸透圧とナトリウム濃度が低下する。

ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの活性は、塩分と水分のホメオスタシスにも影響する。腎遠位尿細管と集合管におけるアルドステロンの作用は、管腔側に発現する上皮ナトリウムチャネル (epithelial sodium channel: ENaC) と Na+/K+/ATPase の発現を促進し、ナトリウムと水両方の再吸収を増加させる。コルチゾールはまた、自由水排泄の調節に不可欠な役割を果たしている。

低ナトリウム血症はほとんどの場合、低張性または低浸透圧(血漿浸透圧 <280 mOsm/kg)と関連している。しかし、血漿ナトリウム濃度と血漿浸透圧が乖離する 2 つの状況がある:偽性低ナトリウム血症と等張性/高張性低ナトリウム血症である。

偽性低ナトリウム血症は、血漿中の自由水が非常に高濃度の脂質または蛋白質によって置換され、ナトリウムの正確な測定が妨げられるために血漿ナトリウム濃度が見かけ上低下するもので、血漿浸透圧は正常のままである。

等張性/高張性低ナトリウム血症は、ナトリウム以外の未測定の溶質(グルコースやマンニトールなど)が存在し、血漿浸透圧に寄与している場合に起こる。この病態の臨床における例は著しい高血糖がある。この場合、浸透圧利尿だけでなく、等張性/高張性低ナトリウム血症によって血漿ナトリウム値は低値になり得る。したがって、このような状況ではグルコースの影響を補正する必要がある。

グルコースの低下速度が血漿ナトリウムの増加速度を上回った場合、例えば、著しい高血糖患者に対するインスリン静注療法では、血漿浸透圧が急速に低下し、それに伴って脳浮腫が生じる危険性がある。したがって、グルコース低下速度のコントロールに注意すべきである。


3. 低ナトリウム血症の病因
低張性低ナトリウム血症の病因は、患者の臨床的な体液量に基づいて 3 つの主なグループに分けられる。低ナトリウム血症はまた、発症時期、生化学的重症度、関連症状の有無と重症度によってさらに分類することができるが、これについてはこの総説で後に詳述する(表1)。

表 1: 低ナトリウム血症の分類


4. 体液減少性低ナトリウム血症
体液減少性低ナトリウム血症 (hypovolemic hyponatremia) は、全身の水分と血漿ナトリウムの両方が失われることによって起こる。循環血液量の減少は、低張性にもかかわらず圧制御的 AVP 分泌を刺激し (AVP の分泌刺激には血漿浸透圧と血管内容量の 2 つがある)、これがナトリウム喪失(腎性または非腎性)と組み合わさって、全身の水分喪失に比してナトリウム喪失が大きくなる。

サイアザイド系利尿薬の使用は、腎ナトリウム喪失と低血圧(圧制御 AVP 分泌 [baroregulated AVP secretion] の刺激)の両方を引き起こす、体液減少性低ナトリウム血症の重要な原因である。

サイアザイド誘発性低ナトリウム血症は、しばしば低カリウム血症を伴う。その他の腎性ナトリウム喪失としては、ミネラルコルチコイド欠乏症、塩類喪失性腎症 (salt-wasting nephropathy)、まれに中枢性塩喪失症候群 (cerebral salt wasting syndrome: CSWS) がある。非腎性ナトリウム喪失には、嘔吐や下痢による消化管性喪失と経皮性喪失がある。

4-1. 中枢性塩喪失症候群
CSWS は、1950 年に Peters らによって、脳神経外科領域で観察される低ナトリウム血症とナトリウム利尿として報告された。しかし、CSWS がどの程度低ナトリウム血症に関与しているかについては、論争が続いている。CSWS の有病率の報告には大きなばらつきがあるが、これは、CSWSとSIADH との鑑別が困難であること、および正確な体液量状態評価に固有の課題があることに起因している可能性がある。表 2は、CSWS と SIADH の違いを強調したものである(表2)。

表 2: CSWS と SIADH の鑑別点
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/table/T2/

当センターで行われた 2 件の研究では、CSWS は脳神経外科領域における低ナトリウム血症のまれな原因であると結論付けられている。


5. 正常体液性低ナトリウム血症
正常体液性低ナトリウム血症 (euvolemic hyponatremia) は、入院患者における低ナトリウム血症の最も一般的な病型である。総体ナトリウムは変化しないが、臨床検査では認められない相対的な総体水分の増加により、希釈性低ナトリウム血症となる。

これは、自由水排泄障害に伴う自由水の過剰摂取、またはあまり一般的ではないが、溶質の低摂取により起こりうる。正常体液性低ナトリウム血症の大部分は SIADH が原因であるが、正常体液性低ナトリウム血症の他の原因(例えば、見落とされがちな副腎皮質機能低下症や、極めてまれな低ナトリウム血症の原因である甲状腺機能低下症)を評価するためには、注意深い臨床評価が不可欠である。


5-1. 不適合抗利尿ホルモン分泌症候群
SIADH は 1950 年代に肺癌患者 2 名で初めて報告された。それ以来、様々な疾患に関連して報告されている(表3)。

表 3: SIADH の原因
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/table/T3/

Bartter と Schwartz によって最初に記述された診断基準は、現在もほとんど変わっておらず、SIADH の診断を下す前に満たされなければならない(表4)。

