竿に干した洗い立てのシーツが、朝の清々しい光を運ぶ風に大きくなびいた。
がらんと広い庭に、シーツだけが白く眩い。
広い庭___。
がらんと広い庭に、シーツだけが白く眩い。
広い庭___。
本当はただの坪庭。いつもはその狭さにも嬉々として、雑草や植え物の手入れに戸惑うくらい雑然としていて、それでも生命の奥行きがその箱庭を生かしていた。
それが今はただただ広く感じるだけで、もはや生命の気配など風と共にシーツを撫で、手の届かぬ場所へ行ってしまう。
在る、と思っていたものは、迷い込んだひと時の戯れだったのか。自分の見えているこの世界は、『本当』なのだろうか。
あの日と同じだ。
広い廊下に夕暮れの光が差し込み、ひとり荷物を運ぶ後ろ姿に、殊更ガランとひと気のない空間が強調されて、つるつると滑るくらいに手入れのされた廊下に反射した光がとてもまぶしくてきれいなのに、独り行くその後ろ姿の健気な強さに胸を打たれ、どうしようもなく淋しい気持ちが込み上げた。
はた、とまたシーツがなびく。
込み上げるものはあの日と変わらない。『本当』のこともわからない。
シーツの冷たさが庭を渉る。それだけが今の本当。
今夜、この洗い立てのシーツで眠る。それが明日への力。
ささやかでいい。これから私はあの背中が刻んだものを、またはじめから創り直す。
過ぎてゆく風に思いを乗せ、透き通る陽に手をかざすと、塀の向こうで南天の実がちらりと赤く揺れた気がした。