与一から出て来た生き物の記録

奇妙な生き物。早朝の自宅ガレージ奥の「与一」の中から、様々な働きをする者たちが生まれています。その有様と効能の記録です。

そらの物語33 「斎元の章・4 無断欠勤」

2010-06-20 08:38:17 | そらの物語


 


「斎元の章・4 無断欠勤」


 


朝から親友の田川からの電話に起こされた「斎元」は、


歯切れの悪い目覚めに少し苛立っていた。


「・・・・あ、はい」


「おおっ!!もしもしぃ!!よしお、おはよ!


あのな、今、ちょっとTVつけてみ、ほら、この前の ” 何パオ” さん、


今、TVに出てるで!!」


「・・・??えっ?うそぉ??」


”例の男の子” の事で、昨夜から思考の迷宮にはまり込み、


そこから抜け出せないまま眠ってしまっていた重たい「斎元」にとって、


ちょっとテンション高めの田川の電話は、起きぬけの気分転換には、


切れ味の良い新鮮さだった。


「あ!!わかった!つけてみる!!」


「おお!いっぺん切るわな」


「うん、サンキュ!!」


 


TV大阪、19チャンネル。


それは、ついこの前の京橋駅前での ”和解マン騒動” の折、


「オフィス・和解マンの主宰」と名乗り、


登場した「滝沢 何んパオ(たきざわ・なんぱお)」が、


京阪ホテル・7階・中ホールをかりて、記者会見をしているニュースだった。


 


ーーーー・・・・・・「こうした前提のもとで、一昨日起こりました”三菱東京UFJ銀行・京橋支店” の強盗・放火事件への、関与はなかった、と申し上げておるのであります。 ただ、首謀者の ”サソリ” と名乗る男性につきましては、確かに私達の教団の責任者でありましたし、彼の資金繰りの一部は、私達の教団から流れていた事は、否定できません。 なぜ、そのような暴挙に出たのかは、全く理解できないのですが・・・・・」


(と現場の「何んパオ本人」の記者会見の画像からスタジオに切り替わる)


「いやあ!これは大変な事になりましたね~(司会)」 「(それを受けて、この件のレポーターが)そうなんです。このあと ”何んパオ” 氏は、記者からの「暴動を呼びかけるビラの影響を受けて、そのような行動に出たのではないか? その点では教団側にも責任があるのではないか?」との質問に対し、「暴動ビラは作ったが、配ってはいない。配ったのは「和解マン本人」である。」又、「ビラの内容と、犯人の行動とは、何ら因果はない。」と答えました。そして、現在も逃走中の犯人 ”サソリ” という男を教団から除名処分とした事と、一刻も早い逮捕を願っている、としめくくりました。 ただ、この「サソリ」という男、現在も大阪市内に潜伏しているとの事なのですが、十数名の集団と行動を共にしているらしく、もし目撃情報がありましたら、大変危険ですので、すぐに通報をお願いします!」  「これ~でも、その ”何んパオ” さん?でしたっけ?この人はその「暴動ビラ」を作ったんでしょう? 何で作ったんでしょうね?(司会)」  「その事についての記者団からの質問には、「ビラは和解マン(教祖)に対して呼びかけたものであり、その呼びかけに応えた和解マン(教祖)が、”ビラ配布を中止せよ” と言ったので、中止した。なのに、そのあと、教祖自身がそのビラを配った」と答えていました(レポーター)」  「(司会)???その教祖って、何?和解マン?どうやって配ったの??」 「それについては、「和解マンは神のような存在であり、配布の仕方は「和解プァワーである」と、そこだけはうれしそうに答えています。」   「(司会)う~ん・・よくわからない部分の多い事件ですね~。ただ、今もどこかに潜伏している犯人とその集団についてはこのTVをご覧の皆様も、くれぐれも気をつけてくださいね!!」 


ーあ、終わったー


「やっぱりあのサソリの奴、何かやりそうやと思ってた・・」


そう思って、もう一回田川に電話しようとして、何気なく時計を見ると、


出勤時間まであと数分に迫っていた。


「何んパオのニュース」のおかげで、昨夜からどうしても頭から離れなかった、


”例の男の子” の事から、すっかり現実にかえった「斎元」は、


今日一日の、これからはじまる会社での現実を思った。


「あ、今日はめっちゃ忙しい日やった・・・」。


ー早くしなければならない、しかし、ミスがあってはならないー


「倉庫業」の物量の多い日の、職場としては当然ともいえる緊迫感。


誰かが怒鳴られている声。慌しく走り回る多くの作業者。


次々に出入りする大型トラック。 苛立つ走りのフォーク・リフト。


その中で、あたふたする自分。 そして、突然の「憂鬱」。


ーってか、時間、過ぎてる・・・-


昨夜から開いたままのPCは、まだ開いたままだ。


ーあ、blog更新しようと思って・・・・-


マウスを動かすと空白のままの「新規投稿」の画面。


ー「blog」も「仕事」も・・しんどい・・・・何んでや?


あ、「あの子」の事や・・。


「あの子」の事を考えると苦しい。 でも、それ以外の事は・・・


もっと、苦しい。


ーまた始まった・・・。ー


「斎元」は、この思考の堂々巡りからいつまでも出れない自分が、


苛立たしかった。


ー あかんやん!!おれ!! -


「憂鬱」に覆いかぶさる「自己嫌悪」、そして・・・「現実逃避」。


 


休もう・・・・。


 


「斎元」は、我ながら無責任だと感じた。


ー だって、もう時間過ぎてるし ー


古い木材が湿ったような匂い。 


「あ、雨が降る、そういえば、今日は一日雨や」。


まるで「斎元」のマイナス思考を援護するように、


この「はしみ荘」を潰してしまう勢いの、大粒の「雨音」がし始めた。


ー 「休め」・・・って事?? -


開けようとすると、きしんで 上、下、上、下、と、


順番に引っ張り開けないと、なかなか開いてくれない窓を開けた。


アスファルトが湿った匂いが「斎元」の顔を、


部屋に押し戻す勢いでムッと迫り、朝から暗い空は


本降りの気配・満々だ。


 


「連絡はしとこう・・」。と携帯を手にしては見たが、


再び今日一日の職場の状況を思い、ちょうど今頃、


ーあ、斎元は?えっ?来てない?遅刻?休み?


うそやろ?この忙しい日に!!-


そんな会話が聞こえてきそうで、携帯を持つ手はゆるんでしまう。


一応、携帯のディスプレイには、会社の事務所のナンバーが出ている。


しかし、「出ている」だけ。


「発信」は・・・・押せない。


と、その時、突然に着信音!! 「だ・・誰??」。


部屋中に響きわたる様にも感じられる着信音は、田川だ。


ー あ、おれが来てない事がわかって、心配して・・・・ー


鳴ったままの着信音は、


今の「斎元」には、「斎元」を攻め立てるようにしか聞こえない。


ー どうしよう・・・ ー  われながら、情けない。


着信音は鳴り止み、次いで留守録。


ー 聞きたくない ー


「あ!もしもし~!!よしお!早よおいでや~


今日、休みはヤバイぞ~!!待ってま~す!!」


田川の、ちょっとヒョウキンな留守録の声。


ー遅刻してでも・・・行こうかな・・ー


外の雨はいよいよ本降りだ。 


「あ、傘・・・傘ないわ・・・・。買っとけよ・・おれ・・・」。


こうなると、何もかもが、どうでも良くなる。


ー取りあえず・・・・・ハラ減ったな。カップヌードルでも買いに行くかー


会社には、傘があっても行けないが、


コンビニへは傘が無くても走っていける自分が、


ちょっと面白い。


 


ローソンは「はしみ荘」の近くにもある。


コンビニについた「斎元」はカップヌードルを手にした後、


何故か、店内を一巡している自分に気づく。


探してる・・・・。「あの子」を。


しかし、此処は「あの子」のいたローソンではないのに。


ー オレは、もう、病気やな・・・ー。


「スナック菓子」のコーナーは、目の毒だ。


急に、自作の詩「記念日」が読み返したくなって、


さっさとレジをすませた


 


 


 


 


 


 


  


 


そらの物語32 「斎元の章・3 斎元のblog」

2010-06-15 10:18:55 | そらの物語


 


「斎元の章・3 斎元のblog」


 



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ーー     「記念日」について     --      2008・04・21 23:55


昨日UPの詩作「記念日」についてなんですけど、この前 仕事帰りのコンビニでの出来事です。


「君」っていうのは、実は 男の子なんです もちろん、僕は ”ゲイ” ではありません


本当に、「見かけた」というだけなのですが、なぜか、 ”そんな気 ” になってしまう子だったんです。


「少年」という程幼くもない。 ちょっと「ネコ系」の目?? 


それから、いろいろ考えてみて、実は僕は「そういう人だったのかも(笑)」と思い、ためしに某・大手ゲイ雑誌を


購入してみました。 ひょっとすると、「新しい自分」が見つかるかも(笑)・・・・


で、じっくりと拝読してみたのですが・・・ムリでした  「この世界は、僕にはムリ!!!」


確かに同性での恋愛やSexがあって、そういう世界があるって事を否定はしません。


むしろ、独自の感覚であり、感情であり、世界だとも思うのです。 でも、やっぱ、僕にはムリ!!でした


 ただ、間違いないのは、しばらく「その子」についての記事ばっかりになってしまいそうだ・・という事です。


確かに、可愛らしい容姿をしていましたし、「男の子」である事も確かです。 でも、今時男でも女以上に


可愛い人って、あっちこっちにいますよね?美形の男。 僕はちがうけど・・。


 僕は「美しいもの」が好きなので、毎日、街中のあっちこっちで見かけます。男女問わず。


でも、その子は、全く違ってたんです


で、その子もこちらを見ていて(ような気がする・・)、一瞬、見つめあったような、そんな感じでした。


う~ん、上手く表現できない・・・。・・・う~~~ん・・・。


 すみません、今日はこの事で、なんかあまり言葉が出て来ないので、やめときますね~ ちゅーとハンパ(笑)!!!!


 


斎元 よしお


 


 


コメント(4)


 


-----    え~~っ!!!何?それ??    ----   (かえで)            2008・4・22 1:15


 さ、斎元さん!!それは「恋」ですよ(笑)!!あれれ~!!


大変な事になりました(爆笑)


でも、斎元さんらしいような、らしくないような・・・・。


 


----     今度は美少年っスか??   -----   (ゴル男)            2008・2・22 1:54


 「その子」って実は女の子みたいな男の子みたいな・・・


本当は女の子だったりして(笑)!!


ってか、さいもっちゃん、「詩」のその背景とかは、


あまり言わない方がいいかも・・・・


だって、オレ、さいもっちゃんに好きな女ができて、


そのコの事を想っての言葉だとおもって、


ちょっとトキめいたりしてたのに・・・


いやいや、がっかりはしてないよ ただ、ここに


書いてしまうと、じゃあ、その次はどうなったんか、


書かなければいけなくなるし・・


とりあえず、「記念日」、今までのさいもっちゃんと


雰囲気違ってて、よかったよ~


 


-----     禁断です!!!  -----       (さきちゃん)         2008・4・22  5:09


 斎元さんそれは禁断の恋ですよ 


で、斎元さんはどうするの? そのコの住んでるトコとか、


調べてたり?あ!名前!名前もわかんない?? う~ん 気になる・・・


どんなコなんだろう??斎元さん、調べちゃダメよ!!きゃ~!!


 


 


------    新境地ですね!   -----     (ぞうむし)         2008・4・22  10:12


 僕も以前「BL小説」なるものにチャレンジした事があるのですが、


斎元さんの様に「実体験」をもとにしたものでなかったせいか、


なかなか上手く行きませんでした。 だいたい「男女」だったら、


最後をハッピーエンドでしめるとして、だいたい決まってるでしょう?


それが、「同性」となると・・・どこへ持っていけばよいやら・・・。


ハッピーな終わり方が、難しいんですね・・。


斎元さんと、その子のこれからが、どうか「ハッピー」でありますように!!!


 


 


「斎元」はごきげんだった。


しかし、それはコンビニで「そら」を見かけた その日だけだった。


もしくは、blogにコメントをくれた人たちに


御礼の返事を書いている間だけ。


出合った事の喜びは、それがしだいに真剣になればなるほど


喜びではなく、懊悩へと変わっていく。


ー コメントにもあった、あの子は誰なのか?


どこに住んでいるのか? また会えるのか?