表 4: SIADH の原因
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/table/T4/

SIADH は、入院患者における低ナトリウム血症の最も一般的な原因であり、非選抜集団における低ナトリウム血症例の最大 46%を占める。SIADH には 4 つの亜型(A 型、B 型、C 型、D 型)があり、浸透圧刺激に対する AVP(またはコペプチン)反応を測定することで区別できる(図3)。

図 3: SIADH の分類
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/figure/F3/

A 型と B 型の SIADH が最もよく遭遇する亜型であるが、SIADH の亜型の鑑別が臨床で必要とされることはほとんどない。


5-2. 副腎皮質機能低下症
副腎皮質機能低下症では、血漿浸透圧に比して AVP 濃度が不適切に上昇し、有効な腎自由水クリアランスが低下するため、全身水分が増加する。グルココルチコイド欠乏動物モデルでは、副腎機能に異常がない動物に比べて、AQ-2 の発現が増加し、自由水負荷後の AVP 濃度が高いことが示され、グルココルチコイドの補充が開始されると、この傾向は逆転する。

原発性副腎機能不全では、グルココルチコイドとミネラルコルチコイドの両方の欠乏が組み合わさるために、典型的には体液減少性低ナトリウム血症を呈する。

一方、続発性副腎皮質機能不全による低ナトリウム血症は、典型的には(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系がインタクトであるため)体液量は正常であり、臨床的には SIADH と区別できない。

正常体液性性低ナトリウム血症に関する大規模な単一施設の前向き研究では、当初 SIADH と分類された患者の 4%が、診断されていない副腎皮質刺激ホルモン分泌不全症であることが判明した。


5-3. 甲状腺刺激ホルモン欠乏症
SIADH の診断基準では、甲状腺機能低下症の除外が必要であるが、臨床では甲状腺機能低下症による低ナトリウム血症は極めてまれであり、重篤な甲状腺機能低下症患者にのみみられる。


5-4. 運動誘発性低ナトリウム血症
運動誘発性低ナトリウム血症は、運動中または運動後 24 時間以内に発症する低ナトリウム血症と定義され、典型的には長距離および持久的スポーツに関連する。運動は AVP 分泌の非浸透圧刺激であり、低張液を大量に摂取すると急性低ナトリウム血症が発症し、治療しなければ致命的となる可能性がある。したがって、運動誘発性低ナトリウム血症を予防するために、口渇に応じた水分摂取が現在推奨されている。この分野については、Hew-Butler らが幅広くレビューしている。


5-5. 水分摂取量が多く、溶質摂取量が少ない場合
溶質摂取量が比較的少ない状態で大量の水分を摂取すると、水分摂取量が腎の自由水排泄能力を上回り、血漿中の総自由水量が全身のナトリウム量に対して相対的に増加することがある。

このような現象は、ビールを大量に摂取する人(beer potomania)やタンパク質摂取量が少なく、低張性水分を多量に摂取する人にみられることがある。原発性多飲症の患者は、AVP 活性が最大に抑制されているにもかかわらず、水分摂取量が腎排泄能力を上回ると、低ナトリウム血症を呈することもある。

原発性多飲症による重篤な低ナトリウム血症患者の特徴を記述した Sailer らによる最近の研究では、AVP に対する非浸透圧刺激がすべての症例で認められ、最も一般的な原因は薬物であったと報告している。


6. 体液増加性低ナトリウム血症
体液増加性性低ナトリウム血症 (hypervolemic hyponatremia) は、心不全、肝不全、腎不全でみられ、体内の総水分とナトリウムの両方が増加する結果生じるが、ナトリウムよりも自由水分の増加が比較的大きい。

平均動脈圧が低下すると、圧受容器 AVP の分泌とレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化(二次性高アルドステロン症の発症を伴う)が刺激され、相対的に全身の水分が過剰になり、血漿浸透圧とナトリウム濃度の両方が低下する。低ナトリウム血症の存在は、心不全、慢性腎臓病、および代償性肝疾患の患者の予後不良と関連している。


7. 低ナトリウム血症にともなう合併症と死亡率

7-1. 急性低ナトリウム血症における死亡率
急性低ナトリウム血症は重大な罹患率と死亡率を伴う(図4)。

図 4: 低ナトリウム血症にともなう合併症
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/figure/F4/

急性の重度な低ナトリウム血症では、神経細胞の適応反応として細胞内の電解質と有機浸透圧物質が細胞外に排出されるよりも早く、低浸透圧の血漿から正常浸透圧の細胞内に水が流入する。その結果、脳浮腫および頭蓋内圧亢進が起こり、神経学的障害を引き起こす。最終的には脳幹ヘルニアとなり、治療しなければ死亡率が高い。


8. 慢性低ナトリウム血症における死亡率
慢性的な低ナトリウム血症は、血漿ナトリウム正常の対照群と比較して院内死亡リスクが上昇する。死亡リスク上昇は退院後 1 年まで持続する。低ナトリウム血症に関連する死亡リスクは、基礎となる病因によって異なる。

われわれの施設で実施された前向き単一施設研究では、SIADH は血漿ナトリウム正常の対照群と比較して死亡リスク上昇と関連していると報告された。体液増加性または体液減少性の低ナトリウム血症患者では、死亡リスクがさらに高かった。

低ナトリウム血症が死亡リスク上昇の直接の原因となっているのか、それとも単に低ナトリウム血症が基礎疾患の重症度を反映するマーカーなのかは明らかでない。しかし、低ナトリウム血症が臓器機能障害に及ぼす影響も、死亡率増加の一因であると考えられている。


