Model-3 製品開発 - スピーカーBox

2023年01月19日 | 製品紹介: 島津Model-3

 

 10cm口径の 島津Model-3 の新発売を目指して(今のところ?)順調に進んでおります。先日、製品版試作のスピーカーBoxがKASHO工房より入荷しました。

 

 写真(↑)の中で上に置いてあるのが現行の 島津Model-1 のスピーカーBoxです。一回り大きいだけですが、実際に近くで見ると、結構な存在感があります。シンプルなデザインですが、厚い無垢板に大きなR加工やC面取り加工を施すと重厚感が出ます。柾目のバッフル板は、バイオリンの響板のごとくブックマッチ(厚板を二枚に開いて左右対称の杢目になる様に剥ぎ合わせたもの)にして、見た目の落ち着き感を出しています。

 

 さてここで、島津Model-3 は、現行の 島津Model-1 と同様に無垢材Boxですので、乾燥ひび割れ試験を行わなければなりません。

 このひび割れ試験ですが、木工業界ではその様な言い方はしない様ですが、産業界では「加速試験」という言い方をします。長期間に及ぶ製品劣化を、より厳しい条件を負荷する事で、短期間で劣化を再現して評価する事を指して言います。

 ところで無垢材家具については、長期間自然乾燥させた、或いは強力に機械乾燥させた木材を使っているので「アバレが出ず、ひび割れする事は無い」といった言い方がしばしばなされます。ところが家具とは異なり、スピーカーBoxの場合は特別に難しい事情があります。スピーカーBoxの場合は、外側6面の各板全てが互いに強固に接着されています。そのため、各面の無垢材は自由に動く余地がまったく無くなります。そうすると、湿度変化による膨張/収縮時(※ どの様な木材でも湿度変化による膨張/収縮は必ず生じます)の僅かな寸法変化を吸収するための「遊び」が無い為に、強い圧縮力/引っ張り力が発生します。これがひび割れの原因になります。この問題に対しては「良い木材を使用しているから大丈夫」といった過信は禁物なのです。

 実際のところ、某スピーカーメーカーで立派な無垢材Boxの製品を販売したところ、ひび割れトラブルが頻発して大変な事になった事例があります。原発事故の裁判でも問題になっていますが、起こり得る事故は何時か必ず起こります。ですから、如何に真摯な姿勢でリスク対策を行うのか、という製作者の姿勢が問われる事になります。

 そこで、高級品としての信頼性確保のため「ひび割れ加速試験」を実施すると相成ります。この評価は、木材の材料としての評価ではなく、実際のBoxとして組み立てられた状態で行う事に意味があります。湿度100%の状態で強制的に目一杯吸湿させて、その後に目一杯乾燥させます。この様に膨張/収縮の最大限のふり幅を与える事で、最も厳しい条件でも不具合が生じない事を確認できる、という訳です。

 ここからは少し専門的なお話になりますが、ひび割れの生じるメカニズムを解説します。スピーカーBoxの木材の吸湿膨張時には、基本的にひび割れは生じません。身動きの出来ないBoxの各面が膨張すると、(引っ張ではなく)圧縮力が生じるからです。しかしこの圧縮力が木材の弾性限界(=強度)を越える部分があると、木材組織が塑性変形する(=縮む)事で圧縮力を吸収します。そして、その状態で今度は乾燥収縮が生じると、吸湿時の圧縮力で縮んでしまった分、より強い引っ張力が発生する事になります。この強い引っ張力に耐えられなくなると、ひび割れが発生してしまうのです。

 さてこの加速試験、無事完了すればありがたいのですが、NGの場合はデザインから変更してやり直しになるので大変です。但し、収縮時の引張力が集中する場所を補強する等、KASHO工房のご協力も得て、はじめから対策が凝らしてあります。まず問題はないと思っています。

 

 同時並行で、10cmDSS振動板ユニットの製品化に向けての改良を行っております。実はこちらの方が難易度が高い! 細かな音質上の問題点を、重箱の隅を突くようにして改良中です。仕上がり具合や、現行の6cmとの音の違いなど、詳しくはまた改めてご紹介させていただきます。こうご期待!!

 

追伸

 ひび割れ試験は無事合格しました。(2023/02/16)

 

 

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