内分泌代謝内科 備忘録

帯状疱疹の臨床像と治療

帯状疱疹の臨床像と治療
Viruses 2022; 14: 192

水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus: VZV)またはヒトヘルペスウイルス 3 (human herpes virus 3) は、水痘 (varicella/chickenpox) および帯状疱疹(herpes zoster: HZ/shingles)の原因となる神経向性 (neurotropic) のヒト α-ヘルペスウイルスである。

この総説では HZ に焦点を当てる。HZ は水痘に続発するため、その発症率は年齢とともに増加する。小児や若年者では、HZ はまれであり、代謝障害や腫瘍性疾患と関連している。成人では、高齢、衰弱、他の感染症(AIDS や COVID-19 など)、免疫抑制が最も一般的な危険因子である。最近、COVID-19 ワクチン接種後に HZ の再活性化が認められている。

本疾患は、様々な臨床症状を示す異なる臨床病期を示す。いくつかの症状は合併症の危険性が高い。考えられる合併症の中で、慢性疼痛疾患である帯状疱疹後神経痛 (postherptic neuralgia) は最も頻度の高い疾患の一つである。HZ 血管炎は死亡率上昇と関連している。その他、腎臓および胃腸の合併症が報告されている。

治療の基本は、アシクロビル (acyclovir) またはブリブジン (brivudine) による早期介入である。セカンドラインの治療も行えるようになっている。疼痛管理は不可欠である。二次予防として、現在、健康な高齢者には弱毒生 VZV ワクチンと組換えアジュバント VZV 糖蛋白 E サブユニットワクチンの 2 種類の HZV ワクチンが使用可能である。後者は重度の免疫抑制患者にも接種可能である。

この総説では、HZ の症状とその管理に焦点を当てる。HZ に関する論文はいくつか発表されているが、特に合併症のある患者や免疫不全患者に関しては、知見が集まり続けている。COVID-19 パンデミックにおいて、ワクチン接種後の VZV の再活性化は重要な論点として浮上してきた。本総説の目的は、HZ の臨床像、合併症、管理に関する最新の情報を議論することである。

1. 病因
VZV は α-ヘルペスウイルス属に属する神経向性ヒトヘルペスウイルスである。世界中に分布している。このウイルスは一次感染の結果起こる水痘および潜伏感染の再活性化の結果起こる HZ の原因である。

VZV ゲノムは約 125,000 塩基対の直鎖二本鎖 DNA からなり、ヌクレオカプシドは 162 個のカプソマー (capsomer) からなる。このウイルスは細胞特異性が高く、上皮細胞、T リンパ球、神経節ニューロンなどのヒト細胞にのみ感染する。ウイルスはヘパラン硫酸プロテオグリカンとグリコーゲン合成酵素キナーゼ 3(glycogen synthase kinase 3: GSK-3)を介して神経細胞に侵入する。ウイルスのコア糖タンパク質 B、H、L はコア融合複合体に関与している。新しいウイルス粒子は、細胞侵入後 9-12 時間で放出される。

水痘は、小水疱性水痘病変からの飛沫または塗抹液による気道接触で感染し、最も感染力の強いヒト疾患の 1 つである。最初のウイルス複製は気道で起こり、続いて局所のリンパ節に侵入する。最終的には、小水疱性皮疹を伴うウイルス血症が発生する。これらの病変は、初期の小水疱形成から痂皮性病変、場合によっては瘢痕に至るまで、さまざまな段階の多彩な像を呈する。

水痘の潜伏期間は 10-21 日である。水痘は、皮疹が生じる 1-4 日前から、すべての小水疱性皮疹が痂皮化まで伝染性がある。

妊娠中の水痘感染は胎盤を介して伝播し、胎児感染を引き起こす可能性がある。胎児への水痘感染は、播種性の生命を脅かす疾患につながる。ワクチン接種は胎児を保護する。

妊娠中の水痘感染は胎盤を介して伝播し、胎児感染を引き起こす可能性がある。胎児への水痘感染は、播種性の生命を脅かす疾患を来たし得る。ワクチン接種は胎児を保護する。

HZ は小児ではまれであるが、カナダの研究で示されたように、水痘ワクチン接種後の小児の HZ リスクは 64%減少する可能性がある。若年者の水痘ワクチン接種は、加齢による HZ リスクを減少させないようである。

