昨日、11月7日の毎日新聞夕刊は、法政大総長・田中優子氏の「南西諸島」に関するコラムを掲載している。
本来、こんなコラムにいちいちめくじらを立てたくないのだが、氏は「安倍9条改憲NO! 全国市民アクション」の発起人にも名を連ねる「識者」のひとりであるから、黙って見逃すわけには行かない。

まず第1に、田中氏は、「(「南西諸島は自衛隊による防衛拠点になりつつある」として)NHKによると、石垣島に10隻の巡視船が配備され、石垣海保は全国最大規模の700人……しかしそれでも足りないと500~600人規模の地対艦ミサイル部隊配備が計画され、宮古島には700~800人規模の地対艦ミサイル部隊などの配備が予定されている」と言う。先島―南西諸島の自衛隊配備について、NHKだけを参考資料にする問題や、配備部隊・人数、さらに奄美大島などの薩南諸島の自衛隊配備が欠落しているのは、ここではおいておこう。
ここでの、田中氏の重大な認識の間違いは、海保の石垣島配備の強化と、自衛隊の先島―南西諸島の配備問題を、完全に混同していることである。つまり、自衛隊の南西シフト態勢が、「尖閣」問題(海保対処)と全く関係ない次元で進められているにも係わらず、政府(右派)のセンセーショナルなキャンペーンである「尖閣領有権争い」に与していることだ。繰り返すまでもないが、自衛隊の南西シフト態勢は、今や「尖閣」問題から完全に離れて、すでに「琉球列島弧封鎖」=「島嶼戦争」=東シナ海戦争という事態にまで突き進んでおり、中国脅威論に基づく対中抑止戦略として、新冷戦(暖かい戦争)というレベルに至っている。「識者」ともあろうものが、このようなアジア太平洋情勢と、それを巡る日米の南西シフト態勢に無知であるとは、許しがたいものだ。
第2に、田中氏は、「本島には米軍基地、諸島には自衛隊。自立と自治はどうすれば力を持つのか」というのだが、これも事実についてまるで無知だと言わざるを得ない。沖縄本島で、今現在、急ピッチで推し進められているのは、辺野古の新基地作りだけではない。ここ数年、沖縄本島では、凄まじい勢いで自衛隊の、特に空自の増強が進められており、この上に、水陸機動団の1個連隊がキャンプ・ハンセンに配備されること、在沖縄米軍基地の全てが、日米共同使用として計画されていることは、自衛隊文書でも、報道でも明らかだ(2012年統合幕僚監部「「日米の『動的防衛協力』について」など)。付け加えれば、先島―南西諸島の自衛隊配備は、必ず、米軍基地としても使用されるということだ。先日発表された、空自築城基地、新田原基地を見れば、これは一目瞭然だ(2006年「再編実施のための日米のロードマップ」で明記)
田中氏は、こういう事実さえ、ご存じないというのだろうか? だとすれば「識者」としていかがなものかと言わねばならない。
こういう前提的認識が崩れているわけだから、田中氏がこのコラムで示す、薩摩藩の琉球支配、八重山・宮古島支配と、日本政府・米国の沖縄支配・先島支配の構図も、いささか論点がズレてしまっていると言えよう。
それにしても、法大総長ともあろうものが、この自衛隊の南西シフトを巡る重大問題を、NHK報道でしか知らない、知り得ないというのも嘆かわしいものだ(NHKは南西シフトについての報道は、ほんのわずかしかない)。
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Ichiyo Muto
そして第一島嶼線だけでなく、それがインド洋に延長して米日の共同軍事態勢がとられていること、トランプ以後に急速にそれが具体化、可視化していることにももっと注意が払われるべきだと思います。安倍の就任直前、安倍名義の短い論文「安全のダイアモンド」がすでにハワイ、オーストラリア、日本、インドの4角形、それも太平洋の東岸に足場をもつそれ、を提案していたことが今一度想起されます。その中には、英仏などが軍事的に太平洋に帰ってくることが期待されてさえいました。その後の推移があまりにもこの筋書きに沿っているので、不気味な感じにとらわれています。米国は太平洋軍を太平洋・インド洋軍に改組したことの正確な意味も知りたいです。小西さんの分析が待たれます。 なお、武藤一羊さんは、戦後の平和運動ーベ平連などの運動や研究を担われてきた「長老」です。 ウィキペディアから「原水爆禁止日本協議会国際部に勤務、1965年、ベトナムに平和を!市民連合に参加し、注目される。1973年、アジア太平洋資料センターの設立に参加する。1996年まで、アジア太平洋資料センターの代表を務める。1998年、ピープルズ・プラン研究所を設立する。1983年から2000年にかけて、ニューヨーク州立大学ビンガムトン分校の社会学教授」