魚屋夢遍路

流されているのか、導かれていのか、突き進んでいるのか、当事者には計り知れない。

うんこ博士が、量子をどうした

2012-11-18 09:07:22 | 旅行

 目が覚めてみれば、バタンコ88号の窓には水滴が垂れている。外は小雨模様だ。車外に出てみる。気になるほどの雨ではない、白くけむる土佐湾が少し淋しげである。
めぼしい食料は昨夜の夕食で平らげてしまった。カップ麺はあるがお湯がない。朝食はお参りを済ませてからにしよう。
 8時頃には、雨もやみ、雲間から薄く陽が差してきた。お寺の駐車場にバタンコ88号を待機させ、いざ出陣。ジジジジリジジジとセミが鳴き始める。
昨日の海水浴の疲れから、子供らは、長く急な石段を前に動きを止めた。暑さが地面から蒸し揚げてくる。二人を交互に背負いながら本堂までよじ登る。
 話横道しますと、境内で地元の人にお接待を受けながら聞いた処、平成の大横綱朝青龍、元々は、この近くの明徳義塾のモンゴル人留学生で、フルネームを朝青龍 明徳(あさしょうりゅう あきのり)。朝青龍という四股名は、ここの青龍寺にちなみ、下の明徳の名は同校にちなんで名づけられたと言う。
本人が決めたのかどうかは分らないが、このシンプルな命名は、あっさりとしていて彼らしい。
ちなみに、本名は=ドルゴルスレン・ダグワドルジ=さんだそうです。この辺りでは早口言葉のサンプルにされているとか・・・
 ここに、ボランティアのおじさんがおり、上野と名乗り、赤銅色に焼けた顔に、白い髭と赤いバンダナに作務衣といういでたち。お遍路の世界ではちょいと名の知れた方らしい。親切にお寺の案内もしてくれた。子連れでお遍路していると、声をかけて親切にしてくれる人が多く、とても助かる。
ここのご本尊は波切不動明王。船で仕事をする人達の守護神。上野さんによると、不動明王の真言はとても強力だから、困った時には試しに唱えてみなさいと言う。真言は「のうまく さんまんだ ばざらだん せんだ まかろしゃだ そわたや うんたらた かんまん」と長い。人の良さそうな穏やかな話しぶりの彼が、真顔で勧めてくれるので、必ずそうすると応えて、青龍寺を出た。
 高知県に入ってから、スリーエフなる広島県人には見慣れないコンビ二を、街道沿いにちらほら見かけるようになった。小奇麗でモダンな雰囲気だ。
大手チェーンが出店競争で乱立するなか、一陣の爽やかな風の感じる思いだ。ここでおにぎりを仕入れて、港の駐車場で海を見ながら朝食をとる。
コンビ二が、小売業の世界を変えたように、インターネットやブログが、お遍路の世界を、変える日なども来るのであろうか。
 わが子らの時代には、パソコンの画面で参拝をし、マイクを通して般若心経をあげ、バーチャルローソクとバーチャル線香に、バーチャルマッチで灯を灯し、お賽銭や納経料は電子マネーで支払い、御朱印&墨跡は、電子認証された画像送られてきて、プリンターで印刷して、ハイ、一丁あがり・・・などと、
 はたまた、空飛ぶ自動車が開発され、徳島の上空から、各お寺をに向かい、ETC付きの専用山門を通過する。すると、クレジットカードで支払いをし、後日、自身の納経帳が発送されてくる。いつものパターンで、行政と業界が結託し、国民に、新ETCを無理強いしだすかもしれない。
車内のBGMは、もちろん、般若心経、全行程、約半日。
新たに、ツールド88ヶ所などが企画され、タイムトライアルにでもなれば、海外からも、参戦続出で、ホウキに乗ったキリスト教徒や、ジュウタンに正座したイスラム教徒も交え、ど派手な空中戦が展開され、けが人続出で、すでに、中国の植民地化した、北朝鮮からはニンニクをバイオ燃料化した、新型テポドンに、金日成のひ孫で、親日家の金日本と、金日赤なる医者が、ボランティアで駆けつけるなどと・・・