で、会ったとしても、どうするのか?-


”回答のない問いかけ” は続く。


何か、つらい事があった訳ではない。


なのに、明日の仕事も、それに備えての今も、


何をどうしても、虚しい感覚から逃れられない。


今はコメントの返事が精一杯だった。


「斎元」の まさに ”出口なし” の悩める夜は


日々、色濃くなるばかりだった。


 


 


 


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そらの物語31 「斎元の章2・はしみ荘」

2010-06-12 08:55:01 | そらの物語


 


「斎元の章・2 はしみ荘」


 


大阪市城東区 野江1丁目、11の22


京阪電車 「野江駅」がすぐそこに見える2階立ての ”文化” は


「立て付けの悪さ」はこの界隈随一を誇り 朝の出勤時間ともなると


住人が「力いっぱい」に閉めるドアの振動が


3軒隣の花瓶を落とす程に 派手に響く事でうわさの文化だ


「はしみ荘」


この2階の ”京阪電車から丸見え” の部屋に


「斎元」は住んでいる 


京阪電車 「野江駅」は 勤め先の「優しさ倉庫」がある「京橋」のとなり


ひとつ京都よりの 「京橋」の賑やかさとはまるで別世界の


のどかで 小さな駅だ


「斎元」は 「勤め先にまあまあ近く、家賃が格安だから」という条件で


この「はしみ荘」を選んだのだが このレベル違いの「立て付けの悪さ」に


今は後悔していた


6畳・4畳半・キッチン・便所と浴室は一応別々で


浴室だけは改装されていて 「浴槽付きの白いシステム・バス」だ


この「美しい浴室」の他は ”たいがい” で


「駅のまん前」で月20000円の安価な家賃が 


納得できる状態だった


ドア・窓等 総じて言うと ”四角い穴” の全ては


平行四辺形か ひどい所になると ひし形に変形するまで


完全放置で 畳と畳の隙間も 右上と左下が微妙に開いていて


小銭を落としたりすると ちょっと苦労する


住人が朝の出勤時に ドアを「力いっぱい」に閉めるのは


そうしないと ちゃんと閉まらないからだ


木製のベランダも一応付いている しかし全ての住人は


そのベランダを使う事はない 


入居の際の注意に 「ベランダに乗らないでくださいね」


と言われるからだ


「斎元」も入居の際 このベランダに片足をのせて見たが


「ぎぃ・・しぃ・・・」という音に 命の危険を感じて 


もう片方の足を乗せる勇気は 湧かなかった



「斎元」は 厳しく優しい母の 生真面目さが息苦しくて


高校の途中でこの「はしみ荘」にやって来た


母の事は本当は大好きで 心から尊敬していた


近隣の老人たちの面倒見がよく 


常に笑顔を絶やす事のない 明るい母


いつか この母を泣かせる程の”立派な男”となって


「自分を生んでくれた事・育ててくれた事」への


恩返しをしたい と考えていた しかし 親元にいては 


いつまでたっても自分は 母の「腕」の中だ


そして大喧嘩の末、飛び出してきたのだ


 


 


「斎元」の ”体型” は特徴がある


大きな腰周りとでん部 短いめの足 長いめの胴体と腕


その上に生えだした様な長い顔と 乙女チックな目元は


初対面の人でも 噴出してしまいそうに ”のどか” だ


彼の性格の根底は ”牧歌的ともいえる優しさ” であり


”すなお” という日本語を 実体にしたような20歳だ


しかし そうかといって 何も考えがないという訳ではない


人並みに「計算」もすれば 憎んだり嘘をついたり


時には人を傷つけてしまったり 傷つけられたり


20歳の青年が必要とする一通りの経験はしてきている


しかし その根底はやっぱり ”牧歌的な優しさ” であり


”すなお” でしかあり得なかった


これは 聡明は母の 強い影響だろう


 


 


彼の特技は「詩」を書くこと


「詩」を読むこと 


彼の心が最も満たされる時間


しかし 彼が社会人として いかに生きるか を考えた時


この「詩」への思いは ただの「足かせ」にしかならない


当然 「詩」では ”食”ってはいけない


なのに 「詩」への思いはつのる つのる思いを言葉にしても


「10」のうち「1」くらいしか 納得はいかない 


言葉にすればするほど つらくなる事も多い


でも 言葉にせずには おれない


 


最近立ち上げた 彼のblogは いろいろやってみて


結局 「goo」か「mixi」に落ち着いた


彼は この「blog」というツールを通じて 


いっぱいいっぱいになる自分を


客観的に見つめなおす事ができた


これは 親友の「田川」の勧めでもあった


自作の「詩」だけでなく 「会社での失敗」を記事にした事があった


自虐的な 自分を嘲笑するような内容だった


誰もがあきれてしまうだろう と思っていた


ところが 反応は思ったより あたたかく 熱いコメントが多かった


その失敗により もう会社をやめようか 


と思いつめていた「斎元」にとって


その一通一通のコメントは 心に突き刺さり


湧き出す勇気と 「心がつながった感」は 


 涙に変わり 奮起の決意に変わった


 


 



 


この「はしみ荘」と「blog」


私達の「大調査」にとって きわめて重要度が高い


「はしみ荘」によって 進まなかった事柄が劇的に進展し


「blog」によって 見えなかった事実が見えたりするのである


 


 


 


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そらの物語30 「斎元の章・1 見ただけ」

2010-06-06 06:09:32 | そらの物語


 


「斎元の章・1 見ただけ」


 


「分解・えら子」の清掃は 口から吸い込むのが常である



”サイクロン方式” で世界一の吸引力を誇る 掃除機のダイソン等が


この「分解・えら子」の吸引力に着目するならば


即日・商品化のオファーは まず間違いないだろう


しかし 「分解・えら子」の「清掃」は 


どの様な場所の「清掃」においても 営利を目的としない


故に そうした企業へ向けての広報等も 行わないのである


 


「分解・えら子」の「清掃」は 卓越している


どんなゴミや塵も ミクロのレベルにまで分解し


「分解・えら子」が大好きな”草花”の 栄養素に変化させてしまう


いったい この類い稀な機能の”内訳”は


どの様な「しくみ」から成っているのか というと


端的には ”愛の力”で分解し、”愛の力”によって生成するのである


”草花” に対する「愛」こそが この機能の全てなのである


 


しかし私達の「大調査」において 「分解・えら子」の役割は


今の所「清掃」以外はない


その為「清掃」が終わってしまうと すぐに手が空いてしまうのだ


同様に 今 「師匠」が「月の者」らしきPCに張り付いたままで


「弟子」としては「やる事」がなくなってしまっている「メジ式」も


「分解・えら子」とセットにされても 文句はなかった



 


この二人だけでなく 生き物の中でもまだ若い


「大調査」の研修生たちも 一緒になり


「はたらき協議会」の会場は ようやく決まった


「国松町 自治会館」


日時は2008年5月20日


この日「自治会館」は ”くもんしき” や地域の子供達のための


”剣道教室” も入っておらず 午前の「清掃」のみで


午後からは閉館となるからだ



 


私達と「斎元」との出会いは この「はたらき協議会」より


もう少し後になるが もしこの時点で私達と「斎元」との繋がりが


出来ていれば 「大調査」の”ありかた”自体が


かなり違ったものになっていたはずだ


その理由は 彼は「はたらき協議会」よりも前に


「和解マン」との接触に成功していたから



 


「斎元」は思春期の頃より ”恋多き” 人だった


そして たいがいは ”悲恋” に終わる


そんな彼も近頃は 自身が立ち上げたBlogを通じて


多くの「Blog友達」が生まれ その中でも「さきちゃん」という


「斎元」と同じく詩作のBlogを持つ女性と ”いい感じ” でもあった


ただ ”いい感じ” といっても 会ったことも話したこともない


しかしだからこそ ”いい感じ”といった類の「いい感じ」であった


「さきちゃん」のプロフィールには 「鳥取県在住」とある


「花の女子高生」とも書いてある お互いの「詩作」に対して


批評したり感想のやり取りをするうちに 会ってみたいなと


お互いが思うようにも ”なりつつ” あったのだ


 


しかし ある仕事帰りの「斎元」が 


いつものコンビニ前・喫煙灰皿の所で 


携帯電話に「詩作」のための原稿を打ち込んでいる時 


彼の全てを一気に変える 出会いがあったのだ


 


出会いというよりは ”見ただけ”


 


そこには「薄い瞳」が あった


 


それが「そら」だという事は 


この時点ではまだ何もわからなかった


しかし 彼に関わる「全て」 


「仕事」の事や「友人」の事 「Blog」の事や


「さきちゃん」の事 「和解マン」の事についても


それら「全て」が吹き飛ぶ勢いの 「衝撃」であったのだ


彼はその事を 「記念日」という作品にしてみた 


 


”出会い” というよりは ”見ただけ” 


という方が正しい 始まりである



 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


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そらの物語29 「はたらき協議会へ向けて」

2010-05-25 11:13:47 | そらの物語


 


「はたらき協議会へ向けて」


 


 


私達の「大調査」が 真に緊迫する時期まで


まだ もう少しあるような そんな気がするのである


抜き差しならぬ予感に満ちた「その時」へ向けての


体制の組みなおしするのには


ちょうど今が妥当な時期ではないか?


そうした意見もあったので 「はたらき協議会」を


ゴールデン・ウィーク後の いい日を選んで開催する事となった


その「会場」の確保の為に この2人は適任であった



 


「分解・えら子」と「メジ式」


「分解・えら子」は清掃を専らとする ”きれい好き” の生き物である


彼女の「美しさ」へのこだわりは その表情が


いつも「イラ」ついて見える程に


唯の一粒のほこりも見逃すまい という固い意志のため


普通にしているのに 怒っているように見えて


私達も怖い時がある


 


「メジ式」は 「FA637」の自慢の ”弟子” である


未だ「FA637」の 通信技術の研修中でありながら


すでに「大調査」の実践の中で


「FA637」からの発信の中継などに抜擢されている


「会場探し」はこの二人にとって 楽しい散策でもあった


特に「分解・えら子」にとってこの任は 至福の任である


というのも 「会場」の場所として取り決めた寝屋川市は


「大自然」とは言えないまでも 


豊かな自然を上手く残した町であり


寝屋川からの支流が 町のあちこちに流れ


”きれいな空気” を運んでくれる


「分解・えら子」の 何よりの楽しみは


美しい草花を見てまわる事だからだ


美しい草花を見て うろうろするだけで


「夢見る少女」の様に 心はときめき 心満たされるのだ


 


”寝屋川市” という場所は 「与一」の所在地である事から


全ての「生き物」が集まるのに容易である事と


「大調査」の主戦場となった ”京橋” から


若干の距離がある という条件から 取り決めた場所である


”京橋” から距離を置くのは 


先般の「むらさき色のかざぐるまの件」から


「和解マン」が 私達の動きを見ている可能性を考えて


主戦場からなるべく離れてみよう、という試みでもある


 もし「和解マン」が 私達の全ての動作を


見通している様な存在であるならば 


それは それで また 心躍る展開となるだろう


 


この「はたらき協議会」では、当然「和解マン関連」の新情報も語り合われる予定である。 1点目は、「むらさき色のかざぐるま」の件以降、「サソリ」は「なないろ」に帰っていない事から、「サソリ追跡」のため、「一の妄」が動いている、その報告。 そして、2点目は、「Hiたかお」からの「そら」の情報である。 これは、ある時以降、「そら」は少し ”おかしく” なっている、との事で、「Hiたかお」の異常な「点滅」が激しくなってきているのである。 「そら」の ”こころもよう” によって起こる「点滅」、そして「ピー」というノイズ音。 もとより これらは「Hiたかお」の「おしゃべりストッパー」のはずだったのが、今は「おしゃべり」と関係なく、止められなくなっているのである。 この事について「Hiたかお」が発見したのは、「そら」は生まれてはじめての ”恋” をしている、という事だ。 この”恋のお相手” こそが、私達の「大調査」にとって、今まで見逃してしまっていた人物である。 


「斎元 よしお」。 この詳細についての報告である。 


3点目は、「ゆきりん」と「ぽち」の、「和解マン」の目撃情報である。 この目撃情報から、「和解マン」は「人間」である可能性がでて来たのだ。 その報告と、それをめぐっての協議。


4点目は「FA637」からの報告。 「月の者」の可能性の色濃い「優しさ倉庫」内・事務所にある「3」という名前の、業務用のPC。ここに ”動き” があった、との事なのだ。 場合によっては、この「優しさ倉庫」に張り付いている「FA637」のもとへ、「メジ式」の動員も考えなくてはならない、その検討と協議。 


この「はたらき協議会」は、いわば私達の特別な協議会である。 ゆえに、協議会当日は、全ての「生き物」の「大調査」をストップし、会場もわざわざ公共の自治会館をお借りして、全員がここに結集して行うのである。 この様に重要な協議であり、重要な ”会場さがし” であるにもかかわらず、「分解・えら子」は、どうしても「美しい草花」に夢中で、なかなか会場が見つからないのである。


 


「斎元の章・まえがき」


私達の「はたらき協議会」で語り合われる全ての議題に、「斎元」は深くかかわっている。下記は「斎元」が自作の ”詩” を発表するために開設している「Blog」の、その最近のものである。


 


「記念日」 


 


出入りする 人もまばらな


夜のコンビニは 春


昨日から 急に寒くなったので


湿気で曇った ガラス


貼り付けられた イベントのポスターの角が


湿って落ちている その三角の向こう


笑顔の君の


透明ないきおいの うすい瞳は


つよく 何かをさがして


うれしそうに 光っている


それは スナック菓子だね


長いまつげが 自然のなみだで光って見える


ほら


また そんなに


うれしそうに笑っている


君の仕草が 心の中で止めているのに


何度でも


何度でも現れて 心が苦しいよ


君と手をつないで 歩く夢を見たよ 変かな?


あの日 世界は変わった


もし もう一度 会えるなら 何を話せばいいのだろう?


僕は何を聞けばいいのかな?