一次感染後、VZV ウイルスは神経組織に潜伏する。VZV は後根神経節、脳神経節、腸神経系のさまざまな自律神経節、およびアストロサイトで検出されている。神経細胞で高発現しているネクチン-1 (nectin-1) は、軸索や細胞体へのウイルス侵入に関与しているようである。

VZV に感染した神経細胞は、Bcl2 や Bcl-XL などの抗アポトーシスタンパク質を過剰発現する。VZV の潜伏期は、オープンリーディングフレーム(open reading frame: ORF)63 と関連している。VZV の潜伏期間は主に細胞性免疫によって制御されており、再活性化はこのような免疫監視が失われた結果と考えられている。

再活性化すると、VZV は神経細胞の細胞体内で複製する。次の段階で、ウイルス粒子は細胞体から神経を伝って関連する皮膚分節に排出される。罹患皮膚では、ウイルスが炎症と小水疱形成を引き起こす。HZ による痛みは、VZV に侵された神経の炎症によるものである。母体の特異的抗体は胎盤を通して胎児に移行するので、HZ は発育中の胎児には危険を及ぼさない。

2. 疫学
HZ は季節変動なく世界中で発生する。HZ の発症率は年齢に依存し、若年者では年間 1000 人あたり 1.2-3.4 人、高齢者(すなわち 65 歳以上)では年間 1000 人あたり 3.9-11.8 人である。2002-2018 年の研究の系統的レビューによると、累積罹患率は人口 1000 人あたり 2.9-19.5 人と推定されており、女性が優位である。

HZ の一般的な危険因子は、50 歳以上、免疫抑制、感染症、精神的ストレスである。2021 年 1 月までの 16 件の研究についてのメタアナリシスでは、糖尿病患者もリスクが高いことが確認されている(プール相対リスク:1.38;95%信頼区間(confidence interval: CI):1.21-1.57)。

最近(2021 年)発表されたインドの研究では、小児 HZ と巨赤芽球性貧血との有意な関連が報告されている。巨赤芽球性貧血の主な原因は、ビタミン B12 または葉酸の欠乏である。

Global Burden of Disease データベースによると、65 歳以上の患者における HZ による死亡率は、人口 10 万人あたり 0.0022-82.21 人である。ドイツの 2007 年と 2008 年の HZ 外来患者発生率データによると、HZ の年間死亡率は、患者数10万人当たり 0.29 人(女性)と 0.10 人(男性)と推定されている。

報告の違いによる疫学データの異質性に注意することが重要である。効率的で効果的な報告システムのない国では、効率的な報告システムのある国よりも数値が低いとは限らない可能性がある。

3. 臨床病期
臨床症状は、発疹前 (pre-eruptive)、急性滲出性 (acute exudative)、および慢性 (chronic) の 3 段階で現れる。発疹前段階では、皮膚発疹の少なくとも 2 日前に、罹患皮膚部の灼熱感または疼痛を呈する。頭痛、全身倦怠感、羞明などの非皮膚症状がみられることもある。

急性発疹期には、多発性の臍窩を有する (umbilicated) で有痛性の小水疱が形成される。小水疱はしばしば破裂し、潰瘍化し、最終的には乾燥する。これは最も伝染性の強い段階である。痛みはしばしば強く、非ステロイド性鎮痛薬には反応しない。急性発疹期は 2-4 週間続く。痛みはそれ以上続くこともある。

