内分泌代謝内科 備忘録

感染性心内膜炎  後編

感染性心内膜炎
Nat Rev Dis Primers 2016; 2: 16059
doi: 10.1038/nrdp.2016.59.

10. 起炎菌別の問題

10-1. 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌関連 IE に対する抗菌薬療法の選択において重要なのは、分離株がメチシリン耐性(methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA)かメチシリン感受性(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus: MSSA)かということである。

観察研究のデータから、バンコマイシンで治療された MSSA 血流感染症患者の転帰はより悪いことが示唆されている。経験療法として β-ラクタム系抗菌薬を使用する必要があるかどうかは不明であるが、小規模な後ろ向き研究では有益性の可能性が示唆されている。MSSA 菌血症患者 5,000 人以上を対象とした最近のコホート研究では、MSSA が同定された後の確定的治療には β-ラクタム系抗菌薬が優れているが、経験的治療には適していないことが示唆されている。

医療従事者は、ペニシリンアレルギーの報告がある患者への β-ラクタム薬の処方を避けるかもしれない。しかし、ペニシリンアレルギーを報告された患者のうち、皮膚テストを実施した場合、そのほとんどが真のアレルギーではなく、MSSA 菌血症と IE の治療に関する決定分析では、皮膚テストは費用対効果が高いと思われた。

MRSA IE に対しては、バンコマイシンが歴史的に選択されてきた抗菌薬であり、現在でも治療ガイドラインの第一選択薬である。最近の報告では、数十年にわたって使用されてきた黄色ブドウ球菌に対するバンコマイシンの最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC)が上昇しているのではないかという懸念が提起されている。

バンコマイシンの MIC が上昇すると、感受性に分類される分離株であっても、MRSA 菌血症の転帰が悪化する可能性があるが、メタ分析ではこの可能性は支持されていない。クロキサシリンによる治療を受けた左心系 MSSA IE 患者 93 人の前向きコホート研究では、バンコマイシンの投与を受けていない患者であっても、バンコマイシン MIC が高い(1.5 mg/L 以上)ことは死亡率の増加と関連していた。このことを考慮すると、バンコマイシン MIC の高値は、転帰を悪化させる宿主特異的または病原体特異的な因子の代用マーカーである可能性がある。

臨床医は、バンコマイシンの MIC が 1.5 mg/L 以上の MRSA IE に対して、別の抗菌薬を使用することをを検討しても良いが、バンコマイシン以外の抗菌薬を使用することにによって死亡率が低下するかどうかについては判断するためのデータが不足している。最終的には、MIC とは無関係に、患者の臨床的な治療反応性によってバンコマイシンを継続して使用するかどうかを決定すべきである。

ダプトマイシン (daptomycin) は、成人の黄色ブドウ球菌菌血症および右心系 IE に対する治療薬として FDA に承認されており、MRSA IE に対するバンコマイシンの代替薬として使用できる。IE に対する FDA の承認用量は 1 日 1 kg あたり 6 mg であるが、多くの専門医は、黄色ブドウ球菌菌血症および IE に対するダプトマイシンと標準療法を比較した第 III 相臨床試験において、約 5%(ダプトマイシン治療患者 120 人中 7 人)に発生した治療惹起性耐性の懸念から、より高用量(1 日 1 kg あたり 8-10 mg など)を使用している。ダプトマイシンはこのような高用量でも安全で有効であるようである。

ゲンタマイシンは、ブドウ球菌性 NVIE に対しては推奨されない。なぜなら、ゲンタマイシンは腎毒性を伴い、臨床的有用性を裏付ける確実なデータがないからである。同様に、リファンピンも副作用や菌血症の延長と関連しているため、NVIE の補助療法としては推奨されず、骨関節感染症を併発しているなど別の適応がない限り、ブドウ球菌性 NVIE では使用を避けるべきである。ブドウ球菌性 PVIE に対しては、ゲンタマイシンとリファンピンの両方の使用を支持する弱いエビデンスがある。黄色ブドウ球菌性菌血症に対するリファンピン併用療法の役割を検討する大規模臨床試験は、最近登録が完了した。

