「春の夜長」
「ネコ」は何かの理由で彼女とケンカし、酒やビールをどっさり買って、
皆に愚痴ろうと思い帰って来たら、そこには「6号」しかいなかった。
「6号」は何も物音のしない「なないろ」のリビングで、
寝転がって「じゃがりこ」をかじりながら、携帯をいじっている。
中途半端に寒さのやわらぐこの4月の夜、
つけっぱなしの暖房が、換気の良くないこのリビングでは蒸し暑いくらいで、
すぐそこにあるリモコンで、ちょっと切れば良いものをそのままに、
ひざ下で切ったジーンズに、タンクトップ1枚のいでたちの「そら」は、
ものぐさ満開だ。
「ネコ、おかえり」 と、携帯から目を離さずに「そら」。 「あれっ??みんな帰ってないの?6号だけ??」。 「そうや、みんな、どっか行ってるな」。 「ふうん・・・」と言いながら、愚痴のはけ口を失った「ネコ」は、リビング内をぼんやり見回してみたが、抱えていた酒やビールの入った袋の底が抜け、中身が転げ落ちた。「あっ!! ”いちばんしぼり” がでてきた!!」と転がるビールを わざわざ一つ一つ指差して「そら」。 「なあ!6号、2人で宴会やろか!!おまえ、思っきし未青年やけど、オレがゆるしたるわ!すきな奴、取れ!!」「へえぇ~ どれにしよかなぁ・・・」 どれも飲んだ事のないアルコール飲料の品定めを始める「そら」。 こうして2人の宴会は始まった。
宴もたけなわ、初アルコールでゆでだこみたいに真っ赤になった「そら」に、こちらもしだいに言葉がもつれる程に酔いのまわった「ネコ」が言った。
「6号、おまえ、よく見るとおれの女よりも ”肌” きれいな・・・・・」 「そら、そうやろ!!おれは まだ、新しいからな!!」 「ちょっと、触っていい??」 「はい!どうぞ!」と即答の「そら」は、「ネコ」の顔のまん前に肉付きの良くない少女のような ”ふくらはぎ” を突き出した。 「へぇぇ・・・・・」 ひざ下で切ったジーンズから突き出した青筋の浮いた ”ふくらはぎ” は逃走する時用の筋肉のみで、体毛の薄さがなおの事 少女のようだ。アルコールの力の及びにくいこの ”やわな裸足” の、あちこちについた擦り傷 切り傷はピンク色に変色し、駆け巡るアルコールの威力を示している。
「なあ6号、遊びでいいからオレの女になって、甘える仕草をやってくれへん??」 と妙なテンションの「ネコ」。 「おれはちょっと女みたいやから、似合ってるかもな!!」と「そら」は「ネコ」の真横に密着して座り、冗談である事の明らかなトーンで「ねえ、あなた、すきよ!」と言って、タンクトップの胸元をはだけてウインクして見せた。 「ネコ」は 「うぉっほ!!ええ感じや!!おまえって、めっちゃ可愛いやん!!」と「そら」の肩を ”がしっ” と抱きしめて、これもまた冗談である事の明らかな力で押し倒そうとした。「そら」は「あははは!!マジ??うそやろ??」と笑いながら、覆いかぶさる「ネコ」を避けようともがいた。 「あっはっはっ!!6号、遊びやって遊び!!なあ、”ねえちゃん”!!ヤらせろ!!」とAV男優か何かの調子で、さらに「接近戦」に非力な「そら」を羽交い絞めにしてみた。「あほか!おっさん、くるしいって!!!ネコっ!!はなせよ!!」
「そら」を強く抱きしめてみると、つけっ放しの暖房のせいで、 ”あまくない飴”の様なわずかな汗のにおいと、小奇麗な小動物の様な 未だ子供っぽい果物的な体臭が、なぜか生なましく、「そちら」の方向へ向けての「ネコ」のスイッチを入れた。 「なあ、6号、気持ちええ事したるわ!!おまえ、まだ知らんやろ?ズボン脱いでみ!!」 「えええっ?!いらんって!!そんなん、いらん!!気持ちよくない!!」 その話しに あまり前向きでない「そら」の、青白い腕をしっかりと捕まえた「ネコ」は、あらためて ”そういう目線” で間近で逃れようとする「そら」を見つめて、これから自分が進んでしまうであろう方向を思ってか、笑顔をなくしている。 「ネコ、やめよう・・・・これ、おもんないで・・・おれ、いやや。」そう訴える「そら」の赤い唇や、警戒心のほの見える薄茶色に光る瞳、「ネコ」の強い力を示す赤くなった細い腕、これら一つ一つのパーツの美しさが、「ネコ」を誘惑している様だ。
