与一から出て来た生き物の記録

奇妙な生き物。早朝の自宅ガレージ奥の「与一」の中から、様々な働きをする者たちが生まれています。その有様と効能の記録です。

そらの物語18・「ゆきりんとぽちと子供たち」

2010-03-10 12:53:40 | そらの物語


「ゆきりんとぽちと子供たち」


 


 


・・・・・・・・・・もじもじ。


もじもじ。


 


「えびす」メンバーが、すでに宴会を始めている「なないろ」の入り口の、コンテナ独特の重い鉄のドアの前で、「ゆきりん」と「ぽち」は なかなか中に入る勇気が出てこないまま、ついに完全に日が暮れてしまった。「なないろ」の周りのプレハブや、廃材置き場は、夜には不気味な雰囲気となる。  「ゆきりん」と「ぽち」は、何度も何度も勇気を出そうと試みたが、どうしても入れない。 それは、「なないろ」の外壁に描かれた「ヘビ」の ”傑作” の数々が、二人にとってはあまりに恐ろしすぎたからだ。


 


 「・・・な、なあ、ゆきりん、か、帰ろうか・・・」


「そうね、ぽち・・帰りましょうよ、おがたもまだ そこにいてるし。


帰るんだったら、今のうちね。」


二人を乗せてきた「おがた」は、寝屋川~京橋間の滑空の疲れを癒すように、何も言わず ふるえる「ゆきりん」と「ぽち」を見つめている。


「ゆきりん」と「ぽち」は、その製造過程において不具合が起こり、修正処理が上手く行かないまま誕生した。 先に述べたように、「不具合をもって生まれた生きもの」は 「返還」される。 「返還」とは、人間で言うところの「死」の概念に近く、「返還の時」が来ると 不具合を持った身体は 解体され、山や川などの源として かたちを変えて生き続ける。 「ゆきりん」と「ぽち」は、「返還」が大嫌いだ。  ・・・・・・・・そんなこと、無ければいいのに・・・・・・ いつも二人で、そう話していた。          「いつまでも、生きていたい! だから 返還なんて、無ければいいのに・・・」  「ゆきりん」と 「ぽち」は、その透明な心で、この世界を愛しているから、いつまでたっても生きていたいのだ。


何度も「なないろ」のドアに近寄り、そしてまた、”ささっ” と離れる。 この繰り返しは、       二人にとっては恐怖に打ち勝つための戦いなのだ。 しかしこの繰り返しが続けば続く程に    恐怖感はいや増し、帰りたい思いの方が先に立ってしまう。 そんな、なかなか踏ん切りのつかない二人の背後で、カサカサと 何かが動くもの音。 薄暗くなった「なないろ」の周囲は、放置されたままの廃材が無数の恐ろしい生きもののようだ。 そのあちこちから、カサカサというもの音。 「ゆきりん」と「ぽち」は、顔を見合わせて、息をのんだ。


・・・・・・・・・・・・・・おとうさん  おかあさん・・・・・・・・・


小さな声。 二人は一瞬、ギクリとした。耳を澄まさなければ聞こえない、消え入りそうな      その声。 すぐに気が付いた「ゆきりん」は思わず大声を出してしまった。


「ああ!!あんた達!!!!」


「ゆきりん」の声に弾かれた様に、廃材置き場のあちこちから 嬉しそうに、そして元気よく飛び出してきたのは、小さな指先ほどの大きさの、破いて放り投げた「紙切れ」の様な、「三角のヒラヒラ」。 これは、「ゆきりん」と「ぽち」の子供たちだ。


ついて来たよ!!     ついて来たよ!!


      ついて来たよ!!ついて来たよ!!     ついて来たよ!!    ついて来たよ!! 


ついて来たよ!!    ついて来たよ!!    


ついて来たよ!!  ついて来たよ! ついて来たよ!!                 ついて来たよ!!


         みんなで ついて来たよ!!   ついてきたよ!!                    みんなで ついて来たよ!!


ついて来たよ!!みんなで、ついて来たんだよ!!  みんなでついて来たよ!!みんなでついて来たんだ!!


おとうさん!!おかあさん!!    ついて来たよ!!ついて来たよ!!      ここまで、来たよ!!     


みんなで 来たよ!!みんなで来たよ!!     みんなで来たよ!!


おとうさん!!おかあさん!! 


みんなで来たよ!!みんなできたよ!  みんなで、ついて来たよ!!    みんなで、いっしょに来たんだ!! 来たよ!!


おとうさん おかあさん  ついて来たよ!!


みんなで いっしょに来たんだ!!みんなでいっしょに来たよ!!      来たよ!    おとうさん!!


おかあさん!!みんなで来たよ!!            みんなで来たよ!!


みんなでいっしょに来たんだよ!!


 


 


そう、子供たちは口々に言いながら、またたくまに「ゆきりん」と「ぽち」の周りに           まとわりつき、ほんの少し離れていただけの、親子の再会を喜んでいる。子供たちは、よく目をこらさないと見えない程度の、薄い「みずいろの光」を持っている事が、暗がりだとよくわかる。


おとうさん!! おかあさん!! ぼくたちも、おとうさんとおかあんの、大調査を手伝いに来たんだよ!!


説明が上手くできない ”おとうさん=「ぽち」” に代わって、「ゆきりん」が、「あんた達!!ついて来ちゃあ だめじゃない!!」と嬉しそうに言ってから、改めて子供たちを諭すように言う。「これからおとうさんとおかあさんは、このなんだか恐ろしい中に入って、大調査を始めるから、あんた達は、ここで待っててね!!」 親としての責任感に溢れるあまり、今まで出にくかった勇気を無理やりに押し出す仕方でふるい立てる。 そう「ゆきりん」が言ってしまったからには「ぽち」も入らざるをえない。 しかも、子供たちを前に、躊躇してはならない。 「うん!!わかった!!」  「ゆきりん」も「ぽち」も、いったん深呼吸し、 ”さあ!!突入!!” という瞬間、またしても背後から二人の心臓破りな、 しかも絶好調な大声。


「まままままま、まいど まいど!!!!まいど!ファミリー!!ようこそ!ファミリー!!ウェルカム!ファミリー!!!!」 


絶好調な大声は「Hiたかお」だ。 「そら・ネコ」と鍋の具財の買出しから戻って来たのだ。  「Hiたかお」は、「そら」の肩の上での大声が オーバー・ゼスチャーすぎて落ちそうになりながら、 「たかお!!あばれたら、落ちるで!!」 と「そら」に注意されながらも、「ゆきりん」と「ぽち」の到着を歓迎している。 子供たちは「Hiたかお」の顔をみるなり、  「たかおくんだ!!たかおくんだ!! たかおくんだ!!たかおくんだ!!」 と「Hiたかお」にまとわりついた。 そらは「あはは!!おいで!おいで!!」と、飛び回る子供たちをキョロキョロ見回して、「ほら!ネコ!見てみ!!みんな来たで!!」と、満面笑顔だ。  「Hiたかお」は 「ネコ、紹介するわな!!あそこでビビって ”もじもじ” してるのが今晩の主人公のゆきりんとぽち、で、この飛び回ってるんがその子供たち!!おまえら、ついてきてしもてんな~!!まあ、ええわ!!ようけおった方がおもろいからな!!中に入ってからまた紹介するけど、ボクの大調査の応援にきてくれたんで、すんません、今日からお世話になります!!」と紹介した。 「へえ~!!なんか、たかおさんの ”お仲間” の方!!あ!!どうも!初めまして!!オレは、ネコ。よろしくお願いします!!」とかしこまって自己紹介をした「おれはねこ!!おれはねこ!!れはねこ!!おれはねこ!!!おれは・・・・・・・」と、歌うように子供たち。「ゆきりん」は、「ネコさん、は、はじめまして・・・・・」と言うのが一杯だった。というのも、「ゆきりん」も「ぽち」も、「Hiたかお」の顔を見るなり、 泣き出すほどの勢いの緊迫感と驚きで一杯だったので。「そら」が「ゆきりん・ぽち・Hiたかお・そして子供たち」に「ごちゃごちゃ言うてんと、早く鍋にこれ入れよ!!」と「マロ二ー」を差し上げた。


 


「ファンタジーな鍋やったな!!」と「1号」が言った。 


この夜の「なないろ」の宴会は、不思議な盛り上がりだった。 主人公の「ゆきりん」と「ぽち」は、「Hiたかお」が語らいの要所要所で、「えびす」メンバーの一人一人に ”きっちり” と「ご挨拶」と「紹介」をしてまわり、上手く繋げたせいか、鍋が空になって「カイ」が「雑炊」を作り出すころには、すっかり打ち解けて、今度は帰りたくなくなっていた。 子供達は、終始鍋のまわりを飛び回り、メンバーの語らいの一部だけをまねて歌うように合唱してみたり、時には追加の具財の小さなものを運んでみたりと、大活躍だった。 宴会半ばでは、調子にのって飲みすぎた「ヘビ」が青い顔で「あかん、オレ、ちょっと吐いてくる」と、「なないろ」の外に出て行き、聞こえてきた「うっげぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」というド派手な嘔吐音をまねて合唱し始めた時には、メンバー全員は大爆笑となった。 この奇妙にファンタジックな空気がまるで似合わない「1号」も、鍋のまわりを右往左往する子供達に「こいつ、豆腐たべるかな??」と小さく切って与えて見たり、普段会話のテンポが早くなると「うなずきモード」になってしまう「そら」も、子供達が会話の一部を取って「かんたんな歌」にしてしまうので、”それならわかる”とばかりに、鍋を箸でカンカン叩いて一緒に歌ったりと、様々な盛り上がりをみせた。 その中で込み入った質問も飛び出した。 「ヘビ」が「不具合」という言葉が気になったのだ。


「不具合」って何?


 


 


そらの物語17・「大調査の進展」

2010-02-27 05:49:58 | そらの物語


「大調査の進展」


 



 


 ー  「Hiたかお」からの報告書  - 


「よも清さん」へ


ボクの活動形態の「変更」を申請します。 理由は、先日「ネコ」と「そら」との間で若干の問題が発生したのですが、それは酒気帯びの「ネコ」による「わいせつ行為」を「そら」がうけたというもので、行われた事について当の本人の「ネコ」より聞かされました。この一件で「そら」の被害は「鼻血が出た」のみで、心身ともに傷ついたのは むしろ「ネコ」本人の方で、「ネコ」はその事から大切な事を学び取っている様子で、結果的には一件落着しております。


しかし今後、ボクが不在の間に「そら」に、「わいせつ行為」を含む危険が起こらないとも限りません。     「えびす」メンバーは根本的に信用できるのですが、それ以外で「もしも」が起こってしまったら と思うと、夜も眠れません。 そこで、現在のボクの「寝屋川・与一 ~ 京橋・なないろ」の移動を取りやめにしたいと思うのです。つまり、ボクのみ、「与一」に帰らない。 ボクの不在をなくすために、「そら」と「えびすメンバー」と寝食を共にし、「そらの守護」に徹する事を通じて「大調査」の進展を図る、というシフトに変更をお願いしたいのです。


回答をお願いします。


 


ー  返答  ー


「Hiたかお」くんへ


活動形態の変更の申請、了解しました。 検討の結果、あなたが「与一」に帰らない事は了解できません。   理由は、あなたが「とても おしゃべり」だからです。 知っての通り、「月の者」の危険は、私たち「生きもの」に止まらず人間にも及ぶ可能性が高いのです。あなたの「おしゃべり」によって、あなたはもとより、「えびすメンバー」をも、その危険にさらす事になってしまっては、この「大調査」に何の意味も無くなってしまいます。   実際、その「おしゃべり」によって、今まで何回もあなた自身が危険と遭遇した事を考えると、この変更は   了解しかねるのです。 しかし、あなたの「そら」の守護に徹したい想い、「大調査」にかける想いは、     私も皆も、全く同じであります。


そこで、あなたのシフト変更について次の様に確定しました。 


「Hiたかお」のみ早出・残業の長時間シフトとします。時間帯は「カイさん」が起きだす前に「なないろ着」の  出発とし、終了時間は「そら」や「えびすメンバー全員」が完全に寝静まったのを確認するまで、とします。   あなたの送迎は、京阪電車の運行時間をオーバーすると思われますので、行き帰り共に「おがた」によるものとします。  京阪電車の使用は、「そら」を「盗難スクーター」から引き離す目的もあったので、その事については別に工夫が必要になるでしょう。また、かなりの長時間シフトになる為、2名の増員をしますので、あなたが指揮をしてあげて下さい。派遣するメンバーは「ゆきりん」と「ぽち」の2名です。知っての通り、「ゆきりん」と「ぽち」は不具合を持っています。あなたの指揮のもと、一生懸命に働いてくれる事は間違いないのですが、様々な考慮を必要とするので、そのあたりはあなたにお任せします。



 


この様なやり取りが行われた即日 


たて続けに「Hiたかお」からと「FA637」から


新しい報告があった


これは 「大調査」の大きな進展に通じる 極めて重要な


そして 私たち全員が 心躍るような報告であった


 


ー  「Hiたかお」からの報告書  -


「よも清さん」へ


「ゆきりん」と「ポチ」の増員、ありがとうございます!ボクの新シフト、万事了解しました!ところで昨日「よも清さん」に報告書をあげてすぐ、「カイさん」から一通、そして「ヘビ」からも新しい資料を頂きました。両方とも「和解マン」に関連していると思われる資料であります。「カイさん」からは、本年正月明けに配られたビラ、「オフィス・和解マン」の雇用契約書で、なんと「サソリ」がこれに参加していた、との事であります!しかも、「サソリ」はそれから様子がおかしい、との事なのです。 そして、その話しを「カイさん」としている最中に、「ヘビ」がもう一つの資料を持ってきてくれたのです。それは「カイさん」が提示してくれた雇用契約書と同じ派遣会社の、こちらはタウン・ワークの「募集広告」であります!しかも、こちらは未だ「募集中」なのです!!下記です!


先着100名限定!一斉大募集!!


ガッつり稼ごう!!超ド短期!時給1600円!!


一日夜勤でお給料は即日 日払い!!


なんと、「ポスティング」だけで、このオイシイ時間給!!


あなたもゴールデン・ウィークを前に、


「ヒューマン・ワークス」で一発稼ぎませんか?!!


定員になり次第、募集は打ち切りますので、お早めに!!


 


これは「サソリ」の部屋から出てきたもので、今から一週間後の4月28日の一夜のみで、「ヘビ」曰くは、この広告に大きく「○」を付けて持ち物や集合時間のメモ書きが「サソリ」の筆跡で記されている事から、「サソリ」はこれに行く、との事であります!!この広告には「和解マン」云々の派遣先企業名は掲載されていませんが、「ポスティング」という職種にもかかわらず時間単価が1600円という破格な金額である事と、「一夜だけの夜勤」、「当日・日払い」などの条件から、本年はじめの あの「オフィス・和解マン」のビラの「第2弾」である事はまず、間違いないでしょう。


ここで提案ですが、かねてより様子のおかしかった「サソリ」の、このアルバイトが行われる当日、「カイさん」と「ヘビ」はこっそり「サソリ」の状況を見に行く予定をしています。 それにボクも同行し、「FA637」と連携しながら「和解マン」の正体に迫りたい、と考える次第です。 当日、「和解マン・本人(?)」が出てくるかどうかは予測できませんが、大きな手がかりを掴める事にまちがいありません!


回答をお願いします!!