他の抗菌薬の組み合わせについても観察データが報告されている。例えば、セフタロリン (ceftaroline) は MRSA に対して活性のあるセファロスポリン (cephalosporin) 系抗菌薬であり、IE のサルベージ療法として単独または他の抗ブドウ球菌抗菌薬との併用で使用されている。バンコマイシンやダプトマイシンと他の β-ラクタム系抗菌薬やトリメトプリム-スルファメトキサゾールとの併用、ダプトマイシンとホスホマイシンとの併用、ホスホマイシンと β-ラクタム系抗菌薬との併用など、MRSA 菌血症においてヒトでのデータは限られているものの in vitro で相乗効果を認める組み合わせもある。

コアグラーゼ陰性ブドウ球菌に対する推奨される治療レジメンは、黄色ブドウ球菌に対するものと同じである。

10-1. 溶連菌 (Streptococci)
溶連菌 IE に対する標準治療は、β-ラクタム系抗生物質(ペニシリン [penicillin]、アモキシシリン [amoxicillin]、セフトリアキソン [ceftriaxone] など)を 4 週間投与することである。連鎖球菌性 NVIE に対しては、アミノグリコシド系抗生物質をセフトリアキソンと併用して 1 日 1 回投与することで、2 週間の治療期間を短縮できる可能性がある。ペニシリンまたはセフトリアキソンの MIC が上昇した溶連菌分離株には、ゲンタマイシンを追加すべきである。

10-3. 腸球菌 (Enterococci)
抗菌薬が使われ始めた時代から、臨床医はペニシリンが溶連菌よりも腸球菌に効きにくいことに着目し、アミノグリコシドとの併用療法が推奨されていた。これは現在でも標準的な治療法であるが、アミノグリコシド耐性菌の増加や、このクラスの抗菌薬に関連する毒性により、別の治療法を見つける努力が続けられている。

最近のデータでは、アンピシリンとセフトリアキソンの併用は、特にアミノグリコシド耐性の患者や、アミノグリコシドによる腎毒性が懸念される患者において、アンピシリン感受性 E. faecalis による IE に有効である可能性が示唆されている。バンコマイシン耐性腸球菌 IE は幸いまれであるが、リネゾリド (linezolid) とダプトマイシンで治療が成功している。

10-4. その他の病原体
HACEK グループ細菌(Haemophilus 属、Aggregatibacter 属、Cardiobacterium hominis、Eikenella corrodens、Kingella 属)は、歴史的にアンピシリンで治療されてきた。しかし、β-ラクタマーゼを産生する HACEK が問題になってきている。また、感受性検査で β-ラクタマーゼ産生 HACEK を同定できないことがある。したがって、HACEK はアンピシリン耐性と考えるべきであり、セフトリアキソンが望ましい。これらの菌に対する治療期間は、一般的に 4 週間で十分である。

非 HACEK グラム陰性桿菌による IE はまれである。そのため、これらの菌による IE に対する最適な治療は不明である。多くの症例では、心臓手術と長期間の抗菌薬治療の併用が妥当な戦略と考えられている。

真菌 IE もまれであるが、予後は不良である。弁膜症手術がしばしば採用されるが、このアプローチが転帰の改善と明確に関連しているとは言えない。アムホテリシン (amphotericin) ベースの薬物療法またはエヒノキャンディン (echinocandin) による初期非経口療法後、特に弁手術を行わない場合は、無期限のアゾール (azole) 療法が推奨される。

10-5. 培養陰性 IE
培養陰性 IE 症例の治療は特に難しい。血液培養が陰性になる原因で最も多いのは、1. 血液培養を採取する前に患者が抗菌薬を投与されたことであるが、2. 不適切な微生物学的技術、3. 培養が難しい細菌が起炎菌である場合、あるいは 4. marantic や Libman-Sacks IE などの疣贅の非感染性の原因によって生じることもある。