ちょっと 寒くなったね


そうだね


そんな 普通の会話でいい


「君と一緒の時間」という事だけで 


僕の世界は全部いっぱい


でも 要注意なのは


僕の心の 中心にある想いを


うっかり告白してしまわない事


だから


もし もう一度会えるなら


君の小さな手に触れて


君の輝く瞳から目をそらせ


そして 君をこわさないように


「愛してる」って言ったら変かな?って


笑ってみたいんだ


この歪んだ 社会の中で


君だけが 僕の本当


僕は


未だ見知らぬ君を


ただ ただ


心に強く 想っている


今日は そんな僕に


なってしまった「記念日」だ


 


さいもと よしお



 


 


 


 


 


 


 


 


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そらの物語28 「むらさき色のかざぐるま・3」 

2010-04-27 04:57:19 | そらの物語


 


「むらさき色のかざぐるま・3」


 


「先ほどの停電による運休で、大変 ご迷惑をおかけしておりましたが、つい先ほど、天王寺駅、新大阪駅、鶴橋駅、西九条駅より、順次、運行を再開しております! 上下線 共に、約10分ほど遅れての到着となりますので、今しばらくお待ち下さい。 現在、かなり混み合っておりますので、ご乗車できない恐れもございますが、臨時便もつい先ほど増発しておりますので、押し合わない様に、ご乗車をお願いいたします!  つい先ほどの停電による運休で・・・・・」


JR各線、京阪電鉄のほぼ同時の運行再開のアナウンスは、あまりに「普通の停電だった」様であり、あまりに「普通のトラブルの終結であった」様な、そんな安堵感に満ちた早口で,、深夜の京橋に繰り返された。


京阪モール・シャッター前に居合わせた100名を超える集団は、つい今、目撃したばかりの無数の「むらさき色のかざぐるま」と、「夜桜」は、大規模な停電と急な復旧による、ちょっとした視覚の異常だったんじゃないか、といった様な会話で盛り上がりだしていた。リアルな「神秘体験」。 突発的な停電。 幻覚のような「かざぐるま」と「桜」。 ここに集う前からそんな「予感」はしていて、、ここに集った。 そして・・・・・・・・。でも、確かに見えた・・・・。  「いや、でも たがっちも見たやろ? 今の??」 「うん、確かに見た・・・、ような・・ほら!、聞いてみ!!」 と、耳を澄ます仕草の田川。 「あはは!みんな、同じ様な会話してるな!!」


「滝沢 何んパオ」は、難しい顔で「サソリ」に聞いた。 「さ、サソリさん、今そこに いらっしゃる和解マンに聞いてみて下さい!! ”今の”は、あなたが起こされたのですか? ”怒り” なのですか? 何んなのですか?」 「・・・・お・・おらん・・・・。じ、十字架ごと・・消えてるわ・・」 と、子供が ”キョトン?” としている様な表情で「サソリ」。  「何んパオ」は、心の中にいくら考えても出てこない言葉を探すように、どこでも良い一点をしばらく見つめ、起こった全てが整理しがたい。 今のがどれくらいの規模での停電だったのかハッキリしないが、人為的にできるレベルを遥かに超えている事はまちがいない。 停電がもし たまたまの偶然であったとしても、”かざぐるま”は?? 誰かが停電すると知ってて、その間に??いや、それはない、無理だ・・・・視覚のトリック??。  でも、”桜” は??・・・・んんんん・・・やはり、本当の「和解マン」・・・・・・・。


「何んパオ」は、「すぐに事務所に戻りましょう!!!ビラは全て回収!!ポスティングは中止です!!やり直しです!!」 と事務員に指示した。 「わかりました!」と事務員。 ヒューマン・ワークスのスーツの男が、「・・・・・・・滝沢さん、すみません、私には何がなんだかわからないのですが、取り急ぎ、今日電車で参加しているメンバーもおりますので、全員解散でいいのですね?」 と、「サソリ」よりは話しやすい「何んパオ」に聞いた。 「ああ!!失礼いたしました!!はい、結構です。ありがとうございました!」


 


”X型のイガイガ”を縮めて、すっかり ”可愛いおばけ” の様になった「一の妄」が、駐輪場に身を潜める「カイ」達の所に戻った時、話しは「サソリには声をかけずに帰る」という事と、「結局、和解マンは、意味不明だったが、確かな存在感だけは示した」という所に落ち着いていた。 そして「ヘビ」が電話口の「よも清さん」に状況の説明をしている最中だった。「すごいです!!よも清さん、オレがおかしいんかな って思うくらい!!ありえませんね・・・”かざぐるま” でした・・・・。 ”さくら” が・・・・・・い、今、取りあえず、ビラ撒きは中止になったみたいです!みんな、今日の日当だけ貰って解散していってますわ!」  「そうですか。騒動は決着しましたか。」 「でも、あの ”かざぐるまと桜” って、どうなってるんでしょうか?? もし、和解マンだったとしても、何が言いたかったんでしょう??一瞬でしたよ。 でも、あの集団の中に指差したりしてる人もいてたから、全員見てますよ!すごい量でしたから・・”かざぐるま” 。しかも、急にばああっと出てきて、急にぱっと消えた!!ますます、わからん・・・」 と腕組みしながら「ヘビ」。「どうなってんの???」。 


解散していく人々は皆、その日の日当を手にしてる。12800円。まさに破格だ。 「集まって、騒いで、そして解散」、これだけで、この日当。 参加者全員にとって、京橋駅のアナウンスと、この金額そのものが、 ”あったかもしれないし、なかったかもしれない出来事” の一部始終を、よりいっそうリアルにするのだった。


「よも清さん」も、この事は「解読不能」だ。「・・・・・・・・・・・・。・・・・・たかおくん、もし、一の妄が ”和解マン” のふりをして出て行かず、あの ”何んパオ” も出てこず、そしてポスティングが滞りなく11時ぴったりにスタートしていたら、どうなってたんでしょうね?・・それでも、停電は起こっていたでしょうか? ”かざぐるま” は、集団を囲んでいたのでしょうか? いや、それ以前に、その時間は本来ならば、参加者がポスティングに出かけてしまっている時間です。誰もいない所にも、”わっか”の形で現れたでしょうか??」 「・・・・・・・・・・・。」 「これは、私の想像なのですが、 ”和解マン” はこの騒動をどこか近くから見ていた。 そして、”何か”を待っていた。”何か”を期待して、待っていた。 しかし、”それ” は現れなかった。 ”期待” は叶わなかった。 だから、解読できない様なメッセージだけを置いて、姿をあらわす事はやめた・・・・・。」 「・・・・う~ん・・・・微妙ですね・・・・そういう風に想像すると、そんな気もします・・・・。」 「あくまで、想像です。もし、その ”停電”を引き起こしたり、 ”かざぐるま” や ”さくら” といった、考えても意味のわからないものを「出」してきたのが、 ”本物の和解マン”だったとしたら、「和解マンのふりをして出て行った一の妄」を、認識していたのかもしれませんね。 ・・・・・ただ、今の段階では、何もわかりません。 さあ、もうかなりな時間です。カイさんも、ヘビさんも、明日のお仕事にさし支えるでしょう。 お開きにしましょう! カイさん、この通話、本当にありがとうございました。」 「あ!いえいえ!!サソリの奴がちょっと気になりますが、そうしましょう!解散!!」。とこちらも驚きに整理できずにいた「カイ」。


「斎元」と田川は「出来事による高揚感」はそのままに、深夜の京橋・繁華街を自転車で通り抜け、自宅へと向かっていた。 「なあ!たがっち、”ええもん” 見せたろか?!」 「ええ??何?」  「ほら!写ってたわ!!」と自身の携帯のデータ・ファイルの”ピクチャー・フォルダー” を開いて見せた。


「ああっ!!!!」



「よしお、おまえ!ナイスやっ!!」 


「どうや!!咄嗟の写メ、激写や(笑)!!」  「すげえ!!ちゃんと写ってるやん!!お・・まえ、こんな事は、めっちゃ早いなあ!! 仕事は遅いのに(笑)!」  「うるさい!!」


 


ちょうどその頃、京橋駅のすぐ近く、大阪城公園に「そら」達は到着していた。 


たいがい「そら」は、行き先や目的を確認しない。 「ほら、ゆきりん、ぽち、大阪城公園についたで!!カイさん達、大阪城公園がなにって言うてたかなあ??」。 「そらくん、大阪城でなかったような・・・・大阪城・・大阪城・・・・う~ん。」 と思い出そうとするが、「大阪城公園でなく、京橋」、が、ぱっと出てこない「ゆきりん」。 「うう~ん・・・おおおお大阪城が・・大阪城が・・・・」と「ぽち」も同様。 「・・・大阪城までは出てくるんやけど・・・」。 「そやろ?!おれも、大阪城まで来たからには、大阪城までは、バッチリ出てくるんやけど・・・だいたいは合ってるから、それだけ分は大丈夫って事や!!まあ、・・・・いわゆる・・・」。 「いわゆる??」 「いわゆる・・・どうさつりょく って事やな!!」 「???どうさ?つ??」。 


4月の始め頃にはこの大阪城公園は満開の桜を楽しむ花見客でごった返し、桜が散りだすと、花見客が残して行った大量のゴミと、それをまだらな「白」に染め上げる 散りきった花びらが、通りの全てをドロドロにする。 地域の自治会では、問題にもなっていた。 「そら」達の到着は、その「ドロドロ」もきれいに片付いた2008年、4月28日。 JR大阪城公園駅から少しはなれた暗がりを、カイ達の姿を探し始めた、「そら・ゆきりん・ぽち」。 その付近はホームレスがそこかしこに寝床を作成し、もう、寝息をたてている。  暗がりの一画から、「そら」達に  ”ヨボヨボ” した声。 


「”お嬢ちゃん” 、ええ匂いするなあ・・」


それはホームレスの老人だった。 背中に小汚いリュック、あちこち破れたグレーのニット帽で、気持ちの悪いくらいの満面の笑顔。 リュックからは明らかに使えない傘が飛び出ている。 一人ではない。 その後ろには月明かりを頼りに「将棋」を楽しんでいる、スキンヘッドで小太りの老人。 その将棋を覗き込む老婆は、背中に「くまさん」のぬいぐるみをおんぶしているが、「くまさん」の片目と片足は もげかけてから何日も放置の様子。「んっ?!」 と、声の方を振り向きながら「そら」。 「じいさん、おれを呼んで待たせるんやったら、”おじょうちゃん” ではなくて、 ”ぼくちゃん” とかの方が、まあ、合ってるぞ!それにしても、じいさん、するめ臭いで!!」。 声をかけたのは「リュックで満面笑顔の老人」。「なんや、お嬢ちゃんかなって思たわ!身体から いいにおい しとるわ!可愛い、 ”ぼくちゃん” やな!」と老人。 


「ねえ!そらくん!!無視して行こうよ!!あたし、怖い!。」 怖がる「ゆきりん」にかまわず「そら」が「ふろ入ってへんから、いい匂いは、あれへんやろ!!ん?臭いか??」と身体を匂ってみる。 「はっはっはっ!!おまえみたいな可愛い ”ぼくちゃん” がこんな所にフラフラ来よったら、わしらみたいな汚いじじいに、金、取られるで!早ようあっち行きぃ!」。 「あほか!じじい!!おれが行く所は、別に、おれが自由に決めて、それからそこに行くだけやろ!!」。 即答にしては、元気一杯の「そら」の”とんちんかんトーク”に、老人達は一斉に集中する。「くっくっくっっく・・・・・じゃあ、”ぼくちゃん” 、ちょっと ”金” くれよ!!くっくっくっく・・・・」。 「あほか!持ってても、じいさん等にはやらん!! これは、1号とかヘビとかカイさんが、お仕事でがんばって かせいだ ”お金” やから、おれが、大事に使う!!じいさんも、何か、がんばれ!!」。 「ひっひっひっひっひ!!おまえ、それやったら、カードとか持ってへんか?? それ、置いていけよ!!」 


「持ってるけど、見せてもいいけど、置いては行けへんな! 見るだけやったら、まあ、いいよ」。


将棋の老人や、「くまさん」の老婆まで、一斉に「見ぃ~せろ!!見ぃ~せろ!!見ぃ~せろ!!」と騒ぎだした。 「そら」はしかたなくポケットから、唯一カードと呼べるものを、宝物でも持ち出す仕方で、うやうやしく持ち出し、老人達にかざすように見せた。 「見るだけ~!!」。 老人達は一斉に静まり、カードに書かれた文字に集中し、”子供らしい文字” で書かれたその内容を(参照・そらの物語「履歴」)読み上げた。


???・・・・・親友のあかしのしょうめいの 


重大しるしのとくべつきょかしょう・・・・・!!!


「へえぇっ!!そりゃあ!ごっつい、”美しい” カードやなあ!!」


「??? ”美しい” ?美しくはないやろ?美しい、は、おかしいな!だって、ずうっと持ったまんまやから、ぼろぼろのカードが正解やで!」


「ほぉぉぉ、それは、”ぼくちゃん” の願いが、一つだけかなう奴とちがうか? いいカードやな!!素敵やなあ!!」 「なんや?ちがうで!!これは、おれが大事な友達といっしょに作った、 ”きょかしょう” やで!まあ、すてきな事は、あってるな!」 すると、”将棋の老人”が 「よっしゃ!!王手や!それ、王手!!」 と言った。 「じいさんら、意味不明やわ!!おれ、カイさん見つけなあかんから、行くよ。」


「ひっひっひっひ、それ持ってたら、いい事あるかもよ!」と ”笑顔の老人” 。


「じゃーな、じいさん、そんなとこ座ってるうちに、仕事とか、いろいろがんばりや!いい事あるで!!」 と言いながら、おびえる「ゆきりん」と「ぽち」をスクーターに乗せて、その場を立ち去った。 スクーターを押して「カイ達」の姿をさがす「そら」の後姿を、 ”笑顔の老人” は満面の笑顔のままで、見送った。 「そら」の足元には、 ”そこにあってはおかしなもの” が大量に散乱していた。 


桜の花びら。


そして、「そら達」を見送る ”老人達”の、頭のてっぺんには、


 ”むらさき色のかざぐるま”が まわっている。


 


おそらく、その日の深夜だろう。 


ほとんど ”全戸配布”に近い、大量のビラが撒かれていた。


 ”ビラ” の内容は、「オフィス・和解マン」が作成した「警告」と


まったく同じ文面。 


”第2回目のビラ”だった。      


そらの物語27 「むらさき色のかざぐるま・2」

2010-04-21 13:20:18 | そらの物語


 


「むらさき色のかざぐるま・2」


 


「あれ??主宰には見えませんか??」と「サソリ」。


「はい。わたくしからは見えないのです。しかし、”あなたからは、見えている” 、そういう事ですね。わかります!そういう事なんです!それで良いのです。」 と、「滝沢 何んパオ」。 


「サソリさん、これは ”エピファニー” という現象なのです。 ”顕れる” という事です!あなたは、まさに、”和解マン” と今、本当に会う事ができ、そして、話す事ができているのです!! "和解マンは、今、まさに顕れている!" という事です!!素晴らしい事です!!もはや、このビラを撒く必要はなくなりました!!サソリさん、後はわたくしにお任せ下さい。そして、そこにいらっしゃる ”和解マン” に、粗相の無いよう、しばしお待ち頂く様、お伝え下さい!!」


逃げかけて、突然の「何んパオ」の登場に集中していた田川が「斎元」に、「お、おい、よしお、あの人、名前、何んて言った??(笑)」と、ちょっと笑い顔。「・・・・なんぱお(笑)・・・・・・お笑いか?あかん、なんか笑けてきた(笑)」 と「斎元」もクスクス笑い。 しかし、声をあげて笑う者は誰もいない。 「和解マンがいてるって言うてるな、あの ”教祖” 。」と誰かが言った。 「斎元」が、「うん、言いましたね、なんか、そういう劇みたいですね!」 「しかも、”何んパオ” (笑)でしょ?」 「これって、大道芸??それにしては、めっちゃ凝ってる大道芸ですね?」 「なんか、”オチ”があるんちゃうかな?」 「あの”なんパオ”(笑)って人が、今、何を言うても、笑ってしまいそう・・」 と田川。 「で?、どこにいてるん?和解マン?」 「サソリの人にだけ見えてるらしい・・・と・・・なんパオさんが言うてるけど・・・」 「ププっ!!うそっぽ~(笑)!!」 この様なヒソヒソ話しが、大集団となった「群衆」のいたる所で交わされ始めてすぐ、「滝沢 何んパオ」の高らかな演説というに等しい話しが始まった。「お集まり下さった皆さん!!この様な遅い時間に、本当にご苦労様です!先にも言いました様に、ポスチングの中止についてですが・・・」  若干の笑いをかみ殺すざわめき。「皆さんの間でも、ちょっとした話題になっております、和解マンじきじきに、 ”中止にせよ” とのご教示を頂きました!今、ここに集われた皆さんは、これにて解散となりました!!ただ、一つだけ、お願いしたい事があります!それは、明日以降、ここで今和解マンが顕れた、という事、もしくは、 ”見えなかったけれども” 、顕れたかも知れない、という事を、ご友人やご家族に、伝道して戴きたい、という事なのです!!伝道とはつまり、伝え広める、という意味です!その尊い精進をもって、本日あなたがたにお支払いする日当に代えさせて戴きたいのです!もちろん、自由意志で結構です!!ここに集われた皆様の身の上に、幸あらん事を!!」 これに、「幸あらん事を!!」と、「何んパオ」と一緒に走ってきた銀行員のような制服の事務員たちが唱和し、仏教徒の様に合唱した後、深々と一礼した。 


駐輪場の電話口から「よも清さん」が、「よく通る声ですね!これは、集まった人々に、ではなく、”和解マン” に聞こえるように言っているのでしょう。 本当に、”和解マン” に合いたいのですね!それが、なんの為かは、よくわからないのですが・・・・たかおくん、そろそろ一の妄くん達を、連れ戻して来ましょう。 ”和解マン” がこれに反応する、しない、に関わらず、「解散」が結論の様ですので。」 「よも清さんOK!!わかりました!!」 「Hiたかお」が、「解散」し始める「群衆」の中に入って行こうとした時、突然


ドンッ!!!



