ふわりと髪が赤く陽に透けて、その向こうの噴水の飛沫がまた陽に透けて粒立って輝き、時計台が五時の鐘を打って、申し合わせたみたいに鳩が飛び立つ。
黒猫がブロック塀の上をしなり歩き、子供たちが笑い転げて駆けて行く。
黄金色に染まる景色を目の前に、お伽の国ってこういう感じかなぁ、と何気なく振り返ると、後ろには今のぼってきた石段がずっと長く茂みの影に続いていて、これまでの道のりが嘘のように長かったんだと、感慨と共に実感する。
でもこんな景色が見られるなら、少しくらい長くてもそれはそれで、その分素晴らしく晴れやかなものに向かっていたのだと僕はまた前を向き、彼女の赤く透けた髪を見て嬉しくなった。
「ねえ、ちょっと早いけど何か食べに行こうか」
「うーん、今日はもういい、かな」前を向いたままの彼女が言う。
「どうしたの?」
「だって、見てよこの光景。なにもかもが輝いて、なんだか今わたしたちお伽の国にいるみたいじゃない? それだけでなんだかお腹いっぱいなの」
そういうときって「胸がいっぱい」とかじゃなかったっけ。そう思いながらも彼女の横顔に、僕はまた嬉しくなった。
僕たちはふたりでしばらく黙って目の前の景色を見ていた。
彼女の揺れる髪が淡く暮れてゆく。
噴水にライトが点って、また新しいページが開いた。
そのうち隣で小さくお腹が鳴るのを、いつ言うべきかと僕は思いを巡らせている。
黒猫がブロック塀の上をしなり歩き、子供たちが笑い転げて駆けて行く。
黄金色に染まる景色を目の前に、お伽の国ってこういう感じかなぁ、と何気なく振り返ると、後ろには今のぼってきた石段がずっと長く茂みの影に続いていて、これまでの道のりが嘘のように長かったんだと、感慨と共に実感する。
でもこんな景色が見られるなら、少しくらい長くてもそれはそれで、その分素晴らしく晴れやかなものに向かっていたのだと僕はまた前を向き、彼女の赤く透けた髪を見て嬉しくなった。
「ねえ、ちょっと早いけど何か食べに行こうか」
「うーん、今日はもういい、かな」前を向いたままの彼女が言う。
「どうしたの?」
「だって、見てよこの光景。なにもかもが輝いて、なんだか今わたしたちお伽の国にいるみたいじゃない? それだけでなんだかお腹いっぱいなの」
そういうときって「胸がいっぱい」とかじゃなかったっけ。そう思いながらも彼女の横顔に、僕はまた嬉しくなった。
僕たちはふたりでしばらく黙って目の前の景色を見ていた。
彼女の揺れる髪が淡く暮れてゆく。
噴水にライトが点って、また新しいページが開いた。
そのうち隣で小さくお腹が鳴るのを、いつ言うべきかと僕は思いを巡らせている。