衰弱性心内膜炎 (marantic endocarditis)
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/04-%E5%BF%83%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%BF%83%E5%86%85%E8%86%9C%E7%82%8E/%E9%9D%9E%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E5%BF%83%E5%86%85%E8%86%9C%E7%82%8E#%E7%97%85%E5%9B%A0_v939729_ja

Libman-Sacks 型心内膜炎
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532864/

このような症例における抗菌薬の選択には、複数の抗菌薬を使用することによる副作用の可能性と、可能性のある全ての病原体に対する経験的治療の必要性とのバランスをとる必要がある。このような症例では、「真の」培養陰性 IE(つまり、ルーチンの血液培養では増殖しないまれな病原体)の可能性を調べることで、病因が判明する可能性がある。

11. 手術
複雑な IE 症例の多くでは、手術が治療の重要な要素であるという一般的な意見に沿って、早期の弁置換術や弁修復術の実施率は時代とともに増加している。しかし、この治療法のエビデンスはまちまちである。ある無作為化試験では、早期手術によって院内死亡と塞栓イベントの複合転帰が有意に減少することが示された。これは革新的な知見であるが、一般化できるかどうかには疑問がある。研究対象者は、一般の医療機関で遭遇する現代の IE 患者よりも若く、健康で、病原性の低い病原体(例えば VGS)に感染していた。ほとんどの IE 患者に対して、手術の推奨は観察研究と専門家の意見に基づいている。

弁膜症手術の主なコンセンサス適応は、心不全、制御不能な感染症、ハイリスク患者における塞栓イベントの予防である。管理されていない感染症は、膿瘍、肥大した疣贅、人工弁の剥離などの弁周囲の合併症に関連している可能性がある。

さらに、適切な抗菌薬治療にもかかわらず、発熱が続いたり、血液培養が陽性になったりして、全身性の感染が進行することで、制御不能な感染が顕在化することもある。左心系の大きい疣贅がある場合、塞栓イベントにつながりやすいため、長さ 10 mm を超える疣贅を有する IE は外科的介入の相対的適応である。

IE と神経血管合併症を有する患者の心臓手術の時期については、依然として議論の余地がある。出血性転化を伴わない脳梗塞を合併した IE 患者 857 人を対象とした大規模な前向きコホート研究によると、手術を遅らせても患者の利益は得られなかった。対照的に、出血性転化を合併した脳塞栓患者では、出血イベントから 4 週間以内に手術を行った場合、手術を遅らせた場合と比較して死亡率が高かった(それぞれ 75% 対 40%)。これらの観察データに基づき、AHA は現在、脳梗塞や潜在性脳塞栓を有する IE 患者において、画像検査で頭蓋内出血が除外され、神経学的障害が重度(昏睡など)でなければ、遅滞なく弁膜症手術を考慮することを推奨している。広範囲の脳梗塞または頭蓋内出血のある患者において、AHA ガイドラインは現在、弁膜症手術を少なくとも 4 週間遅らせることが妥当であるとしている。

弁膜症手術は従来、緑膿菌、真菌、β-ラクタム耐性ブドウ球菌などの治療困難な病原体に対して推奨されてきた。しかし、このような病原体別の手術推奨は、最近は疑問視されており、血行動態や構造的な適応に基づく個別化された意思決定アプローチに取って代わられている。

12. その他の補助療法
12-1. 抗凝固療法
経口抗凝固薬を投与されている PVIE 患者は、脳出血による死亡リスクが増加する可能性がある。抗血小板療法は現在 IE には推奨されていない。IE 患者に対する 1 日 325 mg のアスピリンの役割を検討した 1 件の無作為化試験がある。塞栓イベントの発生率はアスピリン投与群とプラセボ投与群で同等であり、脳出血エピソードの発生率は有意ではなかった。しかし、アスピリンの使用量やアスピリンの投与開始の遅れなど、この研究にはいくつかの限界がある。抗血小板療法に別の適応がある患者では、出血性合併症が生じない限り抗血小板薬を継続するのが妥当であろう。IE を治療する目的でワルファリンなどの抗凝固療法を開始することは推奨されない。機械弁のような抗凝固療法の別の適応がある IE 患者では、急性期治療中に抗凝固療法を継続するかどうかに関するデータは矛盾しており、ヘパリン製剤によるブリッジング療法については研究されていない。