すいません、話をもどします。
 カーナビには、第37番札所岩本寺がセットしてある。ナビは今のとこと好調だが、カーステレオのCDプレーヤーが不調だ。
さすがに、築12年のバタンコ88号だ、今年に入ってから、タイヤ、バッテリー、ラジエーターと逝かれまくりである。
小まめに中古部品を探し、やっと回復した矢先に、今度はCDと来た。どうしても必要としたものではないのだが、子供らは2時間以上車中閉じ込め状態になると、決まって喧嘩を始める。「アバ」か「上上台風」をかければ、たいがいパブロフの犬よろしく、踊りだすのだ。
 何度となく、ディスクを挿入するのだが、その度に10秒位経てば、自動的に排出される。デッキを撫でたり、ディスクを摩ったりと、ご機嫌を伺うのだが、ウンともスンとも言わない。
鬼嫁がついさっき、上野さんに教えてもらった、不動明王の真言を試してみろ、とのたまう。あんなに長い意味不明な文句を暗記している訳がない。しかも運転中でメモも見られない。
 そこで、我お遍路チームで一番霊感の強い小春ちゃんに、助手席に来てもらって、メモのひらがな真言を読んでもらい、私がディスクを出し入れする作業を繰り返すことにした。
面白そうな事は、すぐに実行するのが我が家の身上だ。この雑文の性格上、信じて頂けないなは仕方がないが、何回目か出し入れする内にシュルシュリュと回りだして、音がひっ掛かったではないか! もちろん偶然だろうけど、なにせお遍路中だ。何が起きても不思議ではない。
 昼前には岩本寺到着、駐車場には、白バイ並みにデコレイトされたハーレーが停めあった。こんなんで、廻る人もいるのか!
 本堂でのお参りを済ませ、大師堂で小春と例により般若心経を輪唱し終わると、白髪まじりのひげ男が話しかけてきた。
やはり幼い子が、般若心経に挑戦しているのが物珍しいであろう。
「いやぁ~、感心、感心、上手なもんだ。おじょうちゃんいくつ?」
「五才です」
「いやぁ~、お経じょうずだねぇ」
 このおじさんは何もくれそうにない、と察した小春は
「お父さん、うんこぉ」
 ときた、この子は都合が悪いと、自然現象に逃げる。鬼嫁をよび小春をまかす。
私はこの上条恒彦に似た男の瞳がとても幼く見えて、少し話してみようと
「どうも、すいません、この子、少し下痢気味なもので・・・」
「いやぁ~、結構、結構、うんこも大結構、人間はのう、うんこをする、これはすごい事じゃ」
 これはいけない、瞳が幼いだけじゃなく、頭も幼いみたいである。早速、逃げようと、思案していると
「いやぁ~、どんな物を食うても、肉を食うても、野菜を食うても、体調さえ良けりゃ、同型同色同臭の固形物に加工しよる。もし、うんこを食いよる生命体がおったとしたら、人間は最高によう出来たフードプロセッサーじゃのぅ」
「何も、そんな、大声でいわなくても、あのぅ、私、先を急ぎますのでぼちぼ・・・」
「いやぁ、いかん、お遍路はのう、先を急いではいかん、それにわしは学者じゃ、今、”お経と空間理論の関連”を調べながら、バイクでお遍路しておる。おかしな勧誘じゃない、安心せい。
それにのぉ、今なにやらひらめいた。少し話し相手にならんか。実はのう、本当に人間をエサにしておる奴等がおるかも知らんのじゃ。あんた、マトリクスちゅうて、知っとるか?」
「あのソニーの、昔のブラウン管かなにかですか。」
「そりゃ、クイントリックスじゃ、あんたわしをおちょくとるんかのぉ・・・」
「あ、いえ、すいません。そんなことはないで・・・」
「アメリカ映画でな、仮想現実空間を創造して、世界を支配するコンピューターを相手に、戦いを挑む男の死闘を描いたSFアクション物じゃ。
