先週末、大阪歴史博物館にて開催されている、木版画家・川瀬巴水の特別展へ行った。
知らなかったが2021年から全国巡回をしていたらしく、この2024.大阪での開催が一連の最終地となる。
約150点もの大展覧会。大阪での大規模な巴水の展覧会は10年ぶりとのこと。どれもこれも足を止めたくなる作品がずらり。途中、化粧室への導線の空間で制作工程の動画上映があり、座ってひとやすみできる。
カテゴリーにもよるが、好きなものはひとつかふたつあればいい主義の私。そんな、あまり多くのものを取り込めない自分だが、川瀬巴水は群を抜いて間違いなく別格だ。私の中の特別室に彼はいる。
以下、褒めまくる。
丸眼鏡の巴水先生。何がいいって、線がいい。青がいい。朱がいい。雪がいい。そしてささやかな営みの温かさ。
変な言い方かもしれないが、巴水先生の描く線は「かわいい」。なんだろう、とよくよく作品を観ていくと、エッジがないのだ。柱や屋根など真っ直ぐに描かれている線と線が交わる角が、その線がずっと先まで伸びてゆく交わりの一点ではなく、習字でいうところの「とめ」がある。伸び行く枝先は、空に向かっているにも関わらず、そこに〈今〉を留めている。
本当に版画なのか? 漫画やアニメのような、筆やペンで描いたように緻密で、それでいてふんわりと全部をまるく愛おしく慈しむような目線で描かれた線に惹きつけられる。川瀬巴水のフィルターを通して描かれる世界はとてもやさしくて細やか。そしておおらかに伸びてゆく。伸びてゆく〈今〉だ。移ろいゆく〈今〉を残そうと、その眼は見つめている。
この線を見事に現す彫師の匠。あっぱれ。
そして摺師の妙ここに。
まずは青。青。青。夜の墨垂れ、藍から青へ、水色へ。
川面が、空が、家々が、木々が、全ての青が優美でその青は温かい。青だけで描かれた町の一角。その中心で小さな小窓から漏れる灯。垣間見える川面に映る光。一見、画面全体は寂し気なのに、その一点の光が人の気配を宿し、途端、人々の暮らしの中に溶け込むような錯覚に陥る。しみじみとした静かな暗夜の中の救い。まるで自灯明のように訴えかける小さな灯。光を包むのは、青。
朱。薄明り、光の予感。朝焼けの雲。淡い夕暮れ。と思いきや寺や塔の、目の醒めるような鮮やかな朱。時を忘れていつまでも見入る。言葉にするには美しすぎる。
積もる雪。青の上に、朱の上に、こんもりとまるく白く。岩に、枝葉に、連なる屋根に、今にも崩れ落ちそうな白は、やはりそこに留まっている。静けさに耳が凍る。自分の吐く息が白く映るのではないか。
吹雪く町。厳しい寒さに急ぎ行く親子、艶やかな女の傘が風を受け耐え歩く。風の音が聞こえる。
しんしんと降り積もる静けさに川のせせらぎ。石段を上り雪を踏みしめる微かなる音。
ほかにもいろいろ言いたいがキリがない。雨もいい。橋もいい。舟もいい。
巴水先生の作品の物語には市井の人々への愛がある。ただの風景かと思えば手前に人影、奥に動物、とそこに万物の営みがある。
知らなかったが2021年から全国巡回をしていたらしく、この2024.大阪での開催が一連の最終地となる。
約150点もの大展覧会。大阪での大規模な巴水の展覧会は10年ぶりとのこと。どれもこれも足を止めたくなる作品がずらり。途中、化粧室への導線の空間で制作工程の動画上映があり、座ってひとやすみできる。
カテゴリーにもよるが、好きなものはひとつかふたつあればいい主義の私。そんな、あまり多くのものを取り込めない自分だが、川瀬巴水は群を抜いて間違いなく別格だ。私の中の特別室に彼はいる。