12-2. 転移病巣の管理
転移性感染病巣は IE に合併することが多い。他の感染症同様、膿瘍のドレナージや感染したデバイスの除去など、的を絞った介入を行うためには、このような感染巣を認識することが重要である。持続的な感染源は、最近設置された人工弁 (prosthetic valve) や僧房弁輪リング (annuloplasty ring) の感染源となる可能性があるため、弁膜症手術を必要とする患者において、このことは極めて重要である。

annuloplasty
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/22224-annuloplasty

椎骨骨髄炎のような一部の転移巣では、IE に通常適応される以上の追加の抗菌薬治療が必要になることがある。現在のところ、すべての IE 患者に対して転移巣を検索する目的の画像検査を行うべきかどうかについては十分なエビデンスがない。

13. 治療終了時のケア
現代における IE 患者のほとんどは治癒しており、最終的にはどのようにフォローアップするかを考えられるようになっている。

フォローアップの要素としては、1. 抗菌薬治療終了時に心エコー検査を行い、その後の比較のための新たなベースラインを確立すること、2. 注射薬の乱用者には薬物中止プログラムを紹介すること、3. 徹底的な歯科的評価を行うことなどが挙げられる。病原体が最初に侵入した入り口を包括的に探索することで、IE の再発を最小限に抑えることができる。ある単一施設における前向き研究では、318 人の患者のうち 74%で、系統的な検索により病原体の侵入経路が明らかになった。

抗菌薬治療終了時の定期的な血液培養は、活動性感染の徴候がない患者での陽性率が非常に低いことから、推奨されない。患者はまた、再発、心不全の発症、アミノグリコシドによる聴力毒性やクロストリジウム・ディフィシル感染の発症などの抗菌薬治療の合併症を含む、IE の合併症についてモニターされるべきである。

14. 生活の質
致死的となりうる感染症と診断されることに伴うストレスに加え、IE 患者は長期入院や治療による副作用を日常的に経験し、何度も侵襲的な処置を受ける。

例えば、左心系 IE の治療には長期にわたる抗菌薬静脈内投与が必要であり、これは長期にわたる静脈路確保を伴うため、患者の QOL(Quality of Life, 生活の質)をおそらく低下させる。これらの要因が退院後の患者の QOL をどの程度損なうかは、これらの問題を扱った研究が少ないため、よくわかっていない。

加えて、生命を脅かす疾患は心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder: PTSD)を引き起こす可能性があり、これはさまざまな生命を脅かす感染症の生存者において患者の幸福を損なうことが示されている。

左弁膜症生存者の QOL に関するある研究では、86 人の対象者のうち 55 人が退院後 3 ヶ月と 12 ヶ月のアンケートに回答し、さらに 12 人の患者が 12 ヶ月のアンケートのみに回答した。健康関連 QOL は SF-36 と PTSD 質問票を用いて測定された。本研究では、55 例中 41 例(75%)、67 例中 36 例(54%)が抗菌薬治療終了 3 ヵ月後、12 ヵ月後も身体症状を有していた。最も多かった症状は、手足の脱力(51%)、疲労(47%)、集中力障害(35%)であった。退院 1 年後も PTSD に罹患していた患者は 64人中 7 人(11%)であった。IE 時に 60 歳以下であった 37 人の患者に就労状況について質問した。IE の前に、30 人 (81%) の患者が雇用され、働いていた。3 ヵ月後と 12 ヵ月後には、それぞれ 31 人中 16 人 (52%) と 37 人中 24 人 (65%) が再び働いていた。評価した患者数が少ないため、原因微生物や弁手術などの因子が QOL や PTSD 発症率に及ぼす影響は評価できなかった。僧帽弁手術を受けた IE を伴わない患者を対象に行われたある研究では、手術の種類(置換術と修復術)は患者の QOL に影響を及ぼさなかった。

