![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/68/c8703202a67568ece8ab2f01f0e8658e.jpg)
昨夜は、松山自動車道に、併設された道の駅で一夜を過ごした。
さあ、残る旅路もあとわずか。
粋でいなせな魚屋家業が身上の私である、気持ちも新たに、今日も張り切って、滝でなく、寺を目指そう。
順番では、横峰寺さんなのだが、地図で見れば超山奥にある。先に平地に、まとまってある三つの札所を参拝することにした。
まずは、第六十一番香園寺だ。
なんと、広々とした駐車場に、宇和で世話になった、巫女さんのキャンピングカーが停泊していた。
さっそく、ご挨拶に出向く。相変わらずの巨体で歓迎してくれる。挽きたてのコーヒーをご馳走になる。子供らはヤクルトを貰いご満悦だ。
巫女さん達は、ちょっとした仕事なども重なり、タクシーで横峰寺にお参りすると言う。大型キャンピングカーは、通行が難しいらしい。途中、有料道路もあるそうだ。
我が家の台所事情を察して、誘ってくれるが、タクシーに6人は乗れない。
しかし、けっこうな通行料金らしいので、鬼嫁と留吉に納経帳を持たせ、2人だけ便乗させてもらう事にした。
帰りは、昼過ぎるみたいだ。
キャンピングカーの中で、テレビかビデオでも、みてろと言われたが、無人の留守宅にお邪魔するみたいで、間違いがあっても困るので、小春とお寺周辺を散策する事にした。
ここの本堂は、これまでとは違う。どこかの文化会館並みのビルディング。中央部に礼拝場がある。
内部は、横の階段から2階に、上がるようになっており、映画館みたいに客席が並び、正面にご本尊が祭られてある。
朝、早かったので人もまばらだ。
照明は控えてあり、薄暗い中、最前列でクッションの効いた椅子に腰をおろし、小春と般若心経をデュエットする。
丁度、唱え終えたのを、見計らったように、私は背中を指でつつかれた。
振り返って、びっくりした、なんと三蔵法師! ではなく、夏目雅子がいた。
正確には、彼女似の、年の頃なら35か6の超美人がお菓子を手に小春へ
「お接待させてね、これ・・」
「どうもすいません、ありがたく頂きます。これ小春、お礼は・・」
「ありがとう、おばちゃん」
「こら、おばちゃんじゃありません、あやまりなさい」
なにくわぬ顔でお菓子の袋を開けだした。
まったく、なんとゆうガキだ。母親に似て、美人を見ると不機嫌になる。
しかし、なんとゆう美しさだ、しっとりと濡れた大きな眼に、言いようのない愁いを湛えている。それとなく見るが、怒った様子はない、
「かまいませよ、ほんともう、おばちゃんなんだから、ホホホ、ところでどちらからお越しですか」
「広島から来ました、お遍路中です。奥さんは地元の方ですか」
「はい、生まれはここ小松なのですが、結婚して香川の方に住んでおります。今日は親の家に来ていて、一人でこちらと、ここの奥の院へお参りに来ました」
「奥の院があるんですか」
「ええ、歩いて往復2時間くらいはかかります・・田舎道ですが自然たっぷりの散歩コースですよ、お急ぎでなければ、ご一緒しませんか」
ドッキン、ドッキンんこ!たとえ、親の死に目に会えなくても、ご一緒する、仕事やめても、離婚してでも、ご一緒する。
これまで、こんな美人に誘われた事など一度もなく、これからは絶対ない。はやる気持ちを抑えて、
「そうですか、実は今、連れの者が横峯寺に行っておりまして、お昼に駐車場で落ち合う事になっているんです。どうやって時間をつぶそうか、迷っていたところなんですよ、ハハハ・・・」
「ありがとうございます。一人では心細くて・・、お子さん連れのお遍路さんとなら安心です。実は、お子さんが私の娘にそっくりなもので、声をかけさせて頂きました。私は世良と申します。よろしくおねがいします」
「あっ、私は轟といいます。車が3つのとどろきです。これは、小春です、来年小学校にあがります」
「小春ちゃん、よろしくね。・・・でも、お連れの方、奥さんじゃございません・・・もしかしたらご迷惑なのでは・・・」