何か大きな電源が一気に落ちた様な、地響きのような重低音に続いて


んんんんんんんんんんんんんんんんんんんん・・・・・・・


という、モーターか何かがゆっくり止まっていくようなもの音。


京阪電車・JR線の、電灯という電灯が次々に落ちて行き、「群衆」も、「何んパオ」や「サソリ」達、「カイ・ヘビ・Hiたかお」達、「一の妄」達、その全てを、大きな暗がりが包んでいく。 京阪モールの常夜灯や界隈を派手に盛り上げていたネオンも次々と消えて行き、しだいに、都会とは思えない暗闇と静寂。  山の中??トンネル???  「ええ~っ!!!何??これ???」 人々の中の、どこかの女性が叫んだ。  「て て停電っ???何??」 「停電か??」 「こ!焦げ臭い!!!」 金属のモーターが焼け切れた様な、プラスチックが焼けたような・・・・。 「なんか、なんか焼けてるぞぉ!!!!」  


  電話口の「よも清さん」が「どうしましたか?何んですか??何が起こりましたか??カイさん??」と投げかけたが、「カイ」も「ええ??ななんや??て、停電かあ??」としか答えようがない。  「何んパオ」も、何がどうなったのかわからない、全くの暗闇だ。この界隈から少し離れた所に信号機が、災害時のモードでまたたいている。  「わ、和解マンか?」と誰かが言った。 JR線の駅員が暗黒となった駅のアナウンスだけでも復旧させようと、何名もが右から左へ、左から右へ、走り回っている。その、走る足音が、そこから大分離れた京阪モール、シャッター下まで、間近に聞こえる程の、全くの静寂。                                      「斎元」は、周りを見回してみたが、すぐ隣の誰かの息使いや気配が感じられるほどの、突然の暗闇と完全な静寂。 「・・・よしお、どこや??・・・」 「たがっち!!ここ!!」 と、手を触れ合って、やっとお互いが確認できる。                                       緊急時の電灯が、京阪電車、ホームから復旧し始めた。  「やっぱ!やっぱ、停電や!!停電やった!!」誰かが言った。 JRのアナウンスも、少しハウリングを起こしながらも、復旧し始めた。 「京橋駅~周辺のお客様!!ただ今、大規模な停電の為、京橋駅から桜ノ宮、大阪城公園までの運休、いや、全線の運休を見合わせております!!ご乗車の皆様には、大変ご迷惑をおかけしておりますが、完全な復旧まで、今、しばらくお待ちいただきますよう、お願いいたします!!ただ今・・・・・・・・」 


電灯の復旧は、未だ完全ではなかったが、「群衆」も、次第に周囲の景色が蘇って来る事が分かって来た。 唐突に、小さな音。  かたかたかたかた・・・・かたかた・・・。


「かたかた・・・・」というもの音がそこに立ち尽くす数百名を取り囲んでいる事に気づいた。 


   


むらさき色のかざぐるま!!


忽然と ”顕れた” のは、数百名を取り囲むように立てられた、


無数の「むらさき色のかざぐるま」だった。


折り紙・木片・プラスチックを裂いて作ったもの・


大小様々な、おびただしい量の、「むらさき色」。



「ええ~っ!?」 悲鳴とも歓声ともつかない声が一斉にあがった。 それは何故か、数百名の「集団」を包囲するように、無数に立てられ、風を受けて回っていた。 不気味なほど、美しい「むらさき色のかざぐるま」。 


完全に、全ての電気が復旧するまで、さほど時間はかからなかった。しかし、元の明るさに戻って、人々はふと、界隈のあちこちを見回して、そして、一斉に驚愕した。


満開の桜???!!!!!!


界隈のあちこちに、もうすでに散ってしまったはずの「満開の夜桜」が、


所狭しと咲き狂っている。


「・・・・・・・・・・!!!!!な??・・なんで???・・・・」


「・・・・た、たがっち、きょ、今日って、何日やっ・・・・・」 慌てて、


手に持つ携帯で、日付を見ようと、視線を落とした。


4月28日!!!別に、普通や!!


居合わせた全ての人が同じ動作をしていたかもしれない。


再び、視線を上げた時、


「かざぐるま」も「満開の夜桜」も、


跡形もなく 消えていた。


それは、時間にして、


ほんの数秒の出来事だった。


  


 


そらの物語26 「むらさき色のかざぐるま・1」

2010-04-21 03:48:50 | そらの物語


 


「むらさき色のかざぐるま・1」


 


「あなたは、ウソつきですか? 


あなた達は、ニセものですね!?


ハッタリですね?!ウソつきは泥棒のはじまりですよ!!あなた達は、泥棒ですか?!誰に電話ですか?!ウソつきの仲間ですか?!」 


こうした、”なりきりトーク” は、「ケリー・糸3番」はお手の物だ。 目の前の「一の妄&ケリー・糸3番」の扮する「本物の和解マン」が、未だ信じがたい「サソリ」は、電話口の「オフィス・和解マン」の事務の女の子に、「おお、おい!!聞いたか!!今の?!早く!!早くこっちに出てきてくれ!本物が出た!!!そう、”主宰” に伝えてくれ!!」 そう、早口で伝えた。


このやり取り、「斎元」や田川、スーツの男をはじめ居並ぶ”ギャラリー”には、まったく意味不明だ。 「サソリ」が見えているもの、聞こえているもの、は他の誰にも見えないし聞こえない。


「サソリさん、”主宰” は今、そちらに急いで向かいましたので、すぐに到着します! ”出た” のですね? ”和解マン” が!?」 と「オフィス・和解マン」の事務員。 「おお! ”正真正銘” やな!! バケモノ??・・・本物はちょっとグロいぞ!!すげえわ!!首だけやぞ!!首だけでしゃべってる!!」


「あなたは失礼な人間ですね!それは、わたくしを、冒涜している発言です!さすがのわたくしも、ちょっとムカついています!!!その電話口のウソ付き仲間も合わせて、懺悔が必要です!!」


「わ、和解マン、いや、和解マン様!!失礼しました!!あんたが急に出て来るもんやから、ビックリしただけですよ!!失礼しました!!」 。 電話口の事務員が何か聞いているのも構わず切って、 ”ついに現れた和解マン” に、慌てて頭を下げる「サソリ」。 「ざ、懺悔??ウソ付きじゃありません!!本当です!!い、いや、この警告は、ウソって言うか・・・ウソじゃなくて・・・・」


 


田川が「斎元」に「おい!よしお!こいつ、あかんで!!おかしい!!完璧、おかしい!!逃げよ!!」と、「サソリ」に聞こえるのも構わず言った。 薬物中毒??それか、トランス状態???完全に、何かとしゃべっている?! 「そやな!行こ!!」と二人は慌てて集団の外へ出ようとした。 二人が急に逃げ出そうとすると、同じ「不安感」を分け持っていた、「中央」のあちこちで、堰を切ったようにその「連鎖反応」が起こった。 しかし集団の密集は今や有名アーティストのライブ会場の客席さながら、密度の濃い状態になりつつあり、その流れに逆らうのは容易ではない。 「どけっ!!どけって!!」と「キレ気味」に田川。 集団・中央のあちこちで「外へ!外へ!!」という動きが起り、メンバーどうしで「オシクラまんじゅう」のような状態に変化し、その変化をどよめきが包む様だ。 この動きは、集団の外側で「真ん中で何が起こっているのか、見たいけど人で見れない」メンバー達の、更なる、強い「集中」を生みだす。 学生たちのグループや、女の子の一団が、この ”おもろい”状況を、人に押されながらも友達に電話で伝えようとする、話し声が、そこかしこから広がる。 「なあ!なあ!おもろいって!この、ビラのバイト!今、来てんねやんか!これ、聞こえる?!めっちゃ、騒ぎになってんで!!おいで!おいで!ん??和解マン??わからん!!でも たぶん、真ん中の方で、”出” て来てるんやで!!いや!ほんまほんま!!」。


押されるがままの「ヒューマン・サポート」のスーツの男は、ここで又「事務所」に電話し、この事態を懸命に伝えようとしている。 しかし、「ヒューマン」からの指示は、「ポスティング・決行」だったようだ。 愕然として、眼前でひしめく「群衆」と、大声で ”見えない何か” と話しだした「サソリ」を呆然と見つめて、人々に押されるがままだ。 よく考えてみろ、「派遣先・企業様の責任者」が、「待機」と言えば「待機」だ。 自分は契約どうりの人数を揃え、確認がすめば、後の役割は、全員の終業報告を取るのみ。 仕事の内容に立ち入って云々する必要はない。 必要ないどころか、それは分を超えているし、契約違反にも通じる。 しかし、この状況は・・・・・・。今、スーツの男は、「ヒューマンの人」ではなく、ただの「押されるがままの群衆」の一人にすぎない・・・・これで、いいのか?? いや、いい訳はない・・・これは、「不測の事態」である。 自分は「ヒューマン・ワークス」の責任者として、この場合、どう対処するべきなのか・・・・。男のこの「短時間の葛藤」は、集団の最後尾で、騒ぎを聞きつけてやって来た数名の警官が、メンバーに「これは何んの ”集会” なのか?」と聞き取りを始めているのを見て、何かが吹っ切れた様な大声となった。


「皆さん!!解散です!!解散!!本日は本当に、お疲れさまでした!!解散!解散!!ありがとうございました!!解散、解散!!」


集団に新たなどよめき。 「解散って?」 「ええ??解散??なんで、なんで??」 「いや、解散って、今日の日当、まだ貰ってないし?!」 「ヒューマンもおかしくなった??」


 「サソリ」は「おいっ!!こらっおっさん!!なんで、解散や!?お前、発作か?!!待機や!!待機!!なに急にわからん事言うとんねや!!」


こうなると、それを聞いているメンバーはどうしていいかわからない。


「かかか解散!!解散にしましょう!!もう・・解散!!解散!」 言い出してしまってから、「それは変だ」と気がついたが、言い出してしまったからには、言い切ってしまわねばならないスーツの男。 


この時点で集団の規模は、京阪モール・シャッター前を中心に 界隈の三分の一を埋め尽くす規模に膨れ上がり、夜23時を過ぎたこの時間でも、はっきりと通行の妨げになるレベルに達している。 まるで選挙前の候補者の、”最後のお願い” を聞きに集う群衆の様だ。 「あと、もう一押し、清き一票を!」の演説のかわりは「サソリ」の動転した ”何か” との対話と、スーツの男の「解散」だ。 


集団の外側で新しい動きが起こった。 「関係者ですっ!!通して下さい!!!すみません!!関係者です!!!」 


それは、「サソリ」からの電話を受けて、慌てて出てきた「オフィス・和解マン」の ”主催” と呼ばれる男だ。 数名の事務員と一緒に、 ”大きく振りかぶった陸上選手の様な走り” で密集する集団の外側に駆け寄る。いかに慌てて出てきたかが よく分かる ”走り” での登場は、ひしめき合っていた集団の注意を、いったんそちらに向ける程の効果があった。 あわせて、事務員は銀行員の様な制服なのに、その男はキリスト教の神父を思わせる全身白の宗教的衣装という ちぐはぐさが、更に効果的だ。 


「あ!出た!!あれが「オフィス・和解マン」の責任者とちゃうか?」 駐輪場で身を潜める「カイ」が言った。 「いかにも、”宗教” って感じやな!あのおっさん!!しかも、でかい!」と「ヘビ」。 通話状態でそのやり取りを聞いている「よも清さん」が、「出て来ましたか?!たぶん、それが責任者でしょう! これで、ハッキリしましたね!やはり、オフィス・和解マンは、和解マン本人とは繋がっていなかった。 今、初めて”繋がり” に出てきた、という事でしょう!」。 「うっわぁ!ほんまですね!よも清さん!あの宗教服の男、どうするんでしょうね?」 とワクワク感の隠せない「カイ」。「それは、わかりません。しばらく見ていましょう。ただ、一の妄とケリーが何かまずい事を言い出してしまいそうなら、たかおくん、あなたが行って、連れ戻して来て下さいね!」 「はい!わかりました! でも、よも清さん、 ”まずい事” って、どんな事ですか?」 「それも、今はわかりません。 ただ、一の妄の ”やりすぎ” はケリーが止めてくれますが、 ケリーの ”やりすぎ” を止める役がおりませんので。 それに、サソリさんをこれ以上刺激して、もし危険な行動に出てしまう様な事になってしまっては、そちらにいるたくさんの方に迷惑をかけてしまうので。」 「あ!OKです!!」 