 


ー  返答  ー


「Hiたかお」くんへ


賛成です!しかし当日「FA637」は、 ”別件” で多忙な為、あなたの安全と「万が一」に備え、メンバーは  まだ未確定ですが、攻撃的な「生きもの」を応援に派遣します。 その間、あなたが不在の「そら」の近くには、「ゆきりん」と「ぽち」に任せると良いでしょう。 どうか、無事故で!!!


 


 


ー  「FA637」からの報告書  ー


「よも清さん」へ


お疲れ様です。 ご存知の通り、私が個人や企業のPC端末や、個人情報の内部に介入し閲覧する際、スパイ・ウェアや新種のウィルスと判断され一旦ブロックされるので、それを解除してからでないと私の調査は始まりません。 この、一つ一つの、タイプの異なるウィルスバスターやセキュリティー・ソフトのブロックを解除する作業は、時には一つの情報を閲覧できるようになるまでに、一日仕事となる場合も少なくありません。


それに調査が完了した後も、私が介入したPC端末内のデータに異常が残らぬ様、細心の注意をしなければならないのです。 何件かは私の調査完了後に、ネットワーク異常を起こしたり、そのPCユーザーに「$$$$をインストールしてください」等の勝手な動作を起こしてしまい、迷惑をおかけしてしまったので、こうした事が起こらないように、完全に元の状態にまで修復するまでが、私の作業なのです。 これは「よも清さん」でも想像しかねる程の膨大な作業となるのです。


ところが一ヶ所だけ、「ノォ・ブロック」のPC端末を発見したのです。 これは、今時ありえない事です。個人でも企業でも、「ノォ・ブロック」で入り込める端末など、皆無に等しい。 これは 明らかに「私がデータ内に介入するのを認識していて、わざと介入できる様にしている」としか思えません。 そこで試しに 私の介入後 数日間、修復作業をせずに放置してみたのですが、ネット環境の異常や、私以外が原因となってのトラブルは起こりませんでした。 やはり、スパイ・ウェアやウイルスはしっかりとブロックしているのです。 これは、私以外のスパイ・ウェアやウィルスはしっかりブロックして、私だけ入り込めるように、あえて 意図的にしているという事なのです。 間違いありません。


私たちを認識しているのは「Hiたかお」君関係の「えびすメンバー」と「そら」、そして「毒ちわわ」のみ。


・・・・・という事は・・・・・・と考える訳です!!


この不可解なPC端末のある位置は、城東区・鴫野町(しぎのちょう)、112ー16、企業内の一台、      業務用の普通のノートブック型パソコンです。企業名は「優しさ倉庫」。 その事務所の中の在庫管理を専らとする、事務所内では「3」と名づけられたパソコンです。 


今後、この事にたいして、私はどのように対応すればよいのでしょう?回答をお願いします。


 


ー  返答  ー


「FA637」へ


連日の複雑な作業、本当にお疲れさまです。


その不可解なPC端末の調査ですが、何を目的としてあなたの介入を許可しているのかが、まず わかりませんし、そのPC端末に対して何んらかの動作をすることは、「私たち」全員にとってかなり危険度の高い調査となる可能性があります。 したがって、今は、あなたが介入した状態はそのままに、修復もせず、「静観」でお願いします。 重要ですので、くれぐれも「動作」は起こさぬ様、お願いします。


 


私たちは 連日の「大調査」のやり取りの中で


特に大切な事は この様な「報告書」を介して行うのが常である


日常的な出来事は 「与一」に帰った時に


楽しく「おしゃべり」すれば 良いからである


一方 そのころ「そら」と「ネコ」と「Hiたかお」は


「カイさん」に 「マロニーとかつおぶし忘れたから、買ってきて」


と言われ ローソンに買出しに出かけていた


今夜の「なないろ」は 鍋


これは「えびすメンバー」にとっては 新しい神様 


「ゆきりん」と「ぽち」の歓迎の為である


 


 


そらの物語16・「清滝とうげ」

2010-02-10 10:58:00 | そらの物語


「清滝とうげ」


 


「ネコ」は「そら」に押し当てた顔はそのままに、脱げかけになった「そら」のジーンズを下ろそうとしたが、羽交い絞めのままでは上手くいかない。なんとしても抵抗の姿勢で足をばたつかせる「そら」のやわらかな内腿が、「ネコ」の強い腕に痛ましくぶつかるだけだ。そうと分かると、今度は自分のズボンのベルトを緩めだした。


カシャッ     わずかな音。


突然、「そら」の身体が大きくのけぞり、「ネコ」の顔からいったん離れ、力いっぱいの ”頭突き” が炸裂した。一発!二発。  眼のまわりで何かが光った様な突然の激痛によろめく「ネコ」。  言葉をふさがれた「そら」の、顔全体での力のかぎりの抵抗は、見事、成功した。


二人ともその場から跳ね飛ぶ様に倒れこみ、ビールやチューハイの空き缶がそこかしこに飛び散り、今まで暴れるように絡み合っていた二人の物音が、急に静まり返ったこの部屋に、やまびこの様に聞こえそうだ。


・・・・・・・・・鼻血。


  「そら」の形の良い小ぶりな鼻から、 ”頭突き” から一拍あけて、大量の鼻血・・。


「 ”ちぃ”出たやんか!!!! はなから ”ちぃ” や!!!!」 怒り頂点の「そら」はあちこちに転がったビールやチューハイの空き缶をめちゃくちゃに蹴り飛ばし、食べさしのスナック菓子を投げ散らした。アルコールの力も借りた大量の鼻血は止まる事はなく、口元を通り過ぎ、あごの下まで伝い、乱れたタンクトップの中までしたたり落ちた。 鼻から下の赤いマスクをした様に、顔中に広がる「赤」。 暴れながらの流血は、どれほどの惨事があったのか という程、二人の足元のあちこちに飛び散り、いくら手で拭いとっても腕や服まで「赤」に染まるばかり。 大量の流血は、「海」か「磯辺」に似た、生臭い匂いがする。 「そら」は怒りにまかせて灰皿から何から目に付くもの全てを「ネコ」に投げつけ、突然の目もくらむ痛みに顔を覆ってうずくまったままの「ネコ」は、黙して投げつけられるがままだ。 うずくまったままの「ネコ」のまわりに、部屋中の物品が積み上げられたころ、「そら」は ”ふっ” と我にかえり、改めて「ネコ」を見た。


・・・・・・・・・大きなむらさき色の ”たんこぶ” 。


「ネコ」の額のちょうど中心に、取って付けた様な、大きなむらさき色の ”たんこぶ” 。


「ネ・・・・・・ネコ、何?それ??何つけてんの?それ??」 と「そら」に言われて、「ネコ」はあらためて自分の額をさわってみた。 「あ・・・・”たんこぶ” や・・・」。


酔っていたとはいえ、自分の行った事、行おうとした事を冷静に後悔しはじめた「ネコ」は言葉につまり、取り合えず しだいに丸い形に膨れ上がる ”たんこぶ” の「へり」を指でなぞっている。 考えてみると、「6号」は、彼女とケンカして不満だった自分に率直に付き合い、酔った自分が不満勝手に作った流れに率直に乗せられて、その結果、傷ついてしまった。自分は「6号」という仲間を、者を言わない「人形」か、絶対服従の奴隷の様に扱ってしまった・・・・・。 「ネコ」はそう考えると、いよいい「今、話すべき言葉」が見つからず、ひたすら額の「丸」をなぞるしかない。


突然に「そら」が笑いだした。


「何??それぇ??!!あははは!!変な ”たんこぶ” !!まる~くて、しかもむらさきいろになってるで!!それ何??テープでピタッとはりつけた、”くらげ”がでてきたみたいやで!!!あっはっはっは!!!おもろすぎ!!!」 


突然にゲラゲラ笑い出した「そら」。 笑いは止まらず、「ネコ」に近寄り、大きくなり続ける ”たんこぶ” をちょっと突付いてみてはしゃがみこんで笑っている。「ネコ」は自分が帰宅してから今までの展開を考えると、あまりに唐突なこの大笑いにア然としたが、自分のした事、「6号」がされた事を考えると、更なる後悔の気持ちと、それにしても あまりに単純に笑える「そら」の思考が、どうしようもなく痛ましく感じた。 突然、失っていた言葉が蘇ってきた。


 ・・・・・・・・・6号、ごめん・・・・・・・・


一旦「侘び」を口にすると、何故か心底悪い事をしてしまったという感情があふれ出し、心が痛い。 「・・・しまった・・・・6号、ほんま・・・ごめん・・・・」


撃ってはいけない者を撃つ罪悪感と似ている。 両手を広げて友好を求める丸腰の民間人を撃ち殺す兵士のような。 汚してはいけないもの。 それを汚してしまうと、汚れてしまった「それ」よりも、自分自身が汚れているような、何かに負けた感じ。


「いいよ、ネコ」 と「そら」はひとしきり笑い転げた後、鼻血のふき残りがあちこちついた、そのままの笑顔で言った。 その笑顔には、何の曇りもない。


「いいよ、ネコ。ごめんって言うたから、もう、いいよ!」


 


 


幼い頃、いつも「ネコ」についてまわっていた五つ年下の男の子がいた。 「ネコ」が同学年の仲間たちと「やんちゃ」をする時、自分もやりたそうに、いつも付いてまわっていた。 可愛い奴だと感じていた。 蜂の巣があった。 そのころからつるんでいた「ヘビ」が、一計を案じた。  ”皆で蜂を退治しよう” 。 年下の子も、その男らしい挑戦に目を輝かせた。 しかしそれは、本当に退治するのではない。 巣を落とされ、怒り狂って飛び回る蜂の大群から、明らかに逃げ遅れるその年下の子の反応を、ちょっと離れて、ふざけて見てみよう。 それは見事に成功し、逃げ遅れたその子は、怒り狂う蜂の大群に八方から取り囲まれ、それを少し離れた所から、指差して皆で笑った。


そのうち どうしても逃げ切れない、無数の蜂に刺されるがままのその子が、ついにうずくまり、顔だけを手で隠して「ううう!!ううう!!」と嗚咽ともうめきともつかない、声をあげている。 半ズボンから出た足や、顔を覆う腕に無数の赤い斑点が広がり始め、しまいには顔を上げ、中を睨んで狂った様に泣き叫びだした。  それは「蜂がしているひどい事」ではなく、「自分たちがしている、ひどい事」。 「ネコ」は、「ヤバイ!」と感じた。 皆も「ヤバイ」と感じ、あわてて皆で棒切れや虫取り網で蜂を追い払った。 この難を逃れた赤い斑点だらけのその子は、


ーーおれだけドン臭くて、ごめんーー


と言った。 その時「ネコ」の心は、何かに刺された様に、たまらなく痛かった。


 


もっともその痛い思い出と、今の出来事は状況も種類も違っているが、苦しい程の心の痛みは同じだった。


「ほんまに、ごめん!!6号、思っきし、殴っていいぞ!!」 「そら」は「ネコ、何回も何回も言わんでも、もう ええって言うたら もお ええの!!ごめんって言うたから、いいよ!」 と穏やかに言って、逆に「ネコ」を慰める様に「ネコ」の大きな背中を ”よしよし” して微笑んでいる。 「ネコ」は、再び撃たれた様に言葉をなくし、急に溢れてきそうな涙を隠そうと、「そら」から見えない方にうつむき「そうやんな・・・」とだけ言った。 これではまるで「そら」が「ネコ」に何かして、悲しい思いをした「ネコ」を慰めているようだった。 「ネコは、へコんでいる」と思った「そら」は、「なあなあ、ネコのその ”たんこぶ” と、おれの ”はなぢ画像”、写メールで撮ってあそぼか!!」 と つとめて明るい声で言った。 「あははは!それ、おもろいな!!でも、みんなに送ったりせんとってや!!」と「そら」の提案に乗り気になることで、上手く涙をごまかす事に成功した「ネコ」。 自分の携帯をどこのポケットに入れたかあちこち弄って探す「そら」は、かたまり始めた血痕がパラパラ落ちても気にも留めず、新しい思いつきに嬉しそうな横顔のまま、「それにしても、おれの ”ファースト キス” がネコって、これ、さいていやな!!」と笑いながら言って、「うん、ほんまやな!!」と二人で笑った。


 


「おい!!!なんや??このごちゃごちゃは!!!」と、残業で疲れた体を引きずってかえってきた「1号」が、「なないろ」に入るなり言った。 「おまえら、何しててん??」。


「そら」は「あ!1号、お疲れ!!」と、いつもと変わらない、元気な声だが、「ネコ」は微妙だ。


”この「ごちゃごちゃ」の理由を1号にどう説明すれば・・・・”  「いや、1号、実はオレ・・・・・」と言いかけたが、上手く言葉にならない。 「なあ、1号、カイさんもヘビも、サソリも、みんな どっか行っておもろないから、ネコと宴会やってたら、ごちゃごちゃになったわ!!!おれ、かたずける勇気ないわ!!」 「あほ!! ”ないわ” とちがう!!キチンと片付けんと、あかんがな!!たのむで!!」と1号。 この会話の流れのまま調子を合わせていればいいものを、「ネコ」は再び「1号」に、「1号、ごめん、オレ・・・・」と、反省報告を言わずにおれない。しかし、やっぱり心にこもる思いを「ことば」にあらわすのは、今の「ネコ」には困難だ。 「そら」は「ネコ」が、何を話そうとしているのか分からなかったが、とりあえず黙って「片付け」を ”イヤそうに” 始めた。


「なないろ」のリビングのあちこちについた血痕は、相当な大喧嘩の修羅場であったかのように、 何かを「1号」に物語っている。「ネコ」はそれを「1号」に話そうとしているのじゃないか? 「1号」は疲れた頭で少し考え、「ネコ」の言葉を待った。「 ”オレ” がどないしたんや?」。こんな時の「1号」の顔は、普通にしてても怒っている様に見えて、今の「ネコ」にはかなり ”キツ”い。     「いや・・・1号、オレが悪かってんけど・・・6号が・・6号と・・・・その・・」。  


ーーオレが悪かってんけどーー 


 1号はこの一言で、もう全部聞かなくてもよかった。


「おいっ!ネコ!、そこらへんの片付けはほっといて、 ”清滝(きよたき)” 攻めに行こか!!」


「清滝とうげ」    それは、暴走族とは違い、「走り屋」とよばれる若者たちが、スピードとコーナーリングのテクニックを競い合う、S字カーブの連続した生駒山の山道だ。アップ・ダウンも多いが、山の上からの夜景も美しい。合わせて、事故も多い。  「そら」がすぐに「食いついて」来た。


「ああっ!!!きよたき!!行こ!!行こ!!」 「ネコ」の顔はいっぺんに明るくなり、「そやな1号!!一発、攻めよか!!」 「なあ、1号!おれ、1号のケツにのっかるわ!!」 「よっしゃ!決定やな!」


 


「清滝とうげ」に3人で向かう道中、「1号」が急に「6号、運転、かわったろか?」と言い出し、「そら」の ”ケツ” に「1号」という危険な体勢で「とうげ」に向かった。163号線を進み、少し外れたところからしだいにコーナーの急な登り道が始まる。ここを100キロ以上のスピードで上りきると、視界の隅にはちらちらと壮大な町の夜景が広がる。しかし、その美しい夜景の方に一瞬でも気を取られると、命取りのスピードである。


「ネコ」の前を疾走する、「そら」の運転する1100CCの ”ケツ” で、大柄な「1号」が、小柄な「6号」につかまったまま、うとうとしている。相当に疲れている・・・「ネコ」は「1号」に「ありがとう」と思いながら、視界の隅に広がる美しい夜景と同じくらい、夜の「とうげ」を風を切って「攻め」る自分たちが、美しいように思えた。