死んだと言えば、小春にばれる。そこは私も細い眼に、愁いを湛えて
「・・・さきに逝かれちゃいまして・・・」
「悪い事をお聞きしました、申し訳ありません・・・」
と、小春を憐れむ横顔は、まるで慈母観音そのもの美しさである。
そうっと、ポケットティシュを取り出し、小春の鼻水を拭いてくれている。
ああ、鼻水の出ていない自分がうらめしい。
「お母さんいなくて、淋しくない、小春ちゃん」
「ううん、お昼に帰ってくるようたけぇ」
エッ、とゆう眼で、こちらを振り向いた。キョトンとした瞳、これがまた美しい。見とれてしまう。クラクラしながらも、言い訳をせねばならない。
「あぁ、すいません、あなたがあまりにもお綺麗なので、つい、ボーとしてしまって・・、あ、えぇ、そうなんです、次の寺に・・さきに行かれちゃいまして・・アハハ・」
「マ、面白い方・・・」
と、笑っていたが、瞳は情けなそうに、
誘うのではなかった。と、後悔している。
可哀想だが、もう、遅い。
細い遍路道を通り、香園寺の横の高鴨神社の境内を抜け、大きな溜池沿いを、松山自動車道の巨大な高架の下をくぐり、山の方に歩く。
10時をまわり、日差しが一段と強くなる。
蝉の鳴き声が、暑気に一段と拍車をかける。
にじむ汗をぬぐい、周囲に畑を見ながらしばらく歩けば、道はさらに細くなり、背の低い広葉樹が、木陰を提供し始めてくれる。
たまに、すれ違うお遍路さんに、
「よう、お参りです」
と声をかける。鬼嫁と歩いているときには、亀に縄をかけて散歩している様なもので、人に声をかけるなどの、余裕はないのだが、今は鶴に乗って、極楽で、天女と舞い戯れている気分だ。
小春を連れているので、家族連れに見えるのだろうか、皆さん、一様に小首をかしげ、口にはしないが、・・くわばら、くわばら、の表情である。
年齢に関係なく、ほとんどの男のお遍路さんは羨望の視線、中には顔をしかめる奴までいる。美人連れとは、かくも気分のいいものか・・・
こじんまりとした奥の院に参拝し、香園寺に帰り着いたら、12時を少しまわっていた。
駐車場に行ってみたが、連中はまだのようだ。
彼女は興味深そうに巫女さんの、派手にステッカーを貼りまくった、キャンピングカーを眺めている。特に「霊降し」と書かれたあたりに見入っている。
お遍路中に知り合った巫女さんの車であると、事の経緯などを説明した。
いつ、お別れの挨拶を切り出されるのかと、名残りを惜しんでいるのだが、一向にその気配はない。
そうこうしている内に、鬼嫁たちが帰ってきた。相当なグネグネ道であったみたいである。
留吉はゲロを吐いたらしく、青い顔をしている。世良さんが自己紹介がてら、挨拶を始めた。
「轟さんにはすっかりとお世話になっちゃいまして・・色々と楽しいお話も伺いました。ゆかいなご主人でうらやましですゎ。広島から車で、お遍路されているとか、さぞかしお疲れでしょう」
女は不思議である。美人を前にすると、自分も綺麗で上品であると、錯覚するのだろうか。鬼嫁がうわずった声で
「初めての長旅なもので・ホホホ・・なんせこの狭いワゴン車の中で、寝泊りしながらなので・・・ストレスから、ついつい食べ過ぎてしまい・・体重が増えてしまいまして、お恥ずかしい・・ホホホ」
などど、トンチンカンな事を言いながら、薄汚い丁シャツの下腹の上を両手で隠している。
どちらかと言えば、かなり痩せたように見えるのだが・・・
次に彼女は巫女さんの方を向かい、不安げに尋ねた。
「これはきっと何かのご縁だと思います。よろしければ、ご相談させて頂きたいことあるのですが、ここでは何ですので、轟さんともども、昼食をお接待させていただけないでしょか」
巫女さんは別に用がある風もなく、私を見る。こちらとしては、一食浮くのであるから有難い限りである。
彼女は携帯を取り出し、親の家に連絡している様子。
しばらくして、タクシーが2台来て、ちょっと私たちには、不釣合いな料亭に連れて行かれ、奥の座敷に通された。
いったい彼女は何もので、これから何が起きるというのだ?
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます