先日、東大病院の放射線科が、がん患者や医師などを対象とした意識調査の結果を発表した。
「望ましい死を迎えるのに必要なこと」という質問に対し、「最後まで病気と闘う」という回答 は、患者の約8割に対し、医師は約2割だったという。
このギャップはどこから来るのか。それはやはり、医師が患者の知らないがん治療の実態を よく知っているからだろう。患者の多くが、最後まで治療を求めるのは当然だが、そこには
「治療=病気を治すこと」という無意識の前提があるのではないか。医師はそうは考えない。
多くの医師は「治療=やりすぎると悪い結果になる」と認識している。
がんという病気は、死ぬまでに時間の猶予がある。治る見込みのあるうちは、もちろん治療に
専念すべきだ。しかし、その見込みがなくなったとき、残された時間を甲斐(かい)のない治療に
費やすのは、いかにももったいない。病室で白い壁に囲まれ、副作用の強い治療で苦しむより、
元気のあるうちに温泉に行くとか、好きなことをしておいたほうがいいのにと、私などは思ってしまう。
生きていくには希望が必要だ。しかし、その希望が「偽り」であっても、目をつぶってすがりつく
のがいいのか。現実から逃げて、最後の最後に悶(もだ)え苦しむ末期がん患者を数多く見てきた
私は、首をかしげざるを得ない。
目を見開いて、現実を受け入れることはつらい。しかし、それができれば、最後に充実した日々
を送れる可能性は高いのだが。(医師・作家)