慢性 HZ 感染は、4 週間以上続く激しい疼痛を特徴とする。患者は感覚異常 (dysesthesias)、知覚異常 (paresthesias)、時にはショック様感覚 (shock-like sensation) を経験する。痛みは身体障害を引き起こし、数ヵ月続くこともある。

ほとんどの患者では、診断は臨床的に行われる。臨床症状が多彩で非典型的な症例のため、HZ の診断は患者によっては困難な場合がある。

ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction: PCR)は、発疹を伴わない HZ 様の疼痛が疑われる場合の確認に有用である。

4. 特殊な臨床パターン
4.1. HZ 眼症(HZ opthalmicus: HZO)
HZO は、三叉神経(trigeminal nerve: V)の眼部(opthalmic division of the trigeminal nerve: V1)に VZV が感染したものと定義される。HZO 症例の約 50-85%に結膜炎 (conjunctivitis)、ぶどう膜炎 (uveitis)、上強膜炎 (episcleritis) 、角膜炎 (keratitis)、網膜炎 (retinitis) などの眼症状がみられる。まれな症状として、無菌性虹彩膿瘍 (sterile iris abscess)、動眼神経麻痺 (oculomotoric nerve palsy)、上眼窩裂裂症候群 (superior orbital fissure syndrome)、眼窩尖端症候群 (orbital apex syndrome)、孤立性非反応性散瞳 (isolated nonreactive mydriasis) がある。

上眼窩裂症候群と眼窩先端症候群
http://igakukotohajime.com/2020/06/27/%E7%9C%BC%E7%AA%A9%E5%85%88%E7%AB%AF%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E6%B5%B7%E7%B6%BF%E9%9D%99%E8%84%88%E6%B4%9E%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/

HZO は眼科的緊急疾患である。視力喪失のリスクがある。HZO の主な危険因子は、50 歳を超える年齢と免疫抑制である。多変量解析では、重度の視力低下は、高年齢(ハザード比(hazard ratio: HR):1.1)、薬剤または疾患による免疫抑制(HR:3.1)、視力不良(HR:2.8)、ぶどう膜炎(HR:4.8)と関連している。

HZO の危険な合併症としては以下のものがある。

1. 二次失明の危険性のある眼窩蜂巣炎 (orbital phlegmon)
2. 視力低下の可能性のある急性網膜壊死 (acute retinal necrosis)
3. 前部ぶどう膜炎 (anterior uveitis)
4. 上皮性点状角膜炎 (epithelial punctate keratosis)
5. 視力障害を伴う角膜の炎症と混濁

HZO 患者では、発症後の脳血管障害のリスクが1.3-4 倍高いが、これは若年患者でも同様である。

4.2. ラムゼイ・ハント症候群
ラムゼイ・ハント症候群 (Ramsay Hunt syndrome) は、膝神経節 (geniclate ganglion) および顔面神経(第 VII 脳神経)が侵される頻度の低い HZ の病型であり、HZ 全体の 1%未満を占める。典型的な症状は、片側顔面神経麻痺、耳痛、耳介かつ/または外耳道の有痛性小水疱である。帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia: PHN)はまれである。前庭蝸牛神経(第 VIII 脳神経)または三叉神経(第 V 脳神経)の障害もよく観察される。これは、めまい、耳鳴り、聴覚障害、または顔面痛となる。舌咽神経(第 IX 脳神経)または迷走神経(第 X 脳神経)の障害は、嚥下障害、嗄声、あるいは循環器症状などの症状を引き起こすことがある。

4.3. 播種性 HZ(汎発性 HZ)
播種性 HZ (disseminated HZ) あるいは汎発性 HZ (HZ generalisatus) はまれである。免疫不全患者に多くみられる。まれに、HZ と単純ヘルペスの同時感染が原因となることがある。

4.4. 深在性 HZ
間質細胞への感染は HZO ではよく知られているが、他の部位ではあまり報告されていない。眼以外の部位では、肛門周囲および隣接する臀部に潰瘍が生じることが多い。しかし、消化器系などの内臓が侵されることもある。深在性 HZ (deep HZ) の主な危険因子は免疫抑制である。