 


 


 


そらの物語15・「春の夜長」

2010-02-09 13:45:12 | そらの物語


「春の夜長」


 


 


「ネコ」は何かの理由で彼女とケンカし、酒やビールをどっさり買って、


皆に愚痴ろうと思い帰って来たら、そこには「6号」しかいなかった。


「6号」は何も物音のしない「なないろ」のリビングで、


寝転がって「じゃがりこ」をかじりながら、携帯をいじっている。


中途半端に寒さのやわらぐこの4月の夜、


つけっぱなしの暖房が、換気の良くないこのリビングでは蒸し暑いくらいで、


すぐそこにあるリモコンで、ちょっと切れば良いものをそのままに、


ひざ下で切ったジーンズに、タンクトップ1枚のいでたちの「そら」は、


 ものぐさ満開だ。



「ネコ、おかえり」 と、携帯から目を離さずに「そら」。 「あれっ??みんな帰ってないの?6号だけ??」。  「そうや、みんな、どっか行ってるな」。 「ふうん・・・」と言いながら、愚痴のはけ口を失った「ネコ」は、リビング内をぼんやり見回してみたが、抱えていた酒やビールの入った袋の底が抜け、中身が転げ落ちた。「あっ!! ”いちばんしぼり” がでてきた!!」と転がるビールを わざわざ一つ一つ指差して「そら」。  「なあ!6号、2人で宴会やろか!!おまえ、思っきし未青年やけど、オレがゆるしたるわ!すきな奴、取れ!!」「へえぇ~ どれにしよかなぁ・・・」 どれも飲んだ事のないアルコール飲料の品定めを始める「そら」。 こうして2人の宴会は始まった。


宴もたけなわ、初アルコールでゆでだこみたいに真っ赤になった「そら」に、こちらもしだいに言葉がもつれる程に酔いのまわった「ネコ」が言った。 


「6号、おまえ、よく見るとおれの女よりも ”肌” きれいな・・・・・」 「そら、そうやろ!!おれは  まだ、新しいからな!!」 「ちょっと、触っていい??」 「はい!どうぞ!」と即答の「そら」は、「ネコ」の顔のまん前に肉付きの良くない少女のような ”ふくらはぎ” を突き出した。 「へぇぇ・・・・・」 ひざ下で切ったジーンズから突き出した青筋の浮いた ”ふくらはぎ” は逃走する時用の筋肉のみで、体毛の薄さがなおの事 少女のようだ。アルコールの力の及びにくいこの ”やわな裸足” の、あちこちについた擦り傷 切り傷はピンク色に変色し、駆け巡るアルコールの威力を示している。


「なあ6号、遊びでいいからオレの女になって、甘える仕草をやってくれへん??」 と妙なテンションの「ネコ」。 「おれはちょっと女みたいやから、似合ってるかもな!!」と「そら」は「ネコ」の真横に密着して座り、冗談である事の明らかなトーンで「ねえ、あなた、すきよ!」と言って、タンクトップの胸元をはだけてウインクして見せた。 「ネコ」は 「うぉっほ!!ええ感じや!!おまえって、めっちゃ可愛いやん!!」と「そら」の肩を ”がしっ” と抱きしめて、これもまた冗談である事の明らかな力で押し倒そうとした。「そら」は「あははは!!マジ??うそやろ??」と笑いながら、覆いかぶさる「ネコ」を避けようともがいた。 「あっはっはっ!!6号、遊びやって遊び!!なあ、”ねえちゃん”!!ヤらせろ!!」とAV男優か何かの調子で、さらに「接近戦」に非力な「そら」を羽交い絞めにしてみた。「あほか!おっさん、くるしいって!!!ネコっ!!はなせよ!!」


「そら」を強く抱きしめてみると、つけっ放しの暖房のせいで、 ”あまくない飴”の様なわずかな汗のにおいと、小奇麗な小動物の様な 未だ子供っぽい果物的な体臭が、なぜか生なましく、「そちら」の方向へ向けての「ネコ」のスイッチを入れた。 「なあ、6号、気持ちええ事したるわ!!おまえ、まだ知らんやろ?ズボン脱いでみ!!」 「えええっ?!いらんって!!そんなん、いらん!!気持ちよくない!!」 その話しに あまり前向きでない「そら」の、青白い腕をしっかりと捕まえた「ネコ」は、あらためて ”そういう目線” で間近で逃れようとする「そら」を見つめて、これから自分が進んでしまうであろう方向を思ってか、笑顔をなくしている。 「ネコ、やめよう・・・・これ、おもんないで・・・おれ、いやや。」そう訴える「そら」の赤い唇や、警戒心のほの見える薄茶色に光る瞳、「ネコ」の強い力を示す赤くなった細い腕、これら一つ一つのパーツの美しさが、「ネコ」を誘惑している様だ。


二人の動きは、「捕らえる男」と「捕らえられた女」の様な体勢で一旦休止。真顔となって鼻息も荒く、この急な展開で起き出した欲望を どうしても抑えきれない「ネコ」。 同じく息も荒く「・・・うそやろ・・・」と今後の展開を推し量りかねて、困惑する「そら」。  「そら」の細い首筋に汗が集まり、青筋の薄く浮いた鎖骨へ伝い流れ、熱くなったタンクトップの中へ透明な線を描き、「ネコ」はつばを飲んだ。  「ネコ」は、自分の捕らえた「そら」の両腕の、赤みのさした「めばえ」の様な筋肉の未成熟と、それを掴む男らしく完成された自らの腕とのコントラストに、”あらぬ方向” にかかったエンジンは、後戻りの効かぬ確かなものに。


「ネコ!!!あほか!!!おこるで!!はなせって!!!」 「そら」の笑顔は消えた。 はじめて見る「6号が何かを恐れる表情」は、酔いどれの「ネコ」には限りなくエロティックで、乱れたタンクトップから見え隠れする アルコールで桃褐色になった はだけたままの胸元が、一旦湧き上がった「ネコ」の欲望の「火」を「炎」に変える。


「6号!!」 「いやや!ネコ!!!もお、やめよおって・・・・言うてるやん!!!!!」 「ネコ」は暴れる「そら」を床に押し付け、再び覆いかぶさる様に強く抱きしめ、「そら」のジーンズのチャックを勢い 引き下ろし、力まかせに腕を差し込もうとした。生暖かい「そら」のジーンズの中に、汗で湿ったなめらかな肌の感触についで、伸びはじめたおだやかな陰毛が「ネコ」の指先に暖かい。 どこを目指して差し込まれた腕なのかを、本能的に察知した「そら」は自然に腰を引き、腕の到達を逃れようとするが、その仕草は今の「ネコ」には更なる甘い誘惑にしかうつらない。 


間近で見る「ネコ」の顔は、もう「そら」の知っている「ネコ」ではなく、いくら暴れても逃れる事のできない、大きな力を備えた、濡れた強い金属にしか見えない。 耳元に吹きかかる「ネコ」の荒い吐息は、アルコールに満ちた獣の様で、下半身では、はだけたジーンズの中に無理に押し入ろうとする手を、どうする事もできず、それなのにジーンズの奥で示し始めた ”反応” に、「ネコ」の荒々しい指先が時折触れる。 ”反応” している事を知られる、嫌な感じ。ーーこれは、いやな感じや!!!--そう思っているにもかかわらず、止められない敏感な14歳の反応を、どうする事もできない。これから展開される成り行きは「そら」にも容易に想像できた。その成り行きを否定したい気持ちで溢れれているのに、「ネコ」の力に触れられながらも何とか逃れている ”反応” は、気持ちとは全く逆に、勢いよく立ち上がる。 「そら」の言葉はとぎれながら、それでもなを「否定」の意思を伝えるしかない。 「・・・・・・ネコ!!、いややって!!やめろ!!おれ、そんなんしたくない!!したくない!!!」


 


無限に長く感じられる何分間。 「ネコ」は羽交い絞めの体勢はそのままに、ふっと「6号」の表情に目をやった。 怒りに満ちて涙で輝きはじめた「そら」の瞳を、なぜか見る事ができない。 それなのに、熱を帯びた「そら」の薄く濡れて口紅をさしたように真っ赤になった唇は、2人の今後がメチャクチャになっても味わってみたい、禁断の魅惑に満ち満ちて、「ネコ」はたまらない気持ちのままゆっくりと、そして少し震えながら、顔を近寄せた。 軽く触れる「そら」の唇。  甘く熱い「そら」の唇の ”はしっこ” に、「じゃがりこ」が少し残っている。


「そら」は自分の言葉を封じるようにピッタリ合わせられた「ネコ」の唇が、最初は優しく、そしてしだいに強く押し当てられ、欲望の塊となった「ネコ」の唾液のすっぱい匂いと共に、大きな舌先が強く自分の中に入って来るのを、顔を背けて抵抗する。しかし、いくら顔を背けても、もはや後戻りのきかなくなった「ネコ」を拒絶できない。「そら」は完全に「ネコ」の ”腕の中”だったから。


「そら」とも「ネコ」ともつかない唾液のすっぱさと、濡れる感覚が双方の顔中にねっとりと広がり、こすり付けるような大きな「ネコ」の顔が、近すぎてもう見えない。舌が分け入ったザラリとした異物感。時折触れる、歯と歯が痛い。 「そら」は抗いながらも、「逃げ切れない感覚」で、「んっ!!んんっ!!」と言葉にならぬ言葉を発しようとしたが、それも叶わない。 「そら」は口の中で大きな舌先が自分の舌を追い回すのを、いったんなすがままにして時を待つしかなく、「ネコ」の呼吸が自分の中に感じる程に、強くつむった目から涙がこぼれそうだった。


 


 


そらの物語14・「6号効果」

2010-02-05 15:40:43 | そらの物語


「6号効果」


 


おれは、あんな1号 見たくない。



そう「ヘビ」は言った。 「えびす」のメンバーは「6号」を外して皆、共同生活の中でのわだかまりを感じる時、「カイ」にそれを打ち明ける事でリセットする慣習があった。 この日は「ヘビ」が ”ちょっと話しがある” との事で「カイ」を誘い、京橋駅前の「水滸伝」に来ている。


 


「カイ」   とりあえず、熱燗2号!ししゃも!!たこぶつ!!それと・・サイコロ・ステーキ!!


「ヘビ」   ああ、オレは生中!から揚げ!焼き鳥のおまかせ!!あと・・その、ちっこいピザ!! それからぁ・・・とりあえず、以上で!!


「カイ」   おまえ、自分で払えよ。


「ヘビ」   ああ!わかってる、大丈夫!今日は持ってるから!  ところで「カイ」さん、この前そこのコンビニで「1号」を見たで。 そこのローソン。 ローソンの制服着て、「ありがとうございました!」ってやってたわ。


「カイ」   え?「1号」って、鳶やったんと違うか? あ、今ひまなんかな?たぶん、それ とりあえずの何日かだけと違うかな? お客さん、ビビってなかったか(笑)?


「ヘビ」   ははは!ちょっと微妙な感じやったな。いやいや、あのな「カイ」さん、オレ、あんな「1号」見たくないんや・・・何んて言うか・・明らかにおかしいやろ??全然おかしいで!「1号」がお客さんに「ありがとうございました」なんて!!似合ってなさすぎ!!


「カイ」    おかしくはないやろ?確かに似合ってなかったやろうけど(笑)。


「ヘビ」    そやろそやろ!! だいたい、鳶行きだしてからもそうやけど、今の「1号」は ”オーラ” が無くなってる!!”オーラ”!!「中大阪のTop」で走ってる時は、ごっつい ”オーラ” があったんや! 「カイ」さんは「族」の時からずっと「1号」の近くにおったから分からんかも知らんけど、オレは大勢の「族」の中にいてて、「1号」が合流してきたらすぐ分かったで! ”「1号」が入った” って。 本人の姿が見えへんかっても、あれだけ大勢いてる「族」の空気が変わるんや!!”どこかに「1号」が入ってる”って、すぐ分かる。みんな、口数も微妙に少なくなる。そこへ、先頭集団を引き連れた「1号」が鬼みたいな顔で、ゆっくりと現れる!!オレらは皆、サッと道を開ける。・・・・オレは鳥肌が立つくらい感激してたよ!!そんなオレらを睥睨するって言うんかな・・こう、睨み付けて見下ろすような感じで・・・こう・・・・


「ヘビ」が「1号」の ”武勇伝” を語りだすと終わらない事を熟知している「カイ」は、       「かわいいやんちゃぼうず」を見る様な優しい目で「うん、おお、なるほどな!」と相槌を入れるに止め、話しの腰を折らぬ様、しかし何を言いたくてここに誘ったのかを聞き取る事に集中し、2本目の熱燗と「ヘビ」の生中をオーダーする。


「ヘビ」    なあ!「カイ」さん、「6号」が来てから、3ヶ月?半年?くらいかな?


”それが本題か!”と「カイ」は思った。


「カイ」    そやな、あいつが「デビュー」したんが去年末の、「えびす」最後の”お勤め”ん時で、今、もう春やからなぁ、半年近くなるな・・


「ヘビ」    「1号」に ”オーラ” が無くなって来たんは、その辺からや。「1号」が、なんか、「普通」になってしまった!!


「カイ」    なんや?「6号」のせいで「1号」があかん様になった??ってか?


「ヘビ」    いやいや!違う違う!!「6号」には文句はないで。あいつはあいつのやり方でがんばってると思うよ!ちゃんと「カイ」さんの手伝いもやってるし、「たかおさん」の送り迎えも続けてるんやろ?十分やん!って言うか、何もしてへん「サソリ」よりは全然えらいと思う。「6号」じゃなくて、「1号」や。「1号」と「えびす」の雰囲気。 なんていうか・・・ぬるい感じ?平和な感じ! オレはそれがどうも・・・・・・・・こんなんで、いいの?


「カイ」    ええねん、「ヘビ」。これでええ。いい感じやと、オレは思ってる。「1号」はどっちにも転ぶ男や。 ”怒り” に我を忘れたら「1号」は大変な人になるんは知ってるやろ? 「中大阪」ん時は常にその危機感がオレはあった。だからいつもオレは、そんな状況にならん様に、あれやこれやと気を配ってたよ。今は、どんどんその危機感から遠い感じになって行ってるっていうんかな?  いい方向にちょっとづつ進んでるんやと思うで。


「なないろ」がスタートして同時に「6号」が来て、「1号」がそれを ”すっ” と受け入れて皆もそれで良しとした。 「6号」はなんやかんやとちょっとした問題を起こしてくれるけど、いつも「6号」の近くにいてる「ネコ」とか どや! どう思ったか知らんけど、朝寝坊せんようになった(笑) あと、当たり前やけど、自分の片付けとかも、せっせとやっとる。 あと、「1号」がよく笑うようになった! 「1号」が笑うと、みんな笑うやろ? 全体的に「笑い」が多くなった。オレも、「1号」も、「なないろ」の賃貸料の事で頭痛い時があるんやけど、笑ってるうちに「リセット」できとる!  おまえもそうやろ? しょっちゅうバイト先でモメて帰ってきてイラついてる時、「6号」を真ん中にして皆がゲラゲラ笑ってる空気の中で、知らん間に吹っ切れて、次の日また頑張れてるやん!実際、今のお前のバイト、今までで一番長続きしてるで! だいたいお前は1ヶ月以上続いた事が無いのに(笑)!!


