ダイキャスト情報室

鋳造品質を決めるのは、方案と排気かな。。。。

PF法へ真空バルブを応用する

2024-02-17 | DieCast

PF法での真空バルブ応用について

PF法(Pore-Free、日軽金が開発)は、金型内の空気・特にその中の80%の窒素を酸素に置換して金型内部に酸素だけを存在させて、鋳造品の品質向上を狙う鋳造法であるが、一般的なPF法では、酸素吹き込みの直前に金型を完全に閉じないでわずかに開いた状態で酸素の吹き込みが行われる。この時に酸素への置換が完全に行われればPF法は有効であるが、しばしば空気中の窒素が金型内に残留するため、巣の形で鋳造品に現れると考えられる。引け巣の問題は別です。

ここでDC金型に真空バルブを設置して大気開放で使用すると、金型内の窒素と酸素の置換が効率良く行われる、つまり大量の酸素を一方の入口から吹き込み真空バルブ(管路断面が確保されている)から窒素80%の空気を排出すれば、PF法としての本来の能力を十分に発揮することができると考えられる。この時、金型スリーブから真空バルブまでの管路の流れに、行き止まりや淀みができないように流れ(FLOW)に留意した金型設計がなされれば、PF法を有効 に応用することができると期待される。

もう少し詳しく書くと、真空バルブと言ってはいるが真空ポンプで吸引する必要はなく、大気に排出するだけなので、トラブルの少ない稼働が期待できる。実際に稼働したら軽く真空を掛けて吸引してみるも面白い。

注記: いい結果が得られたようです。'24.09.11


インサートのある部品

2024-02-02 | DieCast

インサートとか鋳ぐるみ(鋳包むと書く)のある部品製造は、鋳造の現場ではあまり好まれない物だ。何かと手間が掛かるし、不良品が発生した場合はまたややこしいことになる。インサート成形とは、別種金属で作られた部品をあらかじめ金型の内部にセットして鋳造なり射出成形を行うのですが、この部品が定位置からズレてしまったり、横型締めでは金型を閉めるときに落下してしまったり、それぞれ対策が要求される。また鉄の部品をアルミダイキャストで使う場合には、その部品が製品となって使用されるときに掛かる荷重の方向に対しインサートがずれないように形状的な配慮をする必要がある。なぜインサートを入れるかは省略します。今回はリング状のインサート品をアルミがフランジのような形で鋳ぐるみます。大まかにいうと画像の灰色部分。この図のメーカーとは関係ありません。

今回はそのインサートが収縮の邪魔して、素直な収縮ができないために寸法に影響を与えたという案件です。鉄インサートは加熱して金型にセットするとしても、その収縮量はアルミの部分よりも少なく内部に応力が残ったままで常温まで冷却されます。アルミと鉄の膨張係数を考えると鉄インサートは溶湯温度程度まで加熱する必要があり現実的ではありません。昔(40年ほど前)汎用の2サイクルエンジンのシリンダー内径部は鉄鋳物のインサートが入っていたのですが、そのインサートを取り出そうと外周からコンタマシン(のこ盤)でアルミ部分を切り始めたところ、途中でバンッと音がしてアルミがはがれた経験があります。これほど内部に応力が残っているのかと実感した記憶があります。脱線しましたが、つまり内部に応力が残った状態ですからひずみが現れます。今回も型メーカーに「寸法が出ていない」と来たようです。インサートを入れないで鋳造したら場合はいかがですか。はい寸法出てます。だよね。

しかし事はこれで終わりません。内部応力を抱えたままなので本来なら応力除去の熱処理をすることが望ましいのですが、どうなっただろうか。アルミ側の残留応力が大きいとリングの内側の切削加工工程で寸法が安定しないような気がします。


振り返らないエンジニア風の人々

2024-01-27 | DieCast

私の妻は、ごみをゴミ箱に投げ入れるのだがコントロールは決して良くないため入らないことが多い。しかし本人は自信たっぷりで、自分のやることにミスはないと考えており、その結果を確認しようとする気配はない。外れたゴミは私が気が付いて処理することになる。

同じことがダイキャストの現場でも起きている。試作トライの品物をどうしても出したいということで過剰なまでに安全率を上げるため、「こんな事、必要ないじゃん」と陰口の出る対策が織り込まれ、金型の実質コストは上昇して行く。対策の効果の評価も行わないため、毎度・毎度過剰対応コスト上昇。具体的には。大きすぎるオーバーフローとランナー断面、異常に厚い金型、金型が穴だらけになりそうな押出ピンの数。まだ有った、使われることのない冷却回路。「そこを冷やす必要ないじゃん」と陰口。