4.5. 紫斑病性 HZ
紫斑病性 HZ (purpuric HZ) はまれである。主な鑑別診断は皮膚血管炎 (cutaneous vasculitis) である。このような症例では生検が有用である。

4.6. 中枢神経系 HZ
HZ は中枢神経系(central nervous system: CNS)を侵すことがある。AIDS/HIV 患者のような免疫不全患者は、中枢神経系に症状が現れやすい。血管壁磁気共鳴(magnetic resonance: MR)画像診断により、頭蓋内および頭蓋外の動脈血管炎を検出することができる。典型的な所見は、血管壁の増強、血管壁の肥厚、浮腫、血管周囲の増強である 。デンマークの全国調査では、中枢神経系 HZ の発生率は 5.3/1,00万人·年と推定された。年齢中央値は 75 歳で、免疫不全状態との関連性が高い。中枢神経系 HZ は、人格変化、錯乱、頭痛、嘔気、歩行障害を引き起こすことがある。

VZV による血管障害は、脳梗塞や急性脳卒中を引き起こすことがある。VZV による胸髄炎は、麻痺を引き起こすことがある。

5. 合併症
5.1. 帯状疱疹後疼痛
帯状疱疹後疼痛(postherpetic neuralgia: PHN)は、強い痛みを特徴とする HZ の頻度の高い合併症である。通常の HZ の疼痛が 2-4 週間持続するのに対し、PHN は 4-9 週間後も持続する疼痛と定義される。VZV がどのようにして急性疼痛を引き起こすのか、また PHN に移行するメカニズムはまだ明らかではない。機械的アロディニア (mechanical allodynia) と温痛覚過敏 (thermal hyperalgesia) は、PHN の一部である。

いくつかの神経画像研究では、感覚や情動に関連する脳部位の脳構造の異常や脳活動の異常が検出された。特定の部位の灰白質容積と機能的結合の変化は、 HZ から PHN への慢性化と密接に関連している。

PHN は、健常対照と比較して、デフォルトモードネットワーク(default mode network: DMN)、DMN-覚醒ネットワーク(salience network: SN)、 SN-基底核ネットワーク結合の異常によって特徴づけられる。PHN における後天的なネットワークレベルのアンバランスについては現在議論されている。

薬物抵抗性 PHN は、解決されるべき課題である。潜在的な危険因子を評価した中国の研究では、亜急性 HZ (v.s. 急性 HZ; オッズ比 [odds ratio: OR] 9.0)、重度病変 (対軽度病変; OR: 3.8)、抑うつ気分 (OR: 1.1) を危険因子として特定した。

CT ガイド下で頸部後根神経節 (dorsal root ganglia) を高周波焼灼すると、視覚的アナログスケール(visual analogue scale: VAS)の疼痛スコアと皮膚感覚が減少した。アロディニアは有意に減少した。

5.2. 髄膜炎性尿閉症候群
髄膜炎性尿閉症候群 (meningitis retension syndrome) はまれな疾患である。無菌性髄膜炎による急性尿閉と定義され、急性散在性脳脊髄症 (acute deseminated encephalopathy) の軽症型である。そのため、これらの患者が発熱、頭痛、肩こり、軽度の錐体路徴候に悩まされる理由も説明できる。膀胱は最初、無反射である。

5.3. 急性結腸偽性閉塞症
急性結腸偽性閉塞症 (acute colonic pseudo obstruction)(Ogilvie 症候群)は HZ のまれな合併症である。1950 年から 2008 年の間に発表された症例は 28 例のみである。明らかに男性が多い(76%)。平均年齢は 61 歳であった。

5.4. ケロイドと他のタイプの isotopic response
ケロイド (keloid) は、創傷治癒時の異常により発生する良性の結合組織腫瘍である。ケロイドは、isotopic response として、HZ 病変の治癒時に時折観察される。

Wolf's isotopic response
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishinihonhifu/83/2/83_138/_article/-char/ja

以前 EZ に冒された皮膚の部位に、慢性 B 細胞リンパ球性白血病の特異的浸潤が発生したことがある。これは、皮膚の免疫不全部位に二次性皮膚疾患を発症し得ることの例である。

5.5. 仮性ヘルニア形成と嚢胞
HZ 後の仮性ヘルニア (pseudohernia) で片側の腹部が膨隆することがある。これは腹筋の麻痺により発症すると考えられている。片側の腹部膨隆とヘルペス性小水疱の合併は、HZ による腹部仮性ヘルニアを疑わせる。膨隆後に発疹が生じる場合もある。

Verma らは、四肢の皮膚の帯状疱疹後の仮性ヘルニアについて報告している。組織学的検査では、驚くことに新生リンパ管形成 (neo-lymphangiogenesis) が原因であることが明らかになった。Rahmatpour Rokni らは、PHN を伴う HZ 後に皮膚嚢胞 (cutaneous cysts) が形成されることを報告している。

5.6. 多形紅斑
多形紅斑(erythema multiforme: EM)は、感染症または薬剤に対する過敏反応によって起こる。多形紅斑は、斑 (macules)、丘疹 (papules) および特徴的な " 標的様 (targetoid) "病変などの多形性皮膚変化を特徴とする。これまでに 8 例の HZ 関連 EM 患者が報告されている。

5.7. 血管炎
VZV は様々なタイプの血管炎 (vasculitis) や血管症(vasculopathy) を引き起こす可能性がある。中枢神経動脈炎は前述の通りである。網膜血管炎 (retinal vasculitis) は、抗ウイルス薬で治療される HZO の重篤だがまれな合併症である。

巨細胞性動脈炎 (giant cell arteritis) の生検では、患者の約 3 分の 2 で罹患血管に VZV が検出された。HZ は、多くの場合、動脈の外膜 (adventitia) に血管症を引き起こし、次いで中膜 (media)、内膜 (intima) と続く。肉芽腫性大動脈炎 (granulomatous aortitis) や側頭動脈炎 (temporal arteritis) で VZV が検出されることもある。Medicare と Truven Health Analytics MarketScan を用いた数千人の患者を対象とした後ろ向き調査では、HZ 患者では巨細胞性動脈炎のリスクが高いことが示唆された。一方、地理疫学研究 (geo-epidemiological study) では、VZV と巨細胞性動脈炎との関連は確認されなかった。

白血球破砕性血管炎 (leukocyteclastic vasculitis) は、HZ の罹患部位と同じ皮膚部位で報告されている。一方、片側の小血管炎は、サルコイドーシスの有無にかかわらず HZ で時折観察される。

非常にまれな合併症として、胃腸症状を伴う IgA 血管炎 (IgA vasculitis) がある。

5.8. 再発性 HZ
HZ の再発は、高齢者や免疫不全患者において起こりうる。45 歳以上の患者の再発率は 3.9%と推定されている。

45 歳以上でリウマチ性疾患を有し、疾患修飾薬(disease modifying drugs: DMARDs)を服用している患者もリスクのあるグループである。254,065 人を対象とした大規模試験では、シクロホスファミド(調整ハザード比(adjusted hazard ratio: aHR):2.7;95%CI:1.89-3. 83)、アザチオプリン(aHR:1.6;95%CI:1.07-2.30)、ヒドロキシクロロキン(aHR:1.4;95%CI:1.11-1.83)であったが、メトトレキサート、スルファサラジン、レフルノミドでは上昇しなかった。