「ヘビ」    ま・・・そうやな・・・確かに、そうやな。


「カイ」    これは、「6号効果」や(笑)。


「ヘビ」    「6号効果」か。 そういえば、おれもみんなも、”ちゃんと” してきてるよな・・・・・


「カイ」    そう! ”ちゃんと” してきてる!「6号効果」や。オレと「1号」はそう話してる。   「たかおさん」がちょくちょく来るようになってからは、その「6号効果」倍増やな(笑) 「たかおさん」が「6号」にいろんな事を長々と解説してるのを聞いてて、時々、オレらにとっても大事な事も言うてる時、あるで。


「ヘビ」    おれは「たかおさん」が来るようになってから、なんでか「6号」が苦手キャラでなくなったな。なんでか。 ん~、なんでやろ??


「カイ」    「6号効果」が倍増してんねやん(笑)!


 


 


「ヘビ」    ところで、「サソリ」やけど、あいつ最近おかしくない?


「カイ」    うん。おかしい。 最近と違うで。今年の正月からや・・・正月から微妙におかしかった。最近、それが目立ってきたんや。あいつだけ、「6号効果」の外におる、みたいな・・・・・どう言うんやろ?ほんまにおかしい。


「ヘビ」    ”薬” でもやってんやろか?


「カイ」    いや、それはないな。ちょっと心配やったからあいつの寝室も調べてみたんや。 特に問題はなかった。 ”薬” とかじゃないな。


「ヘビ」    でも、なんか、フラフラしてる時あるで?!あれ、なんや???


「カイ」    ・・・・・・・・さっぱりわからん。 ”薬” とかではない事は確かやけど、ほら、正月に「一日だけのバイト」って行きおったやろ??


「ヘビ」    あああ!!!あった!あった!!変なバイト!!思い出した!!あれからおかしいんか!!!あれやろ? ”夜のビラ撒き”!!!


「カイ」    そうそう!!ちょっと「変」やったんや!だいたい、「ビラ配り」の一日スポットのバイトで、なんぼ「夜勤」や、っていうても時間給1600円って、あり得へんやろ?! あれ行ってからやわ!!あれから、ビミョ~におかしい・・・・ 寝室調べた時に、あのバイトの「契約書」がでてきたんやけど、別に普通やったわ。その「時間給」以外は・・・今、持ってるわ。


 


雇用契約書


雇用者        :    ヒューマン・ワークス 株式会社


派遣先企業様    :    オフィス・和解マン   様


就業場所       :           大阪市城東区 全域


就労単価       :           時間給 1600円  時間外 ×1.25 (当日、基本は残業なし)


支払い方法     :    当日作業終了時  手渡し(振込みその他は不可)


 


新規登録スタッフの心得


服装は基本は自由(茶髪・ピアス ok)ですが、当日は夜間の作業ですので、音のする様な服装やスカート等、作業性の良くない服装はNG。(当社現場リーダーのチェック有り) また、作業中の私語、喫煙等もNG。 当日の食事、休憩等は、派遣先企業様(今回はオフィス・和解マン様)の監督より指示がありますので、個々の勝手な判断での行動は慎しんで下さいます様、よろしくお願いします。


集合場所に到着したら当社現場リーダーを中心に点呼を取り、定員が揃いしだい現場に入って頂きます。その際、派遣先企業様に、しっかりと「本日一日、よろしくお願いします」との挨拶をしましょう!!「ヒューマン・ワークス」のスタッフであるという事を忘れないようにお願いします。また、作業終了時にも同様に、「本日一日、ありがとうございました」との挨拶を忘れないで下さい。 当日、残業が発生した場合は必ず派遣先企業様の監督に、スタッフシートの時間外の欄に残業の開始時間、終了時間を記入して頂き、最後に監督のサインを頂いて下さい。サインが無い場合、残業は無かった事になってしまいますので、くれぐれも気をつけて下さい。


 


「ヘビ」    ・・・・・・・・・・別に、普通やん?・・・・


「カイ」    そうやろ。 ただ、明らかに、”これ”に行ってから、おかしいんや・・・・


「ヘビ」    「カイ」さん、この「なんちゃら和解マン」??って会社、「たかお」さんが調べてる何かじゃなかったっけ??


「カイ」     ・・・・・・う~ん・・・・何んか、言うてた様な・・・・・・


「ヘビ」    この「契約書」、「たかおさん」に見せたら喜ぶんちゃうかな!!


「カイ」    あっ!!!そうやな!!今までこれ持ってて、気がつかんかったわ(笑)!!


「ヘビ」    「カイ」さん、”もうろく” したらあかんでえ~!!!


「カイ」    ”もうろく”とかって言うな!!!


 


 


この後、二人はおおいに盛り上がって行った。


ちょうど同じ時、「1号」も「サソリ」も出かけたままの、誰もいない「なないろ」で、


一人で留守番をしていた、たいくつな「そら」と、


彼女とケンカして帰ってきた「ネコ」が、「問題行動」を起こしていた。


 


 


 


 


 


そらの物語13・「京阪電車」

2010-01-28 11:52:26 | そらの物語


「京阪電車」


 


 


私たちは皆「そら」を気に入ったがゆえに、「大調査」の流れの中で、「Hiたかお」を「そら」のそばに張り付かせる事にしたのであるが、それによって「そら」の成長を見守る事ができ、「そらの守護」にも通じると考えたからだ。


先の「そら」周辺で起こる「設定異常・設定エラー」は、「Hiたかお」と「そら」が「なないろ」を出発し、京阪・JR京橋駅近辺の雑踏に入った時、その原因がおおむね理解できた。 この「設定異常・設定エラー」は、どうも その時その時の「そら」の心模様によって発生しているようなのだ。 京橋の雑踏を、縮こまってローソン袋に入った「Hiたかお」をかかえて歩く「そら」たちだけに「設定異常・設定エラー」は出ていて、雑踏を行きかう人々には「設定」はきちんと「適応」されている。 つまり、「Hiたかお」が見えているのは「そら」のみだ。 もとより この「設定」の主体者は「与一」の側にあるはずだったのが、「そら」の近くか もしくは「そらの関心の向く事柄」のみ、「そら」が主体者となってしまっているのである。 その事を当の本人の「そら」は気づいていないし、そうなってしまっている原因はというと、皆目わからぬままだ。



「そら」は「Hiたかお」の「押し」により、京阪電車での「Hiたかお」の送迎をする事にしたが、「Hiたかお」を ”丸出し” にしての乗車に抵抗を感じ、「Hiたかお」はローソン袋に入れたままの ”電車 初チャレンジ” となった。 それは「そら」なりの「Hiたかお」が人々を驚かしてはいけない、との配慮だったが、「Hiたかお」が見えているのは「そら」だけだったので、周囲から見ると「ローソン袋と楽しそうに話しながら歩く少年」としか見えない。 「少年」が話しかける度に、それに応答しているのであろう「ローソン袋」が、「がさがさ」と動く様子は、周りから見て、少しおかしみのある光景だ。


「たかお、260円やな?」 「うん、そうそう!!持ってる??」 「あるある!もらってきた!」


京橋駅は、JR線・学研都市(片町)線・京阪線・鶴見緑地線と、様々な沿線に通じた大阪でも有数の、中心的な役割を受け持つ駅のひとつで、梅田やなんば・心斎橋についで人通りの多い、にぎやかな駅だ。 京阪線、キップ売り場でローソン袋をかかえた「そら」は、頭上に掲示された大きな路線図と料金表の前で立ち、ローソン袋に こそっと話しかけた。 「ねやがわって、どれなん??」  「あそこあそこ!! 寝屋川!!260円って!!」 「”かんじ”ばっかやん!!おれはひなかなでやっといてくれんと、わからんで!!しかも、260円って、なんでや?」  「知らんがな!!駅長さんに言うてこいや!!それに、疑問点がズレとるわ!」とちょっと笑いながら「Hiたかお」。「 ”ひなかな” じゃなくて、平仮名や!!まずは260円や!オレいらんで、ただの「袋」やからな!」 「はい!!」と「そら」は率直に返事し、何の事もなく無事キップを購入。「Hiたかお」は、 「キップの買い方がわからん」と何度も繰り返していた「そら」が、 ”どうわからないのか” がわからぬまま、しかし何をするのか気になってローソン袋から身を乗り出して見ていたが、あっさりとした「購入・成功」にホッとして袋に戻った。 ホームに立った「そら」はうれしそうに「できたな!!たかお!!かんたんでした!!」


「便」の種類が比較的多い京阪線。車両の種類もなかなかのもので、普通・準急、特急の色分けのほかにも、中ノ島線というのも2種類あり、中には「機関車トーマス」に装飾された車両もあるので、その全てがそろうと駅は色とりどりだ。 「で?どれなん??」と、きょろきょろしながら「そら」。  「準急や!!」 「ん??じゅんきゅう??どんなやつがじゅんきゅう??」 「そう!準急!!あっちの青い電車!!あれが準急やで!! ”青のやつ” って覚えときな!!」 「あ、了解~!!」  


車中の「そら」は、どの車両がどうなのか、気になったようで、「わすれたらあかんから、メモッとくわ!!」と言い出し、おもむろに「カイ」にもらったメモ帳とボールペンを取り出した。「Hiたかお」はおもしろそうに、どうメモを取るのか観察しながら、ちょっとワクワクしている。しかし「そら」がメモし始めたのは、「どの便がどこ行きで・・」ではなく、電車の側面図だった。「ゆれるから、書きにくぅ~・・・」とつぶやきながら、どんどん車両を書いていく。「おいおい、そら、そこから ”メモ” るんかいな!!」 「Hiたかお」は思わず噴出しそうになった。



ローソン袋がクスクス笑いながら見ているうちに、「そら」の ”車両” は一両、二両、三両、四両・・・と、どんどん増えていく。せっかちなローソン袋は「・・・・あの・・おまえ、どこまで書く気なん??」 「なあ、たかお、準急って何んコ続いてたっけ??」とメモに集中しながら「そら」が言い出したので、突っ込まずにはおれないローソン袋は「おいおい!それ、後で見て ”準急か普通”かとか、どうやってわかるんや??はっはっはっ!!!」と笑い出してしまった。 「わかるやろ!!!電車ってわかるやん!こうやって書いといたら!!しかも ”絵付き” やで!!」 「 くっくっくっく!!おまえ、”絵付き” って、 ”絵” しかあれへんで!!」 と笑いをこらえるのに必死の「ローソン袋」。言われてはじめて自分の書いた「メモ」を縦にしたり横にしたりしながら 「あ、ほんまや! ”絵” しかないわ!!あはは!!! でも たかおな、カイさんがいつも ”誰が見てもわかるようにやっとく”って、毎日、言うてるからな!!」と「そら」。 「いやいや、それは食事の用意の話しやろ?!今オレが言うてるんは・・・・あっはっはっは!!」 ついに大声で笑い出してしまった「ローソン袋」に「そら」は、「あほ!!笑うな!! 袋ががさがさなって うるさいやろ!!!」と大きな声を出してしまった。 「笑うローソン袋」は、がさがさなって騒々しい。                                                              「そら」は、たくさん書きつなげた車両の一両目に、「あおいろ」とだけ書いて「メモ」を閉じた。


 


目的の寝屋川市駅に着き、二人が降りてすぐ、「そら」の携帯がなった。  「だれ??」と「ローソン袋」。 「あっ!1号のメールや!!」 「1号さんって、今仕事中やろ?」 「うん、そやな・・・」と、いそいそとメールを見て見る「そら」。 「でんしゃは、うまくいったか?」 と、「そら」のために全て ”ひなかな” の「1号」メール。 それを見て「そら」は「ローソン袋」に「あはは!! ”電車” くらい漢字でよめるで!!おれは子供とちゃうで!!」とうれしそうに笑った。 ローソン袋からもぞもぞと出てきた「Hiたかお」も思わず笑顔で、「そらぁ、おまえ、1号とかみんなに感謝しなあかんな!!!職場からのメールって、たぶん大変やで!!」。  「そら」はうなずきながらも、 ”感謝” の意味を考える様子。  「・・・・・”かんしゃ”?・・やろ??・・・それ、やって見よか・・・」


「そら」から「1号」への返信。  ええかんじに はしてきてつきました たかおとはしてきて ねやかわにつきました電車はおけです」。  するとまた「1号」からメール。  「よっしゃ!!ごうかく!!」 「そら」は「Hiたかお」に「たかお、おれ合格になったわ!!ははは!まるで子供みたいや!!」



「和解マン」のビラにせよ、「そら」との出会いにせよ


今まで私たちが出くわす事のなかった事柄である  そして、その「場所」も


おおむね京橋を中心にしている事から、確信には至らぬまでも


私たちが「大調査」の為限定した「京橋」は 的外れでは無いようだ


未だ 確かな手ごたえは無いものの 


「月の者」についての一歩一歩である可能性は 極めて高いのである


私たちの想像も及ばぬ程に 


恐ろしい「何か」に進化してしまった 「月の者」


99パーセント この地域にいる


そして 「そら」はキーマンである事は明らかなのだが


私たち全員の命を賭してでも


「守護」しなければならない 愛すべき私たちの


新しい「家族」である事も 明らかなのだ


 


 


 


 


 


そらの物語12・「Hiたかおデビュー・2」

2010-01-20 06:57:31 | そらの物語


「Hiたかおデビュー・2」


 


 「食べ物」は何んなのか? なぜ「しゃべる」事ができる??


メンバーの様々な質問に対し、「Hiたかお」は、有名アイドルが記者会見でもするような、「お調子もの全開」の応答を始めたので、私たちの緊張はただならぬものとなった。 しかし、「えびすメンバー」の大柄な「男ども」が、「少年のようなまなざし」で「Hiたかお」をかこんでいる光景に、 私たちは「生きものとしての安全性」を感じてもいた。


”質疑応答” は次の通りである。


食べ物は何か?・・・・・・雑食。食べなくてもOK。


何の生き物なのか?・・・・・種類はわからない。「良い事」をする生きものである。


仲間はいるのか?・・・・・ピーッ!!


毎日、何をしているのか?・・・・・「大調査」の為、大阪府 寝屋川市から、ここ(京橋)に出てきて、活動を続けている。今の所はピーッ!!・・・・その目的はピピーッ!!