この映画では、人間は一人一人が保育器で養殖されとって、各人の脳とコンピューターが配線で直結されて、実際は保育器のなかで一生をすごすのじゃが、コンピューターが人間の脳に電気信号を送り、当人が見たり、聞いたり、臭ったり、味わったり、感じたりする日常生活の全て、人生を脳ミソだけで、即ち、仮想現実空間で過ごすとゆうんじゃ」
「なんでいちいちコンピューターがそんなややこしい事を?」
「コンピューターは、自らを管理維持するためにエネルギーが要る。その熱源に最適なのが、地球上で一番しぶとい生物=人間=とゆう訳よ。まぁ、乾電池みたいなものよ」
「あのぉ、その乾電池とお経がなにか、どうかんれんちとるんですか?」
「あんた漫才師か?ま、ええわ、般若心経とゆう短いお経はのう、この世はこのマトリックスと教えとる訳じゃ」
「あのぉ、私はただ単なる魚屋で、おっしゃることがチンプンカンプンで、すいませんがそろそろ失礼おば・・・」
「失礼おばさせられん、ここからが重要じゃ。わしの専門は”量子力学”ゆうての、原子とか電子などの素粒子を研究する。ま、物理の親戚のような学問じゃ。お前は面白いから、これから、ええ事を教えちゃろう」
 なんとか、逃げ出さなくてはいけない、こんな時に限って、家族は近くにいない。それに物理どころか、理科はすべて赤点たった。やばい、なんか、この先生、自分の世界にはいっとるがな・・・
「物質の一番小さい単位、つまり素粒子は、突然に空間の中に消えたり、また現れたりするんじゃ。
それはある時は、粒にみえるがまたある時には、波に見えるんじゃ。どういうことかと言えばの、見る者がそれを粒として観察しようとすれば粒状物質になり、波として観察しようとすれば波動になる。
これを=観察者効果=とゆうてのぅ、見る者の意思で、見られる対象のあり様を変えることが出来るゆうことじゃ。」
「ううゎ、おっしゃっている事が全然理解できませんが・・・」
「勿論これは、ミクロ世界の現象じゃが、あんたに分るように例えるなら、魔法使いサリーちゃんが悪人をカエルに変えたり、たぬきが木の葉をお札にするのと同じ事だ。
レトリックめくが、強欲な奴が、大金持ちに成りたいと思えば、すぐさまそう成るだろうし、たとえば世界中の人々が、平和を念じれば、いともたやすく実現することになるちゅうんじゃ」
「あのぉ、そんなバカな事は起き得ないと思いますが・・・」
 頭がピーマンに変形して、痛くて涙がでそうになる。
「そうじゃ、そんなバカな事は、現実には起きん。しかし、超高性能電子顕微鏡の様な物で、ミクロ世界を観察すれば、これが現実に起こりうるんじゃ。
素粒子が人に観察されているスケールを拡大すれば、地球が宇宙の果から=何らか=に観測されている様なもんじゃ。ただしわしらはこの”何らか”ではない。
だからわしらでは超能力者でない限り、超常現象は起きんとゆうわけじゃ。この理論に関連して、すでに5次元の世界の存在が証明されつつあるんじゃ」
 脳ミソが頭蓋骨のなかでマントル対流してきたではないか。お遍路と5次元とどう関係するとゆうのだ。しかし、このジジイはお構いなしに続ける。
「わしらの住んでおるこの世界、この世は、時間を加えて仮に4次元としてみよう、この4次元にいるわしらは、3次元的なもの、つまり立方体(たて・よこ・奥行き)をいか様にも加工できる。
粘土細工で例えれば、これを球状にしたり棒状にしたり船形にと、その形態を自由に出来る。そこで、3次元から2次元を見ればどうか?」
「平面状の形態なら、自由に加工が可能とゆうことですか」
「大体合っておる。丸・三角・四角、広い意味では写真なども入るかも知らん。ならばこの4次元でわしらに自由にできない要素はなんじゃ?」