以下、褒めまくる。
丸眼鏡の巴水先生。何がいいって、線がいい。青がいい。朱がいい。雪がいい。そしてささやかな営みの温かさ。
変な言い方かもしれないが、巴水先生の描く線は「かわいい」。なんだろう、とよくよく作品を観ていくと、エッジがないのだ。柱や屋根など真っ直ぐに描かれている線と線が交わる角が、その線がずっと先まで伸びてゆく交わりの一点ではなく、習字でいうところの「とめ」がある。伸び行く枝先は、空に向かっているにも関わらず、そこに〈今〉を留めている。
本当に版画なのか? 漫画やアニメのような、筆やペンで描いたように緻密で、それでいてふんわりと全部をまるく愛おしく慈しむような目線で描かれた線に惹きつけられる。川瀬巴水のフィルターを通して描かれる世界はとてもやさしくて細やか。そしておおらかに伸びてゆく。伸びてゆく〈今〉だ。移ろいゆく〈今〉を残そうと、その眼は見つめている。
この線を見事に現す彫師の匠。あっぱれ。
そして摺師の妙ここに。
まずは青。青。青。夜の墨垂れ、藍から青へ、水色へ。
川面が、空が、家々が、木々が、全ての青が優美でその青は温かい。青だけで描かれた町の一角。その中心で小さな小窓から漏れる灯。垣間見える川面に映る光。一見、画面全体は寂し気なのに、その一点の光が人の気配を宿し、途端、人々の暮らしの中に溶け込むような錯覚に陥る。しみじみとした静かな暗夜の中の救い。まるで自灯明のように訴えかける小さな灯。光を包むのは、青。
朱。薄明り、光の予感。朝焼けの雲。淡い夕暮れ。と思いきや寺や塔の、目の醒めるような鮮やかな朱。時を忘れていつまでも見入る。言葉にするには美しすぎる。
積もる雪。青の上に、朱の上に、こんもりとまるく白く。岩に、枝葉に、連なる屋根に、今にも崩れ落ちそうな白は、やはりそこに留まっている。静けさに耳が凍る。自分の吐く息が白く映るのではないか。
吹雪く町。厳しい寒さに急ぎ行く親子、艶やかな女の傘が風を受け耐え歩く。風の音が聞こえる。
しんしんと降り積もる静けさに川のせせらぎ。石段を上り雪を踏みしめる微かなる音。
ほかにもいろいろ言いたいがキリがない。雨もいい。橋もいい。舟もいい。
巴水先生の作品の物語には市井の人々への愛がある。ただの風景かと思えば手前に人影、奥に動物、とそこに万物の営みがある。
雨が降る。しとしとと土に沁み込む。駆ける足が跳ねる飛沫。屋根や葉を打つ。音が聞こえる。手を伸ばせば一粒の雫を掴むことができる。知らぬ間に彼の世界に自分が立っている。芒が揺れる。風に触れる。それは命の星での物語。
圧巻の川瀬巴水、ここに在り。
圧巻の川瀬巴水、ここに在り。
長い間 川瀬巴水 ファンをしておりまして💛💛
サソリさまの褒めちぎりをうれしく拝読いたしました⤴️✨(四半世紀 ぐらい前ですが、家族が1枚だけ版画を無理して買ったことがあるんです。でもちょっと物入りになってしまった時期があり 泣く泣く 手放しました🌀)
最近は笠松 紫浪という版画家の作品がお気に入りです🍀✨
新版画には美しいものの全てが詰まってるような気がします💎クリンより🐻
> クリンさんへ
ご訪問ありがとうございます。
コメント欄が、文字化けするためしばらく閉じていましたが、アプデしたのでどうかな、と密かに開いておりました。
が、大丈夫みたいですね。
無事拝読できております。
基本ショート主体にしていますが、今は別物に取り掛かって書けていないので、川瀬巴水、私見まみれですが好きに負けてアップしてしまいました。
共感していただけて嬉しいです。