「オフィス・和解マン」の、 ”主宰”と呼ばれる男は、多くの混乱した人だかりの中にあっても、ひときわ目立つ長身なので、中央の「サソリ」の所へと進むのに、人々は自然と道をあけた。 いったん「待機か?解散か?」で、騒然となった騒ぎは、その ”主宰” という男が進むごとに、鎮まり、再びヒソヒソとしたざわめきに変わった。 それは、少し離れた位置にいる「カイ」達から見ると、100名を越す ”信者の集会” に、 ”教祖” がいよいよ現れた、といった感じにも見えた。


 ”主宰” と呼ばれる男は「サソリさん、お疲れ様です!」 と、落ち着いた声で「サソリ」の労をねぎらってから、「あなたが、ヒューマン・ワークスの責任者の方ですね?ありがとうございます!」と、人材派遣会社への御礼も忘れない。 そして、人々の全ての注意が自分に向いているのを確認した後、一呼吸し、落ち着いた、しかし張りのある声で語りだした。


「皆さん!本日は私どものポスチングの為に、お集まり下さいまして、本当にありがとうございます!! はじめまして!わたくしは、オフィス・和解マンの”主宰”を勤めております、滝沢 何んパオ(たきざわ なんぱお) と申します!!どうぞ、お見知りおきを!出し抜けではありますが、本日のポスチングは”中止” とさせて頂きます!!」


人だかりは一瞬、水を打った様に鎮まり、”彼”の「ポスチング」というイントネイションと、「たきざわ なんぱお」と言う自己紹介が響いた。 次いで、そこかしこから「クスクス」という押し殺した笑い声を隠す様なざわめきが続いた。


そして、少し小声で「サソリさん、今、あなたの目の前には、”和解マン” がいらっしゃるのですね?」 と話しかけた。   


   


そらの物語25 「集団心理」 

2010-04-13 10:26:48 | そらの物語


「集団心理」


 


「これは、信用問題ですよ!どうするんですか?」


スーツの男は、ヒューマン・ワークスの誰かと何度も電話でそんな話しをしている。


せっせとビラを1000枚の束にして、数珠つなぎに並ぶメンバーに手渡して行く「サソリ」から、そのやり取りが聞こえぬよう 少し離れてはいるが、「斎元」と田川からは丸聞こえだ。


「宗教の勧誘ビラか何かですよ!これ!しかも、責任者が・・・あ、はい、えっ?契約は交わしてしまった後だから・・いやいや、これ、でも、もしただの”檄文まがい”のビラでなくて、オウムみたいな、事件性の濃い団体だったら、もう、ヒューマンのイメージが・・・」


「現場」にいるスーツの男の危機感は、なかなかヒューマン・ワークスの事務所には伝わりにくい様子だ。 ビラの束とは別に、メンバー、一人に一枚づつ、ビラがまわされてくる。 「おまえら、待ってる間、よく読んどけよ!!」と大声で「サソリ」。 「斎元」が1000枚束の順番に並びながら田川に「見てみ、たがっち、ほら」と、視線でスーツの男の慌てぶりを指して言った。 「めっちゃ、あわててるな(笑)」 「うん、ヤバそうや(笑)」 すると、同じく並んでいたメンバーの男が「これって、後で事件とまではいかんでも、けっこうな問題になるんちゃうかなあ?」と話しかけてきた。 「そうですよね!なんか、そんな感じ、しますよね!」 


不思議と人間は、 ”巻き込まれた者どうし” で「他人」の感覚が薄らぐものだ。 まったくの「他人」なのに、 ”その事” について話し合っても、不自然でない空気。 例えばちょっとした交通事故で、倒れている人と出くわした時の様な・・・通り過ぎかけて、驚いて立ち止まった人どうしで、「ええっ?!警察に電話しました?」 「ああ!さっき、バイクの兄ちゃんが慌ててしてたで!」 「ああ!ほんまあ!!で、この人、大丈夫なん?」 「うん、ちょっと動いてるから、たぶん・・」 「そうやな、警察か救急車が来るまで触らん方がええな」 「そやな」   といったふうな・・・・・。妙な「共有感」が生まれる。 京橋・京阪モール、シャッター前の100名が一様に ”分かち” 始めていた根本的な ”不安” 。 大々的に「普通でない事をさせられる」、もしくは「あまり効果の期待できない、意味のない事をさせられる」、という感覚。 これほどの人数を集めて、こんなビラを撒いて、いったい何んの得があるというのか? 本当に暴動を起すつもりなのか?そうは、思えない。やはり、宗教的な発想なのか?このビラの ”語り手” の「和解マン」なる人物は、何をしようとしているのか? 集団のあちこちで、よく似たボソボソ声での語らいが潮騒のように広がって行く。


「だって、一人、時給1600円って事は、派遣会社には2000円は払ってるやろ?一人8時間の100人分で単純に計算して・・・・えっと、なんぼや??」と田川。 「160万円!!」 と「斎元」が答える前にメンバーの男。 その男の方を振り返りながら「斎元」が「うっわぁ!月収20万切ってるおれには、考えられへんなあ!!8ヶ月分の給料の全部を一晩で使ってしまおう!って事やもんなぁ!!これしかも、ビラの印刷代とかタウン・ワークの広告費用とかも いってる訳やろ?!やっぱ、 ”教祖” は ”金” 持ってるってか!」 。「すげえ・・」 「うん、すげえ・・・・」 「ほら、前に、オウムが選挙に出た時、街中に浅原ショウコウのお面被ったアピール隊が出てきてって、あったやん!あれも、ごっつい金かけた宗教的な ”パフォーマンス” やったんやろ?」 と田川。 「いや、細かくは知らんけど、このビラ配りもな~んかそんな、おかし~な感じやで。取りあえず ”キモい” な!このビラ配りは、絶対、”キモい” !デンジャラスや!」 。 「斎元」がそううなずきながら続けた「おれらを使った、 ”何したいか分からんパフォーマンス” やな! もしヤバかったら、速攻逃げよな!」 「おお!速攻や!」と田川と男も。


 


駐輪場で、「カイ・ヘビ」が息を呑んだ。賑やかな夜の京橋であっても、「ゴクリ」という音が聞こえそうだ。 「一の妄」は集団の足元をすり抜けて、もうビラの束を手渡していく「サソリ」のすぐ近くに潜み、 ”ものものしく現れる” タイミングを狙っている。 「一の妄」は、その ”X型のイガイガ” の角度を変えると、ちょうど ”十字架” のような形状となる。 ちょっとした ”おばけ屋敷のおばけ” のようだ。 電話口の「よも清さん」が言った。「カイさん、申し訳ないのですが、この通話、しばらく繋いだままにしておいて頂けませんか?」 「OK!!よも清さん。取りあえず、一の妄さんは、中心でビラの束を配ってるサソリのすぐ近くです」。 ヘビが集団の中心から目を離さずに、「サソリの奴・・・あいつ、たぶん、金で動いてるな!おかしいと思ってた・・・」 。 「・・・うん・・普通の金じゃないやろな・・・おかしくなるくらい ”握っとる” んや・・たぶん・・・あかんな、あいつ・・・」 と少し悲しげに「カイ」。「あ!そろそろですね!!」。と「Hiたかお」。


 


「斎元」と田川の順番。 「サソリ」は「よっしゃ!1000枚な!!」と束を「斎元」に手渡そうとして、動きを止めた。 「斎元」は「サソリ」と目を合わせたくなかったので目をそらせていたが、急に固まった「サソリ」の異変に気づき、ふと視線を渡されるべき束に戻した瞬間、その束はバラバラと「斎元」の足元に落ちて広がる。


「んんっ?!んんん?!!!」 


「わ・・わ・・あんた・・・マジ??いやいや・・??・・・な、なんで??・・・・・ええ?」


「サソリ」と「斎元」は目が合っていない。 「サソリ」の目線は微妙に「斎元」の耳元あたりを注視し、見開かれたまま、表情はいよいよ強張り、そのまん前の「斎元」をギョッとさせるほどだ。 「斎元」のすぐ後ろの田川が「サソリ」の異変に気づき、思わず「斎元」の服を引っ張った。


「!!!・・・う、ウソやろ??・・・い・・、いよいよ、”本物” のお出ましってか・・・あ、あんたが・・・わかい・・・・」 


この男は、誰と話してる??発作か??「斎元」は気味が悪くなって、田川と顔を見合わせ、とっさに逃げる体勢だ。  ”そんな空気” だった100名の集団は一斉に静まり、 ”事” の起こっている中心に意識が集まる。 あまりの「集中」に、通りを行きかう人々も どんなすごい事が起こっているのかと、足を止めて集まりはじめている。 何?何何??といった仕方で。 100名の後方にいたメンバー達は人だかりをかきわけてでも、中心で今起こっている事を、もう少し近くで見ようと身を乗り出そうと躍起だ。 ひしめき出した人だかりのせいで、中央で何が起こっているかわからない為の、妙な盛り上がり。 「 ”出た!” とか言ってるで!!」 「ええっ!?何が?何が?」 「見えへんって!!」 「どこに?何が!!!」 「ええっ??何んとか現象?」 「何か出たで!!!」 「 ”出た”って??うそ??和解マン??ええっ??」 「おっ!押すなって!!」


突然、中央から「サソリ」の叫び声。


「おおお、おまえらっ!!!今、渡したビ ビラ、ちょっと待てよ!まだ、行くなよ!配るな!!たた、た待機っ!!待機待機、待機!!」


ヒューマンのスーツの男が「サソリ」に何か話しかけようとしたが、「サソリ」はそれ所では無いと 思わず男を突き飛ばした。 大きなどよめき。 突き飛ばされた男が倒れこんだ一部の人だかりから、メンバーの女の子達の悲鳴が起こった。 集団全体が「わあぁっ!!」と どよめきながら動き、ただ事ではないと、界隈のあちこちにいたホスト・ボーイやキャバ嬢達、ストリート・ミュージシャン達もあわてて大声で、「おい!何んかやってんで!!あそこあそこ!!」 「あれ!あれ何や!!」と口々に言いながら100名の集団の外側に駆け寄って来た。  



「サソリ」の慌て様は尋常ではなかった。 慌てて電話しようと取り出した携帯が慌てるあまり、活きのいい魚の様に飛び跳ね、それを捕まえようと人だかりの中に転がり込み、そしてまた、大きな悲鳴。「えええっ!!」  キャッチした携帯で、所かまわずの大声で通話。


「え、えらい事です!!本物がで、出ました!!本物です!わ、わわ和解マンですわ!!十字架に生首が・・・しゃ、しゃべってる!いや、ホンマですホンマです!!化け物?!すぐ、ここに来て下さい!早く!!」


 


 


そらの物語24 「挑発」

2010-04-06 12:30:38 | そらの物語


「挑発」


 


 


「よ・・もき???よ?」


「はい。よも清といいます。突然のお電話、すみません。そちらでお世話になっております、Hiたかおの仲間の一人でございます。カイさんの携帯電話ですね? 突然に失礼かとも思ったのですが、急いでおりましたので、こちらに電話してしまいました。」


「・・・・・・あ・・・は、い、そうですが・・・」 と答えながら、「Hiたかお」に「誰?この人?」という仕草の「カイ」。


「あなたの、すぐそばに、Hiたかおがおりますね? 申し訳ないのですが、少しかわって頂けませんでしょうか?」


   このタイミングでその電話。 一同は ”??” という顔でその通話に集中している。 一同の向こう、京阪モール・シャッター前では100名の人だかりの中心で、未だ動揺を隠せないスーツの男を中心に、集った人々のグループ分けが始まっており、その ”ざわめき” のもう一人の中心・「サソリ」が、積み上げられたダンボール・ケースを開封している。「カイ」は一旦、携帯を手で覆いながら「Hiたかお」に小声で「よ・も・き・よ?って”人”、たかおさんの仲間???」と不審な顔だ。


「よも清さんって、いてるけど・・・ええ??なんで?・・」と電話を受け取りながら「Hiたかお」。 なぜ、「よも清さん」から?と聞きたい所だが、「カイ」に聞いても当然わからない。


「もしもし?よも清さん???」


「たかおくんですね。」 おだやかな声、間違いなく ”よも清さん” だ。 一同に向かって、なぜか頷きながら「あ・・はい!そうですが・・・」と「Hiたかお」。


「たかおくん、ご苦労様です。 FA637が例のPCの件で取り込んだままで、連絡の仕方がこれ以外なかったので、皆さんを驚かせてしまいましたね。 たかおくん、今から私が話す内容を、そこにいる皆さんにも聞こえる様に、スピーカー・ホンに変えてもらえますか?」 


「あ、はい・・わかりました・・・カイさん、これ、スピーカー・ホンってどうするんですか?」と、取りあえず、言われた通りに「Hiたかお」。 「よも清さん、OKです!」。 「ありがとう!時間があまりないので、掻い摘んで話します。まず、こちらで たった今わかった事ですが、本年・正月明けの一回目の ”ビラ配布” と、そこで今から始まろうとしている ”ビラ配布” は、全く違う、という事なのです。」


「?????????よも清さん、どういう事ですか?」


「順を追って説明します。カイさん、ヘビさんに頂いた「 ”一回目のビラ” の、雇用契約書」を調べたんです。 あれは本当に良くできた「偽造」だったんです。 書式も「ヒューマン・ワークス」のフォーマットそのままです。そこで、「ヒューマン・ワークス」に問い合わせたのですが、「オフィス・和解マン」という派遣先企業さまでの人材派遣は、1月にはしていません、との事でした。今回の大々的なポスティングが、「オフィス・和解マン」とのはじめての契約なんです。」