包括的な心臓リハビリテーションプログラム(通常、運動と教育セッションを含む)が IE を克服した患者の QOL を改善するかどうかは、現在、無作為化臨床試験である CopenHeartIE 研究で検討されている。この研究では、左心(固有または人工弁)または心臓デバイス IE で治療を受けた 150 人の患者が、心臓リハビリテーションまたは通常のケアのいずれかに無作為に割り付けられる。

Rasmussen らは、IE から回復した 11 人の患者の質的評価において、「不十分な生活」という革新的な概念について述べている。患者の中には、新たな生活状況に適応する際の「生活の変化 altered life」を訴える者もおり、それを管理可能で一時的なものと認識する者もいれば、非常に苦痛で長期化すると感じる者もいた。また、患者は、身体的、認知的、感情的に経験した「衝撃的な脱力感 shocking weakness」についても報告している。このような感覚は、一部の患者にはすぐに治まったが、ほとんどの患者は衰弱が持続し、回復期が長引くことに不満を感じていた。最後に、患者は、回復を促進するためには、自分自身の行動だけでなく、親族や医療従事者からの支援が重要であることを表明した。この独創的な研究から、IE の潜在的な身体的・精神的影響に対処する患者の能力をサポートするフォローアップケアの研究の必要性が示唆された。

この問題に関するデータが乏しいことから、IEが患者の QOL に与える影響を明らかにするためには、今後の研究が必要である。IE QOL の今後の研究で優先される可能性のある項目を Box 2 に示す。

Box 2. 感染性性心内膜炎の生活の質に関する研究における優先課題

15. 展望
15-1. 治療
今後の IE に対する治療は実用主義が重視されるであろう。例えば、長期の静脈アクセスを避ける左心系 IE に対する効果的な治療戦略は重要な進歩であろう。少なくとも 2 つの無作為化臨床試験が、標準的な抗菌薬静脈内投与コースの一部を経口抗菌薬に「ステップダウン」することの有効性と安全性を検証している。さらに、新たに承認された 2 種類の抗ブドウ球菌抗菌薬、ダルババンシン (dalbavancin) とオリタバンシン (oritavancin) は、いずれ IE に対する現在の標準的な静脈内治療の代替となるかもしれない。

この方針に沿って、Partial Oral Treatment of Endocarditis(POET)研究は、非劣性、多施設、前向き、無作為化、非盲検試験デザインを用いて、左心系 IE において抗菌薬治療の一部を経口治療に置き換えることは全治療期間を静脈内投与で治療した場合と同様に安全で有効であるという仮説を検証している。連鎖球菌性、ブドウ球菌性、または腸球菌性の大動脈弁または僧帽弁 IE を有する安定した患者 400 人を、4-6 週間の抗菌薬の静脈内投与を受ける群と、最低 10 日間抗菌薬を静脈内投与し、その後経口投与に切り替える群に無作為に割り付ける。患者は抗菌薬治療終了後 6 ヵ月間フォローアップされる。主要エンドポイントは、全死亡、予定外の心臓手術、塞栓イベント、主要病原体による血液培養陽性の再発の複合である。非劣性マージンは 10%である。

RODEO 試験では、同じ主要エンドポイントを用いて、左心系 IE に対する経口療法への切り替えの影響も評価する。この試験では、MSSA による IE を発症した 324 人の被験者が、少なくとも 10 日間の抗菌薬の静脈内投与を受け、その後、4-6 週間の静脈内投与を完全に終了する群と、レボフロキサシンとリファンピンを少なくとも 14 日間追加で経口投与する群に無作為に割り付けられる。