「さっき先生が加えた時間ではないでしょうか」
「そうじゃ、5次元にいるものにとって、時間は加工可能な自由にできるものとなる。ビデオを早送りしたり、巻き戻したり、編集したり、といったところか」
「でそれが、なんで般若心経なんですか?」
 知らぬ間に、この先生の世界に引き込まれてしまつた。
「この世、4次元ではわしらには、時間は自由にならん。すべての物事は時の流れと共に移り変わる。これが=諸行無常=じゃ。
そして、脳ミソに電気反応や化学反応を強いてマトリックスのごとき、仮想現実を生きる事と同様に、実体はない様。思うようにならない様。これが=諸法無我=じや。
さらに、これらに煩わされない境地。これが=涅槃寂静=。あの世、あるいは5次元の世界かも知れん」
「その事が般若心経の意味なのですか?」
「いや、これは仏教の基本的な教義じゃ。そこで、般若心経は、この世におるわしらは、これは花だの、あれは鳥だのと、見たり、聞いたり、臭ったり、触ったりして、全てを実在しているものと認識するというなら、反対に認識で出来ないものは何か、問うてくる」
「そんなもの有るんですか?」
「心じゃょ、こころ、つまり精神的なものとゆうことかなぁ。あんた心を見たり聞いたり臭ったり味わったり触ったり出来ますか?」
「そんな事は出来ませんが・・」
「うん、ならば心とは4次元的な環境の中、つまりこの世では、理論的には存在しないものである事が分ってくるはずじゃ。
もしかしたら、心とは次元の概念を超えたものかもしれん。ならばこの心を何らかの状態にすることにより、5次元つまりあの世や涅槃寂静の境地を、うかがえるのではあるまいかと思い始めたのじゃ」
「へぇ~、でもそれってお坊さんの修行の事じゃないんですか?」
「勿論そうなんじゃが、弘法大師はこの心の状態を十段階に分けて説明して、仏性という心をレベルアップしていけば、5次元的存在になれる。
すなわち、身はこの世4次元にあり、やがて死んでいく運命の人間でありながら、永遠の命を持つもの、つまり仏に成れると断言しておる。これを=即身成仏=といい、密教では最高の存在の状態としとるんじゃ」
「でもそれは、やはり、お坊さんが一所懸命に修行して到達する境地で、とても、一般人には無理なのではありませんか?」
「そこで般若心経じゃ、このお経は、この世は4次元ではあるが、死んであの世に行く前に、4次元に居ながら苦しみのない5次元に往って見ないかと誘っている。
最後のところに書いてある真言によって、その願いが叶うとある。あんたも遍路なら知っとるじゃろう」
「羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶(ぎゃあてい、ぎゃてい、はらーぎゃてい、はらそうぎゃてい、ぼじそわか)ですか?」
「これは梵語でのう、”往こう、往こう、みんなで幸せな世界へ往こう”とゆう意味なんじゃが、これをどうゆう風に具体化すれば良いのか、が、解らんのじゃ。
仏典には方便ゆうて、比喩的な表現が多いんじゃ。文字どうりこれを唱えるだけでいいのか、それともなんらかの秘法が隠されているのか。ここでつまずいてしもうて、こうして、弘法大師の足跡を辿り、どこかにヒントはあるまいかと、バイクでまわっとる訳じゃ。あんた何ぞご存知でないか?」
 そんな凄い事を知っていれば、魚屋なんぞはしていない。言いたいだけ言って、スッキリした教授は放っておき、納経を済ませ、岩本寺を出た。脳がピリピリと痙攣し、癲癇を起こしそうだ



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