9. 慢性低ナトリウム血症の合併症
慢性低ナトリウム血症は、集中治療室への入室、入院期間の延長、再入院、認知機能障害、歩行不安定、骨折などの重大な有害事象と関連している。さらに、慢性低ナトリウム血症の急速な改善をもたらす治療は、浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome: ODS)を引き起こす可能性がある。


9-1. 浸透圧脱髄症候群
ODS は、橋中心髄鞘崩壊症 (central pontine myelinolysis: CPM) としても知られ、橋および橋外の神経細胞の脱髄により、神経機能障害、痙攣、死に至ることもある重篤な病態である。慢性(発症から 48 時間以上)の低ナトリウム血症を急速に補正し、神経細胞が細胞内に溶質を再取り込みするよりも早く血漿ナトリウム濃度が上昇すると、ODS が起こることがある。

脳は血漿浸透圧の低下による脳浮腫を予防するための適応反応として、細胞外に細胞内溶質を排出する。この状態で血漿浸透圧を急激に上昇させると、アストロサイトが浸透圧ストレスによって傷害され、アポトーシス、血液脳関門の損傷、脱髄を引き起こす。

ODS のリスクを軽減するために、米国および欧州の低ナトリウム血症管理に関する推奨/ガイドラインでは、血漿ナトリウム濃度の 1 日当たりの上昇に上限を設定し、上限を越えて過剰に補正した場合には低張液とデスモプレシン静脈注射で血漿ナトリウムを再び低下させることを勧めている。


9-2. 慢性低ナトリウム血症と認知機能
慢性的な軽度から中等度の低ナトリウム血症は、さまざまな患者集団において、血漿ナトリウム正常の対照群と比較して認知機能および注意力の障害、さらに認知機能の低下と関連している。低ナトリウム血症の改善が認知機能の改善に関連することを示唆する証拠がある。


9-3. 骨粗鬆症、転倒、および骨折リスク
低ナトリウム血症は、歩行不安定および骨粗鬆症の独立した危険因子であり、転倒および骨折の発生につながると認識されている。最近の研究では、急性期高齢者病棟において、軽度の低ナトリウム血症患者では転倒リスクが 3 倍上昇することが判明した。

低ナトリウム血症はまた、骨粗鬆症と脆弱性骨折の両方のリスク増大と関連しており、そのリスクは低ナトリウム血症の重症度や慢性度が高いほど高くなる。慢性低ナトリウム血症の動物モデルにおいて、Verbalis らは、血漿ナトリウム正常の対照と比較して骨密度が最大 30%低下し、皮質骨と海綿骨の両方が喪失することを示した。低ナトリウム血症患者と血漿ナトリウム正常の対照群との間で大腿骨頸部および股関節の骨密度を比較した NHANES III 研究では、低ナトリウム血症は骨粗鬆症のリスク上昇と関連していることが判明した。


10. 低ナトリウム血症に対する臨床的アプローチ
近年、低ナトリウム血症の管理に関する国際的な推奨/ガイドラインがいくつか発表されている。現在、低ナトリウム血症の評価、診断、管理に関する国際的な臨床診療ガイドライン/勧告は 2 セットあり、そのほとんどが広く引用され、臨床現場で活用されている。Verbalis らは 2013 年に米国を拠点とする専門家会議を発表し、Spasovski らは 2014 年に欧州内分泌学会、欧州集中治療医学会、欧州腎臓学会、欧州透析移植学会による臨床実践ガイドラインを発表した。

これらの原稿には多くの類似点と一致点があるが、異なる部分もあるので、低ナトリウム血症患者に対する臨床的アプローチについて論じる際には、両者を参照すると良い。

低ナトリウム血症患者を評価する際、考慮すべき重要なポイントは以下の 4点である。

脳浮腫を示唆する症状はないか?
2. いつから低ナトリウム血症なのか?
3. 低ナトリウム血症の程度はどれくらいか?
4. 患者の体液量は多いか、少ないか、正常か?

これらの各ポイントを組み合わせて慎重に評価することで、適切かつ適時の管理が可能となる。


10-1. 症状の有無
症状の記録は、低ナトリウム血症の患者にアプローチする際に不可欠なステップである。中等度または重度の症状があれば、脳浮腫の存在を示し、早急な治療が必要である。

低ナトリウム血症の臨床症状は、無症状の症例から頭痛、吐き気、錯乱などの中等度の症状、最終的には嘔吐、意識レベルの低下、傾眠、痙攣、昏睡、死亡などの重篤な症状までさまざまである(図5)。

図 5: 低ナトリウム血症の症状のスペクトラム
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/figure/F5/

10-2. 低ナトリウム血症の持続時間
急性低ナトリウム血症および慢性低ナトリウム血症の定義は、それぞれ低ナトリウム血症が 48 時間未満または 48 時間以上存在することである。

低ナトリウム血症の発症時期は、2 つの理由から重要である。第一に、急性低ナトリウム血症(48 時間未満)は、緊急治療を必要とする脳浮腫による重篤な神経症状を呈する可能性が高い。第二に、低ナトリウム血症の安全な補正速度は低ナトリウム血症の持続時間によって異なり、急性低ナトリウム血症の患者では浸透圧性脱髄のリスクが低い。

血漿ナトリウム濃度と浸透圧の両方が急速に低下すると、血漿と脳の間に浸透圧勾配が生じ、脳浮腫、頭蓋内圧の上昇、ひいては脳幹ヘルニアと死亡の危険性が生じる。

一方、血漿浸透圧の低下がより緩やかな場合(48時間以上)、脳は正常な細胞容積を維持するために電解質と有機浸透圧物質を細胞外に排出することによって低張環境に適応する。その結果、症状はより緩やかになる。