ダルババンシンとオリタバンシンは、急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症(acute bacterial skin and skin structure infections: ABSSSI)の治療薬として 2014 年に食品医薬品局 (the Food Drug Agency: FDA) から承認されたリポグリコペプチド (lipoglycopeptide) クラスの抗菌薬であり、IE に対する静脈内治療の新しい選択肢となる可能性がある。重要な特性は、半減期が推定 10-14 日と極めて長いことであり、これにより投与頻度を減らすことができる。ダルババンシンは ABSSSI の治療薬として FDA から承認されており、1500 mg の単回投与、または 1 日目に 1 g を負荷投与し、1 週間後に 500 mg を点滴静注する 2 回投与が可能である。オリタバンシンは ABSSSI の治療薬として、1200 mg の 3 時間単回点滴静注が承認されている。このような投与方法により、最終的には外来抗菌薬静注のための在宅医療 (home health) や看護施設 (skilled nursing facility) へのケアが不要になるかもしれない。現在のところ、IE におけるこのような治療戦略の有効性に関するデータはないが、ある第 I 相試験では、ダルババンシンを初日に 1000 mg 投与し、その後毎週 500 mg を 7 週間追加投与した場合の薬物動態は良好であった。ダルババンシンはカテーテル関連血流感染についても研究されている。ダルババンチンやオリタバンチンのような長期間の静脈路確保を必要としない治療法は、注射薬乱用患者や静脈路確保の選択肢が限られている患者の IE 治療に特に有利である可能性がある。

15-2. 感染性心内膜炎の主要な起炎菌に対するワクチン
IE を治療する最善の方法は IE を予防することである。現在のところ、IE 予防については感染制御と歯科予防に力を入れられているが、IE の主な起炎菌を標的としたワクチン開発にもかなりの資源が投入されている。しかし、その成功例は様々であり、現在市販されているものはない。それでも、将来の IE に対する予防戦略にはワクチンが含まれる可能性が高い。VGS や C. albicans のような病原体のワクチン候補は動物モデルで評価されているが、IE の原因をターゲットとしたワクチンのヒトでの研究は主に緑膿菌、B 群連鎖球菌、黄色ブドウ球菌に限られている。

15-3. 黄色ブドウ球菌感染症に対する受動的免疫化戦略
少なくとも 10 件の研究が、菌血症を含む黄色ブドウ球菌感染症の予防や治療のためのワクチンや免疫治療薬の試験は少なくとも 10 件ある(表 6)。

これまでの取り組みでは、既存の抗体による受動的免疫と、古典的なワクチンデザインで宿主の抗体反応を刺激する能動的免疫の 2 つのアプローチが追求されてきた。

2 つの受動的免疫化戦略が試みられている。ひとつは標準治療に加えて補助的に行う活動性ブドウ球菌感染症の治療であり、もうひとつは感染発症のリスクが高いと考えられる患者におけるブドウ球菌感染症の予防である。それぞれのアプローチには長所と限界がある。両群とも標準治療が行われるため、サンプルサイズが比較的小さく、登録が比較的容易であるというデザイン上の利点があるが、FDA 承認のためには標準治療に対する優越性を証明する必要がある。現在までに 3 つの免疫療法化合物が黄色ブドウ球菌感染症患者の治療補助薬として評価されているが、いずれも有効性は証明されていない。4 番目の化合物である 514G3 は現在、入院中の黄色ブドウ球菌感染症患者を対象とした第 II 相安全性・有効性試験で評価中である。

15-4. 黄色ブドウ球菌感染症に対する積極的免疫戦略
黄色ブドウ球菌に対する積極的免疫として、2 つの黄色ブドウ球菌ワクチン候補が第 III 相臨床試験で評価されている。3 つ目の登録試験が進行中である。これら 3 つの試験はすべて、血液透析(Staphvax ワクチン試験)、心臓手術(V710 ワクチン試験)、脊椎手術(SA4Ag ワクチン試験)を受けている患者など、黄色ブドウ球菌感染のリスクが高い特定の成人集団を対象としている。