寿命はあるのか?・・・・・・・わからない。


趣味は?・・・・・・「良い事」を考え、「良い事」をする。また、それに関連する事柄の全て。


身体は何でできているの?・・・・・・わからない、もしくは「愛」。


彼女は?・・・・・・募集中。


なぜ「会話」ができるのか?・・・・・・「はなし好き」だから。「生きること」とは「話すこと」である。


 


「1号」は、この奇妙で、あり得ないような質疑応答が続く中でも、冷静な状況判断ができた。 「この質疑応答が続けば、みんな遅刻する・・・」。 しかし「ネコ」も「ヘビ」も、そしていい大人の「カイ」までも「Hiたかお」に夢中で、「1号」は切り上げ時を見つける事ができない。


「ヘビ」は「そら」は ”苦手”キャラだったが、「Hiたかお」は、そうではない様子で、質疑応答の途中から、 「たかおさん、オレと組まない?」とすっかり打ち解けている。「たかおさんのちょっと極悪な顔の感じが、オレとキャラかぶってるし!!」と、うれしそうに「ヘビ」。 「いやぁ!!ヘビさん! ”組む” となると一応他の仲間と相談せんとあかんのですよ!!そうそう!報告・連絡・相談が大事ですからね!!!知ってますか?「報・連・相」!!これは大事です!!ボクもボクの仲間も、この事は徹底しているんです!アレでしたら、ボク達の「10項目の確認事項(そらの物語・「いきものたちの前書き」参照)」を持って来ましょうか??持って来ます!!で、どこか目立つところに張り出しましょう!!」と勝手に話しを進める「Hiたかお」に、「ネコ」が割って入る。「なあ!たかおさん!たかおさんって、どうやって連絡したらいいん??携帯とか持ってんの?オレの女にも紹介したいんやけど・・・」 これに対し「Hiたかお」は「FA637」の事や、私たちの「やり取り」のしくみをどう説明するか、少しこまって「取り合えず、それも相談してみますね!!たぶん、また来ると思うんで!というか、しょっちゅう来ると思います!!何でかって言うと、こいつの・・」と「そら」を指差して、次に「あれ!!!!」と、「そら」の愛車、ボロボロになったスクーターを指差し、「あれはあかんで!!あれ、思っきり盗難車やろ?!!あれはあかんで!!あれは、止めささなあかん!!昨夜もさっぶい所でその話しをしてたんですが、ボクがもう、責任を持って止めさせます!!」 と意気込みだした。 


”切り上げ時”を見失っていた「1号」も、ついついその話題には「あ、たかおさんの言う通りやわ!!」と巻き込まれてしまった。 「全くその通り」とうなずく「カイ」。話しのテンポが早く、ついて来れない「6号」も、腕組みしてうなずいている。 「どう言って止めさせるか、悩んでたとこやわ!!」


「6号」の盗難車については、「1号」と「カイ」は悪戦苦闘していた。「6号」が「無免許」である事は ”彼ら的”には何んら問題はなかったが、盗難は「バツ」。「潰しては、盗ってくる」をくりかえす「6号」をなんとかしようと、一時は「1号」の顔面パンチが炸裂した事もあった。 怒った「6号」は鼻の骨を骨折したまま飛び出し、何日も「なないろ」に帰らなかった事もある。 「カイ」はスクーターを取り上げたうえで、「いかに盗られた人がこまっているのか」を、懇々と話して聞かそうとしたが、その全く正しい説教をあくびを噛みながらガマンして聞く「6号」を見て、更正への道を断念していた。「1号」と「カイ」はその後も様々に「6号」の盗難癖を治すチャレンジをしてみたが、その度に無駄な抵抗だと思い知らされていた。しかしなぜか、「Hiたかお」なら何んとかしてくれそうな予感がしたのだ。 ”不思議なものどうし” で効果絶大かも・・・・ いや、 ”神様みたいなものどうし”で・・・・


そんな所へ「サソリ」が起き出してきた。 彼はまだ無職だったので、その彼が起き出して来る時間といえば・・・・・・・・「あっ!!」 「1号」が叫んだ。「おまえら!!時間っ!!遅刻や!!!」 「カイ」は急に目覚めたように、「たかおさん!!忘れてました!!仕事ですわ!!!御礼をする時間が無くなってしもた!!すみません!!」とあわてて仕事の用意をしながら言った。 「おおっ!!!そうでしたか!!それはさっぱり気が付きませんでした!!!全く、ボクとしたことが!!」 


全員が慌しく出勤の用意にかかると、途中から会話に乗れなかった「6号」が「みんな仕事やわ。たかおの家に帰ろっか・・・おれが送ったるわ、家まで。」とぽつんと言った。 「そやな!!ちょっとしゃべってしまったな!!せっかくピーピー鳴らんようになって来たとこやけど、おいとまするな!!・・・それでは皆さん!!!!どうも、お邪魔しました!!!お仕事、無事故で頑張ってください!!!」と礼儀正しく「Hiたかお」。


起き抜けのローテンションのままの「サソリ」は、逆に持った箸で納豆をくるくる回しながら、「Hiたかお」に、「・・・・あ・・・どうも・・・」と虚ろに答えて、おじぎをした。


 


 


こうして「なないろ」の特殊な朝は始まり、「そら」と「Hiたかお」も寝屋川に向けて出発した。 さっきの会話を何とも思っていない「そら」は「ねやがわやったら、おれのバイクで、 ”ばしっ” と送ったるわ!!」と言い、「Hiたかお」は「バイクはやめて、電車で送ってな!」と ”ばしっ”と答えた。


「なないろ」の近くで、「おがた」の上で待機していた私たちも、ひとまず「Hiたかお」の動きを追って、一拍置いた位置から監視する為に出発した。 ”監視” というのも、「大調査」の性質上、「Hiたかお」のおしゃべりによって、掴めるべき事を取り逃がしたり、知られない方が良いことが広く知られてしまう危険があったからだ。それに、「そら」の周辺でのみ起こる「設定異常・設定エラー」の原因もわからないままだったから。



 


そらの物語11・「Hiたかおデビュー・1」

2010-01-17 11:20:42 | そらの物語


「Hiたかおデビュー・1」


 


私たちの仲間「FA637」は放射状のイガイガを持つ


仲間のうちでは「通信部門」のエキスパートだ。



 彼は「Hiたかお」の様に派手な動きはできない反面、私たち全員の 誰がどこで何をしているのかを掌握していて、そのうち誰かに危険があったり、異変があるとその近くの誰が最短・最速で救助に向かえるのかを瞬時に計測し、通信を取り、安全を確保する。私たちの「大調査」にあって、彼なくして万全の安全はない。


京橋、野江・鴫野町(しぎのちょう)を舞台としての「大調査」の間、彼はずっと駅前「京阪ホテル」かサウナ「グラン・シャトー」の屋上に張り付き、人間の携帯電話の回線やNTT等の一般の有線をはじめ、無線の回線、時にはGPSを通じた位置情報などを縦横に傍受し、私たちの安全の確保に努めるのである。


「Hiたかお」と「そら」が出会った瞬間から、「FA637」から各定点で調査するメンバー全員に、「設定異常・設定エラー」の発信があった。先にも述べたがこの「設定」とは、人間を含む動物全般から私たちを見た時の「見え方の設定」であり、この「設定」の変更や管理はすべて、私たちの本拠地・寝屋川市の「与一」で行う。 もとより「0」か「少し見える・少しさわれる」に合わせられたこの設定に「異常」や「エラー」が出ているのは、「そら」と「Hiたかお」が ”普通に話している” 時点であきらかだったが、二人が話している間中ずっと、「設定異常・設定エラー」の発信が止まる事はなかった。


そして、この「設定異常・設定エラー」の指数は、「カイ」が到着した時点で、すでに60%を超えていた。 この指数は、天気予報の「降水確率」や「お洗濯もの指数」で、「雨が降るか降らないかわからないけれども、傘は持って出た方が良い」というのと全く同じで、私たちの「見え方設定」が「見えているか見えていないか わからないけれども、丸見えになっている、と思うくらいでも良い」という事だ。  この為、愛車から降り立った「カイ」に「Hiたかお」は目視で確認できた。 


「カイ」の驚きもさることながら、普通に「自己紹介」を始めている「Hiたかお」の ”ど神経” に、私たちの方が驚かされたのだった。「FA637」は、「Hiたかお」のおしゃべりを考慮し、「与一」からの「見え方設定」とは別に、「Hiたかお」が「話さないほうが良いトーク」に言及した時点で「ピーッ!!」というノイズで言葉を隠し、合わせて「Hiたかお」の身体全体が赤く点滅するように、「設定変更」をかけ、万一に備えた。というのも、この時はまだ「えびすメンバー」が私たちにとって安全かどうかの確証がなかったからだ。


この「FA637」の手動での「設定変更」は、「与一」本体からの設定でなかったせいか上手くいかず、迎えに来た「カイ」との初対面の段階では点滅スピードが早すぎ、「Hiたかお」はまるで光り輝いているように見えた。 一晩中話し込み、そろそろたいくつ気味だった「そら」は、「カイ」がついて間なしに、スピーディーな点滅をはじめた「Hiたかお」を見て、大笑いで「あっはっはっは!!!たかお!何?それ?!でんち切れみたいやで!!あっはっはっは!おまえ、しゃべりすぎやろ!!」 と大喜びだったが、「カイ」はそれどころではなかった。「カイ」は信心深い。


「カイ」には光り輝くこの「生きもの」が、小さな ”神” の様に見えたのだ。「・・・・・・・・・・ろ 6号、その方は・・・・」 「カイさん!! こいつ、はいたかおやで!犬におそわれてて、そん時におれが・・」と話す「そら」をあわててさえぎって「Hiたかお」。「はじめましてピーッ!! ボ、ボクが電話でも言いましたピーッ!! ハイ、たかおピーッといいまピーッ!ピーッ!!ピピーッ!!!す!!」 「そら」はこのノイズが「Hiたかお」のトークを邪魔しているのがおかしくてしかたがなく、転げまわって笑っている。  「あ、あなたは、か、神様ですか?・・・」と「カイ」。     「いえいえ!神様だなんて、いいものではありませんよ!!神様はあなたのほうです!!迎えに来てピーッ!ピーッ!!ピピピーッ!!ピッピピー!!来てくださって・・・・・・・あかん、話し、できへんピーッ!! 常にごきげんの「Hiたかお」もこれだけピーピー鳴らされると、さすがに不愉快だったが、これが「FA637のしわざ」であり、自分のしゃべりすぎにストップをかけている事に気が付いていた。おもしろくてたまらない「そら」は「なあなあ!!たかお、たかお!!もっとやって!ぴーぴーやって!!!あっはっはっは!!」と身もだえして喜ぶばかりだったが、「カイ」は「”たかおさん”ですか!道案内をして下さった方ですね!ありがとうございます。一晩こいつ(「そら」を指し)に付き合って下さったのですね。もし、よければ、こいつと一緒に、ぜひ俺たちの「なないろ」にお越し下さい!何か御礼をしたいんで・・・」とかしこまって、愛車のドアを開けた。



何かの時に備えた私たちは、「カイ・Hiたかお・そら」が「なないろ」へ向かう途中に、私・「よも清(きよ)」をはじめとする10名の代表団で「おがた」の背中に乗って、「カイ」の愛車の周りを何度か滑空してみた。運転する「カイ」から見える位置も、幾度か通り過ぎたにもかかわらず、「設定異常・設定エラー」は「Hiたかお」のみで止まり、「カイ」の愛車の周りを飛び回る私たちには何の異常もエラーも起こらない。つまり、「カイ」から ”まる見え” になっているのは「Hiたかお」のみで私たちの姿をもって「カイ」をさらに驚かすことはないようだ。この原因の究明と「えびすメンバー」が安全かどうかの確認も含め、「カイ」の愛車共々私たちも、「なないろ」に飛んだ。


 


「なんじゃ?これ?」


と「1号」が言った。 パックの納豆の殻や、お茶碗はきれいにかたずけられ、そこに ”でん”と置かれた「ローソン袋」。


「みんな、仕事に出る前に拝んでいかなあかんで!」と「カイ」がもったいぶって「ローソン袋」を被せた中身をちらつかせた。皆がそれに集中すればするほど、「そら」はこみ上げる笑いをこらえきれない。「おれ、たまらんで・・言ってはいけない、ふくろのかみさま~!!」と鼻歌まじりに楽しくてしょうがない。「ネコ」が「仏さんか?」。 「ヘビ」が思わず袋の中身を感触で推し量るように、「ローソン袋」を小突いてみた。


「うわっ!!!生きてる!!!!!」 「ヘビ」の驚く声に、とっさに飛び退く「1号」と「ネコ」。おもしろくなってきた「ネコ」は「カイさん、これ?生きもんやろ?子犬?猫?」と言いながら、袋に手をかけたが「カイ」があわてて払いのけ「おっと!!神様に失礼やで!君みたいな ”たわけもん”が触ったら!・・・・では、なんとなく神様に一番近そうな人に開けてもらお・・」 話しの途中で「ネコ」と「ヘビ」が「あ!!6号??!!」となぜかハモッってしまう二人。「おまえって ”神様的”に不思議やもんな」と「1号」が「6号」の髪の毛をグジャグジャにして笑った。「そやな!さいきんのおれは、だいぶんかみさまてきやな、でも、この ”かみさま”はぴーぴー言うかもよ!!ぴーぴー言うくらいの”かみさま”はごりっぱです!!あははは!!」


「よし!では6号!神様に出てきて戴いて!!!」とカイが言い終わる前に、自ら「ローソン袋」を跳ね除け、とっさに身構える一同に間髪を入れずに、神様は情熱的に自己紹介をはじめた。


「だいじょうぶ!だいじょうぶ!!怪しくはありません!!ただ今 ご紹介にあずかりました、ハイ、たかおと申しますピーっ!!神様のような良いものではございませんが、皆様のお役に立てる何かを目指してピピーッ!!ピーッ!と・・・・・・りあえず、ぴーぴー鳴るのは気にせず話しますとピッピピピーッ・・・・・・」


と、「ピーピー」と言うノイズをものともせず、時折点滅しながら語りだす「Hiたかお」を、一同は唖然として聞き入るしかなかった。「そら」は ”一応”「Hiたかお」の話しにうなずいていた。


メンバーの質疑応答が始まったのは、その「ピーピー」鳴りたてるノイズで分かりにくいトークが一段落したあとだったが、「1号・カイ・ヘビ・ネコ」は、仕事に出かける時間がせまっている事をすっかり忘れている。


 


 


そらの物語 ちょっと「ひとこと」

2010-01-13 04:46:02 | そらの物語

物語の途中ですが、ここでちょっと「ひとこと」!!


 


この記事の一つまえ、「なっちゃん」という話の中で、「そら」くんの言葉の表現の


仕方について、携帯メールで大切な「ご意見」を戴きましたので、


一つの記事全部を使って、僕自身の気持ちを示したいと思います。


というのも、物語全体を通じて、ものすごく大切な「意見」であり、「指摘」である、


と感じるからです。


 


「なっちゃん」の記事の中で、「そら」くんのセリフで「おれは頭がちょっと弱いから・・・」


との表現が「知的障害を持つ方々、そのご家族


に対して、差別的な表現に取れる、特に


ずっとこのblogに親しんで戴いている方ではなく、


新たに来られた方には、そのような


受け止め方になる事もある」


との事(概略)でした。本当に貴重なご意見、ありがとうございます!!!


 


さて、「差別的な表現」についてですが、僕自身も障害を持つ家族と


一生を共にする障害者世帯として、常日頃日常的に「障害者の側で物事を


見て、語る」という習慣であったので、それを「文章」として表現した時に、


「差別的」に取ることもできる、とは思ってもみない事でありました。


ちょっとびっくりです。 が しかし、何の認識もなく、ふっとこのblogに


来て見て、そういう視点で読んで見ると、確かにそう受け取る事もできる。


何度か読み返して見て、そう感じました。


ただ、訂正はいれませんでした。というのは、僕自身に「差別」の意識は


当然無く、「差別」とは逆の感情を抱く事はあっても、障害を持って生まれ、


現実・社会の中で格闘されている方々を、また、そのご家族を羨望し


尊敬しているからです。そして また、僕自身も「そちらの側」の一人として、


現実と格闘する中で出てくる「ありのままの表現」である、


と考えるからです。ただ、「表現の仕方」については、今後も


よくよく配慮しなければいけない、とも思いますので、このblogを


見ていただいている方のなかで、少しでもそうした「不適切」に感じる表現


があれば、どんどん「指摘」をお願いしたいと、強く思います!