しかし、脳が低浸透圧環境に適応すると、血漿浸透圧が急激に上昇した場合にアストロサイトが傷害を受けやすくなる。そのため、慢性低ナトリウム血症の急激な是正は ODS のリスクと関連しており、慢性低ナトリウム血症の是正を安全な閾値の範囲内に制限するよう細心の注意を払う必要がある。


10-3. 生化学的重症度
ほとんどのガイドラインや論文では、軽度低ナトリウム血症を 130~135 mmol/L、中等度低ナトリウム血症を 125~129 mmol/L と恣意的に定義している。

しかし、重症低ナトリウム血症の生化学的定義については、ガイドラインによって若干の違いがある。Verbalis らは血漿ナトリウム濃度 ≦120 mmol/Lを「重症 severe」低ナトリウム血症と定義しており、Spasovski らは血漿ナトリウム濃度<125 mmol/L を「重大な profound」低ナトリウム血症と定義している。

重度または重大なの生化学的低ナトリウム血症の患者では多くの場合で症状があるが、症状の重症度が必ずしも生化学的重症度と相関するわけではないことを強調しておく。併存する脳損傷や脳浮腫などの他の因子も神経学的後遺症に影響を及ぼすが、最も重要な決定因子は低ナトリウム血症が進行する速度である。


10-4. 体液量の評価
臨床的体液量の状態
体液量の臨床的評価は、低ナトリウム血症の病因を特定する上で極めて重要なステップである。しかし、これは診断過程の中で最も正確性に欠け、感度および特異度は 50%未満である。

微妙な体液量減少から正常な体液量を区別することは、特に困難である。したがって、最初の体液量評価に基づく治療に対してナトリウム濃度が改善しないか悪化する場合は、当初の診断を再評価する必要がある。


11. 低ナトリウム血症の病因の定義
低ナトリウム血症を引き起こす疾患の範囲は広く、低ナトリウム血症は多くの場合多因子性である。詳細な臨床病歴と注意深い臨床検査が不可欠である。

体液量の臨床評価では感度および特異度に限界があるため、尿浸透圧と尿中ナトリウム濃度の両方を測定することで、診断精度を向上させることができる。臨床検査では腎機能の評価も行うべきであり、正常体液性低ナトリウム血症の場合は、SIADH と診断する前に副腎不全と甲状腺機能低下症の両方を除外しなければならない。

11-1. 尿中ナトリウム濃度
尿中ナトリウム濃度(urinary sodium concentration: UNa)は腎ミネラルコルチコイド活性を反映するため、間接的に有効循環量を反映する。

利尿薬を使用していない場合、UNa <20 mmol/L は、アルドステロンによる腎ナトリウム再吸収促進作用を意味する。このことは、腎外溶質喪失を伴う体液減少性低ナトリウム血症、または二次性高アルドステロン症を伴う体液増加性低ナトリウム血症を示唆している。

尿中ナトリウム濃度の上昇(UNa >30 mmol/L)は、利尿薬の使用、正常体液性低ナトリウム血症、または腎溶質喪失をともなう体液減少性低ナトリウム血症を示す(表5)。

表 5: 体液量と尿ナトリウム濃度による低ナトリウム血症の原因の鑑別
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/table/T5/

また、溶質の摂取量が少ない患者は、体液量が正常であるにもかかわらず UNa が低い場合があることに注意すべきである。

11-2. 尿浸透圧
尿浸透圧は血漿中の AVP 活性を直接反映するため、有用で容易に利用できるバイオマーカーである。

生理学的には、血漿浸透圧が AVP 分泌の浸透圧閾値(約 284 mOsm/kg)以下になると、AVP 分泌が抑制され、最大希釈尿(UOsm < 100 mOsm/kg)となる。したがって、正常体液性低ナトリウム血症で UOsm >100 mOsm/kg の場合は、血漿浸透圧に対して不適切に高い AVP 活性を示している。

尿浸透圧はまた血管内容量が低下する場合にも血圧低下による AVP 分泌の亢進 (baroregulated AVP secretion) により上昇する。

尿浸透圧が低いことは、過剰な水分摂取による希釈性低ナトリウム血症の良い指標である。この場合、水分摂取が抑制されると低ナトリウム血症が急激に回復することを予測できる。

尿浸透圧の上昇(>500 mOsm/kg)は、SIADH 患者における水分制限(fluid restriction: FR)の失敗を予測することが示されている。

11-3. 尿中尿酸排泄率
尿中尿酸排泄率(fraction excretion of uriac acid: FEUA)は、UNa の解釈が困難な利尿薬治療患者において有用である。Fenske らの報告によると、利尿薬による治療を受けていない患者では、SIADH の同定において UNa と FEUA で同等の成績を示したが、利尿薬使用患者では FEUA の方が優れていた。同じ研究で、FEUA >12%は SIADH の陽性適中率が 100%であり、逆に FEUA <8%は SIADH の陰性適中率が 100%であることが報告されている。

11-4. コペプチンと AVP の測定
AVP は、下垂体後葉の神経分泌顆粒で酵素的に切断されて AVP、コペプチン、ニューロフィシンを産生する前駆体ペプチドであるプロバソプレシンに由来する。低ナトリウム血症の鑑別診断において、血漿 AVP 濃度を測定する意味はない。血漿 AVP 濃度は、低ナトリウム血症のすべての原因において上昇することが示されており、測定結果が臨床診断に役立つには時間がかかりすぎる。

コペプチンは AVP と共分泌されるため、血漿 AVP 濃度の代替バイオマーカーとして利用できる可能性があり、浸透圧調節研究において多尿-多尿状態の診断に有用な代用マーカーであることが示されている。

しかし、低ナトリウム血症の鑑別診断におけるコペプチン測定の意義は限定的である。AVP と同様に、コペプチン濃度は低ナトリウム血症の全ての原因で上昇する。


12. 急性または重症の症候性低ナトリウム血症の治療
急性または重症の症候性低ナトリウム血症は、緊急かつ救命的な治療を必要とする医学的緊急事態であり、理想的にはモニター付きの重症治療環境で治療されるべきである。

高張食塩水は、脳浮腫を回復させ脳幹ヘルニアを予防するために、急性または重症の症候性低ナトリウム血症に選択される治療法である。高張食塩水は、ボーラス静注または点滴静注で投与できる。現在、米国と欧州の勧告/ガイドラインはいずれも、急性または重症の症候性低ナトリウム血症に対するボーラス療法を推奨しているが、投与に関するアドバイスには若干の違いがある(表6)。

表 6: 米国および欧州のガイドラインにおける急性あるいは症候性低ナトリウム血症の治療に関する推奨の比較
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/table/T6/

米国の勧告では、血漿ナトリウム濃度が 4-6 mmol/L 上昇することを目標に、100 mL の 3%高張食塩水を 10 分間かけて投与することを推奨している(必要に応じて 2 回まで繰り返す)。低ナトリウム血症の持続時間が 24-48 時間未満であることが明らかな場合、米国の勧告では補正速度を制限する必要はないとされている。しかし、持続時間について疑問がある場合は、慢性低ナトリウム血症ガイダンスに従って補正限度を管理すべきとしている。

一方、欧州のガイドラインでは、症状の有無と重症度に着目し、重度の症状に対しては 150 mL の 3%高張食塩水を 20 分かけてボーラス投与し、血漿ナトリウム濃度を再度確認しながら 2 回目のボーラス投与を行い、治療開始後 1 時間以内に 5 mmol/L の上昇を達成することを目標として推奨している。欧州のガイドラインでも、中等度の重篤な症状がある場合には、3%高張食塩水 150 mL を 1 回ボーラス投与し、24 時間以内にナトリウム濃度が 5 mmol/L 上昇することを目標に治療することが推奨されている。しかし、米国の推奨では、脳幹ヘルニアのリスクが低い軽度~中等度の症状に対しては、体重に応じた高張食塩水点滴が推奨されている。

Garrahy らは、高張食塩水ボーラス投与(米国推奨)を受けた重症症候性 SIADH 患者と高張食塩水持続点滴を受けた患者の臨床的および生化学的転帰を比較した研究結果を報告し、ボーラス投与は持続点滴と比較して、治療開始 6 時間以内の血漿ナトリウム濃度の初期上昇[6 mmol/L(CI 2-11)v.s. 3 mmol/L(CI 1-4), P <0. 0001]、神経学的状態の改善[Glasgow Coma Scale(GCS)の変化中央値 3 vs 1, P <0.0001]が、持続点滴と比較して治療開始後 6 時間以内に認められたと報告している。ボーラス投与群における血漿ナトリウムの有益な早期上昇は浸透圧性脱髄を伴わず、24 時間後の血漿ナトリウムは両群で同程度であった。

Baek らは、症候性低ナトリウム血症の治療に対する高張食塩水のボーラス投与(欧州ガイドラインによる)と持続点滴のランダム化比較試験である SALSA 試験の結果を発表した。この研究では、体液量減少、副腎機能不全、サイアザイドの使用を含む多様な病因 (ただし、原発性多飲症を除く) による症候性低ナトリウム血症患者 178 人を対象とした。この研究では、高張食塩水のボーラス投与を受けた患者は、持続注入療法を受けた患者よりも 1 時間以内に早期に目標血漿ナトリウム上昇を達成する可能性が高かったと結論している。SALSA 試験における治療前の GCS スコアの平均は 14 点であり、治療前の GCS スコアの中央値が 12 点であった Garrahy らのコホートと比較して、重症の低ナトリウム血症を呈した参加者は 25%に過ぎなかったことは注目に値する。

Garrahy らは、(米国の推奨に従って)100 mL の 3%高張食塩水のボーラス投与を受けた患者、特に 3 回目のボーラス投与を受けた患者は、持続注入療法を受けた患者よりも、血清ナトリウム濃度の過剰補正を防ぐために 5%ブドウ糖液またはデスモプレシンによる治療を必要とする可能性が高かったと報告している。心強いことに、治療 24 時間後の血清ナトリウム濃度に 2 群間で差はなかった。

逆に、SALSA 試験では、ボーラス療法群に比べて持続点滴群で血清ナトリウムを再度低下させた場合が多く(41.4 v.s. 57.1%, P = 0.04)、ボーラス投与群に比べて持続点滴群で過剰補正の発生率が高かった(24.2% v.s. 17.2%)ことが報告されているが、これは統計学的に有意ではなかった。