私なら対策のコストと効果をあらかじめ評価しておく。品質要求の厳しくない型が出たときにその疑問点を評価するための仕組みを気付かれない様に織り込んで置き、密かに確認をする。こんなことでは、アジアの国との競争には敗退しかないのではないか。


2023年末の愚痴

2023-12-30 | DieCast

このブログ「ダイキャスト情報室」では、「オーストラリア式ランナーの考え方」として2022.7.25に公開してあるが、その中身は2002年8月に私のHPで公開したもので、すでに20年以上前の超訳で、現在のようにDeep-Lなどもなかったので苦労しながら入力したものです。

しかし、いまだにオーバーフローの体積を確保すれば巣が消えると信じ込んでいる人、ランナーの断面積の変化について全く確認を行っていない人を見て、オーストラリアのMurryさんの原稿のように、書かれた時と全く変わらないなとため息が出るばかりです。

しばらく前に金型メーカーから聞いた話ですが、「中堅ダイキャスターに仕事のできる技術屋さんが居なくなった」というのは、金型メーカーでは共通の認識らしい。私の認識では、金型メーカーは鋳造したものを見るだけなので、鋳造中の変化や詳しい情報を持っているのはダイキャスターのエンジニアなのですが、いまは確かに悲しい状態です。30年以上前は、金型の基本構造・レイアウト・収縮率などはダイキャスター側が明確に指示するものと認識していました。今は確認することが普通になった。

さらに最近も、「巣が発生する可能性大だからせめてチルベントを設置しましょう」といっても、私の意見は取り入れずその結果、巣の発生・金型溶接といつものパターンが繰り返されています。またゲートの細工だけで溶湯の流れる方向が制御できると信じている人は相変わらず多い。金型は冷却するものだとランナーの下にもしっかり冷却を入れて、せっかく高くした溶湯温度を下げてしまう、これも見飽きるほど見てきた。ものを知らない人の怖いもの知らずには驚くばかりです。

筆者も70代になっているので同じ事ばかり繰り返すようになっているが、これをお読みの方はまたかと受け流してください。ハーゲン・ポアズイユ(hagen & Poiseuille)の式(Q=kdxx4/ηL)から、排気量「Q」はベントの長さLに反比例し、ベントの厚さの3乗(元の式は径の4乗であるが、幅の分を差し引いて3乗となる)に比例する)この式が発表されておよそ200年が経過しているのに、この式を必要とする業界ではいまだに常識になっていない。知ってる人だけが知っている。

最近も「巣が出る」→「湯溜まりを設置すれば解決」→「解決せず」という現場を見た。しばらくして類似品の金型が発注されたときにはさすがにチルベントが設置された。これも説明しておくと、深さ0.2・幅20のガス抜きでどれほどのガスが抜けるか判らないが、このベントを2か所にしてももともと少ししか排気できていない型のガスが90%も抜けることはあり得ない。空の注射器の空気をゆっくり押出すことは難しくないが、短い時間(例えば充填時間の0.1sec)で抜けるかというとこれがほとんど無理。この感覚を体験してから金型の排気について設計してほしいね。色々の小細工をしてもガスの通路が狭ければガスは抜けません。通路の太さ、厚さがすべてを支配しています。

これらの画像はどこから頂いたか不明ですが、数年前にも使わせていただきました。

この画像も重要で、左の二つと左から3番目を比べると、オーバーフローからベントへのつながりRの有無で大きな差(正確には圧力損失係数なので押し出そうとする圧力が減衰される)が発生することがわかる。


流れと圧力損失

2023-10-28 | DieCast

ランナーに関する問い合わせがあったので、説明資料を作っていたら構造計画研究所が判りやすい資料を公開してくれてあった。その中に以下の画像があり、ランナー設計初心者には参考になると思う。

この説明では、左のエルボの圧力損失は157kPaに対し、ベントの圧力損失は81kPaとおよそ半分になるということである。画像を見ても不要な渦が発生していることがわかる。この画像からは、ランナーの幅と同程度のRが採用されている。この圧力損失を意識していない設計者は、わずかなRだけ付けてランナーの方向を変更しようとするためどんどん損失が増えてゆき、湯回りが悪い金型が完成する。

謝々 構造計画研究所殿