 


「そらの物語」を通じて、僕が本当に描きたい人物像、人間関係。


障害があるかないか、ではなく、健常者であるかないかでもない、


人間としてどうなのか。生き様としてどうなのか。


身心共に「健常者」として生まれ、責任ある立場や位置にいながら、


人の痛みが分からない、「思い浮かべること」をしない、想像しない、できない、


そんな「人間としての不具合」を持ち、その「不具合」に気づくこともなく、


翻弄されている方がいるかと思えば、逆に


身体や精神に 深い「不具合」を持って生まれ、他には理解しにくい 苦しみや


悲しみ、慟哭と格闘しながら、今もなを生き続けようと戦う人たち。


いったい、どちらが「健常者」なのか?「障害者」なのか?


「真に」、「障害」なのは、何なのか。


そして、「生きものとしての尊厳」は、どちらにあるのか。


僕はこうした事を「そら」くんと、多くの登場人物との関係を通じて、


真剣に描いて行きたいと思っています。


 


語り手は あくまで「生きものたち」で(笑)


 


井川 誠一


 


 


 


そらの物語10・「なっちゃん」

2010-01-10 13:44:55 | そらの物語


「なっちゃん」


 


「毒ちわわ」から逃れる事ができた「Hiたかお」は、少し毒の廻った朦朧とした意識から目覚めたのは、「そら」の服の中の、ピンと張ってやわらかな素肌に触れる あたたかさの中だった。    そして「そら」は「なないろ」へ向けて未だ逃走中だったが、白バイに捕獲される危険から逃れた事を確認すると、それがどこかはわからぬ夜の自動販売機の陰に、あちこち痛んだスクーターを止め、販売機で「なっちゃん」を買ったあと、「かえるちゃんのがまぐち財布」を覗いてこう言った。


「うわっ!!かねないで!!!」



「そら」の服の中」からもぞもぞと出てきた「Hiたかお」に「おまえの分あれへんわ!これはんぶんこにしよか!!」と続けた。  真冬の2月、身を切る夜風に身震いしながら、「そら」の横に腰をおろした「Hiたかお」は、それには答えずに「助けてくれて、ありがとう!」と、まずは礼を言った。「いいよ」と鼻水をすすりながら「そら」。


「おまえって何?むし?なにの生きもの?」と、冷たい「なっちゃん」をぐいぐい飲みながら「そら」は「Hiたかお」に聞いてみた。 「おれは ”良い事” をする生き物やで。」  「えっ??どんないい事やってんの??」 と「そら」は興味シンシンで、寒さで真っ赤になった鼻をこすり、その手をズボンで ”シュッ”。  「まだや!これからや!!今はその為の ”大調査” を始めたとこやな!」   「ふぅん・・・だいちゅうさんやってるんか・・・・それは大変やなぁ・・・でも、おまえ悪そうやで!だいたい顔が悪そうや!と少し笑うと、「まあ、顔は生まれつきやから しゃあないわ」と、「そら」から「なっちゃん」を両手で受け取り、ぐびぐび飲み出す「Hiたかお」。  「良い事するって、なんかウソっぽいで!!いい事とか言うてて、おれをだましたりするんやろ??かねないで!」。  「なっちゃん」のペットボトルは両手で抱えても、「Hiたかお」には重い。それを下から支えて助けてやりながら、「そら」が続けた。 「おれは あたまがちょっと弱いから、だましたらあかんねんで!」 「あほ!!だます とかじゃなくて、良い事するって言うてるやないか!ちゃんと聞いとけよ! ”なっちゃん”ありがと!これ、おれには多すぎやな!しかも、めっちゃ冷たい!」と「なっちゃん」を「そら」に返しながら「Hiたかお」。  「よっしゃ、ほんなら あとはおれがもらうな!!」と、残りの「なっちゃん」をかたずけた。


真冬の真夜中、冷たい「なっちゃん」は身体の芯まで凍りつかせる様で、二人はガタガタ震えながら話に夢中になっていった。「そら」のペットボトルを持つ真っ赤になった指先は、さっきの鼻水が光っている。



 


 


「なないろ」の早朝は、「カイ」の一人舞台で始まった。


と言うのも、いつも「カイ」の後をつけて廻る「そら」が、昨夜からまだ帰ってきていなかったから。 毎朝、ちょっとした朝食のレシピを「そら」に解説しながら用意するのが「カイ」は気に入っていたので、今朝はおもしろみがない。 「そら」は解説されたレシピを一つとして記憶する事はなかったが、ひたすら ”納得” の素振りを示すので、聞き手としては優秀だった。「そら」が理解していなくても。



 簡単メニュー、納豆・ごはん・たまご・味噌汁・あったかいお茶。 これだと一応の6人分といっても、さほど手間はいらない。 「なないろ」の周辺は使っていないプレハブや廃材が放置されたちょっとした広場があり、そこに皆の作業服が中心の衣類が「数珠つながり」に干してあり、そこに朝日が差し込む光景はのどかで美しい。 「城東区」という都会の片隅ならではの風情がある、と「カイ」は思っている。 そして、真冬の、痛い程冷え切った空気に、あたたかな朝日は、コーヒーの香りを上質にしてくれる。 この時間が大好きな「カイ」は、熱いコーヒーから立ち上る湯気を見ながら、「あいつ、まだ帰らんな・・・」とつぶやいた。 電話の電源は切っとるし・・・・・・・・。 


 「カイ」がカップに残った最後のコーヒーを飲み干す頃、「カイ」の携帯がなった。 「あ!6号!!」。  あわてて携帯を取ると「おはよっス!!!!!」と元気な「6号」。    「おまえ!何時に帰って来るんや??ネコはもう帰ってきてるで!!」 「帰り方がわからんねん!!、どこや?ここ??カイさん、迎えに来て!!」 「いや、いいけど 今どこやぁ??それが分からんと、迎えにも行かれへんで!!!」 「それが・・・んんんん・・ひなかなが・・・漢字で・・・・あれ、読めるかな・・・・・んん???」 と口ごもる「そら」の電話口の向こうから、「おおおおおおおおおおお、おれ、分かるって!!!!分かる分かる!!!」とあわてて横入りしようとする、誰かの声。 「おい!6号!!誰かと一緒なんか?」と、不審げに「カイ」。 「カイさん、おれむずかしいことばわからんから、ちょっと電話、かわるで!!と、何の紹介も説明もなしに「Hiたかお」に電話を移す「そら」。 「あ!!どうも!ははははじめまして!!ボク、ハイ たかおといいます!!!たかお、って呼んでください!!お仲間の方ですよね!!いやあぁ!よかった!ハッピーです!!!ラッキーです!!あなたは素晴らしい!!!!え??迎えに来て下さる??!!信じられない!!ボクたちは本当に、あなたに出会えてよかった!!これから出会えて、よかった!!!いやいや!ほんとほんと!!まさに感無量!!! で ですね、ボクたちの現在地はですね・・・・・・」  「何や???こいつ????」 不審げな「カイ」は勝手に説明をはじめる「Hiたかお」のハイテンションなトークを聞くしかなかったが、聞き終えた時は「そら」が説明するよりも明確に、二人の現在地が了解できた。 「カイ」は不信感はそのままに、”族仕様”の派手派手でも、くたびれかけの愛車にキーを挿した。



「カイ」が出発してしばらくして起きてきた「1号」は、「6号」のスクーターが帰っていないままなのと、「カイ」の愛車がない事で、万事を了解できた。 放っといたらいいのに・・・・・・・・。  食卓にはパックの納豆、たまご、うつ伏せの茶碗、味噌汁の器、おはしが、きれいに並べられていた。   簡単メニューの朝食を終えた「1号」が、タバコをふかしていると、「ネコ」と「ヘビ」が、どちらが味噌汁に火を入れるかモメながら起きてきて「あれ?6号、まだ帰ってないの???」と「1号」に聞いた。  「たぶん、カイさんが ”お迎え” に行ってるな」。「そっか・・放っといてもええのに!!」


そんな会話の最中に「カイ号」が「6号」と合わせて、「珍客」も連れて帰ってきた。


 


 


 


  


 


  


 


そらの物語9・「大調査」

2010-01-04 11:37:18 | そらの物語


「大調査」


 


平均が子猫ほどの、機動性にすぐれた私たちの


30Km以上の移動は、「京阪電車」と合わせて「おがた」を使っている。


「おがた」は、私たちの仲間のうちの一人ではあるが、


「生きもの」として未完成であり、「生きものになりかけ」の「生きもの」である。


「おがた」は「与一」が発足して直後に「生まれかけ」た生きもので、


「生きもの誕生」の為の、現在のシステムが完成する以前の「試作」の域を


出ることは無く、したがって不具合のかたまりとして 誕生した。


彼は軽自動車ほどの大きな身体で、「空を飛ぶ」ことのみができる「生きもの」で


それだけで、おしゃべりもままならない。



私たち「生きもの」の生成システムの中で、不具合を持って生まれた「生きもの」は


「返還」される。「返還」とは「自然に帰り、その源としてかたちを変えて


生き続ける」、という事である。


人間で言う所の「死」と概念的に近い。


もし、「返還」がなかったり、「返還」に失敗し そのまま生き続けてしまえば、


恐ろしい「生きもの」に進化してしまうのである。


私たちを捕って食う「毒ちわわ」も、ひょっとすると こうしたプロセスで


「ちわわ」に進化してしまった、毒を持った「生きもの」なのかも知れない。


「おがた」はその「返還」の時を 静かに待っていたのである。


しかし今回の「大調査」については、彼の動員も致し方の無い事だった。


というのも、この「大調査」の始まりは、「おがた」の大きな ”尻” に


はさまったままになっていた恐ろしいファイルに始まるからだ。


もとより排泄の慣習のない「おがた」だったが、「詰まりもの」は「困りもの」だ。


巨大な ”尻”に何年間もはさまり続けたファイル。


このファイルを引き抜くだけでも、小柄な私たちはかなりの動員数を必要とし、


さらにぐじゃぐじゃに付着したファイルの判読となると、それは困難を極める。


しかし、そこに記された信じがたい事柄の解明こそが、


今回の「大調査」の全てとなったのである。


 


そこには「月の者」という、「与一」発足よりも遥か何十年も前に生まれたという


「生きもの」についての記述があり、「その後」それがどうなったのか、


今の所 何の記述も見つかっていない。


実際、私たちの誰も、その姿を見ていない。


「与一」より何十年も前に「生まれる」のはおかしな話であり、もし万に一つの


可能性で「生まれる」事ができたとしても、その「不具合」は大変なレベルで


あったはずであり、何より「返還」の記録が見つかっていない、という事が


恐ろしい事なのである。


大変なレベルの「不具合」を持って生まれ 何十年も生き続け、


恐ろしい姿に進化し、今もどこかで生き続けている”かも知れぬ”「月の者」


「月の者」の脅威については、物語の中ほどで もう一度触れる事とし、


ここではこの「月の者」が、私たちにとっても、「そら達」にとっても、


そして大きくは城東区の住民全体にとっても最重要である と言うに留めて、


その全く手がかりのない調査を「大調査」と言う事としたい。


 


「大調査」の場所を、なぜ「京橋」に特定したかというと、


私たちが「そら」と出会う前年、不可解なビラが「京橋」の野江~鴫野町近辺で


一夜にして大量にまかれていたから。全戸配布に近い、このビラの内容は下記。


 


まかせて安心 「和解マン」!!!!金銭トラブルから夫婦の問題まで、全て解決        「和解マン」!!!!


あなたの利息、払いすぎてはいませんか? 破産や債務整理だけが、あなたに残された道ではありません!! 金融業者と5年以上契約があり、返済を続けているのに元金がなくならない、という方。 完済したが、どう考えても支払いすぎた、という方。今からでも遅くはありません!! まずはお電話を!!!


あなたは納得もいかないまま離婚を考えてはいませんか?誰にも言えない夫婦の悩み、あなた一人で抱えてはいませんか? 離婚後、何年にもわたり支払い続けている「慰謝料」や「養育費」、あなたの暮らしを圧迫してはいませんか? 離婚や、裁判だけが問題解決だとお考えのあなた!決断の前に、まずはお電話を!!


あきらめてはいけません!!!あなたの特殊なケースに合わせた専門のスタッフが、親身に相談!!完全のサポート!!!先進の「和解システム」導入で、今まで考えもしなかった未来が、ここから拓かれます!!!ただちに一報「和解マン」!!まずは、お電話を!!!


となっている。そして最後は、


あなたの「想い」が「本当」なら、必ずつながります!!今すぐお電話を!! 


0120-783-644(なやみ、むよう)


で終わっている。「あなたの想いが本当なら」・・・・・


「本当」でなければつながらないのか?


そして、「本当」であれば「つながる」というのか? いったい、どの様な仕組みなのか?


こちらが「悩み」をかかえて電話するとして、それが「本当か否か」を


どの様に確認し、「つなぐ」というのか?


私たちは「大調査」にあたり、不確かではあるがその手がかりの可能性を、


このビラに嗅ぎ取り、このビラのまかれた地域に場所を限定し、


活動を開始したのである。



 


 


 


そらの物語8・「そらのメール」

2009-11-16 03:40:17 | そらの物語

 


「そらのメール」


 


皆がカップラーメンを食べ終わった頃 1号が帰って来た  「ただいま! みんなの携帯、できたぞ!!  今度は全員ソフトバンクで、 ”ただとも”や!」  


「結局、ソフトバンクにしたんか!了解!ありがと!!」と「カイ」


「どれどれ!」と6台の携帯電話を1号から取り上げ 我先にと物色する「ヘビ」が驚いて言った  「おい!!1号! 1台多いで!!・・・って・・もしかして、こいつのもあるん??」と、ミイラくんを指差した   「そや!」と1号   1号は「そら」に 「おまえの携帯、あの時つぶしてしもたやろ?!そやから その中の1台はおまえの携帯や。どれか選んで持っとけ。 で、どうすんねん?  ここにおるんか?出て行くんか?」


「いいや!出て行かない。今日からおれは ”6号”や! 気に入ったで!!」 と「そら」


「カイ」が自分の携帯を選びながら聞いた 「でも、よく契約できたもんやな!?本人確認とか、個人情報がどうのこうのって、言われへんかったん??」  「会社で使う、 ”内線”のかわりの携帯で、 ”焼き鳥屋 えびす”で(つれ)のショップで契約してきたから!」       「あ、なるほどね!」


皆がごそごそと それぞれの携帯を ”自分仕様” にするのに夢中になりだした時     「ネコ」が「そら」に ”ためしのメール”   「あほ」


「え?何 何??何かくるん??」と「そら」  「おまえの携帯の受信BOXってとこ、見てみ!」    「あっ!ほんまや!どうやるの?これ??」 「そこを、ピッと開けてみ!」


「 ”あ” と ”ほ” が来てる! ”あ” と ”ほ” で ”あほ” ・・・・”あほ”!!あははは!」 


皆そのやり取りを聞きながら そして くすくす笑いながら「設定」に夢中だ 


「よっしゃ! おれも ”お返事” やったる!!」と「そら」から「ネコ」へ初メール


あ」 


「はっはっはっは!6号、 ”あ” しか来てへんぞ!!」 とゲラゲラ笑う「ネコ」にもう一通


あ」


「おいおい!! ”あ” ばっか 来てるで! えらい勢いやな!」 と「ネコ」           テンションの上がってきた「そら」は「よっしゃ!1号にも送ったるわ!」と1号に送信


あ」


「あ、来た! ”あ”が来たぞ!こっちも ”あ” だけや!はっはっはっは!!」          1号は笑顔が似合わない したがって うかつに笑うと 痛ましい程「いびつ」な笑顔が       周りの笑いを誘ってしまう  