Staphvax は莢膜蛋白質 (capsular protein) 5 と 8 に対する二価ワクチンで、内シャント (primary fistula) または人工グラフトのバスキュラーアクセスを有する 1804 人の血液透析患者で試験された。Staphvaxの投与は、ワクチン接種後 40 週目の黄色ブドウ球菌による菌血症の発生率を統計学的に有意に減少させたが(有効率 57%、p = 0.02)、事前に規定したエンドポイントであるワクチン接種後 54 週目の黄色ブドウ球菌による菌血症の発生率を有意に減少させることはできなかった。そこで、3600 人の血液透析患者を対象としたStaphvax の 2 回目の試験が実施された。この 2 回目の試験では、主要評価項目は 6 ヵ月後に設定された。残念なことに、この未発表の試験でも黄色ブドウ球菌血症の発症予防効果は証明されなかった。

V710 は細胞壁構成性鉄調節タンパク質 (cell wall-constitutive iron regulatory protein) IsdB を標的とするワクチンで、胸骨正中切開を受けた患者を対象に試験が行われた。有効性が認められず、また V710 を投与された患者では多臓器不全に関連した死亡率が高かったため、約 8000 人の患者が登録された後に試験は中止された。事後解析では、V710 を投与され、その後黄色ブドウ球菌に感染した患者の死亡率は、対照投与を受け、その後黄色ブドウ球菌に感染した患者の死亡率の約 5 倍であった(100 人年当たり 23.0 対 4.2)。この死亡率増加の理由は不明である。

SA4Ag ワクチンの第 IIb 相試験が開始されている。この試験は、待機的な腰椎後方固定術を受ける患者を対象に、黄色ブドウ球菌感染を標的としたワクチンの有効性と安全性を検証するものである。これまでの黄色ブドウ球菌ワクチンのアプローチとは異なり、このワクチン候補には 4 つのエピトープが含まれている。すなわち、ClfA、MntC、莢膜多糖体 5 と 8 である。

他に少なくとも 2 つの黄色ブドウ球菌ワクチン候補が前臨床開発後期にある。NDV-3 ワクチン候補は、C. albicans agglutin-like sequence 3 protein (Als3p) の N 末端部分を水酸化アルミニウムアジュバントで製剤化したものである。前臨床試験では、Als3p ワクチン抗原が C. albicans と S. aureus の両方の粘膜皮膚および静脈内チャレンジからマウスを保護することが示された。このワクチンは、健康な成人においても安全で免疫原性が高いことが示されている。最近では、5 つの既知の黄色ブドウ球菌の病原性決定因子(α-ヘモリシン(Hla)、ess extracellular A(EsxA)、ess extracellular B(EsxB)、表面タンパク質である ferric hydroxamate uptake D2 と conserved staphylococcal antigen 1A)を標的としたマルチサブユニットワクチンが報告された。新規の Toll 様受容体 7 依存性アゴニストと併用すると、この 5 つの抗原は、動物モデルにおいて、黄色ブドウ球菌に対する Th1 主導型の高い防御効果を示した。

結論
1800 年代後半にオスラーがその基本的な疾病メカニズムを解明して以来、多くの変化があったが、IE は依然として高い死亡率を示し、生存者の QOL に多大な影響を及ぼす疾患である。しばらくは、医療関連 IE は IE の疫学に反映され続けるだろう。

IE の診断アルゴリズムの改善には、特に血液培養陰性症例に対する新しい微生物学的手法が取り入れられるであろう。画像診断技術は今後も進歩し続け、IE が疑われる患者のうち、どの患者に TOE を行うべきか、また、どの患者に新しい画像診断法が有効かを明確にするためのさらなる研究が必要である。

新しいグラム陽性球菌用抗菌薬は有望であるが、IE ではまだ試験されていない。有効性が証明されれば、よりシンプルで患者に優しい治療レジメンが可能になるかもしれない。

IE の予防をめぐる議論は、予防戦略についてのランダム化比較試験が発表されるまで続くと思われる。ワクチン開発ではまだ有効で市販可能なものは得られていないが、多数の候補が開発中である。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5240923/
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