全体として、Garrahy らと比較して SALSA 試験では再投与の必要性が高かった(49.4% v.s. 10%)。これは、SALSA 試験では両群に投与された高張食塩水の総量が比較的多かったこと(500 mL 以上)、あるいは Garrahy らのプロトコール(2 時間ごと)に比べて SALSA 試験では血漿ナトリウムモニタリングの頻度が少なかったこと( 6 時間ごと)によると考えられる。

Chifu らによる最近の実臨床観察研究では、欧州のガイドラインに沿って 150 mL の 3%高張食塩水をボーラス投与された患者、特に重症の症候性低ナトリウム血症患者において、過剰補正の割合が高かった(約 47%)ことが報告されており、より少ないボーラス量を使用するか、ボーラスの反復回数を少なくすることで、過剰補正のリスクを低減できる可能性が示唆されている。


13. 慢性または無症候性低ナトリウム血症の治療
中等度から重度の症状がない場合、慢性低ナトリウム血症の管理は根本的な病因に依存し、推奨される治療は体液量に従ってグループ分けされる(表7)。

表 7: 米国と欧州のガイドラインにおける慢性または無症候性低ナトリウム血症の治療に関する比較
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/table/T7/

補正速度は、低ナトリウム血症の持続時間が不明または長期(>48 時間)のすべての患者にとって重要な考慮事項である。欧州のガイドラインでは、治療開始後 24 時間の血漿ナトリウム上昇の上限を 10 mmol/L とし、その後は 8 mmol/L/日とすることを推奨している。米国の勧告では、血漿ナトリウム濃度の上昇を 4-8 mmol/L/日と、より保守的な目標値を提示しており、最大でも 8-12 mmol/L/日である。

慢性肝疾患、低カリウム血症、アルコール過剰、および栄養不良の患者は、ODS のリスクが特に高いため、米国の勧告では、この患者群では補正速度を遅くし、補正の上限を 4-8 mmol/L/日とすることを推奨している。先に述べたカットオフ値は、ナトリウム濃度上昇の目標値ではなく限界値であり、低ナトリウム血症のすべての病因に適用されることを認識することが重要である。

補正速度がこれらの閾値を超えた場合、両勧告/ガイドラインは、さらなる上昇を抑制するために介入し、特に開始時の血漿ナトリウム濃度が 120 mmol/L 未満である場合は、血漿ナトリウム濃度を元の目標限度内に再低下させることを検討するよう助言している。

飲水または 5%ブドウ糖液の静脈内投与により尿中の自由水喪失量を補うことができ、非経口デスモプレシンの投与によりさらなる尿喪失を防ぐことができる。デスモプレシンと自由水喪失量の補充を組み合わせることで、血漿ナトリウム濃度のさらなる上昇を止めるか、または目標血漿ナトリウム濃度まで再低下させることができる。血漿ナトリウムを再低下させる場合は、デスモプレシンを投与し、ナトリウムが目標値(時間枠内の最大許容増加量)に戻るまで低張液(例えば、経口自由水または非経口 5%ブドウ糖)を投与する。この間、血漿ナトリウム濃度を 1 時間ごとにチェックすべきである。

米国の勧告では、過剰補正が起こった場合、脱髄リスクを軽減するためにデキサメタゾンなどの高用量グルココルチコイドを考慮することを示唆しているが、この介入はヒトにおける脱髄リスクの軽減にはまだ証明されていない。


13-1. 血液量減少性低ナトリウム血症
体液量減少性低ナトリウム血症は体液量の増加に反応し、両ガイドラインとも等張輸液の静脈内投与を推奨している。循環血漿量の回復により圧受容器介在性 AVP 分泌が抑制されるため、輸液に反応して尿量が急速に増加(100 mL/時超)しないか、患者を注意深く監視する必要がある。

サイアザイド誘発性低ナトリウム血症では、サイアザイドの中止、低カリウム血症の是正、および輸液量の増加が組み合わさることにより、血漿ナトリウム濃度が急速に上昇する可能性があるため、注意が必要である。

原発性副腎不全による低ナトリウム血症は、高用量のグルココルチコイド補充に反応するが、患者はしばしば重篤な体液不足に陥っているため、大量の等張輸液も必要となる。このような患者では、高用量のグルココルチコイド療法と大量の等張食塩水の併用により、ナトリウムが急速に補正される可能性があり、綿密なモニタリング(および過剰補正を防止するための適切な処置)が必要である。血漿ナトリウム濃度の上昇速度に対する治療目標は、体液減少性低ナトリウム血症においても他の病因と同様に重要である。


13-2. 自液性低ナトリウム血症
低ナトリウム血症が副腎皮質刺激ホルモン欠乏症によって引き起こされる場合、自由水のを回復し、血漿ナトリウムを正常化するには、ステロイドの十分な補充で十分なことが多い。グルココルチコイド欠乏症が疑われる場合は、遅滞なくステロイド補充を開始すべきである。ステロイド補充後に浸透圧性脱髄がごくまれに報告されていることに注意することが重要である。

SIADH の根本的な原因が一過性または可逆性である場合(肺炎や原因となる薬剤を中止した場合など)、原因の治療以上の管理は必要ないかもしれない。しかし、SIADH が慢性的であったり、病因が容易に除去でない場合には、SIADH に特異的なさらなる介入が必要である。

13-2-1. 水分制限
FR は、長年にわたり、臨床における SIADH の治療の主流である。米国および欧州の勧告/ガイドラインでは、第一選択療法として推奨されている。