設定を終えた「ヘビ」の携帯が鳴った  か」


怖いものでも見るように 自分の液晶画面を恐る恐る開けて見る「ヘビ」              「・・・ ”か” ・・・が来てる・・・・6号、頼むわ!オレ、ほんまにおまえの事 苦手やねんって!!・・・・ごめんやけど、たのむから・・・」と言い終わる前に「そらメール」


よよ」 「よよ」と連発だ  さすがの「ヘビ」も苦手キャラからのメールに どんどん”弱腰”になるのがおもしろくなって来た「そら」は「はっはっはっは!!」と笑いたてながら      よ」「よ」「よ」「よ」「よ」「よ」「よ」と連発メール           しかも、一通一通に分けての送信なので 「ヘビ」のダメージは「大」だ うなだれるしかない    全員が大笑いだ 人の不幸が面白くてしかたがない「サソリ」は ひっくり返って笑っている 笑いが収まった頃「カイ」が「1号」に 「全員の電話番号入れてあるの?」   と聞いた  「そや」と「1号」


くすくす笑いながら「ネコ」が「そら」にメール  「ちんこ」                     「ああ! ”ちんこ” が来た!これネコやろ?!」と「そら」 「え??何が??」と とぼける「ネコ」  「よしネコ  ”おれメール” のお返事、行くで」とあわてて返信の「そら」     


しかし 鳴ったのは「ネコ」ではなく「ヘビ」の携帯で 届いたメールは


ちんか」


打ちのめされる「ヘビ」と 「ヘビ」の携帯を横から覗き見て爆笑する「ネコ」             「そら」も笑いながら「あれ???ネコに送ったのに、ヘビに行ったよ??!なんで?!しかも ”ちんか” が行った!!」  「ネコ」が「そら」に驚いて言った  「6号!おまえ、打ち返すの、めっちゃ早いな!!」  「そら」はそれには答えずに、ニコニコ顔でメールで返答


なにしろおれは今どきのちんかやからな」 と今度はちゃんと「ネコ」に届いた 「おまえのメール、意味不明やけどおもろいわ!!」と「ネコ」                  「ネコ」の携帯を「そら」が覗き込み、「なにこれ?これがおれから来たメールなん?? ほんまに意味不明やな??」と「ネコ」の携帯に届いた自分のメールを 首を傾げながら しかし瞳をキラキラさせながら読み返す「そら」  「ネコ」が「そら」の ”うす茶色に光る瞳”を見ながらメール「おまえは、きらきらおめめの”ミイラちゃん”やな!!」  「あはは!!おれは ”ミイラちゃん” とちゃうで!!」と言いながら 即答メール


「おれはきらきらおめめのみいらちゃん」


「はっはっはっは!!おまえ言うてる事とやってる事とバラバラやな」


「うん、バラバラやな!!」


 


このあとコンテナ「なないろ」の改装は進み 部屋は7つに仕切り割りされた


全室をつなぐ廊下付き メンバー数より多い一部屋は


皆の集まる ちょっとした「リビング」だ


一室 一室はほとんど寝るだけのスペースで このリビングだけ6畳ほど取ってあり


メンバーの「憩いのひと時」の大半は このリビングで過ごす


 


この夜遅くまで「あ」や「か」といった意味不明メールに夢中になって


興奮でなかなか寝付いてくれない「そら」に


皆 何回も何回も「おやすみ」メールを送った 


全員から「おやすみ」メールを受け取った「そら」はご満悦で


「おれ 人気急上昇やな!!」と 自分に与えられた携帯をうやうやしく枕元に置いては又


手に取ってながめ それを何回も繰り返し 体中の痛みも忘れる程に


眠れぬ夜を楽しんだ


 


夜の町には 「トレーラーに追突し逃走の少年」を捜索するパトライトが


右往左往し 「なないろ」の近くも何度も通り過ぎた


それなのに 「なないろ」の誰もが それに気づかない程に


「6号」を寝かすのに 必死だった


 


 


 


 


 


 


 


そらの物語7・「なないろ改装」

2009-11-15 13:24:52 | そらの物語

 


「なないろ改装」


 


透明な朝日は 無愛想なコンテナの中に


ゆっくりと舞う小さなほこりのつぶつぶを


幾本かの あたたかな光りの筋で輝かせ まるで小ぶりな「銀河」のようだ


光りのつぶつぶを目で追うために少し動くと 体中を切り裂くような痛みが


音をたてて「自分からはみ出す」程の勢いで駆け巡り


次いで 鈍い痛みがそれに続く


しかし気持ちは 体中に強く巻きつけられた 痛みを覆い込む包帯の 


荒々しい男の優しさに包まれて目覚めた「そら」は


なぜか安心感に溢れている  


・・・・・・・イテテ・・・・・


ソファーに寝かされた「そら」の見える位置に置手紙


「出て行くんやったら、服は洗ってコンテナのうらに干してある


病院とかは行くなよ ポリがお前を捜してるから


行くあてなしなら、ここで暮らせ


もし そうするなら、お前の名前は今日から ”6号”や」


へぇ・・・今日からおれは「6号」? あはは! 「6号」やって! へんな名前!! 


なんか うれしい・・・・これやったら まるで「すうじ」みたいやな!


おれの名前は 「6号」  「6」だけと 「号」だけで


「6号」だけや! これやったら いっぱつで覚えてしまうわ!!



「1号」・・・般若(はんにゃ)、阿修羅(あしゅら)、鬼、このどれもが該当する顔立ちで、「笑顔」が全く似合わない、親分肌の20代後半。未婚。豪快さと、A型の堅実さが矛盾なく具わった、リーダーとして有能な人材だ。


「カイ」・・・「えびす」の長老。40代も過ぎた いい大人であるにもかかわらず、「メンバー」から離れない。「1号」に男としての魅力を感じ、常に「1号」のそばにいて、「1号」の「かゆい所に手が届く」働きをする。「1号」からの信頼も深い。豊富な人生経験から、皆がボスの「1号」には言えないような相談事を、彼が一手に預かっている。朝 早起きなバツ1。O型の職人肌。


「ヘビ」・・・特攻隊タイプ。すぐ「極悪」になる。人殺しも平気だったが、「1号」に「教訓」され、今はだいぶと人間らしくなった。「ネコ」と小さなころからペアーで、それ以外に友達はいない、ちょっとさみしがり。「1号」の目標、「焼き鳥屋 ”えびす”」に乗り気な20代前半。未婚。B型、基本は自分勝手。


「ネコ」・・・おちゃらけキャラ。「暴走族」という「ハード・パワー」の世界があまり好きではなかったが、元来 不真面目な性格のため、流れ流れて、そうなった。おおらかで優しい性格。「ヘビ」と同じく「焼き鳥屋 ”えびす”」に乗り気で、それなら少しは真面目になれそうだと思っている20代前半。メンバーの中で唯一彼女ありの20代前半。O型。


「サソリ」・・・性格は「極悪」。「ヘビ」と極悪同士で、よくペアーにされる。「カイ・ヘビ・ネコ」の様に「1号」に対する忠誠心はない。あまり考えもなく行動し、起こったトラブルは「力」で解決する。「1号」に「力」で押さえられて「えびす」にいるが、「えびす」を出て他では生きてはいけない破滅型。「1号」と「カイ」に拾われてここにいるが、あまり感謝していない。「焼き鳥屋 ”えびす”」にも、まったくやる気なしの20代前半。AB型。


これが「えびす」のメンバーで、皆、軒並み「北斗の拳」体系で、実にたくましい。


「そら」が目覚めたコンテナは縦長40フィート(約10メートル強)の、「そら」が目覚めたソファー以外何もない「貸し倉庫」で、その改装のためメンバーはそれぞれで買い出しにでかけ、ちょうど「そら」が目覚めた時に、帰って来た。「1号」以外のメンバーは、警察には知られていないので、普通に街中をうろうろしても大丈夫だ。


「おう!ミイラくん!起きたか?!」と「ネコ」。 「そら」は「1号」の手当てにより、A型らし「きちっとした包帯の巻き方で、 ”ミイラくん”だ。均等幅に見事に巻き上げられた包帯は、「看護婦さん」顔負けかもしれない。


「サソリ」と「ヘビ」が、大判の部屋の仕切り板をどっちが先に入るかモメながら、2人で担ぎ込んでいる。「カイ」は両手にカップラーメンがどっさり詰め込まれたローソン袋をかかえての「帰宅」。  「取り合えず朝飯や!」と「カイ」。     


その誰にともなく、おきぬけの「ミイラくん」が語りだした。


「いま、めっちゃおもろい夢 みたで!!」  「なんや、少年??また、いきなり、意味不明か?」と「ネコ」。  「 ”おっとっと”がな さかなの ”おっとっと”が、まんぼうの ”おっとっと”に ”おまえのひれは何で取れてるんや?って怒って言うてる夢!!で、まんぼうが、 ”折れたんじゃ!!”って切れてけんかになってまうんやけど、そこへ でっかいひどでの ”おっとっと”が出てきて・・・」 


辛抱強くその話しを聞く気の「ネコ」を無視して、「ヘビ」と「サソリ」が部屋の仕切り板の設置にかかりだした。「カイ」もまた、「少年」は「ネコ」にまかせて、といった具合に「なあ、ヘビ、設置は午前中に終わったらいいから、とりあえずメシにしよう!!」と言った。 「カイ」がカップラーメンの用意を始めるのを見た、おっとっとを熱く語っていた「そら」は、話を途中でやめて「ああっ!!それは、 ”ながたにえんのえーすこっく”やな??」と、今度は「カイ」に話かけた。 「ネコ」は「おいおい少年!、おまえ”おっとっと”の話、おれ、ちゃんと聞いてるんやけど・・・」と言うのに「おれは”少年”とちゃうで!!”6号”やで!!」と ことわった上で「そうそう、どこまでいったっけ??」と ”おっとっと”の話を続けようとしたが「・・・・・・・・・・・・・”おっとっと”がぁ・・・・・ま、ま まんぼうの・・・・・」と、なかなか出てこず、「あかんやん!!途中で話しかけるから、わからんようになったやんか!!!」と「続き」を語るのを断念した。すかさず「ネコ」は「途中で話しかけたんは、あんたやろ?!」と、笑いながら突っ込んで話を変え、「おまえ ”6号”って、何んなん??それ名前?そう呼んでくれって事??」と聞いた。「だって、おれ、今日から ”6号”になったみたいやから・・・」と、自信無さげに、置手紙を「ネコ」に見せた。それをみた「ネコ」は、ちょっと驚いた。「あっ!!ほんまや!!しかもこれ1号の字や!!ええ??そうなん??1号の ”命名”って事は、おまえは・・おまえは、”ちゃんと、6号やな・・・」


そのやり取りを無視しているようで聞いていた、「ヘビ」が「うそやろ??」とあわてて駆け寄り、1号の置手紙を「ネコ」からひったくり「ほ!ほんまや!!ほんまに・・・ほんまや・・・・・。おれ、よう付き合わんで・・・・」と、やれやれ、といった具合。   「カイ」が「ほら、大日・交差点のこいつの”スタントプレイ”が、たぶん1号のお気に召したんとちゃうか?あれは、1号もびっくりやったから。普通の神経じゃないな。おれには真似できません、いや、真似しません。なっ! ”6号”!!」と、冗談っぽく「そら」に目配せ込みで話しかけた。  「うん!だいたい、そんな感じやな!!」と「そら」。  「ヘビ」が「おれ、そのリアクションそのものが・・無理や・・」と言うのに答えて「そら」が「がんばったら、何でも できるようになるで!!」と、的外れに「ヘビ」を励ました。  「ヘビ」は 「がんばるわ・・・・」と一言だけ言って作業を中断し、「カイ」がお湯を入れてくれた、カップラーメンとおにぎりを取って、とぼとぼとコンテナの隅に腰を下ろした。



この日より、「そら」は「なないろ」での暮らしを始めるが、メンバーの中で、特別待遇の扱いが多かった。 例えば、メンバーは皆それぞれに仕事を探し勤めに行く事になるが、「そら」だけはいつまでたっても無職のままだった。「なないろ」の朝は「カイ」が皆の食事の用意をする音で始まる。そこに、「カイ」と同じく早起きの「そら」が「カイ」の後をつけてまわり、自分で  ”これなら できる” と思った「お手伝い」をするのである。「洗い物」は特に気に入り、包帯が外れて全ての傷が治る頃には、メンバー全員の食器洗いをする様になる。              「そら」が無職であっても「食器洗いをやっている」の一点のみで、メンバー全員は暗黙の了解で、 それで良し としていた。 それは、メンバーが「そら」と話すうちに「障害」があると感じていて、社会的に適応できない、と思ったからではなかった。メンバーは「そら」に ”何かが足りない”のではなく、 ”何かが備わっている”と思っていた。「えびす」には、そういう空気があり、それは皆の共通の認識であった。


今の人間の若い人は、皆、こんな空気を持っているのだろうか? それとも、「1号」のパーソナリティーなのだろうか?


 


皆がカップラーメンを食べ終わった頃、「1号」が帰ってきた。


 


 


そらの物語6・「えびす・3」

2009-11-03 08:04:21 | そらの物語


 「えびす・3」


暗がりの中、「1号」たちは今日の大混戦を通じ、「動いている」のが警察だけではない、と感じていた。”今までとは、違う”・・・。もしかすると、逃げ切れないかもしれない・・・。彼らが拡声器で繰り返し怒鳴りちらしていた「おまえたちの本体の幹部は、全て、投降した」、これは”はったり”ではなく本当かもしれない。第一、警官隊が「族」を取り締まるのに、「催涙弾」など使うだろうか?   「おれたちは、今日で終わりかもしれない」・・・・・・・・・



「えびす」は、中大阪ブロックの代表として、今まで数々の業績をあげてきたが、今回の「総会」を期に、「関西連合」から脱退することを本体から認められていた。彼らの組織は、暴力団と違い、組織を離れ「カタギ」として生きることに、「指をつめる」等の制約を設けていない。逆に、それを「卒業」と呼び、「望ましいこと」として奨励してもいた。


「1号」の夢は、「えびす」の仲間と共に、小さな焼き鳥屋を経営することだった。 店の名前も決まっていた。 ” えびす ” だ。 そして今夜が最後の「お勤め」でもあり、その後は仲間とともに共同生活をしながら、まずは経済的な基盤をかためよう、と心躍る思いだったのだ。しかし、今夜は何かが違っていた。 悪い予感は当たる。



路地を抜けると一方通行ばかりの本町通り商店街。時間も23時を過ぎた静まり返って薄暗いアーケードの下、全ての店先はシャッターを下ろしている。「そら」を含む6名は、いったんエンジンを切り、商店街中央で「1号・ネコ・カイ」と「ヘビ・サソリ」の二手に分かれたが、終始・不可解なのが、「1号」たちの後ろから、ずっと黙ってついて来ている「不思議くん」だった。ただ、彼に今、何か話しかけて、騒ぎを起こされてもマズかった。静まり返った本町通り商店街の向こうに小さく見え隠れする大通りには、日付も回りかけたこの真冬の深夜にもかかわらず、無数のパトライトのまたたきが、彼等を威圧するように溢れている。「1号・ネコ・カイ(プラス”不思議くん”)」の3人の脳裏には、「無事に迎える明日の朝」は、どうしても思い描けない。「カイ」が「ネコ」に言った。「ヘビとサソリのやつ・・逃げ切れるかな?・・」「・・・そやな、二人とも”極悪”やから、どないかするやろ?!」と「ネコ」。


