結局、あれから一週間あの公園には近づかなかった。わざわざ迂回して、家まで帰っていた。
遠回りといってもたいした距離でもないのだが、それが毎日となると、けっこうこたえる。でも仕方ない。あのトンデモヤロウのことだ。どんな危険な目に会わされるかもわからない。
でも、一週間も経ったし、これ以上、あの男のせいで迂回を強いられるのも癪だし、あの男だって、そんなに暇じゃないだろう。今日からまた、公園を通ってみることにしたのだった。
公園に子供ひとりいないのを確認して、すこし安心した。後は、ここから公園の向こう端まで渡り切ってしまえばいいだけのことだ。なんのことはない、小さな公園。ただ、スキップだけには気をつけて。
まだ警戒がとけきれていないわたしは、自分が不審者でもあるかのように、あたりをキョロキョロ見回しながら歩いていった。
公園の出口まで後1、2メートル。後もうすこし。強張った顔をほころびかけようとしたその時だった。
「来てくださったんですね」「え?」
振り返ると、まさにあの男、一週間前と同じへんちくりんなスーツを着たあの男が立っていた。
「勘違いしないでください。別に、あなたに会いに来たわけじゃありませんから。だって、わたしの通学路ですよ。ここを通るのに誰の許可なんかいらないでしょ。特にあなたの許可は」
「それは、その通りです。だだ、もう少しお話を聞いていただけませんか?あなたのような逸材は、こちらとしてもなかなかお目にかかれませんので、こちらとしても手放したくないんです」
「逸材って。スキップのですよね。スキップでお探しならわたしじゃなくたって他にいくらでもいるでしょう。他をあたってくださいよ」
「まだまだ誤解が多いようですね。やはり、ご理解を深めていただく為にも説明させていただきたいです」
やばい。またわたし立ち止まっている。結果的にこの男にしゃべらせ、話を聞いてしまっている。
「実は、こんな研究がありましてね」男の長い手が分厚い一冊の本を差し出した。
受け取らなかった。今度のは、名刺とかティッシュとか、そんな気軽に手に取れるような代物ではなかった。
男は、まず本の表紙をこちらに見せた。そこには英語で題名が書かれていて意味はわからなかった。ただ最初のほうに「SKIP」とあるのだけは読めた。もしかしてスキップ?
「この本は知らなくっても、この名前を聞いたことはありませんか」と言って、男は著者名らしいところを指で示した。
・・・・TAKARABE TAKUZO・・・・「タカラベ……タクゾ?」気が付くと無意識に声に出しているわたし。
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