血漿ナトリウム濃度の上昇に臨床的に有効であるためには、FRは 500 mL/日を超える負のバランスを達成する必要がある。第一選択療法としての位置づけにもかかわらず、最近まで慢性 SIADH 患者における FR の有効性を支持するデータは少なかった。

臨床診療の結果を報告する低ナトリウム血症レジストリ研究の観察データから、FR は SIADH のルーチンの治療において、血漿ナトリウムの上昇を初日にわずか 2 mmol/L しか達成できず、全く治療しない場合と統計的に差がない、あるいは限定的な効果しかないことが示唆された。

Garrahy らは、慢性 SIADH における FR(1000 mL/日)v.s. 無治療のランダム化比較試験において、無治療と比較して 3 日目の血漿ナトリウム上昇の中央値が、わずかではあるが有意に大きい[3 mmol/L(四分位範囲: 2-4 mmol/L)v.s. 1 mmol/L(四分位範囲: 0-1 mmol/L), P = 0.04] と報告している。一方、安全性に関する懸念は報告されていない。また、FR による治療を受けた患者は、治療を受けなかった患者よりも、血漿ナトリウム濃度が 130 mmol/L 以上になる可能性が高かった。

最近の 2 件の研究では、FR と有効性を改善する可能性のある追加的な手段の併用が検討されている。EFFUSE-FLUID 試験では、SIADH (血漿ナトリウム濃度 < 130 mmol/L)の入院患者において、FR 単独、FR とフロセミド、FR とフロセミドおよび経口ナトリウムを比較したが、群間に差はみられなかった。Refardt らは、SIADH の入院患者において、浸透圧利尿を誘発し、自由水の排泄を高めるために、FR と Na-グルコース共輸送体-2 (sodium glucose cotransporter-2: SGLT-2) 阻害薬であるエンパグリフロジンを併用し、FR 単独と比較した。その結果、FR-エンパグリフロジン群では 4 日目に FR 単独群よりも有意に高い上昇を示した(10 v.s. 7 mmol/L, P = 0.04)。両試験とも、FR に対する反応が予想以上に良好であったことを報告している。しかし、両試験において、SIADH の可逆的で自然に軽快する原因(感染、投薬、嘔気)を有する患者が含まれていたことに留意すべきである。

SIADH における FR の反応を予測する因子として、いくつかのものが示唆されている。尿浸透圧が高い (UOsm > 500 mOsm/kg)、または 24 時間尿量が少ない (<1500 mL) ことは、血漿 AVP 活性が高いことを反映しているため、FR に対する反応性が低いことを予測する。加えて、Furst 方程式(尿中ナトリウム+カリウム濃度/血漿ナトリウム濃度)>1 は、FR 単独では効果が期待できないことを示唆している。Cuesta らは、FR で治療された患者の 60%までが、FR に対する反応不良を予測させる特徴を少なくとも1つ持っていると報告しており、このことが報告された FR の比較的緩やかな効果を説明している可能性があると推測している。

13-1-2. バソプレシン受容体拮抗薬
バソプレシン受容体拮抗薬(バプタン, vaptan)は、腎遠位集合管の V2 受容体に競合的に結合することにより、AVP の活性を阻害する。したがって、AVP を介した低ナトリウム血症に対する標的療法となる。

経口の選択的 V2 受容体拮抗薬であるトルバプタンの使用は、SALT 1 および 2 試験において、SIADH と体液増加性低ナトリウム血症の両方に対して有効な治療法であることが示された。

トルバプタン(15 mg/日以上)を投与された患者は、プラセボと比較して、30 日目までに正常ナトリウムを達成する可能性が 2 倍以上高く、この効果は非盲検延長試験である SALTWATER の期間中持続したが、治療を中止すると 1 週間以内に消失した。報告された主な副作用である口渇、ドライマウス、多尿は、この薬剤の作用機序を考慮すれば予期されるものであり、専門医の指導のもとで使用すれば、トルバプタンは全体として安全で忍容性の高い治療法であると思われる。

SALT 試験の発表以来、いくつかの研究で、開始用量として 15 mg のトルバプタンを使用するのは高すぎる可能性が示唆されている。実際には、多くの医師がより低用量で治療を開始し、同様の有効性を認めている。過剰補正は 3.75 mg という低用量でも報告されているため、臨床医は特に初期ナトリウム値が 125 mmol/L 未満の患者ではこのリスクに注意すべきである。バプタンで治療する場合は、過剰補正を防ぐために、血漿ナトリウム濃度を綿密に(6-8 時間ごと)モニターしやすい入院環境で開始すべきである。過剰補正の予防には、患者が飲水できるようにし、体液バランスを綿密にモニターすることが重要である。

コニバプタン (conivaptan) は、デュアルバソプレシン(V1a および V2)受容体拮抗薬であり、正常体液性低ナトリウム血症および体液増加性低ナトリウム血症の入院患者の治療薬として米国食品医薬品局から認可されている。経口薬および非経口薬のいずれにおいても、正常体液性低ナトリウム血症および体液増加性低ナトリウム血症に対する安全で忍容性の高い治療薬であることが示されている。

バプタン療法は、高張食塩水を中止した直後に実施すべきではないが、米国の勧告では、無症候性 SIADH に対する二次治療(FR の失敗後)として推奨されている。一方、欧州のガイドラインではバプタンは推奨されていない。

