DSS振動板の特許が正式に権利化されました。
ところで、スピーカー装置というものは、約100年の歴史があり、基本原理もほぼ同じままです。よって特許の出し尽くされた枯れた技術分野と言っても良いと思います。従って、新しいアイデアがあっても、そう簡単には特許審査を通りません。そのような中で、振動板というスピーカーの核心部を担うDSS振動板の特許が権利化出来たのは、従来のスピーカーの技術課題に対するブレークスルーがあると認められたと言ってよろしいかと思います。
DSS振動板の技術につきましては、「分割振動の本質排除(※1)」が主テーマであり、来る『MJ無線と実験10月号』に、重鎮の柴崎先生による分かり易い解説が掲載されますので、ご高覧いただけましたら幸いです。そしてここでは、以下に要点だけご紹介したいと思います。
さて、従来のコーン型振動板は、良くも悪くも「コーン形状」の形状効果によって性能の大局が決まってしまいます。この事により、放射リブ等の補強や、硬い新素材を利用しても、実際には共振開始周波数自体はそれ程向上しません。(←その理由は機会を改めて解説します)事実として、巷の製品説明では、小口径のハードドーム・トゥイーターを除けば、分割共振の開始周波数についての具体的言及はほぼ皆無です。そして「分割振動が改善した」という抽象表現でお茶を濁すことが大半です。この事が、漠然とした「分割振動の無いスピーカー」という誤解を作り出していると思います。
即ち、分割振動の本質排除に成功したコーン型スピーカー(※2)は事実上存在していない、と言わざるを得ない立場です。そこで、先の柴崎先生によるインタビューでは、「改善した」という抽象表現ではなく、DSS振動板の具体的な共振開始周波数について明らかにさせていただきました。
では、DSS振動板ではどの様に解決しているのか。身近な物理現象に例えますと、細長い棒を曲げる(=梁構造に働く力=従来の振動板)のは簡単ですが、同じ棒でも、長手方向に押したり引いたりする(=殻構造に働く力=DSS振動板)とビクともしない、という現象です。事故で話題になった超深海潜水艇が球殻構造になっていて深海の超高圧に耐えられるとか、卵の殻が軽くて頑丈である、といった事なども後者と同じ原理(※3)であり、この殻構造を応用したのがDSS振動板です。
更に詳しくは、MJ誌10月号に柴崎先生による図解入りの解説がありますので、是非ご覧いただきたいと思います。
※1. 「本質排除」とは、分割共振の開始周波数を、目標とする使用音域よりも高い周波数に追い出すという意味です。共振の強さを抑えたり、共振の周波数を分散させたりしても、分割振動そのものは無くならない点に注意が必要です。
※2. コーン型に限らず、小口径のハードドームトゥイーターでさえ問題はあります。釣鐘モード振動(→ 解説はこちらから)は、かなり低い周波数から発生しているからです。共振開始周波数が可聴音域よりも高いと称しているものが多くありますが、これは軸対称共振に限っての話しです。
※3. 「曲げる力」で伝わる振動を「横波」と言います。「押し引き」で伝わる振動を「疎密波」と言います。地震では、まず先にP波(=疎密波)がやって来て、遅れてS波(=横波)がやってくるのはご存知の通りです。即ち、速度の速い疎密波で音が伝搬するDSS振動板は、応答も良いという事になります。