「ええっ???では、 ”一回目のビラ” は?誰が??」 話しを聞いていた「Hiたかお」のみならず、皆、「????」という表情。


「 ”一回目のビラ” は、誰も配っていません。どの派遣会社も動いていない、という事です。」


「??でも、大量の ”ビラ” は・・・・・」


「そうです。誰も配っていない、動いていない、なのに、 ”あのビラ” は大量に撒かれていた、という事になります。もっとおもしろい話があります。 ”オフィス・和解マン” についても調べました。 ”オフィス・和解マン” は、 ”一回目のビラ” が撒かれた後に、あわてて改名した、目的不明の宗教団体で、 ”一回目のビラ” 以前は ”和解クラブ” という団体名だったんです。 ”和解クラブ” は、 ”一回目のビラ” を受けて、 ”オフィス・和解マン” と改名しましたが、事務所は同じです。京橋駅前の「第二トリガイ・ビル」というモダンな感じの10階立てビルの4階で、ネット上での啓発活動をもっぱらとしています。ホームページやいくつものブログ・コミュ二ティーを通じて、 ”和解マンへの呼びかけ” もしくは、 ”和解マンと連携がとれた人への呼びかけ” を行っています。これが、「おもしろい」というのは、 ”呼びかけ” は毎日更新されていて、「和解マンのうわさ」や「◎×△らしい」といった類の話では盛り上がってはいるのですが、「私が和解マンです」・「私は和解マンと連携が取れています」という人物は、一回も現れていない、という事です。」


「・・・・って事は」と、頭を整理しながら「カイ」。 「・・・・って事は、その和解クラブ?オフィス和解??は、本物の和解マンを探している??」


「そうです!その通り!! そして、おそらく ”一回目のビラ” は、 ”本物の和解マン” の仕業で、オフィス和解マンは「本物が存在する」事の、何らかの確証を得ている、得ているのに、未だ、繋がる事はできていない、という事なのでしょう!!今回、今あなたたちの向こうで配られている ”ビラ” で、全てわかると思います。今、ビラの文面の内容は確認できますか?」スピーカー・ホンからの聞き取りにくい声に集中していた「ヘビ」が、「Hiたかお」の後ろから 「ヨモキヨさん、和解マンなんちゃらって会社の責任者が、おれ達の仲間の「サソリ」って奴なんッスよ!!そいつが、今、あっ!!ビラを束で配ってますよ!!ヨモキヨさん、たかおさんか、一の妄さんだったら、あの中に入っても、誰からも見えへんからGetできると思いますよ!」


「いや、サソリだけは ”見えてる” で!!たかおさんともなないろで何回も会ってるし・・」 と「カイ」。


「わかりました。 では、ケリーはそこにおりますね?カイさん、ヘビさん、ケリーを一の妄の頭から ”引っこ抜” いて下さい。大丈夫です。 ”ケリー単体” でも動けますので。ケリーにそこまで行って一枚拝借してもらいましょう。一の妄の ”X型のイガイガ” には触らないようにお願いしますね。 怪我をしますので。」


「OK!!」とケリー。少し身構える「一の妄」だったが、「ウぃっす!!そろ~っと、お願いします!!」 と従順に頭を差し出した。 「ケリー・糸3番」を ”引っこ抜く” 時、「一の妄」は少し痛いのだ。 しかし、そんな事は言っていられない。 ”小型” の生きもの、「ケリー糸3番」は、素早く動けば、ねずみくらいにしか見えない。 


 


「警告」


和解マンからの、直接の警告をお伝えいたします。


本年・秋頃、世界的な大恐慌が起こり、あなた方のお勤めの会社は全て倒産するでしょう。    その対応として、未だかつてないリストラの嵐が全国を覆いつくし、アルバイト・パート・派遣のほとんどがその対象となります。 倒産企業数は、月平均1200社に達し、本年冬頃には400万人の失業者が町に溢れ出す事となります。空前の大恐慌です。 これは、「予言」等の類ではありません。正確な情報をもとにした、「警告」です。 


信じる・信じない は、もちろん自由です。 しかし、そのような「時」が、もうすぐそこに迫っているのが「現実」であります。 今から半年後、あなたはこの ”ビラ” の意味を、平日の日中に、「求人雑誌」を手にしながら、かみ締める事となるでしょう。


さあ!心を開いて、あなたの隣人と「他人」である事をやめましょう!!「神」や「仏」は存在しません!!そう、「あなた」こそが「神」であり、「あなた」こそが「仏」であるからです!!今こそ手を取り合って、大挙・暴動を起こそうではありませんか!!多少の流血はいたし方ありません! 「和解マン」の名の下、今こそ団結する時がやって来たのです!!


「志(こころざし)」を同じくする方、もしくは、興味本位の方も歓迎します!!


まずは下記へ一報を!!!


0120-783-644(なやみ むよう)


 


「・・・・・・・・・これ・・・配るん??」 と斎元。 「なあ、たがっち、これなんか、ほら、戦争前の ”檄文” みたいやで!!ちょっとやばい目やな!!おもろいな!!」


田川も「うん、あれやな、宗教団体みたいやな!ひょっとして、これ配ったら、自動的に ”入信” とか ”入会” とかなるんかな? だいたい、あのスーツの人は普通やけど、「サソリのタトゥー」はまともじゃないな!!おれ、ちょっとワクワクしてきた!!」と興奮気味。


100名の人だかりのそこかしこから、似たようなざわめきが広がっている。 集った人の大多数が不安に満ちていたが、帰ろうとする人はいなかった。 それは、自分は「ヒューマン・ワークスという大手派遣会社のメンバーとしてそこにいる」 のであり、何かあれば「オフィス・和解マンのタトゥーの男」ではなく、「ヒューマン・ワークス」に言えばよいから。 逆に、だからこそ、このおかしな ”ビラ配り”の おかしな ”空気” を楽しんでいる気運だった。 それは、誰も入った事のない「おばけ屋敷」に入る時の、不安と期待と似ているかもしれない。


 


「ケリー糸3番」がGetしてきた ”今回のビラ” を、「カイ」が読み上げ、電話口のよも清さんに伝えた。「やはり、そうです。 これは、「挑発」です。「”和解マンに対しての挑発”です。」 と、電話口の「よも清さん」。 「カイ」が、「よも清さん、でも、これは連中が、その和解マンってのと繋がったって事じゃあ?・・・・」


「いえ、それは無いでしょう。なぜかというと、つい昨日も ”呼びかけ” は続いていますし、なにより、このポスティングの求人がタウン・ワークに掲載された日付から後も、それは同様です。 もし、このビラの内容が、本当に”和解マンからの直接の警告” であれば、彼らはもう、「和解マン」に呼びかける必要は無いでしょう。」


「あ!!そうや!!その通りですね!だって、直接話ができてるんだったら・・・そうですよ!”呼びかけ” る前に ”直接”話せばいい!」「これは、間違いなく ”挑発” です。和解マンの名前で、勝手な宗教色の色濃いビラを大々的に撒く。しかも、一回目と同じ”オフィス和解マン” を名乗り、一回目と同じ時間単価で、派遣会社まで一回目と同じ。  私がもし、”本物の和解マン” で、一回目を何んらかの方法で行ったのだとしたら、その時使った派遣会社名や時間単価までそのまま本物を使って、これだけ大々的にやられたら、ものすごく気になりますね。


さて、確認ですが、あなたがたは、カイさん、ヘビさん以外からは見えていませんね?」


「はい、そらの心模様で設定がそうなったまんまです。」


「では、向こうのサソリさんは、Hiたかおくんとは面識があっても、一の妄くんとはまだ対面していませんね?」 「はい。」


「わかりました。それではこれから ”騒動” を起こしてみようと思います。オフィス和解マンの ”挑発” を利用した ”挑発” です。 一の妄くん!出番ですよ!」わくわくしながら「一の妄」は、「ななな、なんですか!?どんな事、するんっスか? 叩きますか??殴りますか??なんでもやります!!」と、躍る心が隠せない。


「あなたは今から、サソリさんの目の前に、ものものしく現れ、”私が和解マンだ。君達のビラは何なのか?君達はウソ付きか?偽モノか?? ただちにビラ配布を中止しなさい!!” そう命令して見て下さい!」


「カイ」もついつい大人気なくワクワクしてしまい「こりゃあ見ものですね!!!まさか、 ”本物”が出てくるとは・・・・よも清さん!!あんた、すごい!!どうなるんやろう???あかん!笑いがこみ上げて来ましたよ!!」と興奮が隠せない。 「よも清さん、これって、騒ぎになって、もしかしたら、 ”本当の本物の和解マン” が出て来たりして!!」と「Hiたかお」。


「つわあっ!!」


そう一声 ”気合” を入れた「一の妄」は、100名の集団の足元に突進して行った。


  


そらの物語23 「突然の電話」

2010-03-28 08:41:36 | そらの物語


「突然の電話」


 


「つわぁっ!つわぁっつわぁっ!!!」


「おっとぉ!一の妄が ”叩き” だしたのは、なんと自転車だぁ!!こいつは景気がイイ~!!ガシャガシャという自転車・転倒の音が夜の街に響きわたる~!!といった感じでしょうか!!  まさに勢い!!勢いです!!戦いを前に、景気付けのつもりが、いよいよ本気だ~!!今や手に持つ ”棒” はすでに折れかけているぅ~!!!!」


軽快な「ケリー・糸3番(けりー・いと3ばん)」の ”実況中継” に


「Hiたかお」が振り向いた。 次いで「カイ・ヘビ」も、京阪モール・シャッター前の


人だかりと「サソリ」の動向から一旦注意をそらせて振り向いた。


「つわぁっ!つわつわぁっ!!つわつわつわぁっ!!」


「さあ~これは大変な盛り上がりになりました!!なぎ倒れた自転車の中には、チェーンが外れるサドルが歪むなど被害・続出!!!この展開、いったいどうなるぅ~!!自転車を取りに来た人は、この状況を目の当たりにして、いったい何を感じ、何を思い描くのかぁ!!どうする??持ち主ぃ~!!!!」


「あほか!!やめ、やめんかぁ!!!


あかん!あかん!!あかんがな!!」


とっさに怒鳴ってしまう「Hiたかお」。 「カイ」はこのはた迷惑な二人の登場に、


状況がつかめない。 「たかおさんの ”お仲間” って??・・・」。


「おい!ケリー!!一の妄!!分からんぞ!その行動!!取りあえず、静まれ!!意味不明やから!! カイさん、ヘビ、ボクの仲間、一の妄とケリー・糸3番です。 まいど、一の妄!!、まいど、ケリー!!忙しいのにありがとう!!まずは、倒れた自転車、元にもどそか!」


「OK!たかお!!おまえが見つからんから、イラついて暴れてしもたわ!助太刀に来たぞ。カイさん、ヘビさん、お初に、よろしゅう!!」とやっている行動と礼儀がちぐはぐの「一の妄」。


「はっはっはっ、こいつはまた、攻撃的な ”神様” ですな!!こちらこそ!!なんか、おれらまでどつかれそうやなぁ。」 とカイ。


「いえいえ、こいつが」と、自分の頭の上から生えた「ケリー・糸3番」をさして「一の妄」。「盛り上げるから、なんや ”うれしぃ” なって、暴れてしもただけですわ!すんません!片付けますわ!!な、たかお、手伝えよ!」


「イヤじゃ!!自分の事は、自分でせえよ!」と、ムッとして拒絶する子供口調で「Hiたかお」。 


「その言い方、ムカつくな・・たかお、おまえ、口のききかたに気を付けろよ!」 こちらもムッとして「一の妄」。


「Hiたかお」は「なんでボクが・・・」とぶつぶつ言いながらも、


「一の妄」と一緒に自転車の片付けを始めた時、


京阪モール・シャッター前に集中していた「ヘビ」が、「あ!動いた!!」


と小声で告げた。



 


「え~それでは皆さん、時間も10分前に迫りましたので・・」


と、バインダーを持ったスーツの男が言った。 ちょっとの間にシャッター前には100名前後の人が集まりつつあり、行きかう人々はこの集団を訝しがりながらも避けて通っている。 スーツの男の足元には、いつの間にか いくつものダンボールケースが積み上げられている。


「あれが、 ”ビラ” やな」 と、この集団の中ほどで、田川が「斎元」に耳打ちした。 「そやな、めっちゃ多いな・・・」と、人だかりの頭越しに ダンボールの”中身” を早く見たそうな「斎元」。


「オフィス・和解マンの責任者がまだ到着されておりませんので、私の方から、今晩の作業手順、及び、ちょっとしたルールをご説明いたします。 ”ビラ” は一人1000枚。今から、いくつかのグループに別れて頂きまして、1グループ2~3名で配って頂きます。」


「なあ、おれら、一緒に応募したから、たぶん、同じグループやんなあ?」とボソッと田川。


「どうやろ?わからんで。決まってんかな?今から決めるんかな?」とこちらもボソッと「斎元」。


「配る地域はこちらから指定しますので、その地域内を配り切ったら、私のところに戻って来てください。配る際の注意ですが、特に一軒家のポストはいいのですが、マンションですね。マンションは集合ポストと、あと、マンション内のドア・ポストにも配布して下さい。オート・ロック式のマンションは、基本、入れませんので、無理はしないで結構です。23時よりいっせいにスタートして戴きますが、もし1000枚を時間内に配りきれなかったとしても、朝7時には私の所に戻ってきて下さい。日当は保証いたします。また、逆に、早く配り終わった場合も同じく、戻ってきて下さい。そこで解散になりますが、この場合も一日分の日当は保証されていますので、よろしくお願いします。早く終わったら、早く帰れますよ! ただ、間違っても、配り終わったからといって、勝手に帰らないように!必ず終わった時点で戻ってきて下さい!でないと、せっかく一晩頑張った努力が給料に反映されなくなってしまいますので、くれぐれも注意して下さい!何か、質問は??」


静寂。もしくは人だかりのあちこちでぼそぼそ話す声。


「無いようですね。さて・・・・そろそろ時間に・・・」と、うで時計を見て、「・・・なったんですが・・・・・オフィス・和解マンの責任者の方が・・・」と言って「あれ?遅いな・・・」と、本来ここで「雇い主より一言」を話すべき人がいない事に気がつき、即、折りたたみ式の携帯を開き、電話。一拍空けて、なぜか、人だかりの中から着信音。一瞬、集団の中に、「誰??」というざわめきが起こった。