13-1-3. 尿素
尿素は、溶質摂取量を増加させる安価な方法として、欧州のガイドラインで SIADH 治療の第二選択として推奨されている。

SIADH 患者を対象とした最近の研究では、スポット尿サンプルを用いて溶質摂取量と尿量が少ない患者を同定し、このサブグループの患者には FR の代わりに経口溶質投与が有効である可能性があることを提案している。尿素は、いくつかのヨーロッパで行われた非ランダム化後ろ向き研究において、入院患者と外来患者の両方で有益であると報告されている。

Ure-Na™が米国市場に導入されて以来、後ろ向き研究でも、安全で忍容性の高い治療法であることを示唆されている。

13-1-4. デメクロサイクリン
デメクロサイクリン (demeclocyclin) はテトラサイクリン系抗生物質であり、腎性尿崩症を誘発することによって AVP 活性を打ち消すことにより、SIADH の治療に用いることができる。

しかし、作用の発現が予測できず、腎毒性と光線過敏症の可能性があるため、臨床での使用は制限されており、欧州のガイドラインでは低ナトリウム血症での使用は推奨されていない。

最近のメタ分析では、SIADH におけるデメクロサイクリンの継続的使用を支持する十分な質の高い科学的根拠を見出すことができなかった。

13-1-5. ループ利尿薬
ループ利尿薬を単独で使用した場合は、利尿に伴うナトリウム排泄と AVP の刺激のために有効性は限られる。

ヨーロッパのガイドラインでは、経口尿素に代わる第二選択薬として、低用量ループ利尿薬と経口ナトリウムの併用療法が提案されている。

しかし、EFFUSE-FLUID 試験のデータから、この方法は入院患者において FR 単独よりも有効ではなく、低カリウム血症や急性腎障害などの有害事象の発生率が高いことが示唆された。


14. 体液増加性低ナトリウム血症の治療

体液増加性低ナトリウム血症の治療は、通常、根本的な原因に向けられ、食事による塩分制限、利尿薬、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の阻害(アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン II 受容体拮抗薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)が行われる。バプタン療法は心不全と肝不全の両方で試験されている。

ヨーロッパのガイドラインでは現在、体液増加性低ナトリウム血症に対するバプタンの使用は推奨されていない。しかし、アメリカの推奨では、腎機能が保たれている心不全やネフローゼ症候群において、低ナトリウム血症のために利尿薬が十分に効果を発揮できない場合にはバプタン療法を考慮することが推奨されている。現在、両ガイドラインとも肝硬変におけるバプタンの使用を推奨していない。

15. 低ナトリウム血症と COVID-19
低ナトリウム血症は、急性期病院に入院した COVID-19 の全症例の 10%から 30%で報告されている。低ナトリウム血症は、COVID-19 患者において、人工呼吸の必要性の増加、重症患者への入院、死亡率の増加などの有害な転帰と関連している。最近更新された欧州内分泌学会のガイダンスでは、COVID-19 患者における低ナトリウム血症は、既存のガイドラインに従って治療されるべきであることが示唆されている。


16. 症例への振り返り

16-1. 症例 1
重篤な生化学的低ナトリウム血症に伴う脳浮腫を示唆する重篤な症状が認められたため、集中治療室で10 分間に 100 mL の高張食塩水をボーラス投与する緊急治療を行った。2 回目の高張食塩水のボーラス投与後、血漿ナトリウム濃度は 113 mmol/L から 118 mmol/L に上昇し、それにともない神経学的状態も改善した。

彼女はアルコール過剰と栄養不良の既往があるため、ODS のリスクが高いと判断され、血漿ナトリウムの目標上昇率は 4-6 mmol/L/日、最大 8 mmol/L/日に設定された。尿量の増加が認められ、4 時間後の採血では血漿ナトリウム 121 mmol/L であり、過剰補正を認めた。

デスモプレシン(1 μg)を皮下投与してさらなる尿からの自由水の喪失を止め、5%ブドウ糖の静脈内投与を 3 mL/kg/時間で開始した。血漿ナトリウムが 119 mmol/L に戻るまで 1 時間ごとに採血を行い、その後 24 時間、血漿ナトリウ ム<119 mmol/L を維持するために 5%ブドウ糖液の静脈内投与を続けた。SSRI 投薬は中止された。血漿ナトリウムは注意深くモニタリングされ、過剰補正を防ぐための間欠的な 5%ブドウ糖液注入を繰り返しながら、数日間かけて 136 mmol/L に戻った。

16-2. 症例2
新たに肺小細胞癌と診断され、SIADH と診断された。1000 mL/日の FR を開始し、ナトリウムが 132 mmol/L まで改善した後、退院した。

数カ月後、数回の転倒により入院となった。尿素 2.7 mmol/L、クレアチニン 84 μmol/L、ナトリウム 122 mmol/L、カリウム 4.6 mmol/L、UNa+ 39 mmol/L、UOsm 573 mOsm/kg であった。臨床的には体液量は正常だった。

画像診断で新たな転移病変が発見され、入院してトルバプタン 7.5 mg 内服を開始した。FR は中止され、喉の渇きに応じて飲むように勧められた。尿量は増加し、血漿ナトリウムは 6 時間後に 125 mmol/L、12 時間後に 129 mmol/L まで上昇した。この時点で、尿中の自由水分喪失を補い、血漿ナトリウムのさらなる上昇を抑えるため、5%ブドウ糖液の静脈内投与が開始された。その後 3 日間で、血漿ナトリウムは 133 mmol/L まで上昇し、トルバプタン 7.5 mg を隔日で服用することで安定した状態を維持した。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9282351/
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「電解質異常」カテゴリーもっと見る