新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

揺れる

2024-12-16 03:50:00 | Short Short

激しい雨の音で目が覚めた。
午前5時。布団に入ってまだ三時間ほどだ。出来れば眠っておきたかったが、目が冴えてしまったので起き上がる。
キッチンで水を飲み、部屋を横切って窓のブラインドを人差し指と親指で少し広げ、外を見る。
まだ暗い。
中型トラックほどの作業車らしき車が道路の向こう側に停まり、仕込みの作業音をかなりの音量で響かせている。何か月か前から度々来るようになったこの作業車に、まだ暗いうちから起こされることがしばしばあった。

この音だったか、と視線をちょっと上げると電線に雫がぶら下がっているのが見える。耳を澄ませば、雨の音が微かにある。

今日の日の出は6時56分。朝になれない今は夜の端っこってところか。
12月も中旬、夜明けを待つ街と夜を惜しむ空。今の自分の象徴っぽくて、なんだか笑える。

電車は始発を皮切りに、前の高架線路を遠慮なく何台も通り抜ける。人の世は地球の軌道などお構いなく、人工時計が刻む時刻に従って朝を決める。
列車の種類か速度の違いか。過ぎる車両はそれぞれの音量と音質で、せめてもの個性を主張しているかに聞こえた。そんなことをしたところで、いつかみんな、朽ちてゆくだけなのに。
瞼の裏に残るあの日の古木。

ひと気のない山の中腹に分け入り、思いがけず開けた視界の先に見えた立ち枯れの古木。あの道なき山の斜面を俺がどんな思いで彷徨っていたのかなんて誰も知らない。あれからもう二年が過ぎた。あの古木を見たとき、心がしんと立ち止まった。

雨粒の音がさっきよりも立体的に屋根や道路を打つ。風がやんだのだろう。
雨雲に覆われたままの日の出は暗く、夜の名残りがはかなく漂う。
ベランダの室外機が唸る。
俺はあの木のように、最後のその瞬間まで立っていられるだろうか。
もう一度ベッドにもぐりこみ、目を閉じる。
あの場所で朽ちた彼が最後に見たものは何だったのだろう。枯れた老木に種が舞い落ちいつか芽を吹き、また森の一部に戻れただろうか。

作業車の音がやみ、車は飛沫音をまとい遠ざかって行った。
粒だった雨音だけが残される。

昨日と今日の重なりに、冬の雨を聴く。





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