HZ の再発は、COVID-19 ワクチン接種後にシクロスポリン A で治療された慢性じんま疹 (chronic urticaria) 患者で観察されている。

5.9. HZ とがんのリスク
発表された研究の系統的レビューとメタアナリシスによると、HZ 患者におけるあらゆるがんのプール相対リスクは 1.42(95%CI:1.18-1.71)であった。HZ 後 1 年では 1.83(95%CI:1.17-2.87)に上昇し、血液悪性腫瘍の推定値が最も高かった。このことは、英国で行われた別の症例対照研究でも実証されている。台湾の集団ベースの研究では、HZ 後 2 年以内にその後のがんのリスクが上昇した。最も一般的ながんは肺がんであった。特に重症または非典型的な HZ の経過は、基礎にある新生物の徴候である可能性がある。

ある前向きコホートによると、血液がんおよび固形がんの患者は、がんのない患者に比べて帯状疱疹のリスクが高い。HZ のリスクは、血液がんの診断前でも上昇した(固形がんの診断前では上昇しなかった)。さらに、がんでない人と比較して、化学療法を受けている固形がん患者は、化学療法を受けていない患者よりも HZ のリスクが高かった。これらの観察は、がん患者における HZ の管理において考慮する必要がある。

5.10. VZV の再活性化と COVID-19
COVID-19 に罹患した患者では、水痘様疾患と HZ が現れることがある。

COVID-19 ワクチン接種後に起こりうる有害事象は HZ である。利用可能なワクチンはすべて VZV を再活性化する可能性があることが判明している。イスラエルのトジナメラン (tozinameran, BNT162b2 mRNA ワクチン(BioNTech, Mainz, Germany; Pfizer, New York, NY, USA))を用いた全国規模の解析では、HZ のリスク比は 1.43 (10 万人あたり 15.8 件) であった。

European EudraVigilance データベースでは、トジナメナン/コルミナティ (tozinameran/Comirnaty) (ビオンテック-ファイザー, 米国ニューヨーク)ワクチン接種後に 4100 例以上の HZ 症例が報告されており、このワクチン接種後に報告された全事象の 1.3%を占めている。スパイクバックス (spikevax)(mRNA-1273; モデルナ、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)では 590 例(0.7%)、Covishield/Vaxzevria(CHADOX1 NCOV-19;オックスフォード-アストラゼネカ、英国ケンブリッジ)では 2143 例(0.6%)、COVID-19 ワクチン(AD26.COV2.S;ヤンセン、ベルギー Beerse)では 59 例(0.3%)が報告されている。米国の Vaccine Adverse Event Report System (VAERS)では、トジナメラン/コルミナティ接種後に 2512 例(全報告例の 1.3%)、スパイクバックス接種後に 1763 例(0.9%)、COVID-19 ワクチン接種後に 302 例(0.7%)の HZ 症例が報告されている。

ある系統的レビューでは、COVID-19 ワクチン接種後に HZ を発症した 91 人の患者について報告されている。これらの患者には、高血圧、自己免疫疾患、免疫抑制などの重要な合併症があった。Iwanaga らによる COVID-19 ワクチン接種後の HZ に関する最近の総説では、399 例が報告されている。これらの患者の罹患した皮膚分節は通常の HZ の分布と変わらなかった。VZV ワクチン接種歴のある患者でも、COVID-19 ワクチン接種後に HZ を発症した例もある。

6. 生物学的製剤による治療
強直性脊椎炎 (ankylosing spondylitis) 患者 2000 人以上を対象とした後ろ向きコホート研究では、TNFα 阻害薬インフリキシマブ (infliximab) による治療は HZ のリスクを増加させなかった。

乾癬 (psoriasis) 患者では、インフリキシマブとエタネルセプト (etanercept) による治療が HZ のリスクを高め、それぞれ OR が 2.43 と 1.65 であった。

JAK 阻害薬は HZ 再活性化のリスクを増加させる。ウパダシチニブ (upadacitinib) は、関節リウマチの治療薬として承認されている経口ヤヌスキナーゼ(Janus kinase: JAK)阻害薬である。HZ の発症率は、ウパダシチニブ 15 mg で 3.0(2.6-3.5)、倍量投与で 5.3(4.5-6.2)であった。