「はい、もしもし。」


そう言って電話を取って、スーツの男に歩み寄ったのは、


「サソリ」だった。


 



 


「!!!!!!!!」


「おお・・・おい、カイさん、どうなってんねん??!!」と小声ながら、驚きを隠せない「ヘビ」。  「カイ」も「・・・・・・・・」と、目を泳がせるばかりで言葉にならない。 「????なんで・・・サソリが?・・・え??責任者って?・・・・ど、どうなってるんや??」 「Hiたかお」も、これは、さっぱりだ。 「サソリが?・・・・・??なんで?・・・・カイさん、取りあえず、見とくしかないですね・・・」 「そ・・・そう・・・やな・・でも・・ええ???」と「カイ・ヘビ」。


 


100名の集団から少し離れた駐輪場で、身を潜めながらうろたえる「カイ・ヘビ」達だったが、集団にも大きなどよめきが起こっていた。「ええ??ヤクザ??!!」。


「斎元」が、「うっわぁ~!最低やなぁ!!あのサソリのタトゥー!!ええ?あのチンピラが責任者ってぇ???」 と田川につぶやく。「ちょっと意外やなあ・・」と田川。「あ!よしお、見てみ、あのスーツの人もビックリしてんで!!」 「ほんまや!電話で話してただけで、どんな人かは、今始めて対面したって感じやな!」


「サソリ」はこう切り出した。


「おれが、責任者や!!」


つい、先ほどまで淡々と作業手順や注意事項を説明していたスーツの男は、今まで集まった人数の確認の為やり取りしていたのが、まさかこんな見るからに「チンピラ」丸出しの男だったとは、といった具合に恐る恐る「サソリ」に話しかけた。「・・・あ、あのう・・・あなたは、オフィス・和解・・」「そや!!あかんのかい!!」 いきなり怒鳴る「サソリ」に、スーツの男は小さくなってしまった。


「おれが、責任者や!!今晩、おまえらで頑張ってくばってもらう ”ビラ” は「和解マンからの警告」や!!ごっつい大事な内容やから、ちゃんと全部撒けよ!途中で捨てたりしたら、えらい事になるからな!!「警告」やからな!!おまえらも、一部づつ持って帰ったらええわ! とにかく、金はこいつらに」 と小さくなったスーツの男を小突いて「ちゃんと払ってんやから、しっかり撒いて、しっかり稼いで帰ったらええぞ!!以上!!!」


 


少しのどよめきのあと、かなりうろたえ気味のスーツの男を中心に、グループ分けが始まった。 駐輪場の「カイ」達は、この突然の現実が信じられず、さすがの「ヘビ」も、何度も「うう~ん??うう~ん」と考えるが、何もまとまらない。 「Hiたかお」もしかりだ。 「一の妄」と「ケリー・糸3番」は何を驚いているのかすら分からなかった。そして、この驚きの意味を「一の妄」に説明するゆとりを、「カイ」も「ヘビ」も「Hiたかお」も、持ち合わせてはいなかった。


とその時、突然に「カイ」の電話がなった。


「ん???こんな時に・・・誰?」


訝しげに液晶画面を見た「カイ」は


「非通知??だれ??」とつぶやきながら、通話。


ピッ


「もしもし?」


「もしも~し??」


 


「・・・・・もしもし、私は ”よも清” といいますが・・・・・」 


 


そらの物語22 「和解マンの”まえぶれ”」

2010-03-24 10:38:57 | そらの物語


「和解マンの ”まえぶれ” 」


 


 


集合場所に駆け寄る「斎元」と田川は、20名~30名程の、


今 集い始めた人たちの中に、共通して流れる意識があるように感じた。


ー 和解マンって、どんなん?? -


集合場所の「京阪モール・シャッター前」のバインダーを持った


スーツの男は、集い来る人々の人数を何度も数えては


携帯電話で誰かとやり取りをしている。


「なあ、よしお、ここに集まって来てる人たちって、


おまえみたいに、 ”和解マン” ってキーワードが 


どうしても気になって来て見たってパターンが多いんとちがうかなぁ?」


「うん、あそこの3人組みの女の子達も、そんな話ししてるみたいやわ」


高校生くらいから、20代、30代、40代、集う人の年代はバラバラだったが、


意識のどこかに ”和解マン” というキーワードを焦点にしている


人が、少なからずパラパラといる様に思えた。


確かに、「時給1600円」を焦点に集う人の方が大多数だろう。


しかし、 ”和解マン” が云々という ”ひそひそ話し” が、


そこかしこから聞こえて来る事も確かだ。


人だかりの中心にいるスーツの男に歩み寄った「斎元」と田川は、


「電話しました、斎元です。」 「田川です。」と、


自分達が来た事を告げると、スーツの男はバインダーをボールペンで指差し、


「ええ~、さいもと、さいもと、あ!斎元さんと、田川さん、ですね。


お疲れさまです。」と、バインダーの名簿にマルを付けた。


「現場の責任者が来るまで、まだ時間がありますから、


もうしばらく、この近くで待っていて下さい。」


と言った。スーツの胸には「ヒューマン・ワークス誰々」のネームプレート。


 


少し離れてたばこに火をつけて「あれは、ヒューマンの役員やな・・・」


と「斎元」。


「現場責任者ってのが ”和解マン” ??かな?」


田川もたばこに火をつけた。


「斎元」たちがたばこをふかしている反対側の駐輪場で、


「ガシャン!ガシャン!」という物音。 それは自転車が横転する音だが、


通りの騒音のうちの一つにしか聞こえない程、ここは賑やかだ。


「おいおい、も~やめてや・・チンピラさん!」


迷惑そうに「斎元」。


「さっきのタトゥーのおっちゃんやな、リュックの・・・」


田川が思い出したように「リュックの”中身”・・出てきたかな?」


と「斎元」とは違う所に意識が向く様子。


「ここからやったら遠くてわからんな、リュックの中身・・」


とリュックもチンピラもどうでもいい「斎元」。


「とりあえず、何んも悪させんと、帰ってくれたらいいねん!とりあえずな!」


「 ”騒ぎ” を起こしてくれても おもろいかも!」


「いや!いらん いらん!!」


 



 


「そら」は「カイ・ヘビ・Hiたかお」を見送った後、うとうとしていて、


何んの気なしにふっと目覚めて、思い出した。


「あ!おれ、シャワーしてない・・」


と ぱさぱさの髪をかきあげて、その手をにおって見る。


「・・・・・くさくはない、でも、はいろかぁ、な」


言いながら「なないろ特設」の、浴槽のないシャワー室の鏡の前。


「んっ???  ”お”  ”れ”  んん???」


鏡に映った「そら」の、寝起きで赤い ”かた” のついた頬に、


大きな黒いマジックの文字で ”おれ” と書かれてある。


しばらく考えて、頭に浮かんでくる言葉を打ち消すように、


「いやいや・・ ”おれ” は ”おれ” やろ??


なんで、 ”おれ” に ”おれ” って書いてあるんや??


”おれ” は ”おれ” って分かってるから、 ”おれ” なんて書かんでも、


だいじょうぶやろ・・・・な、なんでや??しかも、めっちゃ でかい字!!」


一瞬、ハッとして、「あっ!!ネコ!!ネコやな!!ネコにやられてる!!


舌打ちしながら腕に目を落とすと、


「ああっ!! ”手” もやられてるで!! ”も行く” ・・・・・??


 ”も行く” ??って何や? ”おれ・も行く” や!!つなげとるで!これ!」


鏡の前で、ぼそぼそと語る「そら」の足元で「ゆきりん」がクスクス笑っている。


「あはは!!そらくん!それ、そらくんが自分で書いたんだよ!!


”おてて”に書いた字が「おれ」だけ”お顔”に付いちゃったのね~!!」


「ええ?? ”おれ” が ”おれ” に??」


「そうそう!カイさん達と一緒に行くって、忘れないようにって!!」


「あっ!ああっ!!!


 


1分後、 「なないろ」の廃材置き場で、「そら・ゆきりん・ぽち」の


出動の気配に満ちた、スクーターのエンジン音が響いていた。


 


 


 


 


 


 


 


 


そらの物語21 「集合は京橋駅」

2010-03-21 09:33:48 | そらの物語


「集合は京橋駅」


 


夜10時過ぎの京橋駅近辺は、


キャバ嬢とホスト・ボーイたちの集客の呼び声が飛び交い、


その間隙をうるおす様なストリート・ミュージシャンたちの


元気な歌声が響き渡る。


家路を急ぐ、重い足取りのサラリーマン。


路上で即興の詩作を色紙に書き付けては、


それを販売する青年。


キャバ嬢に引っ張って行かれる、少しうれしそうな


ネクタイのはだけた男。


すでに酔いつぶれて、鞄を枕に「ご就寝」の宴会帰り。


商店街から漂う「おでん」の匂いと、ホスト・ボーイたちの香水が、


交互に鼻をかすめる。


時間の流れが、ざわめいたまま止まった様な混沌の中で、


時折聞こえる京阪電車とJR京橋駅のアナウンスが、


唯一、時を刻む様だ。


 


「集合場所は、京阪モール、シャッター前、


スーツ姿の、バインダーを持った責任者を見つけたら、そこ」


JR京橋駅から京阪京橋駅の、この騒音の渦巻く中でも、


もう 閉店した「京阪モール」のシャッター前は、


少し暗がりになっているから、集合場所としては良い。


「バインダー、バインダー、スーツ、スーツ、あ!おった!」


”どこそこ集合” と言われると、たいがい右往左往する「斎元」でも、


それは すぐに見つける事ができた。


「なあ、たがっち、ほら、あそこ あそこ!!」と


一緒に来た田川という親友に話しかけた。


「ええ??あれが ”和解マン” ???めっちゃ、普通やん??」


と田川。 「ほんまやな・・・ちょっと・・がっかり・・というか、あれは責任者で


 ”和解マン” はどっか別にいてて、指示を出してるんと ちゃうかなあ?」


ポケットから何回も読んでしわしわになった「和解マンのビラ」を取り出し、


あなたの ”想い” が ”本当” なら、必ずつながります!!


0120-783-644、なやみ、むよう、やって。ここに電話してみる??」


と「斎元」。


田川は、「おい!よしお!あれ見てみ!!ヤバそうな人!」と、


集合場所に集まりだした人だかりの一人を指差して、「斎元」の背をたたいた。


腕に獰猛な「サソリ」の派手なタトゥーの男。 目立っている。


「チンピラかな?ヒューマン・ワークスも人を選ばず、やな、


”ビラまき” やから、チンピラでもええってか?」と「斎元」。


「あっちの影にも おるで、ほら、あっちの暗がり」


田川が指差したのは、集合場所の向かい側、自転車も少なくなった


駐輪場の暗がりに、「ヘビ」が火を噴いているタトゥーの男と、


「貝がら」のデザインに裸の女が踊っているタトゥーの男。


どちらとも、夜の京橋の この雑踏の中でも目を引く程の、


派手なタトゥーだ。でも、「貝」の方の男は可愛いリュックを背負っている。


「あいつら、 ”和解マン”関係かな?なんか、ヤバそうやな・・」


自称”へたれ”の「斎元」はヤンキーやチンピラは端的に苦手だったが、


「貝」の方の男のリュックを見ていっぺんに気を引かれて 驚いて言う。


「あ!動いた!!動いた!あのリュック、中に何んか入ってんで!!」


「うわ!ほんまや!ってか、犬か?猫?・・・やったら、じぃっとはしてへんなぁ?」


と、ちょっとおもしろくなってきた田川。


「意味不明やな・・・何してるんやろ?」


「バイトやから、おれらが行っても、何んもやんちゃは せえへんやろ?たぶん・・」


「斎元」は不安を隠しきれない。 田川は一呼吸おいて、


「よっしゃ!よしお!行こ!取りあえず、集合の時間や!」


「そ・・そやな。おれは、基本、 ”和解マン” ってどんなんか、


知りたいだけやから、それだけ分かったら、”ビラ” はほっといて帰るで・・」


と、3人のタトゥーで急に弱腰の「斎元」。


「あほ!バイトやねんから、ちゃんと最後までがんばらな!!」


と前向きな田川は続けて、


「バイトもやって、 ”和解マン” も見て、しっかり稼いで、


そのまんま寝んと、本業や!!」


「・・・・まあ、言い出しっぺはおれやし・・・」


 


二人は「優しさ倉庫」という倉庫に勤めていた。


今晩は、以前からネットで話題になっていた「和解マン」が、


人材派遣会社のヒューマン・ワークスを使って、


”不思議なビラ” の第二弾をやる、という事を「斎元」が見つけだし、


仕事が終わってから、強行軍でやって来たのだ。



 


 


上手く「そら」の ”おれも行く” をかわした「カイ・ヘビ・Hiたかお」は、「サソリ」の後をつけて   京橋の「集合場所」に到着していた。 「Hiたかお」は、「カイ」の背負うリュックの中から、「カイさん、もうちょっとしたら、ボクの仲間の ”一の妄” が到着するんですけど、無愛想なんで、あまり気にしないで下さいね!悪いやつではないんで!」 と一応の紹介はしたが、ちょっと不安だった。 「たかおさん、OK!!たかおさんの ”お仲間” はおれにはみんな ”神様”みたいなもんやから、大丈夫ですよ!!」 と「カイ」。 とその時、「つわぁっ!!」という気合の掛け声についで、ガシャン!!という自転車の倒れる音。たて続けに「つわぁっ!!つわぁっ つわぁっ!!」


京橋・駐輪場に身を潜めていた、「カイ・ヘビ・Hiたかお」と落ち合う予定が、なかなか見つける事ができずにいた「一の妄」が、それにイラだって自転車を ”叩いていた” のだ。


 


そらの物語20 「一の妄」

2010-03-16 14:28:34 | そらの物語


「一の妄(いちのもう)」


 