「1号」の無線機がなった。「サソリ」たちだ。  「1号!トレルカ?ドウゾ!!」 かなりあわてた話しぶりだ。 「ハイ、コチラ1号、メイリョウ ヤデ、ドウシタ?」 「1号、オレラ スデニ オワッテルカモシランデ!!コチラハイマ、大日ノ交差点付近ヲ トウソウ中!!コノ 発信モ ゼンブ ヤツラ二 トラレテルカモシレンデ!!激ヤバ ヤ!!!ドウゾ!!」  「1号」は「ネコ・カイ」と顔を見合わせた。「カイ」が言った。「あいつら、これ、走りながらの発報やな!!」 「1号」はそれにうなずきながら、とりあえず「了解!!ブジヲ イノル!!!」と逃走中らしき「サソリ」と「ヘビ」に発報した。「ネコ」が「1号」に緊迫した面持ちそのままに「どうする?無線のチャンネル変えるか?」と聞いた。1号は、「いや、もしこのやり取りが”連中”に取られてるんやったら、チャンネル変えてもいっしょや!!」と言って、一泊考えて、再び無線機を手にした。「サソリ!!トレルカ??ドウゾ!!」「・・・・・・・・・・」 無言。「1号・ネコ・カイ」は息を呑んで険しい視線を交わした。もう一度「1号」の発報。「サソリ!!ヘビ!!トレルカ!?ドウゾ!!!」  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、コチラ サソリ ドウゾ!!」  3人は微妙にほっとした表情だ。 「1号!!”ヤツラ”モウ メチャクチャヤワ!!装甲車ミタイナンモ 陰二オルデ!!戦争デモスルチャウカ??」 「サソリ ニゲキレソウカ??ドウヤ???」 「ワカラン!!ワカランワ!!!」  「1号」は少し考えて「了解!! コレカラ 無線機ヲ捨テロ!!!!アト、ケイタイモ!!!コチラモ ステル!!!最終 ”なないろ”デイコウ!!イキテタラ 最終 ”なないろ”デ!!!ワカルカ???」 「 ”なないろ”OK!!了解!!!ブジヲイノル!!」 「ブジヲイノル!!!」  「1号・カイ・ネコ」は手早くそれぞれの無線機と携帯を完全に破壊し、商店街のゴミ箱に投げ捨てた。「カイさん、ネコ、京阪を京都方面にさかのぼって見よか?今、市内方面はいったん避けた方がいいわ」 と1号。「そやな」と「ネコ・カイ」。後ろの「カイ」が突然に「おっ!おまえ、何してんねん??」と押し殺した驚きの声。「カイ」の後ろ”不思議くん”が自分の携帯を破壊している。「1号」と「ネコ」は「?????」と、顔を見合わせた。「お前、ついてくる気か??」と「カイ」が「そら」に聞いた。すると「そら」は、また、この状況であってはならない大声で「おまえら にげてるんか???!!」と聞いて来た。あわてて「カイ」が  「しいいいいいいいいいい!!!!」という仕草。さらに何か発言しようとする「そら」を手早く捕まえ、女性的な小顔を力ずくで覆い黙らせた。すんなりと黙する「そら」に3人が集中した。「1号」が「カイ」に語気を強めた静かな声で「カイさん、その少年、バイクごと”締め”て、そっちのドブに捨てて来てくれ!!」と指示したが、その瞬間、4人のいる暗い商店街の前方後方、左右の全てが真昼のように光り、次いでパトライトと寝静まった商店街に轟き渡る、はた迷惑な拡声器「おまえ達は、完全に包囲された!!速やかに投降しなさい!!」。「カイ」と「ネコ」は素早い目線を「1号」と交わし、「1号」が「・・しゃあない!行こか!!」と言う目配せと同時にマフラーを吹かせた。


3人は商店街の中央を突破し、「サソリ・ヘビ」が逃走中の大日交差点の方向に向う。「お前達は完全に包囲されている!!あきらめろ!!!あきらめて・・」 そこかしこから現われる白バイとパトカーと拡声器の声に、今後の逃走経路を考えるゆとりは消し飛ばされていく。「ネコ」が叫んだ。「取り合えず交わして側道やな!!」 「そや!!」と「1号」。商店街から大通りに飛び出した3人に「そら」も続き、白バイとパトカーが「あきらめなさい!!あきらめて、側道、左車線に入りなさい!!」と叫びながら続く。大通りに上手く躍り出た4人だったが、信じられない光景が眼前に広がった。目の前の数十メートル先の側道から、だしぬけに白バイ5~6台が現われ、そして逆走で「1号」達に突っ込む仕方で現われたのだ。挟み撃ち。不意を突かれた「1号」達はもはや逃れようがない。「もう 無理か。」 その時、突然に今までとは調子の違う拡声器の声。「スクーター!!!止まりなさい!!!止まりなさい!!」 「そら」が「カイ、ネコ、1号」の順で又も無理な加速で追い抜き、眼前からこちらに逆走で道をふさごうとする白バイ隊に正面衝突する勢いだ。「何んや???あいつ???」と無言で目線をかわす3人を後ろに、「そら」は減速の気配は全くなしだ。逆走の白バイ隊は、正面からの激突以外あり得ない仕方での「そら」の疾走に、スクーターに道をあける他に選択はない。一瞬、包囲網が乱れる。


「あいつ!!マジ??!!」と驚く「ネコ」に「1号」が「今や!!」と大日交差点手前の路地に向かい、方向転換しマフラー全開で走りだし、その意図を汲んだ「カイ」と「ネコ」もそれに続いた。  包囲網を切り抜けた3人の後ろにまた、拡声器。「スクーター!!止まりなさい!!止まりなさい!止まりなさい!止まりなさい!!」   「1号」達は状況の変化が理解できない。ただ、全ての包囲網が自分達ではなく、「スクーター」に集中している、と言う事だけはわかった。拡声器の声は警戒の呼びかけではなく、懇願の様にそのトーンを変えている。「止まりなさい!止まりなさい!!死んでしまうぞ!!」 スクーターの加速は全開で、大日の交差点に信号無視で入ろうとしている。騒然とする交差点全体の真っ只中に、矢のように突進するスクーターのその先には大型のトレーラーが横切る仕方で、騒ぎを察知し急ハンドルで急停車しようとして、止まれずにいる。スクーターはその半端に停車する大型トレーラーの横面に向かい、未だノーブレーキだ。そこに居合わせる誰もが息を呑んだ次の瞬間、スクーターは加速したまま激しく横転し、「そら」はバラバラになりそうなマネキン人形のように地面に打ち付けられトレーラーの下に転がり込み、スクーターはトレーラーの横面に追突し恐ろしい激突音とともにバラバラに砕け飛び、炎上した。


「・・・・・・・・・!!!!あいつ・・・・・死んだか・・」そう「カイ」がつぶやいた。包囲網は完全にストップし、交差点の全体に激突のため炎となったトレーラーの部品と、原型を全くとどめる事なく爆破したスクーターの何かが、散々に散らばり、黒い煙を吹き出している。 「死んだか?」と「ネコ」。 しばらく目を凝らしていた「1号」が「いや・・」と言って交差点の先、「1号」たちのいる側と反対側の、黒い煙の向こうを指差し、少し、笑った。 そこには、傷だらけの雑巾の様な「そら」が、自動車に踏みつけられ致命傷を負ってもすばしっこい猫の様に、びっこを引きながら、暗がりへと姿を消そうとしている姿があった。 この間隙を縫って「1号」たちは逃走に成功したのだった。



「なないろ」とは、「えびす」の新しい住処である


事故直後 最初にここにたどり着いたのは「サソリ」と「ヘビ」


次いで「1号」たちが到着し 全員の無事が確認できたのは


午前5時をまわってからだった


到着した「1号」たちに 不審げに「ヘビ」が聞いた


「おい!そいつ、生きてんか??」 「まあな・・」と「ネコ」


「ネコ」は、抱きかかえていた ボロ雑巾のようになった「そら」を


「なないろ」唯一のソファーに寝かせ 「意識もしっかりしてはります!」


と、面白げに言い「こいつのお陰で 命拾いしてんや」とつづけた


寝かされた「そら」は一言だけ言って 意識を失った


「おれ、痛いのはきらいや! さいていやな!! おやすみ!!」


「ネコ」達は少しふきだしそうになりながら、「そら」の傷の手当てにかかった


そらの物語5・「えびす・2」

2009-11-01 05:01:16 | そらの物語


「えびす・2」


「おまえら あほやろ?」 この「そら」の発言は、連合・本体からの最後の「指示」を、緊迫感とその後の警官隊との乱闘の覚悟に満ちて待ち構える静けさの中、先頭集団と「大行列」全体に、ことさらに響き渡った。 「大行列」からの反応がなかなか返ってこない事に苛立った「そら」は、クラクションの連呼でそれを煽る。「ビビビビビビビビビビ!!!」 そして、もう一声、大声で、


「なあ!!おまえら あほやろ?って!?」


この状況でこの唐突な問いかけ(しかも回答を求める様子の問いかけ)に、先頭集団と「族」の皆は困惑し、「1号」と側近達が どう対応するのか、見守る他ない。「1号」は側近に、「あの "不思議くん" の用件を聞いてやれ」と、冷静な声で側近に指示し、それを受けて数名の「鉄パイプ」を手にした頑強な輩が、「そら」に歩みより、こう言った。  「なあ、ボク、お兄ちゃんたち、今ごっつい忙しいんやけど、何んか用事かな?」  これに対し「そら」は、さらに苛立ち極まるクラクションで「ビビビビビビビビビビビビビビビーッ!ビーー!」と反応した後、鉄パイプの男達を無視し、"呆れたように"、全体に向けて大声で言う。


「こんだけ、ようけ(大勢)で走るんやったら、


一台、おれにくれたらいいねん?!」


「大行列」のあちこちで、「ププッ」と噴出す様なざわめき。鉄パイプの男達は「おいおいボク、何を訳のわからん事を・・・」と言いかけた瞬間、「そら」は " もはや待てぬ " といった具合に一気に急発進し、スクーターの後輪が暴れてスリップするほどの無理な加速で、鉄パイプの男達を弾き飛ばすか、ひき殺す勢いで突っ込んだ。 とっさに鉄パイプで身構える男達を、「そら」は、完全に無視して、「大行列」の中央、「1号」たち側近の方に突入する発作的な走りだ。 あわてた側近たちがスクーターごと取り押さえにかかったが、なかなか「そら」はすばしっこく小回りが効いていて、それをずっこけながら追い回す側近たちの動きは、必死になればなるほど どうしてもコミカルな「おにごっこ的」な動きに。 「族」の中に失笑が沸き起こり、どうしても捕まらない「そら」が、逃げながら、又、大声。


「おまえら!ぜんぜん、訳わからんで!!!」


「族たち」の中に、なぜか "のどかな笑い"が広がった。「訳がわからん」のは君やろ、という笑い。  この「アンチ・クライマックス的な空気」は、そのまま続いてしまうと、「そういうノリ」で盛り上がって行きそうな勢いだったが、「1号」のすぐ近くの側近の、携帯の着信音の控えめな響きが、ピリオドを打った。これは、「連合・本体」からの着信だ。「そら」の " ちん入 " でいったん不自然に和らいだ空気は、一瞬で消えうせた。「そら」を追い回していたコミカルにさせられた側近も、動きをやめ、それにともなって「そら」も逃げるのをやめた。「そら」はまるで、「族たち」の一員として、「連合・本体」からの、最後の「指示」を待つかのように。


「 ・・・・・・・・・・総会は無事、終了した!全てのグループの者たちに、解散の指示を!!     そして、アバレロ!!」


これを受け、「1号」は「大行列」に向かい、無線ではなく肉声で、号令を放った。


「総会は終わった!!無線のチャンネルはEndに変更!!時が来た!!ただちに用意して、  "  散開 " や!!! バトルの後も、再会を誓おう!!」


一気に空気は変わり、「大行列」全体に緊張の空気と、ガチャガチャという乱闘に備えて用意する戦闘的なざわめきで溢れ、次いで再びマフラー音の大合唱。今度は無視される側の「そら」も、同じようにマフラーを吹かしてみたが、これが何の状況かは、よく解らなかった。



そして、「族たち」が思った通りのタイミングで、「大行列」の周辺地域の側道や、商店街のあちこちから、警官隊のハンドマイク・拡声器の怒鳴り声が響き渡った。


「解散しなさい!!君たちの本体の幹部は全て投降した!!あきらめて解散しなさい!!君たちの帰る所は、もうなくなった!!あきらめて、投降しなさい!!!!」  何度も同じこのフレーズを繰り返しながら、包囲の体勢を敷く無数のパトカーと白バイに、「族たち」は乱闘にありがちな雄叫びと共にバラバラになだれ込んでいく。「肉弾戦」となると、いかに「族」が鉄パイプや鎖で武装していたとしても、警官隊の鍛え上げられた身体能力の前には、やんちゃな赤子だ。罵声共々、側道の暗がりに逃走する「族たち」も多い。爆竹の破裂音がむなしく炸裂し、多くの警官隊にとり抑えられる「族」の怒号・叫び。パトカーの上に登って鉄パイプで応戦する者の怒鳴り声、そしてフロント・ガラスの砕け散る音。「族」たちか警官隊か どちらかわからぬ鮮血が、夜の163号線のあちこちに黒々とほとばしり、赤いパトライトに照らされて死傷者のありかを示す。そして一気に混戦の様相となったこのはでな乱闘は、警官隊のまさかの発砲で事態の収拾へと向う。


「発砲?!?!!!・・・・」  それは、ありえない光景だった。「うそやろ!???」ここはアメリカではない。「族」たちは皆、目も耳も疑ったが、それは間違いなく「乱射」に等しい「発砲」だ。次いで、また、そこ彼処で「発砲!!!」。もみあい、絡み合い、ひっくり返されて ぐらぐらゆれるパトカーに隠れる「族」の足元や頭上に、行く筋もの「むらさきの、矢の様なけむり」。  「催涙弾や!!」 と、誰かが叫んだ。「チャカとちゃうぞ!!催涙弾や!!!」 。 次々と容赦なく発砲される「矢のようなけむり」。混戦の中、その軍配はあきらかに警官隊に傾きだした。


「1号」と「えびす」のメンバー4人はその混乱のどさくさに紛れ、163号線から少し離れた、ドブ川沿いのうす暗い路地を、都島区・京橋方面に向けて大型バイクで逃走をはじめていた。ドブ川沿いのうす暗い路地は、その両側に民家が立ち並んでいるので、大型バイクで、しかも派手なマフラー音を響かせての逃走は、際立って目立つばかりだ。「1号」のすぐ後ろを走る「ヘビ」と言う呼び名の男が言った。「催涙弾で来るとは思わんかったなあ!!」。「おお!あれはありえへん!」とその後ろに続く「ネコ」。「今日のあいつらは、キチガイやな!」と「ヘビ」。先頭の「1号」が皆に言った。「二手に別れよう!!目立ちすぎや!!」  「ヘビ」と「ネコ」は「OK!!」という仕草だが、一番後方を走る、「カイ」という呼び名の男が叫んだ。「別れんのはいいんやけど・・・・ " あれ " どうする???」と、「カイ」のさらに後ろに続く、小さなスクーターを指差した。「ああ!" 不思議くん " か!!」と「ネコ」。「1号」が言った。「とりあえず、好きなようについてきてるんやから、好きなようにさせたら?」


大型バイク4台と「そら」は、ドブ川沿いのうす暗い路地を、さらに暗がりへと進んでいった。