7. 内科的治療
HZ の標準治療は、アシクロビル(acyclovir: ACV)とそのプロドラッグであるバラシクロビル (valacyclovir) またはブリブジン (brivudine) である(表 1)。

表 1. HZ の治療
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8876683/table/viruses-14-00192-t001/

バラシクロビルの経口投与では、アシクロビルの生物学的利用率が 3-5 倍になるという利点がある。ACV とバラシクロビルはヌクレオシドアナログに変換され、罹患細胞においてウイルス DNA 複製を特異的に阻害する。ウイルスのチミジンキナーゼや DNA ポリメラーゼの変異が ACV 耐性の原因である。

ACV や他の抗ウイルス薬治療のまれな有害事象は腎毒性である。腎障害のある患者では減量が必要な場合がある。腎毒性がないのはブリブジンだけである。しかし、過去 4 週間以内に 5-フルオロウラシル (5-fluorouracil) または他の 5-フルオロピリミジン (5-fluoropyrimidine) 化合物による治療を受けた場合は、ブリブジンの絶対禁忌となる。

ACV 耐性の HZ の場合、ファムシクロビル (famciclovir) が選択肢となる。バルガンシクロビル (valganciclovir) は、経口投与可能なガンシクロビルのバリンエステル・プロドラッグであり、最近、VZV に対する活性が示されている。

アメナメビル (amenamevir) のようなヘリカーゼ・プライマーゼ阻害剤(helicase-primase inhibitors: HPI)は、DNA 合成の最初のステップである複製フォークの進行を阻害し、二本鎖を 2 本の一本鎖に分離する。アメナメビルは、この新しいクラスの最初の化合物であり、日本では HZ 治療薬として承認されている。

VZV の再活性化を防ぐことは、免疫抑制のある患者において特に重要である。米国の 45 の移植施設で行われた後ろ向き試験では、HZ の予防には 2×400 mg/日 の ACV が最も多く使用されていたが、低用量のファムシロビルが有効であるようである。

ホルトノキ (Elaeocarpus sylvestris var. ellipticus ES) のエタノール抽出物は、in vitro で VZV 複製関連遺伝子の発現やウイルス感染による細胞死を抑制することが報告されている。また、末梢性および中枢性の炎症性疼痛を軽減する作用もある。

ホルトノキ
http://kanon1001.web.fc2.com/foto_sinrin/K_horuto_no_ki/horutonoki/horutonoki.htm

ES16001 は、ES の 50%エタノール抽出物からなる錠剤(Genencell Co. Ltd., Yongin, Gyeonggi-do, Korea)で、VZV の再活性化に対する防御の可能性があると思われるが、さらなる調査が必要である。

8. ワクチン接種
HZ ワクチンは、HZ の活性化と PHN の発症を予防することを目的としている。現在、健康な高齢者には、弱毒生 VZV ワクチン(ゾスタバックス [Zostavax] ; メルク、米国ケニルワース)と組換えアジュバント VZV 糖タンパク質 E サブユニットワクチン(シングリックス [Shingrix]、英国ロンドン)の 2 種類の HZ ワクチンが使用可能である。

弱毒生ワクチンは長年にわたり標準的なワクチンであった。両ワクチンの安全性と有効性は、免疫不全の健康成人、免疫不全患者、免疫疾患患者を対象とした臨床試験で証明されている。組み換え型 HZV ワクチンは、弱毒生 HZV ワクチンと比較して、HZ の予防により効果的である。組み換え型 HZV ワクチンは非複製性であるため、免疫不全患者にも安全である。

腫瘍壊死因子-α (tumor necrosis factor-α: TNF-α) 阻害薬投与中の患者 617 人を対象とした無作為化比較試験(NCT02538341)では、この特定の患者群における弱毒生ワクチンの安全性が良好であることが証明されている。

NCT02581410 試験では、5 年以上前に弱毒生 HZV ワクチンを接種しているか、あるいは HZV に感染していない高齢患者を対象に、組換え HZV(シングリックス、GSK)の効果を検討した。組換え型 HZV は強力な液性および細胞性免疫応答を誘導し、2 回目の接種後 12 ヵ月間、ワクチン接種前のレベルを超えて持続した。

中国の研究では、北京の 50 歳以上の個人を対象として、組み換え HZV ワクチン接種が公衆衛生に及ぼす潜在的影響をワクチンを接種していない現状と比較して分析した。組換え HZV の集団ワクチン接種により、非接種と比較して 43 万人以上の HZ 症例と 5 万 1,000 人以上の PHN 症例が予防されると推定された。著者らは、14,000 件以上の入院と 1,000,000 件以上の外来受診を回避できる可能性を示唆した。50-59 歳の患者において、HZ 症例、合併症、関連医療資源の使用が全体的に最も減少した。

米国のレセプトベースの対照試験では、50-79 歳の患者における遺伝子組換え HZ ワクチンの有効性が推定された。この研究では、ワクチン接種者の HZ 発症率は 10 万人年あたり 258.8 例であったのに対し、ワクチン未接種の対照群では 893.1 例であったと推定された。組換え HZV ワクチンの有効性は 85.5%に達した。

米国で行われた 65 歳以上の患者を対象とした別の大規模コホート研究では、組換えワクチンの有効性は 2 回接種で 70.1%、1 回接種で 56.9%と推定された。PHZ に対する 2 回接種ワクチンの有効性は76.0%に達した。

組み換え HZV ワクチン接種後のまれな有害事象として、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質関連視神経炎 (myelin oligodendrocyte glycoprotein-related optic neuritis) がある。

9. 帯状疱疹後疼痛の予防と治療
非ステロイド性抗炎症薬 (nonsteroidal anti-inflammatory drugs: NSAID) は PHN に有効ではないが、三環系抗うつ薬 (tricyclic antidepressant)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (selective serotonin reuptake inhibitor)、ガバペンチン (gabapentin)、プレガバリン (pregabalin) が第一選択 の治療薬である。カプサイシン (capsaicin) 外用軟膏やリドカイン (lidocain) を用いた経皮薬物送達システムも有用である。物理的な代替療法としては、経皮的神経電気刺激(transcuraneous neural electrostimulation: TENS)がある。

ドネペジル、アンブロキソール、スタチン、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(peroxisome proliferator-activated receptor: PPAR)作動薬(ATx086001)、局所カンナビノイド受容体作動薬 N-パルミトイルエタノールアミン、ボツリヌス毒素による局所注射、侵襲的神経刺激アプローチが研究中である。

系統的レビューでは、HZ 罹患後の PHN 予防戦略が分析されている。局所麻酔薬とステロイドによる持続硬膜外ブロックの方が、抗ウイルス薬に局所麻酔薬とステロイドの皮下注射または皮内注射を併用した場合よりも、急性 HZ 罹患 3 ヵ月後の PHN 発生率が低かった。

10. 結論
HZ は宿主における VZV の再活性化である。HZ 感染症は様々な症状を呈し、いくつかの合併症を伴うことがある。特殊な臨床症状としては、HZ 眼症、ラムゼイ·ハント症候群、播種性 HZ、深在性 HZ、紫斑性 HZ、中枢神経系 HZ などがある。帯状疱疹後神経痛やその他の合併症を引き起こすこともある。高齢者や免疫不全患者では HZ を再発する可能性がある。血液癌や固形癌の患者では HZ のリスクが高い。化学療法を受けている固形がん患者は、化学療法を受けていない患者よりも HZ のリスクが高い。HZ の標準治療はアシクロビル(acyclovir: ACV)とそのプロドラッグであるバラシクロビルまたはブリブジンである。HZ ワクチンは、HZ の活性化と PHN の発症を予防することを目的としている。現在、健康な高齢者には 2 種類の HZ ワクチンが使用可能である。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8876683/
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