「一の妄」。彼は、いよいよ明日に迫った、


「Hiたかお」の「オフィス・和解マン」のアルバイト潜入のために


「与一」より派遣された、私たちの仲間の一人である。


「一の妄」は、 ”棒” を持たせると折れるまで叩き続ける、


攻撃的な生き物で、「Hiたかお」の調査で


 ”万一” に備えての「サポート役」としての派遣であったが、


「Hiたかお」との相性が良くなかった為に、


その選択に日にちがかかってしまった。


彼の頭の上からは「ケリー・糸3番」という「生きもの」が生えてきている。


これは、「一の妄」が叩きすぎると、


大声で「やりすぎ!やりすぎ!!やりすぎ!!!」と、


「一の妄」の ”攻撃” を止めてくれるのである。


そして、「ケリー・糸3番」は おしゃべりである事から、


「Hiたかお」と上手くバランスが取れるのではないか


と考えての 派遣となった。


「一の妄」は、私たちの中でも、話題の生きものである。


それは、先の「FA637」の「謎のPC端末」の話題、


「Hiたかお」の「和解マン調査」の話題に次いで、有名である。


というのも、彼は私たちのうちでは唯一、


「毒ちわわ」を ”しとめる” 事に成功した実績があるからだ。


 ”しとめる” といっても、私たちは基本的に殺傷はしない。


「毒ちわわ」を ”棒で叩く” のである。


驚いた事に、叩かれた「毒ちわわ」は、叩かれる程にその「毒」が抜け、


見るも可憐な 普通の「ちわわ」に変貌するのである。


普通の「ちわわ」となった「元・毒ちわわ」は、野犬としては


生きていくのに困難である事から、城東区内の某ペットショップに


引き取ってもらえる様、その駐輪場に繋いでおくのである。


この「一の妄」の戦いは、タイミングの問題なのだ。


「毒ちわわ」が噛み付くのが早いか、


「一の妄」が ”叩く” のが早いか。


こんな時は「ケリー・糸3番」は、「一の妄」の中に引っ込んでいるか、


あるいは、「今や!どつけ!よっしゃ!その調子や!!」等と はやし立て、


「一の妄」の戦いをプロレスの実況中継の様に盛り上げるのである。


 


 


 


「おれも、おれも行く!」


と「そら」が言い出した為、「カイ」は「こそっとついて行くんやから、おとなし~く・・・しとかなあかんで!!」と、しぶしぶ「そら」も連れて行く事にした。 「ヘビ」が、「おまえ、ついて行くって、ほんまやろうな? 明日になって、 ”やっぱ、やめとく!” とか言うんやろ?!」 「あほ!!行くって言うたら行くわ!!おれは ”うそつき” はきらいやからな!!」


この「そら」の主張は、「カイ・ヘビ」には全く信憑性がなかった。 というのも、「そら」は、”行く” とか ”やる” とか、言っておいて、その当日になってその事そのものを すっかり忘れてしまって いる事がほとんどで、始めの頃はメンバー皆が「おまえ!行くって言うたやないか!!」 「やるって言うたやないか!!」と、よく怒ったものだ。 しかし、「そら」にとって、「行く」と言った事に ”ウソ偽り” はないし、「忘れている」事も、本当で、いずれにせよ、「ウソ」はついていない、のである。メンバーは、このごろ大分と ”それ” に慣れてきていた。 しかし、今回については、「Hiたかお」が ”「そら」抜き” で、「カイ・ヘビ」に同行する、という考えであった為に、「ゆきりん」と「ぽち」は、”なないろの「そら」の近くで待機” の計画であった。 もし「そら」が「カイ・べビ・Hiたかお」と同行するなら、当然それに「ゆきりん・ぽち」 そして その「子供たち」も同行する事になる。   「Hiたかお」が「なあ、そら、おまえ、 ”手” に、 ”おれも行く” って書いといたらいいで!!それで、明日の朝になって忘れてても、その日の夜の出発までに、それ見たら思い出せるやろ??」と提案し「そら」も「ああ!なるほど!!さすが たかお!でも、おれ、そんなん、忘れた事なんてあれへんで!!あれへんやろ???」と、ちょっと不満げだ。 一同は「・・・・・・・・・・・・・」という表情。 子供たちは「覚えてないけど、わすれない!!おぼえてないけど、わすれない!!わすれてないけど、覚えてな~い!!」 と、それを歌にし、楽しそうにヒラヒラと舞った。 「ゆきりん」が、「あたし、そらくんとお留守番がいいな!だって、 ”和解マン” って、もし出てきたら、怖い・・・どんな、生きものなのかな?・・・」と不安そう。 「ゆきりん 大丈夫!!だって、君が ”見えてる” のは、おれやヘビだけやから!!それに、留守番の確立の方が高いし!!」と、クスクス笑いながら「カイ」が言った。


 


次の日の夜22時、「サソリ」がごそごそと出かけるのを確認した「カイ・ヘビ・Hiたかお」は、「それじゃあ、行ってくるわな!!」と、「そら」に言った。 「そら」は寝転がったままで、「は~い!!気ぃつけて~・・・」と、当たり前のように見送り、 ”おれも行く” と大きくマジックで書かれた手で携帯を無心にいじっている。 「ゆきりん」はほっとしながら、「ぽち」に「ぽち、あなたと同じね!そらくんって!!」 と嬉しそうに言った。 「ぽち」は「そ・そらそらくんは・・・・・ああ、お・ぼぼくと同じにか・か家族だね!!」と「ゆきりん」と同じくうれしそうににっこりした。


 


 


 


 


そらの物語19・「大点滅」

2010-03-12 11:21:41 | そらの物語


「大点滅」


 


「で、不具合って、何??」


「ヘビ」のその質問は、一瞬この大盛り上がりの宴会に、休憩を入れる効果があった。


「それは、どっか悪いってことやなあ?おれで言うと、頭が悪いって事や!!」と、「そら」が即答。 しかし、「ネコ」が反論。 「 おれは、”どっか悪い” とかと違うと思うで。う~ん、上手く言われへんけど・・・」すると「ヘビ」が、「人間で言うたら、 ”障害” って事かな? ”不具合” って?」   「カイ」が「確かに、人間で言う ”障害” は、身体とか知能に、何か欠陥があって、それが生活するのに ”障り(さわり)” になるから、”障害” って言うんやろ? ”不具合” も同じかな?でも、おれは、6号を見てて、 ”障害”って事は ”個性” とか  ”才能” と同じ意味の様に思えるな。だって、身体や知能に、普通にやっていくだけでも ごっつい大変なリスクを背負ってて、尚且つ ”健常者” よりも立派な仕事を残している人だって、たくさんいてるし、反対に、やりたければ何でもできる知能や身体を持ってるのに、どないかならんかなあ?って人、・・・・う~ん、くらべたらあかんやろけど、人としてどうか?って見たら考えてまう人、いっぱい おるで」 


「Hiたかお」が「 人間の使う”不具合” って、商品とかの ”欠陥品” って事でしょ? ボクたちの仲間の ”不具合” は、ちょっと違うかもしれません。 確かにボクたちは ”与一” で生まれる際に、製造過程の最終段階で欠陥がないかどうかのチェックが入れられて、もし何かあれば修正をかけるんですけど、修正できないままで生まれる事もある。 それが ゆきりんとぽちなんです。 ボクたちの間では、ボクたちとこの二人を 健常者・障害者って、たて分けては考えないんです。 ”別々ではない”って感じかな? 生きもの全員が一個の生きもので、役割が違うだけ。それぞれの役割がちゃんとある。その中で、誰かがえらい、ってのもあれへんし、誰かがあかんってのもあれへん」 「1号」が「カイさんとたかおさんと同じ事かも知らんけど、おれは ”障害”って、ただ単に ”違い” なんやって思うで。例えば、おれとヘビは違うやろ?ヘビとネコもたかおさんも6号も、みんな違う。そういう事やと思う。でも、もしそうやったら、たかおさん達 生きものが ”不具合があったら返還される”って、ちょっとおかしいよな?人間は ”障害” があっても ”返還” とかって無いし」 ここでまた「ゆきりん」が思い出した様に「あたし、 ”返還” なんて、大嫌い!!絶対にイヤ!!」 「ぽち」もしきりとうなづいている。「Hiたかお」が、めずらしく言いにくそうに「そ・・・そうやな・・ボクもそれは・・・イヤやなあ・・・」 すると子供たちが 


「おとうさん、が~んばれ!! おかあさんが~んばれ!!おとうさんが~んばれ!! おかあさんが~んばれ!!」 


とまた、合唱をはじめた。「そら」が「あはは!!やっぱり ”があ~んばれ” って事やな!!それなら、”しょうがい”もがあ~ばれ!!”ふぐわい”もがあ~んばれ!!そうでないのも、みんながあ~んばれ!!ってことや!!!こんなもん、かんたんやで!!!」と、いったん静まった宴会を、鍋をカンカン叩きながら歌いだした。「ゆきりん」と「ぽち」もつられて「が~んばれ!」と歌っている。話しをもっと掘り下げて話したそうだった「カイ」と「ヘビ」も、「 ”こんなもん、かんたん” ってか!!!はっはっはっは!!おまえらしい結論やな!!」と この宴会は終始この調子で話は二転三転する。


「たかおさんの ”点滅”と ”ピー”って音、最近ないな?」と「ネコ」。 「ああ!あれは、たかおくんが、おしゃべりすぎるのよ!!」と「ゆきりん。」 「はっはっはっは!最近無いやろ? なんでかって言うたら、ボクが言いたい放題しゃべって、やりたい放題する方が、そらの、いや6号の都合がいいんですよ!その方が6号がおもしろい!だからそうなってる!これは何でこうなってるんか、ボクたちも調査中やねんけど、よく解っていない。もともとゆきりんが言う様に、ボクのしゃべりすぎストッパーやった。今、全然あれへん!それにみんなからボクは ”めっちゃ普通に見えてる” やろ?ところが外にでたら、他の人からは見えへん。 ”見えへん”のはわかるんですよ。そういう「設定」になってるから。ところが、1号さんとカイさんと、ヘビとネコとサソリからは ”見える”!!これが、さっぱりわかれへん!考えられるのは、その方が6号がおもしろいから!つまり、6号の「心模様」によって「見えたり、見えへんかったり、点滅したり、ピーピー鳴ったり」ってなってる。 訳がわからんねん!しかも、当の本人は何んの意識も無いし!」と、あまり言及しない方がいい事までしゃべりだす「Hiたかお」。「おれはそんな事しらんで!!何んもしてへん、おれは ”むじつ” や!!」と「そら」。「あっはっは!!心配せんでもおまえは ”無実” やねんて!おまえの気持ちと関係なく、おまえの気持ちに影響されるらしいから。ためしに、今、 ”お前の力” で、たかおさんとゆきりんとぽちさんを、 ”見えへん” ようにやってみ!!」 と「カイ」。 「よっしゃ!やってみよか!!」「と「6号」はこぶしをにぎりしめて「んんんんんんんっ・・・・・」と力んでみたが、何の変化もなし。「・・・・・・・あかん、 ”へー” 出てまいそうや!!」 全員が爆笑したところで1号が、「さて!そろそろ ええ時間やな!!お開きにしよか!」と、この宴会は閉幕となった。


飲みすぎた「ヘビ」と「ネコ」は、リビングでごろ寝、1号は寝室へ。「Hiたかお・ゆきりん・ぽち」と、あと片付けを始めた「カイ」が「あっ!!たばこ切れた!!ちょっと買ってくるわ!」と言うと、片付けをする気全くなしで子供たちと遊んでいた「そら」が、「あ!!おれも行く!」と言い出した。「 じゃあ、ボクもお供するわ、ゆきりんもぽちもお供しようか!」 長時間の「そら」の ”お供”で少し眠たげな「Hiたかお」が答え「カイ」は「OK!みんなで行こう!でも、もう遅いからパッパと!な、6号!」と、コンビニに入るといつもなかなか出ない「そら」に釘をさした。 「カイさん りょ~かい!!それでは、”ぜんたいてきに” 行くってことやな!!」 


 


大切な出会いは


はじめから


すれ違っている方が良い


二人のこれからが


波乱であるならば


そのうち二人は


お互いが理解できなくても


一つになれば良い


うまれた時から一つであったと


心を強くすれば良い


 


気持ちをあわせる事ができる


ほんの短い期間は


よろこびにあふれよう


感謝に 輝こう 


 


梅雨時前の夜のコンビニ。「カイ」は、「そら・Hiたかお・ゆきりん・ぽち・子供達」が、「カイ」のたばこはどうでもよくて、宴会の勢いのままに がやがやしたいだけなのを、よくわかっていた。 「Hiたかお」は「そら」に抱かれて、すでに眠ってしまっている。 「おい!!6号!帰るで!たばこ買ったし、たかおさん寝てしもてるし!」と「そら」を見ると、思った通り ”じゃがりこ”と”おっとっと”を大量に買い物かごに入れている。始末が悪いのは、子供たちにもどんどんスナック菓子を運ばせている事だ。 レジで支払いを済ました「カイ」は、「お~い6号!何も買えへんで~!!」と呼びかけたその時、突然に「そら」の動きが止まった。 そして、これもまた突然に、此処しばらく無かった「Hiたかお」の ”点滅” が始まったのだ。 しかも、今までに無いほどの激しい ”点滅”。 寝込みを襲われたように「Hiたかお」が「うっ!!うわあああああ!!やめろぉぉぉぉ!!」と、思わず暴れて「そら」の腕から飛び降りてしまった。「なな・・なんやこれは!!おい!!そら!!点滅しすぎや!!どどど、どないかならんか!うわあああ!ぁぁぁ!!なんやぁ!これは?!!」驚いた「カイ・ぽち・ゆきりん・子供達」は一斉に「Hiたかお」、次いで、「そら」に注目した。 集めていたスナック菓子が足元に散乱したまま、一点を見つめて 身じろぎもしない。 皆は、「そら」の視線を辿った。 コンビニの入り口の外側、灰皿の置かれた位置に作業着姿の、疲れた感じの青年。あの作業着は、近くにある「優しさ倉庫」の制服で、肩にさしたボールペンが落ちかけている。 携帯電話にしきりと何か打ち込む様子。 「たかおさん!!だ、大丈夫??ええっ?どうしたら止まるんですか?!わわ、どないしょう?!」 「ゆきりん」が「そらくん、あの人??だれ??」と聞いたが、


「・・・・・・・・・しらない・・・・ひと・・・・」


とこたえたのみ。 この時点で「Hiたかお」の激しい点滅は、少しづつ収まっていった。 


外に突っ立っていたのは、「斎元」という青年だった。