二人の動きは、「捕らえる男」と「捕らえられた女」の様な体勢で一旦休止。真顔となって鼻息も荒く、この急な展開で起き出した欲望を どうしても抑えきれない「ネコ」。 同じく息も荒く「・・・うそやろ・・・」と今後の展開を推し量りかねて、困惑する「そら」。 「そら」の細い首筋に汗が集まり、青筋の薄く浮いた鎖骨へ伝い流れ、熱くなったタンクトップの中へ透明な線を描き、「ネコ」はつばを飲んだ。 「ネコ」は、自分の捕らえた「そら」の両腕の、赤みのさした「めばえ」の様な筋肉の未成熟と、それを掴む男らしく完成された自らの腕とのコントラストに、”あらぬ方向” にかかったエンジンは、後戻りの効かぬ確かなものに。
「ネコ!!!あほか!!!おこるで!!はなせって!!!」 「そら」の笑顔は消えた。 はじめて見る「6号が何かを恐れる表情」は、酔いどれの「ネコ」には限りなくエロティックで、乱れたタンクトップから見え隠れする アルコールで桃褐色になった はだけたままの胸元が、一旦湧き上がった「ネコ」の欲望の「火」を「炎」に変える。
「6号!!」 「いやや!ネコ!!!もお、やめよおって・・・・言うてるやん!!!!!」 「ネコ」は暴れる「そら」を床に押し付け、再び覆いかぶさる様に強く抱きしめ、「そら」のジーンズのチャックを勢い 引き下ろし、力まかせに腕を差し込もうとした。生暖かい「そら」のジーンズの中に、汗で湿ったなめらかな肌の感触についで、伸びはじめたおだやかな陰毛が「ネコ」の指先に暖かい。 どこを目指して差し込まれた腕なのかを、本能的に察知した「そら」は自然に腰を引き、腕の到達を逃れようとするが、その仕草は今の「ネコ」には更なる甘い誘惑にしかうつらない。
間近で見る「ネコ」の顔は、もう「そら」の知っている「ネコ」ではなく、いくら暴れても逃れる事のできない、大きな力を備えた、濡れた強い金属にしか見えない。 耳元に吹きかかる「ネコ」の荒い吐息は、アルコールに満ちた獣の様で、下半身では、はだけたジーンズの中に無理に押し入ろうとする手を、どうする事もできず、それなのにジーンズの奥で示し始めた ”反応” に、「ネコ」の荒々しい指先が時折触れる。 ”反応” している事を知られる、嫌な感じ。ーーこれは、いやな感じや!!!--そう思っているにもかかわらず、止められない敏感な14歳の反応を、どうする事もできない。これから展開される成り行きは「そら」にも容易に想像できた。その成り行きを否定したい気持ちで溢れれているのに、「ネコ」の力に触れられながらも何とか逃れている ”反応” は、気持ちとは全く逆に、勢いよく立ち上がる。 「そら」の言葉はとぎれながら、それでもなを「否定」の意思を伝えるしかない。 「・・・・・・ネコ!!、いややって!!やめろ!!おれ、そんなんしたくない!!したくない!!!」
無限に長く感じられる何分間。 「ネコ」は羽交い絞めの体勢はそのままに、ふっと「6号」の表情に目をやった。 怒りに満ちて涙で輝きはじめた「そら」の瞳を、なぜか見る事ができない。 それなのに、熱を帯びた「そら」の薄く濡れて口紅をさしたように真っ赤になった唇は、2人の今後がメチャクチャになっても味わってみたい、禁断の魅惑に満ち満ちて、「ネコ」はたまらない気持ちのままゆっくりと、そして少し震えながら、顔を近寄せた。 軽く触れる「そら」の唇。 甘く熱い「そら」の唇の ”はしっこ” に、「じゃがりこ」が少し残っている。
「そら」は自分の言葉を封じるようにピッタリ合わせられた「ネコ」の唇が、最初は優しく、そしてしだいに強く押し当てられ、欲望の塊となった「ネコ」の唾液のすっぱい匂いと共に、大きな舌先が強く自分の中に入って来るのを、顔を背けて抵抗する。しかし、いくら顔を背けても、もはや後戻りのきかなくなった「ネコ」を拒絶できない。「そら」は完全に「ネコ」の ”腕の中”だったから。
「そら」とも「ネコ」ともつかない唾液のすっぱさと、濡れる感覚が双方の顔中にねっとりと広がり、こすり付けるような大きな「ネコ」の顔が、近すぎてもう見えない。舌が分け入ったザラリとした異物感。時折触れる、歯と歯が痛い。 「そら」は抗いながらも、「逃げ切れない感覚」で、「んっ!!んんっ!!」と言葉にならぬ言葉を発しようとしたが、それも叶わない。 「そら」は口の中で大きな舌先が自分の舌を追い回すのを、いったんなすがままにして時を待つしかなく、「ネコ」の呼吸が自分の中に感じる程に、強くつむった目から涙がこぼれそうだった。